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悪役令嬢ですけれど、絶対に悔い改めません!  作者: AICE
本編 ~悪役令嬢デスゲーム編~
15/21

Turn 14. 全てこのための戦いだった

 「私なら、このゲームの枠を壊して、完全勝利ができる。確か、マリアはそう言っていましたわね」

 

 マリアは、力強く頷いた。

 

 「カウントが『01』になったら、最終区域の中央に魔法陣が浮かび上がるの。勝者の生命がそこに入ると、それに反応して、エネルギーの収束が始まる。アナタは唯一、その時に自分の身代わりにできるモノがある。そうよね、シズク」

 

 「あ、はい。マリアさんの推測の通り、ローズさんなら身代わりにできる生命を持っていますから可能です」

 

 ――影武者。

 私そっくりの、動く人形(オートマタ)

 

 私が起動して、入れ替わることで、私自身が願望器となることを避けることができる。そういうことか。

 

 しかし。

 私はふと気づく。

 

 「それで、願望器を私が使えるようになるとして、あなた達の魂はどうなるんですの?」

 

 マリアの前の話だと、ここから解放される唯一の方法だとか言っていた。

 エネルギーが収束して願望器が完成してしまっては、彼女たちの魂は全て同化されてしまうはずだ。

 

 「そう。だから、ここからはアナタへのお願いになるの」

 

 マリアは、頭を下げた。

 

 「お願い。その願望器で、このデスゲームを『正常な状態』に戻して。そうすれば、同化された私達の魂は、当初の通りにデスゲームの終了とともに解放されて、元の世界へ戻ることができる」

 

 なるほど。

 先ほど聞いたとおりであれば、魂は収束時に発生するエネルギーに必要なだけだ。願望器がなくなれば、おのずと魂は解放されるということか。

 

 「アナタにとっても、一応メリットはあると思う。このデスゲームが『正常な状態』にならないと、アナタもここから解放されないわけだから」

 

 「え……それは別に、私が願望器に「元の世界に帰りたい」って願えば叶うのでしょう?」

 

 マリアは、あからさまに「ぎくり」という顔をした。

 もしかして考えてなかったか、それとも分かっていて気づかないフリをしていたか。

 私は、小さく息を吐いた。

 

 そんな(つたな)い説得をされなくとも、私の心は決まっていた。

 

 「よくわかりましたわ。安心してくださいな。私は別に、そんなものに頼って叶えたい願いはありませんの」

 

 マリアのホッとした顔を見て、なんだか少し、おかしな気持ちになった。

 なんでも見通すことができるようなスキルを持つマリアでも、決して私の心の動きが読めるわけではないのだ。

 

 「他の方々も、それで特に異論はないのかしら」

 

 九十九人の令嬢たち。

 そして、九十九人の使い魔たち。(厳密には剣とか杖とか、三体で一セットとかそういうのもいるようだったが)

 

 彼女たちの顔を見る。

 

 「元の世界に戻ったら、イチから道を歩み直すわ。剣は折れちゃったけど、絶対に打ち直してもらう。心があるってわかったんだもの。放っておけないわ」

 

 「ありがとう、シャル。その日を待っています」

 

 赤髪の剣士の少女。

 見覚えがあるような気もする。

 

 「まあ、そうじゃな。杖を修繕(しゅうぜん)して、旅に出るのも良い。考えれば、滅びるべくして滅んだ国じゃ。新しい道を探すのも悪くはない」

 

 「ツイデニ、回数制限モ増ヤシテ」

 

 杖を持った炎術使い。

 旅というのも、悪くないな。そう思う。

 

 「オレはもう死んでるはずだからなあ……。ここにきたのはボーナスステージみたいなもんだし、敗者は勝者に従うのみだ。どこに帰ることになるかはよく分からねェが、まあなんでもいいぜ」

 

 「ううっ、お嬢ーッ! 寂しいよォ、寂しいけど俺たちも頑張って生きていくよおお!」

 

 三人のむさ苦しい筋肉男に泣きつかれている女戦士。

 あの三人、もしかして使い魔だったんだろうか……。いや、そんな、まさか。

 

 「わたしのやりたいことは、元の世界にあるから……だから、帰れるなら、それでいい。目覚めたら、今度こそ自分の力で、がんばるから」

 

 「マスター、立派です」

 

 ホウキに乗った魔法少女。

 明るい顔で、前を向いている。

 

 「僕も、もう死んでるんだよね……元の世界に帰って、また姉さんの御霊に戻るのかな?」

 

