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87話 変化する二つ名!?

 バタバタして遅れてるけど許してね?

 俺達は顔を見合わせて、どうしたものか? と困った気持ちを持て余すようにコルシアンさん達を見つめる。


 コルシアンさんはニコニコと笑みを浮かべながら、紅茶に口を付けるが温くなってたようでセッちゃんに入れ直して貰おうとするが「勿体無いので飲み切ってください」と言われて少し不味そうに一気に煽る。


「セッちゃん、君の勿体無い精神は尊いけど、お客様の前では見栄を張りたい主人をだね……?」

「そう言うセリフは鏡を見てからで? こちらもメイドとして誇らしく思われるような服装ぐらいしてくださいね? ガタガタ言いますと眼鏡を割りますよ?」


 愛あるセッちゃんの言葉と共に空になったカップに新しい紅茶を入れて貰っているコルシアンさんの両目から涙が溢れる。


「水分補給をする理由を作ってくれる素晴らしいメイドを持って大陸一の幸せ者だよ」

「有難うございます。身に余る光栄、その言葉とお給金を上げてくれたら頑張れそうな気がします」


 頭を垂れて上げた顔に優しげな笑みを浮かべるセッちゃんに「か、考えておくよ」と目を逸らすコルシアンさん。


 まったくマイペースであるコルシアンさん達に面喰う俺達はおそるおそる声をかける。


「あのぉ……美紅の事なんですけど……」

「ん? ああ、美紅ちゃんの事ね。ごめんね、初めて見た時から気付いてた」


 ごめんごめん、と軽く謝るコルシアンさんは頬を指でコリコリと掻く。


 驚く俺達は思わず腰を上げるが「取って食おうって訳じゃないから落ち着いて」とドウドウとするように掌を上下させるコルシアンさんに従い、腰を元に戻す。


「慌てる気持ちは分かるけど僕は何もする気はないよ。信じて欲しいな?」

「で、でも……」


 コルシアンさんの言葉に眉を寄せて困った顔をするルナが俺とコルシアンさんを交互に見つめてくる。


 その視線に俺は大きく溜息を吐くとルナの肩を叩いてみせる。


「俺も美紅の事は心配だけど知ってる事をここで敢えて口にする事はコルシアンさんに何の得もないんだ。ルナが危惧するような事をするなら黙っている方がやりやすい」

「そうだね、トール君が冷静で良かったよ」

「私もトオル君が言うようにここで話す意味はなかったと思いますが……それでも敢えて話した意図は分かりません。教えて頂けますか?」


 俺の袖を握る美紅が、コルシアンさんに意図を問うのに俺も頷いて見つめる。



 そう、ここで話すメリットはコルシアンさんにはないだよな。


 最悪、俺達が強硬な手段に出る恐れすらある事をこの見た目からでは想像し辛いけど頭が切れるコルシアンさんが気付いてなかったとは思えないし……



 帽子を取って頭をコリコリと掻くコルシアンさんは言葉を選ぶように目を彷徨わせながら口を開いた。


「ん~、僕はね、エコ帝国のやり方が好きじゃないんだよ。これから色々しようとする相手に黙ってるのも気兼ねしたし、それとね? 美紅ちゃんを見るのは今回が初めてじゃないんだよ」

「えっ!? 私は会った覚えがありません……私の存在は秘匿にされてましたから王族とほんの一握りのトップ陣と移送した騎士ぐらいしか……」


 驚く美紅に苦笑いを浮かべるコルシアンさん。



 美紅の存在がそれほど秘匿されてるとは知らんかった……


 だから、美紅も身バレして、自分を捜しに来るのを危惧する様子がほとんどなかった訳だ。



 そう思っているとコルシアンさんが続きを口にする。


「まあ、僕が見たのは遠目で移動させられてるところを見たから美紅ちゃんが知らなくても当然かな。その時に見た時から可愛い子だな、と思ってたけど間近で見たら、もっと可愛くてびっくりしたよ」


 それで、ついついからかいたくなって求婚しちゃった、とコルシアンさんは申し訳ない、と言わんばかりに頭を下げる。


 頭を下げるコルシアンさんにワタワタする美紅が頭を上げるように言うのに苦笑するコルシアンさんが顔を上げる。


「もしかしたら、美紅ちゃんは知ってるかも知れないけど、トール君、ルナちゃん、美紅ちゃんは顔見知りの貴族にでも会わない限り、追手がかかる可能性は、ほぼないよ」

「ど、どういう事ですか?」


 驚く美紅を見て、美紅も知らなかった事に頷くと応えてくれた。


「こう言うと美紅ちゃんは辛いかもしれないけど、正直、美紅ちゃんを結界の触媒にする意味は他国に対するポーズでしかなかったんだよ」


 申し訳なさそうにするコルシアンさんは眉を寄せて弱った声音で言ってくる。


 どうしてコルシアンさんがそんな風に言うのか分からない俺達は顔を見合わせる。



 魔神を封印する為に結界は不可欠じゃないのか?


