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悪役令嬢ですけれど、絶対に悔い改めません!  作者: AICE
本編 ~悪役令嬢デスゲーム編~
12/21

Turn 11. ザ・ヒュージ・ビースト

 「やあ、死ぬかと思ったよ」

 

 それが、復活したノワールの記念すべき第一声だった。

 

 「いたいいたいいたい、耳を引っ張らないで、取れちゃう!」

 

 「もう少しマシなセリフは吐けませんの?」

 

 なんだか、感動の別れみたいなことをしてしまった手前、こうアッサリ風味に復活されると照れくさい。

 それはノワールも同じなのかも知れなかったが。

 勝手に死んだノワールを責めたい気分もあったが、元はと言えば私のミスなので、ムッツリと顔をしかめることしかできなかった。

 

 「ご、ごめんよ、ローズ。ボクもまさか、自分が死なないとは知らなくてね。知ってたら心配しないように言えたんだけどね」

 

 「分かってますわよ」

 

 ノワールを抱き上げて、柔らかいお腹に思いっきり顔を(うず)める。

 

 「きゃー! きゃー! ローズさんそれはセクハラです!」

 

 「はー癒される」

 

 お腹の毛はノワールの中でも一番やわやわである。

 

 油断すると涙が浮かびそうだった顔を見せたくなかったのだ。

 諦めてもらおう。

 ぐりぐり。

 

 「ぎゃー! ぎゃー!」

 

 ノワールが暴れて身を捩る。

 腕からすり抜けるように脱出して、着地すると、文句を言いたげに尻尾をゆらゆらさせていた。

 かわいい。

 

 束の間、そんな風にノワールと(たわむ)れながらも、私はマリアの去り際に言った一言が引っかかっていた。

 

 『使い魔に気をつけて』

 

 一体、どういう意味だったのだろう。

 ノワールに気をつけろ、という意味なのか。相手の令嬢の使い魔に気をつけろ、という意味なのか。

 

 「余り思わせぶりな言葉で人に忠告するのって、どうかと思うんですわよ。はっきり仰ってもらわないと意味が伝わらないと思いませんこと?」

 

 「その子になんて言われたんだか知らないけど、ボクに言われても」

 

 困った顔をするこの黒猫は、いつもどおりのノワールに見えたのだった。

 

 

 ◇

 

 

 安全区域は一面の砂漠だった。

 どこか現実的じゃないな、と感じたのは、照りつける日の強さに反して、それほど暑さを感じなかったからだろうか。

 思えば、ここに来てから色々な風景の中を通ってきたが、感じる温度や湿度などは、一定であったように思う。

 

 令嬢の数は残り『03』人になっていた。

 最後の一人は『02』人になるまで現れることはないと、マリアは言っていた。

 ということは、今いる限りの令嬢は全て、残る一人に倒されたのか。

 

 あとは全て、一対一の戦いを避けられない相手だ。

 そう考えると、全身に緊張が走った。

 

 「相手の姿さえ見えれば、画鋲で暗殺できるのですけれどね」

 

 「すごい字面だね、それ」

 

 なぜだか、ノワールは若干ヒいていた。

 画鋲を心臓に刺してマリアを倒したことを伝えたときと同様に、目に一抹(いちまつ)(おび)えが見える。

 

 ようやく使える攻撃スキルになったというのに、一体何が不満なのやら。

 

 《取り巻き召喚》は、新しく影武者を使えるようになった。

 試すと、確かに私とそっくりの姿の少女が現れたのだが、そもそも相手は私の姿を知らないわけで、そういう意味では他の取り巻きが十分、今まで私の代わりに参加者(プレイヤー)と思われることで『影武者』の役目を果たしている。

 影武者もなにもあったものではない。

 単純に一人増えたと思っておくことにした。

 

 《お金をバラまく》は、いつの間にやら金貨を7680枚も出せるようになった。

 これだけの量となると、すでに一種の鈍器である。

 

 「金貨を鈍器だと認識することって、人生でもそうないと思いますわね」

 

 「そうだね、そういないと思うよ」

 

