89話 冒険者の流儀であれば受けさせて貰います
ルナに耳を引っ張られてクリミア王女から遠ざけられた俺は「お座り!」と言われて渋々、片膝を付いて頭を垂れる。
まったく犬じゃないんだからな!
だが、真正面の位置取りをしたせいか正面から見るロケットオッパイも乙なものがあるな……
是非、飛び出る3Dで見てみたい!
などと幸せな夢想をしているとクリミア王女が美紅の右手を両手で包んで嬉しそうに笑いかけていた。
「まさか貴方と再会出来る日が来るとは思っていませんでした……ですが、貴方がいて協力してくれたら私の計画がより纏まりが……」
「ま、待ってください。今の私は只の冒険者の美紅です。余り期待されましても……」
美紅にとって珍しく身を乗り出してくるクリミア王女の言葉を途中で遮って自分の言葉を重ねてくる。
その反応が返ってくるとは思ってなかったらしいクリミア王女が目を白黒させると傍に付いていたイケメンが話しかけてくる。
「王女、お知り合いの方だったのですか?」
「え、ええ、シュナイダーは知らなかったのですね。美紅は……幼い時の私と数度一緒に遊んだ仲なのです」
イケメン、シュナイダーが「おお、旧友とこんなところでお会いになれば、先程の喜びようは当然でございます」と無駄に髪を掻き上げて疑う素振りもない事にクリミア王女は溜息を零す。
どうやら、このクソイケメンは美紅の事は知らないようだな。後、馬鹿だな。
それにコルシアンさんが言った言葉の解釈通り、クリミア王女は美紅の事を吹聴するような人ではないらしく少し安心した。
しかし、安堵する俺と対照的に美紅の表情は想像より重苦しいものであった。
クリミア王女は美紅に耳元に口を寄せる。
「この話の続きはシュナイダーに聞かれない時にでも」
「……はい」
言われた美紅は返事をしたがどうもやり難そうな雰囲気を醸し出していた。
少なくとも面識は確実にありそうだ……王族は知ってるんだっけ?
今の所、美紅に強要してくる雰囲気はなさそうだが、あれば、あの時は冗談ぽく言ったが本当に逃げようと俺は覚悟を決める。
俺にとってこの世界で一番大事なモノはルナと美紅だ。決してこれだけはブレない。
静かに覚悟を決めた俺はクリミア王女が依頼内容の説明を始めると言う事なので耳を傾け始めた。
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「今回、私、エコ帝国第3王女クリミアが冒険者ギルドに依頼したのはモスの街までの護衛です」
そう言って、俺達の反応待ちをするように黙るクリミア王女に困った俺達は顔を見合わせた後、俺が代表で質問する。
「あの~質問させて貰ってよろしいでしょうか?」
「はい、えーと、トールさんでしたか? どうぞ」
質問の許可が出た事でクリミア王女の反応を見逃さないように目をジッと見つめる。
「どうしてわざわざ冒険者に依頼を? エコ帝国のお姫様であれば騎士、いや近衛兵ぐらいが護衛で出るんじゃないかな? お忍びであっても少数にして身なりを冒険者と思われるようにすれば済むように思うのですが」
「本来ならばそうなのですが、細かい事情は説明は今は避けさせて貰いますが私は国に反旗を翻したと言って差し支えがない事をしていますので……」
それを聞いたルナは口を隠すようにして驚き、美紅は何かを堪えるように下唇を噛み締めて俯く。
なるほどねぇ……
コルシアンさんは面倒な依頼と言うし、先程の酒場の主人の肩の荷が下りたといった様子を見せた理由もこの辺りぽいな。
この展開のお約束はお姫様の命を狙う暗殺者、もしくは、身柄を確保に来る追撃者といったところか……はぁ……
うーん、唸る俺を見て綺麗な眉を寄せるクリミア王女が俺に話しかけてくる。
「不満があると?」
「王族であるクリミア様に不満不平を申す気か!」
「まさにそれ」
俺はクリミア王女の言葉に追従するようにシュナイダー腰にある剣に手を添えて吼えた言葉を聞いてシュナイダーを指差す。
何を言いたいか分からないクリミア王女が目をパチクリしてルナと美紅を見つめる。
ルナは意味が分からないとばかりにプルプルと首を振ってみせ、美紅は黙って目を伏せる。
「2人から聞かなくても俺が説明します。俺達、冒険者に依頼したという事は追手があると思っての事だと思います」
「その通りです。まず間違いなく追手はあるでしょう」
俺の言葉に頷くクリミア王女であったがそれだけではまだ分からないようで眉の間の皺がまだ取れない。
「その追撃者が腕が立たない相手だとはまず考えれない。しかも人数も俺達より多い数を揃えるでしょう。そんな劣勢な状態で騎士としてだとか、王族としてこれは出来ないなどを持ち込まれたら守れるモノも守れません」
「この無礼者!」
「黙りなさい! シュナイダー!」
本当に鞘から抜いたシュナイダーに強い言葉で止めるクリミア王女に驚いた様子を見せるシュナイダーは悔しそうにしながらも下がる。
シュナイダーを止める程度には俺の言い分が正しいと分かる良識はあるようだがプライドが捨てきれないらしい。
「それが嫌なら冒険者でも騎士でも傭兵でも100でも200でも雇って守られるといいですよ」
「そんな事をしたら帝国が軍を……はぁ、確かにトールさんの仰る通りです。分かりました。無事にモスの街に到着できるその時まで小さなプライドを捨てます。貴方もですよ、シュナイダー」
クリミア王女に言われて返事をするのが悔しいのか歯を食い縛るシュナイダーに嘆息する俺は助け舟を出す。
「剣の試合であればアンタの方が一枚も二枚も上手かもしれないが、何でもありの戦いになれば違う。俺達流に従えというのは戦い、主に防戦に関する事だ。モスの街までなら何事もなければ1日、今回はもうちょっとかかると思うがそれだけの我慢だぞ?」
「くっ! クリミア様のご指示であれば致し方がない。聞いてやる! しかし、戦闘に関する事のみだぞ!」
偉そうに譲ってやったとばかりに威嚇するシュナイダーに「はいはい」と適当に流す俺を誰か癒してくれないだろうか?
とりあえず、クリミア王女の癒しを眺める事にしとくか!
僅かな振動で揺れる素晴らしいものを眺める俺の尻を抓るルナが横に居るが癒し効果で痛みを凌駕する。
そんな高等な駆け引きが行われてると思わないクリミア王女が俺達に指示を出してくる。
「話が纏まった以上、ここでゆっくりしてる理由はありません。すぐに出立しましょう。シュナイダー、宿を引き払う手続きと馬車の用意を」
「御意」
無駄に作法通りに決めてくる。
これも無駄にイケメンだから様になってるのが悔しい!
部屋から出て行くシュナイダーを見送ったクリミア王女が俺達の顔を1人ずつ見て行く。
「トールさん、ルナさん、そして美紅。どうか私を無事にモスの街まで連れて行ってください」
「はい、全力を尽くします」
俺達が頷くのを見たクリミア王女も部屋から出て行こうとするので護衛して部屋を俺達も後にした。
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