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Ex 03. 子供に好かれる修道女

 その日、教会の庭は、子供の笑い声で溢れていた。

 

 保育事業の足がかりとして、子供のための小さな『催し』を教会で開催することにしたのだ。

 

 今回企画したのは、盤上遊戯(ゲーム)大会と、軽食の売店である。

 盤上遊戯は私の得意分野の一つだったので、子供にもルールがわかりやすいものを見繕(みつくろ)って、時には手助けをしながら遊ばせるつもりだったのだが。

 

 「おねーさーん、これはどうやって遊ぶのー!」

 

 「おっ、それか。ちょっと待ってな。オレが手本を見せてやる」

 

 非常に意外なことに、私を一番サポートしてくれたのは、いかにも女戦士然としたセロンだった。

 

 セロンは、盤上遊戯の理解が非常に早かった。

 ゲームのルールや考え方を教えるのが上手く、特に先を予測してコマを動かすようなゲームの理解度に()いては、私も感心せざるを得ないほどだ。

 

 対照的に、ノワールとシズクは、どうにも説明が苦手だった。

 しばしば私やセロンが呼ばれて、代わりに説明する状態になってしまったので、主に軽食を準備する方に回ってもらうことになった。

 

 「やっぱり、セロンさんは凄いですね」

 

 シズクは軽食のサンドイッチを運びながら、しみじみと呟いた。

 

 「そういえば、いつもセロンとチェスをしていましたわね。シズクは、セロンがこういうのが得意だって、知っていたんですの?」

 

 「はい。正直なところ、僕では全然相手にならなくて。だからいつも、コマを減らして戦ってくれてるんです」

 

 セロンがこちらに来てから、無闇(むやみ)とチェスにハマっているのは知っていた。

 シズクを相手に毎日のように徹夜で遊んでいることも知っていたし、誘われたことも一度や二度ではない。

 しかし、私は夜はきちんと寝たかったので断っていたのだ。

 

 だから、いつもそれが『どういう勝負』になっているのかは知らなかった。

 

 外見からはパワー一辺倒のイメージが先行していたが、元の世界では将軍的な役割も担っていたのかもしれない。

 

 しかし、それ以上に意外なのは、子供に懐かれていることだ。

 

 セロンの周りには、いつの間にやら、子どもたちの人だかりができていた。

 

 「あんなに強面なのに、子どもたちは私よりもセロンの方に話しかけるのですわよね。こういうのも才能ですかしらね」

 

 「ローズの怖さが伝わっちゃってるんじゃない?」

 

 「どういう意味ですの」

 

 ノワールが聞き捨てならないことを言った気がしたが、私の追求に返答することもなく、そそくさと裏方に移動していった。

 逃げられた。

 怖さで言うなら、セロンのほうがどう見ても怖いはずだが……。

 

 私は釈然としない思いで、笑顔の子どもたちに囲まれるセロンを眺めるのだった。

 

 

 ◇

 

 

 「そりゃーそーだよ」

 

 催しが全て終わって、重たいテーブルを片付けながら、さも当然という風にセロンは言った。

 

 「オレ、前のトコじゃあ、ガキたちの面倒見させられてたし。一応、部隊も100人単位で預かってたからな。まあ、あくまで『他の奴ら』との比較だが、面倒見はいいほうだと思うぜ」

 

 セロンから聞く限りの話では、『他の奴ら』は全員チンピラ崩れのロクデナシの脳筋マッチョだったようなので、その比較には意味が無さそうだが。

 それでも、子供慣れしているというのは嘘ではなさそうだ。

 

 「正直なところ、嬉しい誤算だったのですけれど。これなら保育事業に手を伸ばすのも、悪くはなさそうですわね。子供が教会に馴染めば、大人も一緒に来るでしょうし、成長すれば大人になっても教会との結びつきができますわ」

 

 「ああ? そんなこと考えてたのか。まあガキがいっぱい来るのはオレとしては楽しいから、いいと思うぜ。今日来た人数を一人で面倒見るのは、ちと辛そうだが。あと、勉強のたぐいを教えるのはオレじゃ無理だからな」

 

 「まあ、そうですわね。私も一緒に面倒を見れば、大丈夫でしょう。二級ではありますけれど、教師の免状も持っていますし」

 

 私がそう言うと、セロンは珍しく気まずそうな顔で、言いよどんだ。

 

 「ローズはちょっと、ガキからすると……こえーんじゃねーかな……」

 

 「なんですって」

 

 「いや、勉強を教えてやるぶんにはいいと思うぜ。説明は上手いしな。でもガキの相手はノワールのほうが良かねーかな……シズクはナメられやすいからダメだろうし」

 

 失礼な! といったつもりだったが、セロンは本気調子(マジトーン)である。

 不安に駆られる。

 そんなに私はなにかマズいのだろうか……。

 

 「そんなにまで言われる筋合いがないのですけれど、私、何か子どもたちにしましたっけ」

 

 セロンは、呆れと驚きが入り交じった顔で私を見ていたが、そのうち哀れむような顔になった。

 

 「マジで自覚ねーの? チュートリアルで、ガキとちょっとだけチェス対戦してたじゃん。ローズが相手のガキのコマを、一個一個丁寧に、全部むしり取っていって、最後王様だけが残ってさあ。相手のガキ、泣いてたぜ」

 

 「えっ。いえ、あれは、相手の子がなかなか見どころがあったから、きちんと相手をいないとしけないと思ったからで」

 

 「しかも、終わったあとに、笑顔で『なかなかいい勝負でしたわね。そうだ、次は私のお気に入りのハンカチを賭けましょう。誰か遊んでくださいます?』って……ほとんど脅迫じゃねーのか、あれは。あんな調子で言われたら、負けたら宝物獲られると思ってビビるだろ」

 

 そ、そんなふうに見られていたとは……。

 子供とはいえ、勝負をするからには対等なわけだし、折角なら商品があれば盛り上がるかと思っただけで、決してカツアゲをしようとは思っていなかったのだが。

 そもそも、子供の持ち物を奪ったところで、特に嬉しくはない。

 

 「……なるほど、誤解を与えてしまったようですわね。でも、子供相手に手を抜くのもよくないと思いますのよ」

 

 「そうだな。そういう物の見方もあるな」

 

 したり顔で頷くセロン。

 

 「オレの国のことわざに、『ライオンは我が子を谷底へ突き落とす』っていう言葉があるんだけど」

 

 「それなら、似たようなことわざが私の世界にもありますわよ。厳しく育てることで強い王者が生まれるのです。金言ですわね」

 

 我が意を得たり。

 深く頷く私に、セロンは諦めたように溜め息をついた。

 

 「オレの国では、『だからライオンは絶滅したんだ』って意味で使われてるよ」

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