Turn 03. 死闘! アマゾネス
「さあ、次に血祭りになりたいやつはどいつだい! 居るんだろ! コソコソ隠れてないで出てきなァ!」
「ヒャッハアー! お嬢のバズーカは世界一ィ!」
目の前には、モヒカン頭に棘付き鎧の、筋肉質な女戦士が、手に大砲を持って仁王立ちしている。
さらに、屈強な裸の男たちがさながら騎馬戦のように肉体を組み合って、彼女を載せている。その数、三名。
今いるこの草むらは危険エリアに入っている。出ていかないと脱落するしかない、が。
「さっき赤いヤツが合図してたんだ、居るんだろォが! 早く出てこいやァ!」
女戦士がなおも声を張り上げている。
先ほど、紅のドレスの少女に合図させたのが不味かった。
囮である紅のドレスの少女が攻撃を受けるのは仕方ないとして、誰かに合図を見られる可能性まで、きちんと想定すべきだった。完全なる失策だ。
制限時間は二分を切っている。
思考時間が足りない。情報も足りていない。
――最低限で行くしかないか。
先ずはこの草むらを出て、視界外へと移動することに絞る。おそらく可能だ。
その後はどうすべきか。
戦って勝つ方策は現状ない。戦うべきか。逃げるべきか。逃げるとして、逃げきれるか?
隣でノワールが、心配そうな顔で、私の顔をじっと見ていた。
私は、笑った。
「アレは倒して進みますわ」
「えっ」
「いずれ、最後の一人まで戦わなければいけませんのよ。相手のスキルが更に上がった状態で交戦することになったら、更に勝ち目が薄くなるかも」
そうだ。ここで倒せないようなら、きっとどの道、最後にコレを倒せない。
方針と、覚悟は決まった。
女戦士はともかくとして、三体の筋肉男が厄介だ。六人の取り巻きでは、力で負けてしまう気がする。
取り巻き達はリミッターの外れた動きができるものの、単純な筋力はあくまでも少女そのものだ。
今までは、同じくか弱い乙女が相手だったので、肉体言語も通じたが、今回はそうは行かないだろう。攻撃としては、ほぼ通じない可能性がある。
筋肉男の性能については、今は想像するしかないが。そもそも、使い魔なのか、スキルなのか、武器なのか。
大砲は連発しづらいだろう。もしかすると弾切れもあるかもしれない。
……弾が切れたところで、女戦士と筋肉男たちに素手で殺されそうではあるが。
とはいえ、比較的安全に近寄るために、弾切れは狙ってみたい。
試行錯誤を戦闘中に行うしかないか。
残り三十秒を切った。
六体の取り巻きを喚び出す。私が飛び出すのは二番目。一番目と同じ方向に。
三番目以降はそれぞれ別の方向へ走り、視線を誘導する。
指示は、口にさえ出せば、普通は聞こえないような距離があっても通ることを確認済みだ。
残り十秒。
ノワールを相手の視界から隠すように抱える。
準備は最低限できた。
相手はさきほどから、次第にイラつきはじめていた。
「チッ、どこに隠れてるんだか。合図からすればこっちの方向だと思うが……」
女戦士が一瞬、後ろを向く。
「今ですわ!」
それをチャンスと見て、私たちは一斉に走り出した。
◇
オレはセロン=ナラーズ。
暴走集団マッドドラッグの首領の一人娘だ。
オヤジには息子がいなかったが、あのオイボレは、オレを後継者にするつもりはなかった。その結果、どっから連れてきたんだかわからんトーヘンボクに暴走集団は取られちまった。
悪役令嬢とはよく言ったものだ。確かに、大多数の人間にとって、オレは悪役だったんだろう。でもアレは、オレの暴走集団だ。こんなゲームに、使い魔として付き合ってくれる三人の部下のためにもそうあるべきだ。