 相手が相手だから時折、結界の機能を確認する人がいると思っていたのに……



「まあ、色々あるんだけど……それは初代勇者の足跡探しの間に話せば良い事だよ! ねっねっ、すぐ出発しよ!? 馬車を手配しなくちゃ!」


 そう言うが否や、「長年ベールに包まれた初代勇者の秘密を知る為に!」とウキウキし出したコルシアンさんが立ち上がり、落ち着かないとばかりにうろうろし出す。


 コルシアンさんの様子を見て、この後の予定を思い出した俺は声を上げる。


 突然、声を上げた俺に首を傾げるコルシアンさんに申し訳なさそうに頭を掻いてシーナさんから受け取った依頼書を取り出して見せる。


「俺もすぐ出発したいところなんですが……冒険者ギルドからの指名依頼がありまして」


 露骨に「えぇ――!」と残念そうな声を出すコルシアンさんは取り出した依頼書を覗き込む。


 すると、真顔になるので俺は乾いた笑みを浮かべる。


「意味分からないでしょ? 俺もお願いされた手前、断り辛い上に『Bランク昇格試験』も兼ねてるそうで……」

「……トール君、これはおいそれと他人に見せて良い類の依頼じゃないよ。見る人が見れば書いてる内容は丸分かりで大変な依頼だからね」


 コルシアンさんは後ろに控えているセッちゃんに話しかける。


「今、クラウドにいる子は、あの子だよね?」

「はい、その通りでございます」


 その言葉に腕を組んで唸るコルシアンさんに俺は質問する。


「コルシアンさんには分かったんですか?」

「うん、残念ながらね。Bランク昇格試験か……とんだ貧乏くじを引かされたね。それだけクラウドの冒険者ギルドからの期待の大きさと見るべきかもしれないけどね」


 俺に内容が分からないモノを人に見せる時は警戒心をしっかり持つようにと言われる。


 そしてソファに深く腰掛け直したコルシアンさんが腕組みをしながら考え始める。



 コルシアンさんに安易に見せたのは失態だったようだけど……


 同時にとんでもない情報も手に入れたんじゃねぇ? 貧乏くじってどういう事!?



「まあ、そういう事なら仕方がないね。トール君達が戻り次第、という事で?」

「あの……どうして貧乏くじなのか、教えて頂けませんか?」


 おそるおそる聞く美紅にコルシアンさんは笑ってみせる。


「それを自分で知る事から依頼という意味だよ」


 と、美紅の質問にとりつく島もない返しをするコルシアンさんの言葉に俺達は今日で何度目か分からない顔を突き合わせて困った顔を見せ合う。


「じゃ、トール君達が1日も早く帰ってくる事を祈ってるよ」


 そう言うと背後にいるセッちゃんに「トール君達を送ってあげて」と伝えると案内を始めるセッちゃんからコルシアンさんに目を向け、溜息を吐く。


「どうして俺の傍にいる人は変に厳しいというか要求するレベルが高い人が多いんだろ?」


 ザウスのオッサンもダンさんもペイさんに最近ではシーナさんの要求度が上がって来てる気がする。


 そして、何より、獰猛な笑みを浮かべるボサボサの長髪の大男はいつも俺に対する要求度、期待値が高かった。


 口ではカスだとかヘタレとか言いたい放題だが、本当にへたれそうになると「おめぇなら出来るさ」と言った大男。



 ロキ、黙っていなくなりやがって……今、どこにいるんだよ?



 そんな事を思っているとコルシアンさんが肩を竦める。


「どうしてだろうね? 3人を見てると何でもやりそうって思っちゃう、特にトール君が何かしそうな気にさせるんだろうね」


 にっこり笑うコルシアンさんを俺は恨めしそうに見つめる。



 なんか煙に巻かれた気分だ……



 やり切れない気持ちを持て余しながら俺達はセッちゃんに案内されて出口へと向かった。





 コルシアンさんの屋敷を後にした俺達は空を見つめて太陽の位置から、まだ夜には2時間程がある事に困った様子でこの後の予定を口にする。


「うーん、正直、指名依頼で行き先が酒場だから夕食は頂けるかと安易に考えてたけどコルシアンさんの話を聞いた後では……」

「そうですね、ないと判断した方が良さそうです」

「ええっ!? ご飯ないの困るの! 御馳走かもしれないと期待してたのに!」


 そう悲しげに言うルナに美紅は「さすがに御馳走はなかったと思いますよ?」と苦笑いするのを見てた俺は……



 あ、あぶねぇ……俺もワンチャンあるかもって思ってたよ!