 ノワールの言外に、さりげなく「ボクはそんな認識してなかったよ」という意味が感じ取れないでもない。

 都合がわるいのでスルーしていく。

 

 相手がどこにいるのか不明だが、取り敢えずは安全区域を目指して移動すべきなのだろう。

 そう思っていた矢先だった。

 

 遠くの空に巨大な影。

 その巨大な影は、時折その口から、地面に向かって炎を吐いて飛び回っていた。

 

 どう見ても、ドラゴンだった。

 

 「あははははははー、見てみてノワール、おもしろーい。私ドラゴンなんて見るの初めてですわ~」

 

 「ローズ、気持ちはわかるけどしっかりして!」

 

 あまりの衝撃映像に、つい笑ってしまった。

 あのドラゴンは、スキルなのか、使い魔なのか、なんなら令嬢本人まである。

 気を落ち着けて、穏やかに口にする。

 

 「あのドラゴンが、次に戦う相手というわけですのね」

 

 アリか。そんなの。

 

 現実に文句をつけても仕方ない。私は腹を括ることにした。

 

 

 ◇

 

 

 (われ)はドラクネス=ワルモーノ。

 実家を飛び出て久しいが、我が家は由緒ある魔族の王の家系。我はその一人娘だ。

 実家を継ぐための修行の一環として、世界を征服しようとがんばっていたが、力及ばず勇者に撃退されてしまった。

 

 しかし、悪いことなど一つもしていなかったのに、『悪役』と言われるのは納得がいかぬ。

 我が治めたほうが絶対に世界は平和になったし、モンスターたちも繁栄したはずなのに。


 まあしかし、悪役かどうかなど、その立つ位置で簡単に反転するものだろう。

 我は寛大に許した。

 

 《竜変化(ドラゴニュート)》、《灼熱の吐息(ファイアプレス)》、《飛行》。

 

 この三つのスキルを手にした我は、控えめにいってももはや敵なしだった。

 更にレベルアップしたことで、我の真なる姿――ドラゴンに変化した際の体長はかなり大きくなり、ブレスの攻撃力も、飛行能力も格段に上がっている。

 

 「魔王さまがこのように立派な姿に成長されて、わたくしめは幸せ者にございます」

 

 「泣くな、ブラッド。大げさだぞ」

 

 今は使い魔となった、副将の吸血鬼――ブラッドがおいおいと泣く。

 

 「このようなスキルなどなくとも、この程度、時が経てばいずれは成長する。その時にありがたみがなくなってしまうではないか」

 

 「はい! 不肖、このブラッド、その時を心よりお待ちしております!」

 

 言ったものの、ドラゴンの寿命は長い。

 不老不死のブラッドであれば、いずれは我の成長した姿を見ることもできようが、かなり遠い未来の話になりそうだった。

 金色に輝く硬い鱗、山のような巨体、研ぎ澄まされた(やいば)のような爪と尻尾。

 今の我なら、あの勇者にも遅れを取らないだろう。

 

 残りの令嬢はあと二人。

 今の飛行能力ならば、次なる安全区域に急ぐよりも、くまなく探して、《灼熱の吐息(ファイアプレス)》で焼いてまわった方が早いだろう。


 この砂漠は、空からの眺めは抜群だ。

 蜃気楼に揺れて、距離感は掴みづらいものの、少し近寄れば問題ない。

 《灼熱の吐息(ファイアプレス)》の射程はかなり伸びている。

 

 あまり高く、速く飛びすぎると、砂の中のニンゲンを判別できないのが難点か。

 

 「む?」

 

 はるか前方に、まばらな人影が見えたが。

 まばたきをする。

 

 「じ、十六人いる?」

 

 残りの令嬢は二人のみのはずだ。

 あきらかにおかしいぞ。

 

 「落ち着いてお考えください、魔王さま。彼奴(きゃつ)ら、本物ではありますまい。おそらくはスキルによって現れた幻影のようなものでございましょう」

 

 「おのれこしゃくな」

 

 一瞬、予想外の人数に慌てたが、よくよく考えれば、人数が多かったところで脆弱なニンゲン。

 《灼熱の吐息(ファイアプレス)》で焼いてしまえば他愛(たわい)もない。

 しかし、我を一時でもうろたえさせた罪は、万死に値する。

 

