82話 油断出来ないオッチャンが沢山います
冒険者ギルドから出た俺はプリプリと怒りながら依頼書の写しを眺めつつ、メインストリートをルナと美紅に挟まれるようにして歩いていた。
そんな俺を苦笑しながら見つめる美紅が腫れモノに触れるように話しかける。
「ま、まあ、仕方がないじゃないですか? 一応、悪いと思ってお食事を御馳走して頂いてたんですし?」
美紅に「お酒の席の事ですから」と言われるが……
そりゃね? ダンさんの酒癖の悪さはペイさんから愚痴を聞かされて知ってるよ? でも青少年の心の大きな傷になるような事はどうかと思うんだ?
普段はダンディな紳士というイメージがあるダンさんだが、酒が入るとお調子者にクラスチェンジする片鱗は『マッチョの集い亭』で食事の時、少し酒が入るだけでタガが外れかけてるのを見て知ってたよ?
そんな二つ名を撒かれるような事される程、俺が何をした!?
納得いきません、とばかりにプイっと美紅から顔を背ける先では、どうでも良さそうにしてるルナが通りの屋台に目を惹かれていた。
そんなルナがこちらを見ずに俺の袖を引っ張りながら言ってくる。
「ねっ、ねっ、徹! あの串焼きを買ってくれたら徹の味方になれる気がするの!」
「金で繋がる関係も悲しいが、串焼きで買える信頼も悲し過ぎるな!? 当然、買わないけどな」
身も蓋もなく言う俺を驚愕な表情で見つめるルナに冷たい視線を送る。
俺を鬼か悪魔の類なのかと疑う視線を向けてくるルナを俺は本気で殴りたい衝動と戦いながら言う。
「昨日、リンゴ買ってくれたら1週間は強請らないと約束して買ったばかりだろ!」
「そんな昔の事は忘れたの!!」
キリッとした表情で間を置かずに迷いなく言い切る男前なルナ。
こ、この子、デキる!!
一瞬、感心しかけたが我に返る俺は美紅が、しょうがないですね、とばかりに眉を寄せて財布を取り出そうとしてるのを止める。
「駄目だ、美紅! ルナを甘やかしたら駄目だと俺達の意思は統一されたはずだ!」
「はっ! そうでした……余りにルナさんが可愛い感じだったので、つい……」
本当に申し訳なさそうにする美紅に「分かればいいんだ」と優しく肩に手を置く。
ニャァ! と怒れるルナが俺に噛みつくように言ってくる。
「徹、何をするの! もうちょっとで美紅に買って貰えそうだったのに!」
「お小遣いを貰った日に全部一気使いするようなヤツに払う金などない! 俺は知ってるんだからな!」
俺の言葉にギョッとしたルナが「な、何の事なの!?」とシラを着るので、その可愛らしい鼻を抓んで引っ張る。
「指抜きグローブのデザイナーが作ったという不細工なウサギの人形をザックさんに取り寄せて貰って、お小遣いがもうないと知ってるんだからな?」
「ぶ、不細工じゃないの! ウチの子のウサミンは世界一可愛い子なの!」
本人は買った事もその不細工なウサギの人形、もとい、ウサミンを秘密裏に行ったつもりらしいが、寝る時に抱っこしているので隠せてる訳がなかった。
美紅もあの人形を「その不細工な感じが可愛い」と評価してる辺り、男と女の感性が交わる事は相当難しいのだろうと思わされたりした。
そして、どうしてアレ、ウサミンをルナがザックさんから買ったか知っているかというと、どうやら、ルナのお小遣いでは底値の1割にもならないほどの人気商品(正気を疑うが本当に一部のマニア垂涎の一品らしい)だったらしく、俺はザックさんに呼び出された。
「という訳で、カンパしろや、トール?」
「な、なんでルナの為に俺がお小遣いを放出せんとアカンの!?」
ルナを溺愛する娘のようにするザックさん一家(ヤ○ザとは言ってない)に囲まれている俺。
どうやらルナには金額が足りてない事を言ってないらしく、その補填を自分達で呑もうと考えもあったらしいが商売人としての矜持が邪魔したらしい。
そのせめぎ合いで俺から少しでも補填しようという考えに至ったのは説明されなくても俺でも分かった。
これは逃げれないと悟った俺は困ったという顔をしながら頭を掻く。
「ああ、俺も最近、出費が多くて……これだけしか?」
そう言って『てへぺろ』しながら差し出す銀貨1枚。
銀貨を見つめるザックさんは目が笑ってない笑みを浮かべながら言ってくる。
「トール、ジャンプしてみろや?」
「……」
異世界の路地裏で悪漢(俺視点)に囲まれた真ん中でピョンピョンとジャンプさせられる少年の姿があった。
俺ですけどねっ!!
異世界で元の世界でも伝説と化してる「音してるじゃねぇーか?」というネタとしか残ってないと思われる事をさせられると思ってなかったよっ!!