 当然、その事を顔に出さない俺は仕方がないと代案を出す。


「さすがに飯なしは辛いからミランダに簡単な料理出して貰おうぜ?」

「そうですね、そろそろ仕込みも終わった頃でしょうからお願いしましょう」

「ご飯、ご飯♪」


 食べれると分かると現金にも元気を取り戻したルナに俺達は手を引かれて『マッチョの集い亭』に向かって小走りさせられた。







 徹達を外に送りだしたメイド、セッちゃんがコルシアンの下に戻ってくる。


 戻ってきたセッちゃんにチラリと目を向け、再び、飲みほしたカップを手渡す。


 新しい紅茶を作るセッちゃんにコルシアンは話しかける。


「セッちゃんはトール君達をどう見た?」

「はい。年相応な子達、に一見できますが……中身は別物で素晴らしい人格かと思いますが、しかし……」


 入れ直した紅茶をコルシアンの前に差し出すセッちゃんに「しかし?」と促す。


「彼等の目の前には高い壁があるように感じました。それを乗り越えるのか、それとも化けてみせるのか……目が離せません」

「セッちゃんがそんなに褒めた相手を見た事ないよ。満点かい?」

「はい、現時点では……しかし、今回の依頼の結果でどう評価するかは未定です」


 真っ直ぐ外、徹達が出ていった方向を見つめるセッちゃんを横目で見つめるコルシアンは嬉しそうに口許を弧を描かせる。


「セッちゃんの期待通りだったら……あの子にも良い影響があるかもね」

「それはどうでしょう?」


 何かを期待するコルシアンと期待するだけ無駄と首を横に振るセッちゃん。


 はっきりした物言いをするメイドのセッちゃんに苦笑いするコルシアンは諦めないと言いたげに肩を竦める。


「じゃ、セッちゃんの期待以上だと信じるしかないね。トール君、あれでも私にとって可愛い姪なんだ」


 コルシアンのは期待が過ぎると言いたげの視線で自分の主人を半眼で見つめるセッちゃん。


 そんなセッちゃんに弱った笑みを浮かべるコルシアンは何かを思い付いたように掌をポンと叩いてみせる。


「ところで……いつセッちゃんが男だってトール君に教えるんだい? セシルと呼んだら怒ると思ってたから敢えて言わないようにしてたけど?」


 コルシアンの言葉にバラが綻ぶような笑みを見せるセッちゃん、こと、セシル(♂)は上品に口許を隠す。


「面白いので本人が気付くか、最高のタイミングを狙おうかと?」

「君って本当に優秀だけど、性格はやっぱり酷いと思うよ?」


 セシルの言葉にゲンナリするコルシアンの耳に玄関のドアノッカーの音が聞こえる。


 それに不思議そうに首を傾げるコルシアンがセシルに問う。


「あれ? また来客かい? 本当に珍しい……」

「今日は元々、来客の予定がありましたので」


 そう言うセシルが「トール様達が来た時、予定より早いと思ったものです」と言うと玄関の方へと歩いて行く。


 しばらくすると軽武装した男2人を連れたセシルが戻る。


「んん? お客様は警備兵だったのかい?」


 やってきたのは街中の治安を維持する要するに警察官のような存在であった。


 そう言ってくるコルシアンに頷いて見せたセシルは警備兵に「お願いします」と告げる。


 すると、テキパキした動きでコルシアンの両手を縛り上げる。


 いきなりの事でフリーズしていたコルシアンが慌て出す。


「えっ、えっ!? どういう事!」


 慌てるコルシアンにセシルは説明を始める。


「以前、広場にいた少女に求婚して泣かせたのを覚えてますか?」

「えーと、ああ、うん、覚えてる。ちゃんとごめんなさいをセッちゃんにさせられて許して貰った1件だよね?」


 記憶を探るように空に目を彷徨わせたコルシアンが思い出し、首を上下に激しく揺らす。


 コルシアンの言葉に頷いてみせるセシルは続ける。


「確かに許しては頂けましたがご主人様は貴族であり、平民にとってあのような行動されては心臓に悪いのです。なので、そろそろ学習して頂く意味で留置所で明日の夕方までお泊りして頂く事にしました」

「ちょっと待って! 結局、許して貰ってなくて訴えられたの!?」


 じたばたするコルシアンに首を横に振ってみせるセシル。


「いえ、私が勝手に代理で被害届を出しておきました」

「せ、セッちゃ――ん!!! 本人は怒ってないなら反省するから許してぇ!」


 半泣きになるコルシアンを冷たい流し目で見るセシルは告げる。


「少女は許してくれましたが私は許しません」

「ど、どうして!?」


 セシルに縋るコルシアンに告げる内容は余りに理不尽であった。


「私は大陸一のメイドではありません。世界一のメイドです」

「ええっ!! そこが理由で僕は前科持ちに!?」


 セシルは警備兵に「連れて行ってください」と告げ、警備兵も戸惑いながらも目力の強いセシルに押されて渋々連れていく。


 連れていかれるコルシアンは子供のように声を上げる。


「セッちゃん、僕、良い子になるからぁ!」


 そのような悲しげな叫び声が響き、遠くなるとセシルはヤレヤレと肩を竦める。


「漸く、煩いのがいなくなりました。これで掃除洗濯が進みます。明日はお天気だったらお布団も干せますね」


 そう言うと嬉しそうに掃除道具を取りに部屋から出ていくセシル。


 自分のメイドに見捨てられたコルシアンの明日はどっちだ?




 Old ピンクの変態紳士



     ↓



 New 前科1犯の変態紳士



 クラスチェンジ完了。

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