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悪役令嬢ですけれど、絶対に悔い改めません!  作者: AICE
本編 ~悪役令嬢デスゲーム編~
16/21

Turn 15. 悪役令嬢大勝利! 希望する未来へレディゴー!

 「なんで? 一体どうなってるの」

 

 (リリィ)こと、リリアン=ヒドゥ=ゴクアークは焦っていた。

 右手のブレスレットは、カウントが『02』のまま動かない。

 

 ローズは確かに倒したはず。

 だって、リリィの《拘束陣》からは逃げようがないし、呼吸も心臓の鼓動も止まるように、ちゃんと『行動指定』した。

 そして事実、ローズの身体は跡形もなく分解されたのだ。

 その一瞬に、(まぶ)しい光が発生したのが、気にはなるけど……。

 

 「ううー! なんで、なんでなんでなんで! まさか、術式に致命的なエラーでもあったっていうの?」

 

 そんなの、ありえない!

 リリィの術式はいつだって完璧なはずだもん!

 

 いやなことを思い出す。

 

 唯一、リリィに(なび)かなかったイケテール王国の顧問魔術師。

 ちょっとイケメンだったけど、私の完璧な術式にケチを付けて、基礎構造に関する改善案を十も提出してきたイヤミ男。

 折角リリィがデートに誘ってあげたのに、研究旅行があるからって断った甲斐性なし。

 しかも、研究旅行は弟子の田舎女のためだって。

 

 なによそんなの。リリィのために、断ってくれたっていいじゃない。

 

 『君は、神様にでもなったつもりなのか?』

 

 なってやるわよ。

 神になれば文句はないんでしょ。

 

 ヤケになって古い文献を漁って、わざわざこんな儀式魔術を引っ張り出してきたのに。起動させるの、ものすごく大変だったのに。

 

 もしも、術式にエラーがあったとしたら、『01』にならない限り参加者(プレイヤー)にここから出る方法はない。

 最悪の可能性に、青ざめる。

 

 「ま、まだそう考えるのは早いわ。ローズが何かのスキル効果とかで、どこかに生き延びてるって可能性だってあるもの」

 

 とはいえ、今残っているマップエリアは、もうこの最終区域しかない。

 いや、唯一ある。

 

 監視用の私専用空間(スペース)

 しかし、ローズはそこへ移動する(すべ)を持たないはず。

 

 だが、可能性としてあり得る場所は、もうそこしかなかった。

 

 《転移(ワープ)》。

 

 細い糸を手繰(たぐ)るような気持ちで、《転移術》で監視用の私専用空間(スペース)へと移動する。

 

 そこには、ローズはいなかった。

 しかし。

 

 「……! やっぱり!」

 

 機能停止(フリーズ)状態のノワールの目から送られた、最終区域の映像。

 

 そこには、ローズの姿が写っていた。

 

 どういうトリックを使ったのかは分からないが、現在、最終区域にローズが生き残っているというのが真実だ。

 リリィのスキルは正面からの戦いには向いてない。

 だけど、最終区域には転移ポイントをいくつも設置してある。

 《拘束陣》は発動まで一拍(ワンテンポ)必要だが、背後を取って、気づかれないように仕掛ければいい。

 

 蛇のように、慎重に。

 

 ……《転移(ワープ)》。

 ローズの背後を取り、《拘束陣》を地面に展開する。

 今度はすぐに、息の根を止めるんだから!

 

 ――バチィ!

 

 ローズの足元に展開した《拘束陣》が発動し、魔力が(ほとばし)る。

 

 「かかった!」

 

 その瞬間。

 

 ――チャリーン。

 

 高いところから、何か一欠片(ひとかけら)、落ちたような音がした。

 音のした地面を見ると、金貨が一粒。

 

 上を見上げる。

 

 そこには、大量の金貨が天井から降り注いでくる、目を疑うような光景があった。

 

 「……は?」

 

 ――ジャララララララララ!

 

 「ちょ、わ、ぶ……ッ!」

 

 大量の金貨が、私の身体を押し流す。

 このままでは、禁止区域に突入してしまう!

 

 ローズは《拘束陣》で殺したはずなのに……そう考えて、彼女のスキルを思い出す。

 まさかあれは、偽物(ダミー)

 もしかすると、さっき私が倒したと思ったローズも、彼女によく似た偽物だったというのか。

 

 いや、そんなこと今はどうでもいい、一旦ここから逃げないと!