ヒロインってのがなんだかよくわからねェが、この戦闘に勝って、勝って、全員ブッ殺して勝ち残れば、マッドドラッグの後継者になれるって寸法だろう。
誰が考えたんだかわからねェが、悪くない趣向だ。単純なのがいい。
唯一つまらないのが、戦う相手だ。
出会った限り、女子供しかいない。
いや、女子供なのは、まあいい。戦い相手に、女もガキもない。そういう戦場でオレは育ってきた。それで強くなってきた。
しかし、さっきから出会うやつがどいつもこいつも、ここをどこかのダンスパーティかなんかと勘違いしたような、フザけた格好をしていやがる。
いや、格好は厳密には関係ないんだろう。オレの格好だって、実用性だけが重視されてるワケじゃない。気分がアガる格好はある。ノれる格好で戦場に臨めばいいさ。
でも、オレを見ただけでチビりそうな顔で戦意喪失しやがる。
ここは戦場のはずだ。初めの説明にも書かれていたはずだ。
戦う覚悟がないなら、はじめから動かずに引っ込んでいればいいものを。たとえ、どんな相手が出てきたとしても相手を殺すつもりで舞台に上がったクセに。
こちらだって、戦意のないやつをブッ殺すのが楽しいとか思うような殺人鬼じゃあない。
さっきの赤いドレスが合図したヤツも、怖じ気付いて隠れちまったんだろう。
面倒なことだ。
戦闘のルールは、最後の一人になるまで生き残ること。
逃げ回る獲物をイチイチ追い回して、ブッ殺して回らなきゃならないのか。そんなのは戦闘でもなんでもない。ただの作業だ。
『赤ドレス』が合図した方向からすれば、こっちに仲間がいたはずだが、いくら呼びかけても反応がない。
そもそも、合図をするような仲間がいるってのはどういう状況なんだ。こんな場所で知り合った相手と、仲良しこよしか? アタマが沸いてンのか?
どこまでも望まない状況にウンザリする。
「チッ、どこに隠れてるんだか。合図からすればこっちの方向だと思うが……」
後ろを向く。
別の方向に合図した可能性を考えたとか、後ろから奇襲がかかるとか思っていたワケじゃない。ただ、誰も現れない方向を眺めているのに飽きただけだった。
その時、正面から物音がした。
まるで、その瞬間を待ち構えたように、正面の草むらから――六人。ドレス姿の少女たちが飛び出してきた。
「オイオイオイ! 多すぎだろ!」
どんだけ組んでやがるんだ!
慌てて一匹目に狙いをつける。
愛用のバズーカ砲を思いっきりブチかます。マトモに当たらなくても、近くに着弾しただけで相手は戦闘不能になる。
バラバラの方向に走りやがったので、もう二発は近くの建物にそれぞれ当てた。呑気にかくれんぼするつもりはない。
スッカラカンになってもしばらくすれば手持ちの残弾が補充されるから、弾は惜しまない。
「おい、確認するぞ」
部下たちに方向を指示して、バズーカを撃った位置に近寄っていく。
六人のうち、何人沈んだか。
仮に瀕死の相手が残っていたら確実に殺さなければならない。
相手が妙な技を使ってくることがあるのは、最初の戦闘で分かっていた。
土煙の晴れたそこには、何も痕跡がなかった。
倒したのか、まだ残っているのか?
倒しても死体が残らないせいで、分かりづらいのは厄介だ。
こう遮蔽物が多いと、逃げられているかもしれない。
いずれ全員ブッ殺すにしても、こんなところでチンタラ追いかけっこをしていたのでは埒があかない。
一旦先に進むべきか?
舌打ちして、踵を返そうとした。
その時、気配を感じた。明確な殺気。
気付いたときには、ドレスの少女に組み付かれていた。
警戒を解いたつもりはなかった。近寄ってくる物音もなかった。一体何が起こった!
混乱し、反応が遅れた一瞬で、相手の手のひらにある『鋭いトゲ』が眼球に飛び込んできた。
目潰しか!
