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91話 女の子を助けるのは義務じゃない

 夜間移動をしていた俺達であったが、やはり暗い中を進む事と襲撃を気にしながら進む事で疲れも出る。


 クリミア王女にも疲労の色も濃くなった事で小休憩をしようという事になった。


 少し拓けた場所で焚き火をしていた。


 本当は敵にここに居ますとアピールするような事だと言って止めたがシュナイダーがギャンギャンと騒いだ為、美紅に「このまま騒がれたら焚き火より性質が悪いかもしれません……」と言われたので渋々、応じた。


 温めたお湯でどこから出した? と聞きたくなるティーセットでクリミア王女とお茶を始めたシュナイダーを見て頭を抱える。



 本当に戦闘以外ではこちらの話に耳を傾ける気はないな……


 というか、戦闘でも言う事を聞かない気がしてた。



 溜息をコッソリと済ませ、戦闘になった場合、シュナイダーを単独行動させないか、もしくは、囮に使うしかないな、とコメカミを掻く。


 せっかく焚き火をしていたので意地を張って使わないのも違うと思った俺がビーフジャーキーを炙っているのにルナも気付き、俺の隣に来ると嬉しそうに一緒に炙り出す。


 フンフン、と鼻歌を歌いながらルナと炙りながら食べていると離れた所で三角座りする美紅に気付き、火で炙ったビーフジャーキーを片手に近づいていく。


 目の前に来ると俺に気付いたようで顔を上げる美紅に笑いかけ、手に持ってるビーフジャーキーを手渡す。


 美紅が受け取ると俺は美紅の隣の石の上に腰掛ける。


「クリミア王女に言われた事を気にしてるのか?」


 俺に渡されたビーフジャーキーを見つめて黙りこんでいる美紅をチラリと見るがすぐに夜空を見上げる。


 夜空を見上げながら美紅に話しかける。


「美紅が困ってるなら俺が助ける。だから、塞ぎこむなよ」

「それはトオル君が男の子だから、ですか?」


 美紅がジッと俺を見つめて言ってくるのに俺は首を傾げる。



 思わず、適当に返事しそうになったけど美紅にとって何か大事なキーワードな気がした。


 ただの俺のカンだけど、流すな、と吼える自分がいる。



「ん~、そうだな……文字にすればそうだけどニュアンスが違うな?」

「どう違うんですか?」


 前のめりになるように聞いてくる美紅を見て自分のカンは外れてなかった、と感じ内心、安堵する。


「助けなくちゃならない、ではない。助けたいんだ。それは義務ではなく俺がそうしたいという衝動、欲望と言っても良い。だって、これは男のロマンだからな!」


 ニカっと笑う俺をジッと見て本音を見逃さないと言いたげに申し訳なさそうに眉を寄せる。


 人を探るような事をするのが申し訳ないと思っているような顔をする美紅を見て不器用だな、と思う。


 しかし、出会った頃の時の美紅とこちらに来てからの美紅の話を考えると人付き合いが不得手なのは致し方が無いな、と俺は思う。


 俺が説明したのが男心を言葉にした事だったので通じ難かったらしく、言い方を変えてみる。


「なあ、美紅。女の子は可愛くなければならない、美人でなければならないと義務があるのか? 違うだろう? 可愛くありたい、美人でありたいじゃないのか?」

「あっ……」


 口に手を当てる美紅を見て俺が思ってる事が通じたらしく申し訳なさそうに目を伏せる。



 あれ? 横から見える美紅の頬が少し赤い気がする……



 確認しようと覗き込もうとすると俺の視界を嫌ったように顔を背けられる。



 おやおや? 俺、嫌われちゃった!?



 微妙にショックを受ける俺を放置するように背を向けた美紅が「有難うございます」と言ってきたので立ち直る。


「だから、クリミア王女の事だけに限らず、他にどうしたらいいか悩む事があればいつでも聞いてやる。力を貸す、助けてみせるさ」

「でも……取り留めのない話になりますし、どれだけ時間がかかるか分かりません……」


 それを聞いた俺は再び、夜空を見上げる。


 夕方のクラウドの噴水広場で隣にダンさんが座って優しく俺を見つめていて、時折、背中を叩き、ジッと相槌を打ち続けてくれた時を思い出す。


「美紅、胸に溜まったものを永遠に吐き出し続けるのは無理だ。いつか必ず終わりがくる。それが美紅の体力が尽きる時か吐き出す言葉かは分からない。だから吐き出していいんだ」

「トオル君……」


 瞳を潤ませた美紅が振り向いてきて、照れた俺は鼻の頭を掻きながら恥を暴露する。


「なーんてカッコイイ事言ったけどさ……全部、ダンさんの受け売りなんだよな!」


 俺の言葉を聞いた美紅がキョトンとした顔を向けてくる。


 僅かな間を挟んで美紅が可愛らしく噴き出す。



 うわぁ! マジで恥ずかしいぃ!