 監視用の私専用空間(スペース)へ退避すれば、体制を立て直せる。

 

 《転移(ワープ)》!

 

 私専用空間(スペース)へ退避する。

 そして、初めて、違和感に気付いた。

 

 背後に、誰かからから抱きつかれている。

 

 危険信号で頭が真っ白になる。

 

 「さようなら、黒幕さん」

 

 胸に鋭い痛み。そんな。どうして。どうやって。

 

 「いや、こんな……こんなの……」

 

 リリィが負けるの?

 神になって、あのいけ好かない男を見返してやるって、そう誓ったのに。

 いけ好かない、好きな(ひと)

 

 なんでリリィは、泣いてるの。

 

 「私、貴方の努力は評価しますわ。でも、これは間違いでしたわね。このデスゲームに勝ったとしても、貴方の願いは叶わないんですもの。だから、元の世界で、今度はできれば他人を巻き込まないような、別の方法をお探しなさいな」

 

 哀れむような声。

 

 ――『このデスゲームに勝ったとしても、貴方の願いは叶わない』。

 

 そうね。そうだわ。

 私が神になったところで、彼が私を好きになってくれるわけじゃ、なかったわね。

 遠くなる意識の中で、リリィは悲しくて、目を閉じた。

 

 

 ◇

 

 

 右手のブレスレットを確認する。

 『01』人。

 

 「……ふう」

 

 監視用の私専用空間(スペース)で、リリィを倒したことを確認して、私は一息ついた。

 そして、最終区域の取り巻きと、《入れ替わる》。

 

 真っ白だった空間は、いまや黄金(きん)色で輝いていた。

 

 「人生でも、なかなかお目にかかれる光景じゃありませんわね」

 

 ものすごい量の金貨の山。

 王都で一番のカジノのJACKPOT(ジャックポット)だって、こんなに金貨を出さないだろう。

 

 「うわあ。なにこれ」

 

 再出現(リポップ)したノワールが、周囲を見るなり唖然とした声を上げた。

 

 「金貨を好きなだけ出したら、大変なことになってしまいましたわね」

 

 「そんなひとごとみたいに」

 

 言いながら、物珍しげに金貨の上に寝ころんでゴロゴロする。

 かわいい。

 

 「えっとこれ、勝ったんだよね? 一体どうやって倒したのさ」

 

 「そうですわね」

 

 私が出現して、リリィの姿を見つけるまでの間が、おそらく最も私が隙だらけになるだろう。

 そう思った私は、まず地上に、(おとり)として影武者を()び出した。

 そして、空中高くに一体取り巻きを喚び出して、それと入れ替わった(・・・・・・・・・)のだ。

 

 そして落下中に、更に上に取り巻きを喚び出して、入れ替わって、更に上に取り巻きを喚び出して、入れ替わって……。

 空中浮揚(ホバリング)していたわけである。

 

 「こわっ」

 

 「もう一度やりたくはありませんわね」

 

 当然、眼下のリリィを確認しながらの作業である。

 現れた瞬間に、画鋲でとどめを刺したかったのは山々だったが、さすがに、ホバリングと同時に画鋲で狙いをつけるのは難しかった。

 しかし、転移されると非常に厄介なので、取り巻きの一人をリリィの背後に出して、転移しても一緒についていけるように組み付かせたのだ。

 

 「あとは、転移したのを確認したら、組み付かせた取り巻きと入れ替わって、とどめを刺したというわけですわね。転移に取り巻きがついていけるかどうかは、確証はありませんでしたけれど」

 

 「全体的に綱渡りな感じがしてこわい……」

 

 事実、綱渡りでしかなかったが、ここでの戦い全てが綱渡りで勝ってきたようなものではある。

 無駄に修羅場に強くなったような感じがするが、これからの人生で、果たしてこの戦闘経験が役に立つのだろうか。

 たぶん立たない。

 

 「まあ、とにかくおめでとうローズ。ボクは君を誇りに思う。ここまで勝ってくれてありがとう。これであとは、部屋の中央に魔法陣が出たはずだね」

 

 「そうですわね。問題は……」

 

 嬉しそうに、私に頭を擦り付けるノワール。

 私は、気まずい事実をノワールに告げなければならなかった。

 