しかし、『鋭いトゲ』を刺されても、オレの目は潰れない。
気持ちを立て直して、相手の手首を掴み、振り落とす。
足に力を込めると、一瞬で振り落とした相手の頭を掴み、そのまま腕に力を込めて、全力で顔面をブン殴った。
そのまま部下たちに群がった他三体もブン殴る。
相手は人形のように地面をころがって、消滅した。
《筋肉増強》、《筋肉増大》、《筋肉増量》。オレの持っている、身体を強化する三つのスキル。
《筋肉増強》のスキルがなければ危うかった。正確には、スキルレベルが上がっていなければ、危うかった。
「クッ、ハッハッ! 『体表を固くする』って、何だと思ったら、こういうことかよ」
眼球まで固くなっているとは思わなかったので、ヒヤリとした。しかし、これならば負けようがない。
だが、それ以上にいいことがあった。
ヒラヒラのドレスで戦場を舐めてるようなガキしかいないと思っていた。
思い込んでいた。
「いい判断してるじゃねえか。ビビるしかできねえようなお嬢様が、まっすぐ目玉を狙うかよ」
出会い頭の撹乱。撹乱からの陽動。陽動からの奇襲。
認めよう。
最初の赤いヤツをブッ倒したあと、なかなか出てこねえから、間抜けがビビッてるのかと思ったのは、間違いだった。
これは、愉しい相手だ。
思わぬ場所で、思わぬ強敵に遭遇できた幸運に、不敵に笑った。
「お嬢、いてェよ! 目がいてェ……足もいてェよお……どこだ、お嬢! お嬢は無事なのかよ!」
「オレは平気だ、テメーらは一旦どいてな。目と、足の裏にも、ヘンなモン刺されたんだ。あとで取ってやる。それくらいじゃ致命傷にはならねーから、取りさえすりゃタブン支障はねェよ」
足もよっぽど痛いのか、ゴロゴロと転がるように、オレの邪魔にならないよう端の方へ移動していく。
部下三人はもとより戦闘人数には数えていなかった。こいつらは、オレが守るべき相手だ。オレを守る相手じゃない。
どうしてもオレのために何かしたいというので運ばせていたが、ぶっちゃけオレが自分で走ったほうが速いしな……。
とびかかってきたのは四人。二人足りないが、バズーカと併せて全部倒したか。
いいや、そんなワケはない。
まだ殺気が飛び交っている。オレの殺気と、相手の殺気。
そうだ、これこそ、これでこそ戦場だ!
「さァ、ここからだ! ようやく愉しくなってきたんだ、この程度でビビんなよ。オレとお前、どっちが死ぬか、殺し合いだ!」
◇
「げえっ」
「ローズ、すごい顔してるよ、しっかりして!」
思わぬ誤算に完全に意表を突かれて、思わず下品な声を漏らしてしまった。
「作戦が普通にえげつないから、勝ったらちょっと物申そうと思ってたのに、相手が上を行くとはね……」
「画鋲でできる最大限の攻撃なんですから、仕方ないですわよ!」
もうちょっと同情してくれてもいいと思う。
頭を殴りつけたり、首を折ったりなどの物理攻撃は効かないであろうことは覚悟していた。
していたが、唯一、攻撃して通ると思える場所だった眼球を防がれた。
眼球が効かないとなると、攻撃の通しようがないのでは……?
スキルで身体防御が上昇しているとしか思えないが、この際そんな推察は、当たっていても外れていてもどうでもいい。
どうすれば倒せるのかを考えなければならない。
収穫は、向こうの筋肉男三人は、決して固くはないということだ。
そして、どうも出し入れをして負ったダメージをリセットしたりは出来ないらしい。
相手が一人になったのは喜ばしい。残った一人がバケモノだとしても、だ。
相手は、私がまだいることを確信している。スキルか、野生の勘かは分からない。
ただ、私はまだ、戦意を失ってはいない。
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■ロザーリア=G=マルデアーク(17)
■職業:公爵令嬢
■技能Ⅰ 《取り巻き召喚》 レベル3
効果:発声することで、取り巻きを六人召喚する
■技能Ⅱ 《靴に画鋲を入れる》 レベル3
効果:念じることで、『足の裏の下方』に画鋲を入れる
■技能Ⅲ 《お金をバラまく》 レベル3
効果:念じることで、見知った通貨を120枚出せる
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