83話 ピンクの変態、現る
今回も出してやりましたとも!(笑)
しばらく待っていると先程の美人メイドが戻ってくる。
「ご主人様に確認が取れました。ご案内します」
そう言うと扉を大きく開き、「どうぞ」と招き入れてくれる。
先程はまったく笑わなかったが少し笑みを見せる美人メイドにドキっとさせられる俺。
分かってるのよ? 分かってる!
社交辞令の笑みだと分かっててもね? これほどの美人に微笑まれたら嬉しいもんよ?
明るく薄めの緑色の髪を纏めたものをメイド帽に仕舞っており、白いうなじが悩ましく、女性にしては、やや背がある美人が完璧にメイド服を着こなしている。
ただ、胸が絶望的になく残念ではある。今、隣で俺の優しく繊細な脇腹を抓る2人のように……
や、止めて……そこの防御力はゼロよぉ!!
どうやら尻では効果がないと思った2人が場所を変えてきたようで容赦がなかった。
さすがの俺の鉄壁の笑みも崩れ出し、それに気付いた美人メイドがその理由を知った時、先程の社交辞令の笑みではなく、クスリ、と漏れる年上の女性の笑みが浮かぶ。
年上の人のこの笑みは青少年である俺には御馳走ですぜぇ!
それを見て鉄壁の笑みを取り戻したかに見えたが、それは一瞬で気のせいであった。
目尻に涙を浮かべながら美人メイドに促されて俺達は屋敷に入って行った。
中に入ると目の前に2階へと続く階段があり、その登った先にピンクの塊がいた。
正確に言うとピンクの作業着を着たつばの付いた帽子、野球帽のような帽子を反対に被る眼鏡をかけるオッサンがいた。
俺達がやってくるのを待ってた、とばかりポーズを取りながらVサインするオッサンは階段に付いてる手すりに乗ろうとするが手すりの下、1階までの高さを見て考え込む素振りを見せる。
1つ頷き、ドタドタとガニ股で階段を降りて行き、後、3段という所で手すりに尻を載せるようにして滑り飛び降りる。
上から滑り降りたと演出するように口で「ズサッサァー!」と言って床を滑るフリをした後、腕組みをして踏ん反り返る。
「ミランダから話は聞いて待ってたよ! 僕がこの屋敷の主、コル……」
「ご主人様をお呼びしてきますので、応接室にご案内しますね?」
美人メイドが目の前のピンクの変態、いや、ピンクのオッサンの言葉を遮り、言ってくる。
俺とルナ達が顔を見合わせて困った顔をするなか、ピンクのオッサンも困った顔をしながら美人メイドに近寄る。
「えっと、君の雇い主はここだよ?」
そう言うピンクのオッサンが腰を横に折って可愛さをアピールする方向に顔を向ける美人メイドであったが見えてないような素振りを見せる。
見えてないはずなのにピンクのオッサンの人中を抉るように殴りつける。
殴られた痛みでゴロゴロと転がるピンクのオッサンが声なき悲鳴を上げるなか、俺が迷いながらも口にする。
「あのぉ、いいの?」
「何がでしょうか?」
完璧な笑みを見せる美人メイドが拳に付いた血を見せながら言ってくるのを俺は毅然と目を逸らした。
ルナは切れの良い拳に感嘆するように頷き、美紅は癒した方がいいのか俺と美人メイドを交互に見つめ、右往左往する。
俺を見ないでくれ……
右往左往する美紅に小さく首を横に振ってみせる。
とりあえず手を付けない方が良いと判断した美紅は美人メイドを恐れるように俺の影に隠れる。
や、止めて! 注目浴びちゃう!!
ニッコリと笑みを浮かべる美人メイドが「ご案内致します」と先を誘導されるのに逆らわずに行こうとするとピンクのオッサンが飛び起きる。
「痛いでしょ! 何をするんだ、セッちゃん!」
垂れる鼻血を啜りながらガニ股でドスドスと足音をさせ、近寄るピンクのオッサンに舌打ちする美人メイドこと、セッちゃん。
セッちゃんは、ピンクのオッサンが血が垂れないように鼻に紙を詰め詰めしてる姿をゴミを見つめるような目で見つめる。
改めて、へこたれないピンクのオッサンが自己紹介をしようとするがメイドのセッちゃんに胸倉を掴まれ、引き寄せられて鼻と鼻がくっ付く距離まで顔を近づけられる。
「私は言ったよな? お客様が来たから正装しろって?」
「えっ、してるじゃない? これが僕の正装だよ?」
心外だ、と言いたげに驚くピンクのオッサンにセッちゃんは諦めの大きな溜息を零す。
分かって貰えたとばかりに嬉しげにするピンクのオッサンはサムズアップしながら俺達に話しかけてくる。
「僕はこの屋敷の主であり、初代勇者の一人者とも言われるコルシアンだよ~、よろしくぅ!」
「はぁ、よろしくお願いします」
テンションの高いピンクのオッサン、コルシアンは貴族とも思えない不思議なオッサンであった。
それを俺の背後で見つめるルナと美紅か顔を寄せ合いコソコソと話すのが聞こえる。
「ねぇねぇ、美紅。どうも、あのコルシアンっていう人、徹に似た空気があると思うの」
「ええ、痛い思いしても懲りない辺りがとても……」
失礼な! 俺はちゃんと学習できる男だぞ!