 「お前、なんでここに来たのかまだ気付いてないのかよ。元はといえば、このデスゲームを了承しちまった姉の身代わりとして喚ばれたんだぞ。俺もお前も、これで晴れて自由の身だぜ」

 

 シズク。

 半分くらいは、彼女のお陰で助かったようなものかもしれない。

 

 「……戻ればまた、弓を直して、敵を狩ればいい。……何度クエストに失敗しても、私の生きがい、それだけだから」

 

 「ウチは戻ったら再アタックするんだから、負けたら負けたで早く元の世界に戻らないと!」

 

 狩人の少女と、(つの)の少女。

 二人とも、なかなかガッツのある意見だ。

 

 「じぶんは、戻ったら何をすればいいか、解らない。でも、いっぱい爆弾使えて、満足はしたから。ここでできたこと、元の世界でも、試すの。フ、ク、ク」

 

 幼い爆弾魔。

 ……この子、元の世界に送還していいんだろうか。まあ私には無関係だからいいか。

 

 「我も、元の世界に戻ったら、久々に実家に帰るか。二度もニンゲンに遅れを取るとは。もっと修行せねばなるまい」

 

 「はっ! 魔王さま、お帰りをお待ちしております!」

 

 巨大なドラゴン。

 彼女の元の世界のニンゲンたちには頑張ってもらおう。私はしらない。

 

 ほかにも、たくさん。たくさんの、それぞれの思いはあるだろう。

 

 それでも、彼女たちは一様(いちよう)に頷いた。

 

 「お願い、ローズ。黒幕(リリィ)に勝って。そして、このデスゲームを終わりにして」

 

 「仕方ありませんわね。任されましたわ」

 

 私は優雅にマリアの手を取り、お辞儀(じぎ)した。

 誓いを示す動作をとる。

 

 しかしこの誓いは決して、彼女たちのためではない。

 

 ただ、気に食わない。

 

 黒幕(リリィ)も気に食わなければ、デスゲームも気に食わない。

 騙されたように参加させられたことにも、ノワールが悲しんだことにも腹を立てている。

 その上、同じように騙された他の令嬢たちの魂を犠牲にして、願望器を手に入れる。

 そんなのは、楽しくない。

 

 結局は、それだけなのだろう。

 

 「でもリリィを倒すためには、ここからあの最終区域に戻らないといけませんけれど、どうすればいいんですの」

 

 「ああ、それならアナタの《取り巻き召喚》スキルで、最終区域に取り巻きを出せばいいのよ。アナタはまだ、生きた魂だから、スキルは問題なく使えるはず」

 

 確かに、レベル10になったことで、取り巻きと自分の位置を交換できるようになった。

 生きた魂に反応してエーテル素体が生成されるのであれば、私の魂が最終区域に現れた瞬間に、また身体が生成されるのだろう。

 

 「でも、見えない位置に取り巻きを出したことは流石にありませんのよ? 本当にできますの?」

 

 「それなら、問題ないです」

 

 シズクが手を挙げる。

 聞いたところ、この儀式魔術に関しては、マリアよりも彼女のほうが正確な知識を持っている。

 

 「この場所は、『儀式空間の裏側』だっていいましたよね。位置的には、この場所は、最終区域と同一です。でも、ローズさんの取り巻きは魂ではないので、表側に召喚されることになります」

 

 なるほど、理屈は通っている。

 どのみち、できなければこの『裏側』に閉じ込められるしかないので、やってみるしかないのだが。

 

 「ちなみにボクは、ローズが表に復活すれば、十五分後には正常な状態で再出現(リポップ)するらしいから取り敢えず気にしないで。万が一、リリィとの戦いが終わってないのに再出現しちゃったら、ずっと目は閉じてるから、ほんと気にしないで」

 

 健気なノワールだった。

 思わずノドをゴロゴロ撫でる。

 かわいい。

 

 では、準備はだいたい整ったというところか。

 さて。

 

 「ところで、私が勝ってこのデスゲームを正常に戻すのが、当然みたいに言ってますけれど、私が普通に負ける可能性はないんですの?」

 

 「えっ」

 

 マリアが硬直した。

 途端、冷や汗をダラダラと()らす。

 

 「えっ。もしかして今まで、私が当然倒せると勝手に信じて、具体的にこうだから勝てそうという算段は全然ないとかそういう」

 

 「えーっと、えーっと」

 

 おい、マジか。

 

 「我を倒したニンゲンならば、あの程度の小娘は一捻(ひとひね)りであろう」

 

 「そうだな、オレが倒されたくらいだしヨユーだろ」

 