 「床一面の金貨をなんとかしない限り、魔法陣が全然見えない、ということですわね」

 

 

 ◇

 

 

 魔法陣がなんとか見えるようになった頃には、疲れ切った顔のノワールと、私がそこにいた。

 今までは、新しく金貨を出せば古い金貨は消えていたのだが、出せる金貨が無制限になったせいで金貨が消えなくなってしまった。

 おかげで、取り巻き全員を使っての床掃除である。

 

 ようやく見え始めた床からは、淡い光が差し込んでいた。

 

 「確か、『勝者の生命』に反応するということでしたわね。確かに、取り巻きでは反応しないみたいですわ」

 

 試しに、私そっくりの影武者をそのまま魔法陣の中に移動させたが、魔法陣に変化はない。

 

 私の身体はいま、エーテル素体でできているらしいが、取り巻きが何で出来ているのかは定かではない。

 『勝者の生命』というのが、どういった定義になるのか、よくわからないが。

 

 やはり、私が踏まなければならないのか。

 緊張に身体が強張る。

 

 「……いきますわよ」

 

 一歩、魔法陣へと踏み出す。

 

 ――キィン。

 

 魔法陣が涼やかな音を立てた。

 光が溢れる。

 私の中に、何かが流れ込んでくる。

 

 入れ替わらなければ!

 

 慌てて影武者と入れ替わる。

 すると、光は一瞬で霧散(むさん)した。

 

 「……今ので、成功しましたの?」

 

 影武者を見るが、何も様子が変わっていない気がする。

 

 「なんか、ボクが見ていた限りだと、ローズが離れた瞬間に起動が止まっちゃったように見えたけど……」

 

 「なんですって」

 

 しかし、マリアとシズクが言ったからには、私には唯一身代わりにできるものがあるという話だったが。

 てっきり影武者のことかと思っていたのだが、もしかして違うのだろうか。

 でもマリアは、その為にはスキルレベルを10にする必要があるとか言っていたし……。

 

 二人の言っていたことを、よく思い出す。

 

 『勝者の生命』に反応する、魔法陣。

 (ローズ)ならば、『身代わりにできる生命』を持っている。

 

 「一体どうしたんだろう。これでイケるとばっかり思ってたのに」

 

 困り顔のノワール。

 マリアはもしかすると、影武者で身代わり足りうると思っていたのかもしれない。

 しかし、影武者にはおそらく、生命が宿っていないのだ。

 

 「……もしかすると、ですけれど」

 

 他の令嬢が持っていなくて、私が持っていたもの。

 スキルかと思っていた。

 

 しかし、もう一つ。

 

 私は、胸の赤いバラ(ローズ)を、ゆっくりと魔法陣に置いた。

 

 瞬間。

 

 魔法陣が涼やかな音とともに輝きだした。

 ごうごうと、激しい光の奔流(ほんりゅう)がうずまく。

 一輪の赤いバラは光の中で浮き上がり、青白い燐光(りんこう)を放っている。

 

 今まで使いみちなど全く無かった、私の唯一の武器。

 私の名前を冠した、植物という生命。

 

 光の奔流が収束する。

 

 魔法陣の光が緩やかに収まっていく。

 透明な光を放ちながら、空中にゆらゆらと漂うバラの花。

 私はそれを、そっと手に取った。

 

 ノワールの方を見やる。

 ノワールは緊張の面持(おもも)ちで、無言で頷いた。

 

 すうっと深呼吸。

 きっとこれで、すべて終わるのだ。

 

 「……このデスゲームを、正常な状態に戻してほしいですわ」

 

 すると、バラは再び瞬いて、今度は周りの景色全てを巻き込むような強い光が、私とノワールを飲み込んだのだった。



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 ■ロザーリア=G=マルデアーク(17)

 ■職業:公爵令嬢

 ■技能Ⅰ 《取り巻き召喚》 レベル10(MAX)

      効果:念じることで、取り巻きを十四人と、影武者を1人召喚する

         また、それぞれと自分を入れ替えることができる

 ■技能Ⅱ 《靴に画鋲を入れる》 レベル10(MAX) 

      効果:念じることで、任意の箇所に好きなだけ画鋲を刺せる

 ■技能Ⅲ 《お金をバラまく》 レベル10(MAX)

      効果:念じることで、見知った通貨を好きなだけ出せる。

ブクマありがとうございます!

更新頑張ります!

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