背後にいる2人に内心プリプリと怒る俺にコルシアンは「久しぶりのお客さんだよ!」と嬉しげにスキップしながら俺達に手招きをしながら去って行く。
それを見ながら、まだ頭を抱えるセッちゃんを見つめると苦笑される。
「では、あの馬鹿が向かった応接室にご案内致しますね……ああ、それと私も初めて貴方を見た時から少し似てるな? と思いましたよ」
初めは俺を見て、最後はルナと美紅に同意するように言う。
3人してゲンナリな表情をされて俺はご立腹であった。
だから、俺は反省出来るしっ!
……おっぱい以外でね?
憤ってる最中に思わず弱気になる俺は応接室に案内されて歩き出した。
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案内された場所のソファに座るように言われて素直に座る俺達の対面にコルシアンも着席する。
セッちゃんは、お茶の用意をすると言って一旦出ていく。
ところで、本名は何なんだろう? さすがに本当にセッちゃんな訳ないよな?
コルシアンは俺達を順々に見つめて、何故か美紅に目を向けた瞬間だけキリリとして男前の表情を見せる。
それに怯えた美紅が俺との距離を縮めるが、俺とルナはどうしてコルシアンの態度が変わったのか分からず顔を見合わせる。
咳払いをしたコルシアンが中央に座る俺に目を向けて気の抜けた間抜け面で話しかけてくる。
「あ~、ミランダから初代勇者の事を知りたい人がやってくるとは聞いていたけど、誰が、とは説明を受けてないんだ。いや、説明しようとされたけど、断ったのは僕なんだけどね?」
そう言ってくるコルシアンに何故? と問うと「知らない方が面白いから」と笑われて、自己紹介を促される。
やっぱり見た目だけでなく変な人だと思ったが、話を進める為に自己紹介を始める。
俺が名前を告げると適当にウンウンと頷き、ルナの自己紹介を受けた時は「君は実に惜しい」と訳のわからない感想を言われてルナは首を傾げて俺に助けを求められる。
お願い、見ないで、変な人の思考は分からないから変な人に聞いて……
ん? 待てよ、ルナに俺も変な人と思われてる説が浮上してないか?
色んな疑惑に悩みそうになったが止める。
だって、深追いは危険ってカンが言うからっ!
撤退は恥ではない、それは俺の持論であった。
最後に美紅の紹介になったが、最近マシになってきたと思える人見知りが再発したように俺に縋るようにしてコルシアンを恐怖の対象のように見る美紅に「さっさと済ませてしまおう?」と言うと嫌々ながら頷く。
「私は美紅……」
「結婚してください!」
美紅が名前を言った段階で前のめりで声を大にして言ってくるコルシアンに美紅は短く悲鳴を上げ、俺とルナは目を点にする。
「僕の見立てが間違ってなければ、君はトール君達と同じぐらいの年頃だよね? 接し方でなんとなく思っただけなんだけど」
「え、えっと、確かに美紅と俺は同じ年ですけど?」
恐怖からか立ち上がると狭いソファの背凭れと俺の間に体を隠す美紅に代わり、俺が返事をするとコルシアンは「よっしゃぁ!」と叫ぶのを見て美紅だけでなくルナまで引く。
隣のルナが俺に任せたとばかりに頷いてくる。
頷かれても俺も困るんですけどぉ!!
どうしたものかと悩んでいるとお茶を用意しにいったセッちゃんが帰ってくる。
そして、小躍りするコルシアンを見て呆れる溜息と連動させるようにお盆に乗っていた氷水を躊躇なくコルシアンの頭の上からぶっかける。
「つ、冷たいじゃないか! 風邪ひいたらどうするぅ!」
「それは失礼しました」
割とあっさりと謝るセッちゃんを訝しげに見ると再びお盆に乗ってた湯気が立つポットを持ち上げると迷わず、コルシアンにかける。
ぎゃぁぁ! と叫ぶコルシアンが転がるのを何でもないと見るセッちゃんを見て俺は震える。
体を冷やしてから熱湯かけるとか半端ないな!!
当然のように口にしないし、コルシアンを助けようともしない。
巻き込まれたら嫌やん?