 この脳筋女戦士とドラゴンは、どれだけ自分の強さに自信があるんだろうか。

 私はため息を吐いて、マリアに尋ねた。

 

 「向こうは私のスキルについても、ノワールの目を通して見ていて、おそらく知っているのでしょう。向こうのスキルくらい私が知っても、決してアンフェアではないと思うのですけれど。マリア、リリィのスキルは分かるのですよね?」

 

 「あっ、うん、そ、そうね。まあ、そもそもこのデスゲーム、始まりから全部インチキだし。ローズに勝ってもらわないと困るから、分かることは全部教えるつもりではいるのよ」

 

 気を取り直したように、咳払いする。

 

 「リリィのスキルは、《結界術》、《転移術》、《拘束陣》の三つ。大まかに説明すると、《結界術》は、好きな場所に自由な広さの空間を造れる。《転移術》は、同意を得た対象物または無機物を、任意の『指定』場所へ自由に転移させることができる。《拘束陣》は、相手の『行動』を指定することができる」

 

 なるほど、リリィが自慢げに語っていた内容と辻褄(つじつま)が合う。

 彼女はこの三つのスキルを使って、このデスゲームを設定し、罠を張っていた。

 

 「《拘束陣》は、リリィの話からすると、準備が必要な上に一箇所しか置けないんでしたわね。見た目を隠すことくらいはできるみたいですけれど、そこまでの脅威(きょうい)ではないかも」

 

 「そうね。それに、あの《拘束陣》は結構使いづらいとこもあって、厳密には、「陣を踏んだ任意の対象に、任意の行動を指定できる。また他の人から陣を見えなくすることができる」。だから、あの陣を直接(・・)踏まなければ発動しないの」

 

 なるほど。例えば、空中を移動した場合には空中に判定はない。

 それに、もしかすると……『障害物』を地面に広げることでも、陣を無効化できるかもしれない。

 

 であれば、やはり、《拘束陣》の存在は考慮しなくても良さそうに思えた。

 

 問題は残りの二つだ。

 

 「一番厄介なのは、《結界術》と《転移術》の併せ技ですわね。新しい空間(スペース)を無制限に造って、その中に逃げ込まれたら打つ手がありませんわ」

 

 相手に一瞬でも隙があれば、画鋲の一刺しで決着がつきそうなものだが。

 むしろリリィのスキルこそ、『相手の背後を取る』ことに特化しているように思える。

 

 「ごめん、正直なところ、私にはあんまり妙案が思いつかないの。《結界術》は、厳密には、このデスゲームの結界外には空間を作れないけど、空間を歪ませて自由なスペースを造れる。ただ、既に彼女は専用空間(スペース)を造っているから、今となってはこのスキルに余り使いみちはないかも」

 

 確かにそのとおりだ。

 つまり、一旦逃げ込まれたら、その時点で勝機は薄いかもしれない。

 

 「《転移術》に関しては、その場所にマーキングをして『指定』しないと転移できない。だから、新しく造った空間に自由自在に移動したりはできないと思う。ただこれも、マーキングに特に制限はないから、あの白い空間には、既にたくさんのマーキングがあると考えたほうがいいと思う」

 

 背後を取られて、《拘束陣》を足元に置かれたら、その時点でゲームオーバーだ。

 私は、勝ちの目が高そうな手順を、計算する。

 

 「……わかりましたわ」

 

 刹那(せつな)の判断力が問われる戦いになりそうだったが――思えば、ここに来てから、全ての戦いがそうだった。

 

 だから、大丈夫だ。

 

 覚悟は決まった。

 

 私を送り出す、九十八の令嬢たち、九十八の使い魔たちに向きなおる。

 スカートの端を持ち上げて、片足を引き、もう片足を軽く折り曲げる。そして、頭を深々と下げた。

 

 「では、皆さま。ごきげんよう」

 

 彼女たちに最大限の敬意を表して、私はその場を立ち去った。

 

 

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 ■ロザーリア=G=マルデアーク(17)

 ■職業:公爵令嬢

 ■技能Ⅰ 《取り巻き召喚》 レベル10(MAX)

      効果:念じることで、取り巻きを十四人と、影武者を1人召喚する

         また、それぞれと自分を入れ替えることができる

 ■技能Ⅱ 《靴に画鋲を入れる》 レベル10(MAX) 

      効果:念じることで、任意の箇所に好きなだけ画鋲を刺せる

 ■技能Ⅲ 《お金をバラまく》 レベル10(MAX)

      効果:念じることで、見知った通貨を好きなだけ出せる。

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