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80話 あったな……そんな事

 だいぶお待たせしました!

 ミランダからの報せを受けて、スキップ気分で紹介された貴族でありながら歴史学者をする変わり者の人に会いに行くつもりだった俺だったが、出先でライラ姉妹と遭遇した。


「んとね、オッパイが大きなエルフのお姉さんがなるべく早くに顔を出して欲しいって言ってた」

「具体的にどれくらいだ? いや、あくまで誰かを特定する為でイヤラシイ理由はないからな?」


 俺の背後にいるルナと美紅のいてつく波動に恐怖した訳ではなく、名前が分からないのだからどうしようもない。



 じゃ、名前を聞け?


 嫌だよ、そんなの?



 俺に問われたライラが、ウーンと悩む素振りをする横で妹の眠そうな顔をしたマイラが代わりに答える。


「ウチの姉さんより大きい」

「そうそう、それ! 冒険者ギルドの人」

「――ッ! シーナさんだな!?」


 キュピーンという擬音が聞こえそうな速度で顎に手を添えて男前な顔をする俺のスーパーコンピュータが最適解を弾きだす。


 『ウチの姉さんより大きい』だけで答えを弾きだした。それは、かるたの上の句だけで反応する達人な俺だからできるワザである。

 当然ながら『冒険者ギルドの人』というマイラの言葉など認識していない。



 しかし、どうしたものか……初代勇者の話を聞く為にだいぶ待って興味があるけど、普段お世話になっているシーナさんが呼んでいるのを後廻しにするのも気が引ける……


 必死に悩む俺は問題なるものを天秤に載せるようにして、無駄なものを省いていき、最後に残ったものを、どちらが重いか計る。




 おっぱい  >  帰る手段




「良し、まずは冒険者ギルドに行こう。いいよな、ルナ、美紅?」


 迷う余地なく、天秤が破壊させた俺は後ろを振り向いて告げる。


 ルナと美紅は何か納得いかないという顔をお互いに見合わせた後、俺を見てくる。


「確かに、シーナさんを放置するのは良い気分ではないですし、初代勇者の件は急ぎでもありませんが……」

「……徹、鼻の下が伸びてるの」


 ルナに言われた瞬間、右手をビクッとさせるが踏み止まるとズボンを握り締める。



 おっと、危ない。ルナのカマかけに引っかかる所だったよ!


 鼻の下を隠すのを状況証拠にするという古典的手法にな!


 トオルさんはそんなお馬鹿な手に引っかからないよぉ!?


「しょんなこと、にゃいおぉ?」

「それで誤魔化せたつもりですか、トオル君?」


 あひる口をする俺を半眼で見つめる美紅のプレッシャーに汗が背中を滲ませる。



 駄目だったみたい、てへぺろ♪





「ああ、待ってま……えっと、また何かされたのですか?」

「何かしたというか、計画した事を見透かされただけなんですけどね?」


 頬をアンパ○マンのようにする俺を呆れた目で見つめるシーナさんに俺はチワワのように潤んだ瞳で見つめるが肩を竦められる。


 俺の必殺技が不発した事に戦慄を感じる。



 な、なんだと!?


 全国の女子高生が卒倒する破壊力のある俺のウルウル視線ビーム(願望)が不発だと!?



 受け入れられない事実に身を震わせる俺を無視して話は続く。


「未然に破廉恥を阻止しました」

「本当に危なかったの!」


 自分達が言う言葉に微塵も間違いなどないと自信を感じさせるルナと美紅を見つめたシーナさんが頬に手を添えて微妙そうな顔をする。


「多分、間違っては無いのでしょうけど、さすがに決め付けは……」

「そうなんや! ルナと美紅はその辺りが分かってない!」


 僅かなりに温情を見せるシーナさんの言葉に俺は目を輝かせ、飛び上がるとカウンターの向こうにいる驚いた顔をするシーナさんのオーパーツを目掛けて滑降する。


 あっ! と声を上げるルナと美紅だが、俺はほくそ笑む。



 ふっ、もう間に合わんよ!



 俺は両手を広げて二枚目スマイルを浮かべる。



 ああ、あそこが俺が還るべき場所。


 そこは母なる海、とても大きいんだ……


 柔らかい感触が俺の頬を包む……



「ただいま……」


 俺は今まで生きてきて良かったと心の底から思った。





「すいません、中途半端な同情は良い事はありませんね?」

「そうなの!」

「次からはそれを教訓にして頂ければ……」


 怒れる3人の少女の間にあるカウンターの上で正座させられている俺は唯一無事であった中央の鼻から血を流し、看板を持たされていた。



『また、やりました。反省中』



 と書かれた看板を持っていると少し離れた所で身を震わせてしゃがみ込む冒険者達が目に入る。



 あれれ? 何か面白いモノでもあるのかな?



 どこどこ? と辺りを見渡そうとするが視界が滲んで良く見えない。


「あれ? 目から水が溢れて止まらないよ?」


 初めて感情に目覚めた人形が困惑する様子を力演するが3人にはスル―される。


「それで、私達を呼んでらっしゃったようですが、何かありましたか?」

「そうなの、冒険者ギルドから貴方達3人に受けて頂きたい案件が2件あります」


 何やら書類を取り出しながら「受けて下さるなら、こちらが出来る限りの優遇をお約束します」と言ってくる。


「じゃ、話を聞くから降りて良い?」


 ドサクサに紛れて笑いモノ、見せ物になっている今を打開する為に言ってみる。


 返事を聞く前に降りようとすると3人に黙ってニッコリと笑われて、考える前に元の体勢に戻り、姿勢を正す。



 うん、無理って分かってた。



 悲しみに暮れる俺を無視して話は続く。


「クラウド所属のBランクが5人の欠員を出ました」


 シーナさんの言葉に俺達はフムフムと頷きながら聞くが実の所、3人共「だから何?」と思っていた。


 後から知った事だが、ランク毎に最低人数の目安があるらしい。


 まるで通知簿みたいな話である。


 要領を得てないのをシーナさんが気付き、苦笑いを浮かべる。


「トールさんがやりあった『至る頂点』のパーティがあの戦いで不正を働いていた事が分かり、追放処分されてBランクが少なくなりまして……」

「えっ!? 何をしたんだ?」


 俺が問い返すと説明をしてくれた。


 『至る頂点』との戦いで放たれた火球がどうやって方向転換したか、というカラクリが分かったそうだ。


 聞くと納得する簡単な理由であった。


 当たらなかった火球を見物していた者が魔法を放ち、進行方向を変えてたからだ。


 そんな事ができるのかと思われたそうだが、魔法の制御を捨てて放てば制御を奪う事ができるらしく、それを利用した手だったらしい。



 道理でアイツから魔力の流れが感じられなかったと思った。



 やれやれ、首を振る俺からルナと美紅に視線を向けるシーナさんが続ける。


「高ランクの人員が減るのはギルド上の面子に関わり、依頼の発注などにも影響します」


 そういうシーナさんの言葉を聞いてた俺は有りうる事だな、と頷く。


 3人の視線が集めるシーナさんは咳払いをして書類を目の前に差し出す。


「特例で貴方達に2ランクアップのBランク冒険者の昇格要請を快く受諾して頂ける事をクラウド冒険者ギルドは期待しております」


 差し出された書類には『Bランク昇格要請』と書かれて、俺達3人の名前が書かれていた。

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