 大きく口を開け、《灼熱の吐息(ファイアプレス)》を吹き出す。

 

 その口に、なにか、大量の硬いものが突っ込まれた。

 思い切り飲み込んでしまい、喉につっかえる。

 

 「も、もご! もごーっ」

 

 「魔王さま! なんだこれは……き、金貨!?」

 

 ブラッドが慌てて、我の喉に詰まった金貨を掻き出す。

 しかし、詰まった量を考えると、(らち)があかない。

 《灼熱の吐息(ファイアプレス)》が使えずとも、この爪と尻尾があれば、脆弱なニンゲンなど一撃で倒せよう。

 我は、ニンゲンたちの方へと滑空していく。

 

 このまま体当たりするのもいいか。勢いをつける。

 すると、両目に鋭い痛みが走った。

 

 「ギャーッ!」

 

 「ま、魔王さま! これは……トゲ!?」

 

 ブラッドが慌てて、我の目に刺さったトゲのようなものを取り出そうとする。

 我は目が見えず、地面へ衝突した。

 ニンゲンたちの方へ飛んでいたはずだが、この近くにいるのか。

 

 縦横無尽に尻尾を振り回し、砂を巻き上げる。

 

 「魔王さま、もうちょっと右です! あと左! いや、ええと、待ってください、どれが本物だか」

 

 どれでもいい、全部倒せばいいのだ!

 そう叫ぼうとして、喉につっかえた金貨が消え去ったことに気付いた。

 しめた、飲み込んで消化できたか!

 

 そう思った瞬間。

 

 頭部に、鈍器で殴られたような強い衝撃。

 

 何度も、何度も、繰り返し、頭を殴りつけられる。

 わけも分からぬまま、我はその場に昏倒した。

 

 「フ……なかなかやるではないか、人間」

 

 「ま、魔王さまーっ!」

 

 ブラッドのつんざくような悲鳴。

 

 まだ我も修行が足りぬな。

 実家を継ぐのは、まだ先のことになりそうだった。

 

 

 ◇

 

 

 「およそ、スマートとは程遠い勝ち方をしてしまいましたわ……」

 

 「よく勝てたね。いやホント、よく勝てたね」

 

 ドラゴンの心臓の位置なんて全くわからないし、取り巻きを召喚したところで攻撃は通りそうもないし、どうしたものかと思ったが。

 

 金貨の塊でブレスを封じ、画鋲で目を潰したあと、今度は高いところから何度も金貨の塊を落として、ドラゴンの頭に打ち付けたのだった。

 

 遠くからでも、狙わなくても当たるほどの巨体が幸いした。

 とはいえ、ブレスを食らったら即死だったろうし、あの巨体の体当たりをマトモに当たっていたらと思うと、生きた心地はしない。

 

 こんなところでドラゴン退治なんてするハメになるとは思いもよらなかった。

 私もこれで一端(いっぱし)の勇者ですわね、などと喜ぶ気には余りならない。

 

 「ていうか、さっきの使い魔っぽいのが、『魔王さま』とか言ってた気がするんですけれど。もはや人間じゃないどころか、ラスボスみたいな存在が普通(いち)令嬢として喚ばれているんですけれど。一体どうなってますの?」

 

 「ボクに言われても!」

 

 先にいるのが、このふざけたデスゲームを考えた黒幕であるのなら、文句を言ってやろう。

 そう心に固く誓うのだった。



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 ■ロザーリア=G=マルデアーク(17)

 ■職業:公爵令嬢

 ■技能Ⅰ 《取り巻き召喚》 レベル10(MAX)

      効果:念じることで、取り巻きを十四人と、影武者を1人召喚する

         また、それぞれと自分を入れ替えることができる

 ■技能Ⅱ 《靴に画鋲を入れる》 レベル10(MAX) 

      効果:念じることで、任意の箇所に好きなだけ画鋲を刺せる

 ■技能Ⅲ 《お金をバラまく》 レベル10(MAX)

      効果:念じることで、見知った通貨を好きなだけ出せる。

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