 俺は赤面しそうなのを誤魔化すように頭を掻きながら立ち上がり美紅に手を差し出す。


「男な俺は女の子を助けるよ。クリミア王女も、シーナさんはもっと助けてあげたい。ペイさんは……ダンさんがカッコ良く助けるだろうな……でもな?」


 俺と手を交互に見る美紅に笑いかける。


「俺は何より、ルナ、そして美紅を絶対に全力で助ける。いや、助けたい、助けさせてくれ」


 頼む、と手を更に差し出した俺を見て赤面する美紅がワタワタとどうしたらいいかと目をキョロキョロさせる。


 徐々に俺の手を掴もうと近づける美紅に焚き火の所からルナが声をかけてくる。


「美紅ぅ! ビーフジャーキーを火で炙ると美味しいのぉ、こっちで一緒にやろう?」


 ハムハムとリスのようにホッペを膨らませて食べるルナを俺と美紅が見て同時に噴き出す。


 顔を見合わせても笑い合うと美紅が俺の手を掴んで立ち上がる。


「トオル君に貰ったビーフジャーキーも冷めちゃいましたし、温め直しましょう」


 はにかんで言う美紅と一緒に俺もルナが手を振る場所、焚き火に近づいて行った。





 小休憩が済んで出発の準備をしているとルナが急に来た方向に顔を向ける。


「気配を消しながら近づく一団があるの……」

「マジか? 何人ぐらいだ?」


 同じようにルナが見つめる方向を睨むが言われてみれば、というぐらいしか違和感は感じず、勿論、人数の特定は出来ない。


 俺の横で美紅も見つめると頷く。


「どうやら8人といったところでしょうか?」

「徹、どうする?」


 2人に見つめられる俺は考えるように眉を寄せる。



 明らかに実力は君等の方が上よ?



 若干、泣きたくなってくるが後ろで落ち着きが無くなり始めるクリミア王女と変なやる気を発動させるシュナイダーを見る。


 クリミア王女とシュナイダーがある意味、予想通りの反応でビックリはしないがシュナイダーは頭が痛い。


「良し、俺とルナで後ろの奴等を突っついて倒せそうなら倒してしまおう。美紅はクリミア王女とシュナイダーのお守をよろしく。最悪は俺達を見捨てて馬車で逃げてくれ」

「えっ、でも……」


 美紅が俺達と行動をしたそうにするが俺は首を縦には振らない。



 気持ちは分かるんだけどね?



「クリミア王女にとって一番安心するのは美紅なのは間違いないんだ。シュナイダーは役に立たない。苦手なのは分かるけど頑張ってくれ」

「……そうですね、分かりました」


 悪いな? とポンと美紅の背中を優しく叩き、俺はルナに目を向ける。


「なるべく時間をかけずに倒すぞ!」

「当然なの!」


 そう言い合うと俺とルナはクリミア王女を美紅に任せてルナが感知した方向へと肉体強化を強めて走り出した。





 徹達が飛び出して、しばらくすると離れた位置で戦いの音、剣戟や魔法の応酬をするのが見て取れた。


 それを心配そうに見つめる美紅にシュナイダーが近寄ると話しかける。


「ここには敵はこないでしょう。来ても私が居れば充分。それより、あのボンクラそうな男が足を引っ張ってルナさんに怪我でもあれば、このシュナイダーは……」


 無駄にオーバーリアクションなシュナイダーに困った顔をする美紅がクリミア王女を見つめると不安そうな顔をしていた。


 それを見て、ここに残った方が良いのではないかと思い始めるがシュナイダーが演技をする俳優のようにクリミア王女の前で仰々しく傅く。


「姫様、今は敵の殲滅が急務。ここにはシュナイダーが居ります。美紅さんにも迎撃に出て頂くのが良いかと!」

「そうなのですか? 美紅はどう思いますか?」


 困った様子のクリミア王女と任せてくれと目力を込めるシュナイダーに挟まれた美紅は恐る恐るに口にする。


「早く倒すに越した事はない……かもしれません」

「だそうです、姫様」

「で、では、美紅も迎撃に出て下さい」


 クリミア王女に言われた美紅は消極的に頷くとクリミア王女に背を向けて徹達が居る方向へと走り出す。


 走る美紅が安堵するように溜息を吐く。


 つい、この場に居る事にストレスになっていた美紅は徹の指示ではなく、シュナイダーの権威欲を満足させる案に乗ってしまった。


 クリミア王女達の視界から美紅の背が見えなくなった頃、ゆっくりとクリミア王女に近寄る存在を当然、美紅もクリミア王女とシュナイダーも気付く事はなかった。

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