コルシアンからこちらに目を向けたセッちゃんが、ごめんなさいね? と言いたげに困った顔をして美紅に謝ってくる。
「どうせ、このゴミが『嫁になれ』だとか『結婚してぇ』とか言ったんでしょ?」
「はい……」
半泣きの美紅が頷くが、まるで盗み聞きしてたかのように言うセッちゃんに恐怖したのは俺だけだろうか。
俺達にお茶を淹れながら、セッちゃんは言ってくる。
「一言、嫌です。と言えばあっさりと引き下がりますので適当に断っておけばいいですよ」
「えっと、コルシアンさんって貴族ですよね? そんな雑な断り方で大丈夫なんですか?」
未だにカーペットで叫びながら転がるコルシアンを見て、意外と大丈夫かも、と思ったが確認した。
だってな、ライラとマイラの姉のマリーさんの一件で貴族のイメージがすこぶる悪いしな……
俺が何を心配してるか分かったらしいセッちゃんがのた打ち回るコルシアンを足で踏みながら言う。
「エコ帝国の貴族の悪い噂を気にされてるのですね。それは事実ですけど、このご主人様は例外と思って貰って大丈夫ですよ。現にご主人様の求婚を断った者など3ケタは居ますが皆さん無事ですし」
「はあ?」
と呟く美紅はセッちゃんに足蹴にされるコルシアンを見て少し安堵した様子を見せる。
確かに、このメイドが無事に存在しているのが言葉の重みになるな。
セッちゃんに痛いよ、と嘆くコルシアンが起き上がり、ソファに座り直すとセッちゃんに渡されたタオルで顔や眼鏡を拭きだす。
「で、どうだね!?」
懲りないコルシアンが美紅にそう言う姿に逞しいな! と思う俺の横に居るルナが「めげない辺りが徹にそっくりなの」と不名誉な評価を口にしていた。
困った顔をする美紅が俺の背中から顔を出して頭を下げる。
「ごめんなさい!!」
そう勢い良く断る美紅に残念そうな表情を見せる。
セッちゃんが美紅に向かって深々と頭を下げる。
「申し訳ありません。ウチのご主人さまは幼い子が好きでして……」
「ま、待って、それだとただのロリコンだよ!? 僕は幼いのが好きなんじゃなくて、幼く見える子が好きな普通の人だよ!?」
必死に弁明するコルシアンを遠い人を見るような気分になる。
コルシアンさん、アウトだから。
言葉にはしないがそうメッセージを込めて見つめるがセッちゃんと言い合うコルシアンさんに届く事はなかった。
しばらくして、セッちゃんに落ち着かされた、もとい、落ち着いたコルシアンが佇まいを直して再開してくる。
「ごめんね、自分の主義の事になると熱くなる性質なもので……」
「い、いえ……」
そう言われて、答える言葉はこれぐらいしかない、と断言したい俺は当然の返しをする。
それで仕切り直したと思ったらしいコルシアンが聞いてくる。
「初代勇者の事が知りたいという事だけど、君達はどの程度知ってるんだい?」
いきなり聞いてきた事があまりに真っ当だったので少しビックリする。
説明する時に一番困る事というのは聞く側がどの程度の知識があり、理解度があるかである。
だが、知識がある者ほど陥り易い事が話す相手はこれぐらいは当然知ってる、知らないのは恥だという固定概念に囚われやすい。
そして、勝手に説明を始めて話を中断させて質問すると不機嫌になったり、後で聞こうと思って、終わってから質問すると「どうして、その時に聞かなかった? ほとんどの説明が無駄になった」などと切れられたりする。
趣味趣向は残念な人のようだが、学者、いや、教える教師的には優秀な人かもしれない、と俺達は顔を見合わせて笑みを浮かべる。
「俺達が知っているのは……」
俺はコルシアンさんにザウスのおっさんに聞かせて貰った初代勇者の話を簡単に聞かせるとウンウンと頷かれる。
「なるほど、おとぎ話だけみたいだね。初代勇者は人々を率いて魔神から救った英雄という話だね」
「それが何か問題なの?」
少し困った顔をするコルシアンさんにルナが首を傾げて質問する。
「悪い訳じゃないんだけど……これまで僕が調べた事や見解を聞かせるとね……」
迷いを見せるコルシアンさんだったが「まあ、いいか! どうせ説明する以上、避けられないしね」と肩を竦める。
「君達が知ってるおとぎ話は本当にあった事らしいよ。僕が調べた結果でしか証明は出来ないけど……」
溜めるように言うコルシアンさんが少し意地悪をするような表情を浮かべる。
さすがに気になる俺達が前のめりになるのを待ったかのように話を再開する。
「だから、世間では彼は英雄と言われている。でもね、僕は初代勇者は裏切り者と言っても良い存在だったのではないかと思っているんだ」
それに驚く俺達にしてやったとばかりに下手くそなウィンクをしてくるコルシアンさん。
このオッサン、いきなりブッ込んできたな!
驚くルナと美紅をよそに俺は興味にそそられて更に前のめりになってコルシアンさんに続きを促していた。
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