無駄な抵抗をせずに払えばいいものを、と鼻で笑うザックさんは俺から撒き上げた小銭を片手でお手玉しながら去るのを俺は口をへの字にして見送った。
泣いてないからなっ!
もうちょっとお金を部屋に置いてくれば良かったと後悔した事を思い出しつつ、遠い目をする俺は心を元の場所に復帰させる。
「絶対に串焼きは買わないからな!」
「もうっ! 徹のケチンボ!!」
とプイッと顔を背けるルナを見つめる俺は思う。
ケチンボってルナ、お前の年はいくつなんだ?
分かる俺もどうかしてるかもしれないと思っていると美紅が俺が持つ依頼書の写しを覗き見て話しかけてくる。
「しかし、この依頼書だけでは何も分かりませんよね」
「ん? ああ、向かう場所と『荷物を預かりに来ました』という符丁になる言葉以外分からんしな。言う相手も口頭でシーナさんに酒場の店主と聞かされてなかったら、どこで使うかも分からんし……」
Bランクに飛び級したのを他の冒険者ギルドに納得させる為の実績作りだと言われて受けさせられた依頼であった。
向かう時間もシーナさんに陽が沈んでから、と口頭で伝えられただけで依頼書には明記されてない。
「依頼内容も分からない、依頼主も分からない……正直、シーナさんが手渡してきたモノじゃなかったら即答で断る依頼だよな」
「もうこれだけで、依頼も大変でしょうけど、依頼主も厄介な相手なのだろうな、と分かってしまいますね……他の冒険者ギルドを納得させるに充分な依頼でしょうから仕方がないかもしれませんが……」
そう言って暗くなりかける美紅に極力明るく俺は話しかける。
「まあ、夜になってからの話だし、今は初代勇者に詳しい人に会いに行こう。前々から気になってた事を聞かせてくれるだろうし、な?」
まだ昼にもなってない時間で時間が余っている事もあり、触りだけでも話を聞けたり、コンタクトを取って次、会う約束をするのもいい、と思った俺達はミランダに教えられた貴族でもあり、学者でもある人の屋敷を目指して歩いていた。
ミランダに聞かされた言葉を思い出す俺は意地悪な笑みを浮かべる。
「ミランダ曰く、変な人らしいぞ? きっと真正の変態だな!」
マッチョなオカマのミランダに変と言わせるのだから逆に真っ当な可能性もあるかも、と思いつつ笑う俺は酷い子。
「ミランダさんに言って叱って貰いますよ?」
俺の考えを見抜いたらしい美紅に脅されて立場逆転させられ、悪戯っ子のように笑う美紅に平謝りしながら俺達は件の貴族の屋敷へと向かおうとするが着いてこない人物に気付き、俺と美紅は踵を返す。
「串焼き、欲しかったの……」
指を咥えながら呟くルナの襟首を掴んで引っ張りながら俺は美紅に必死に交渉を続けつつ、再び、貴族の屋敷へと向かった。
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ミランダに手渡された地図を頼りにやってくると大き過ぎず、小さ過ぎずといった屋敷に到着した。
入口の門は開放されていたので、おそるおそる入ると中央には小さい噴水にその周辺には綺麗に花が植えられていた。
まるで少女漫画に出てきそうな乙女チックな作りだが、全体的に趣味の良い屋敷であった。
男である俺には理解しがたいが、ルナは素直に綺麗と思っているようだが、特に美紅が嬉しそうに花を眺めていた。
「とても趣味の良い方なんですね! きっと良い人ですよ、トオル君!」
「だといいんだけどな?」
俺は嫌な想像が付き纏っていた。
ミランダの知り合いらしい人がどんな人だろうと考えて、この庭を見た瞬間、『マッチョなプリマドンナ』を連想してしまったのである。
生き地獄だ……
まさか、そんな出落ちが待ってるはずがない、と自分に言い聞かせて俺は前に進み、玄関を目指す。
玄関に着き、生唾を飲み込んでドアノッカーを叩く。
しばらくするとゆっくりと開くドアに息を呑むがそこから出てきた人を見た瞬間、男前な顔で笑みを浮かべる。
「はい、どちら様でしょうか?」
「私、ミランダの知人の冒険者のトールと申します」
俺は出てきた年上の冷たい感じはさせるが美人メイドに揺るぎのない鉄壁の笑みで微笑む。
少し、首を傾げるようにする美人メイドは「マッチョの集い亭の?」と言ってくるのに爽やかに頷く俺。
あまり笑わない人なのか、「少々、お待ちください」と言ってこの場を離れる美人メイドを見送る俺は鉄壁の笑みで見送る。
どれくらい鉄壁かというと、
「ぶぅ!」
「もうっ!」
両方からお尻を抓られても決して表情で出さないぐらいに鉄壁であった。
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