79話 溢れ出る……それは次の機会に
はい、新章スタートです。
しかし、ゆっくり更新してるとはいえ、結構の話数になってきたねぇ~
真っ白な世界で祈る青髪の少女が呟く。
「アローラの子、どうか私の言葉に耳を傾けて欲しいの……」
今にも泣きそうな雰囲気を漂わせる青髪の少女は必死に祈り続ける。
しかし、何の手応えもなく寂しく青髪の少女の言葉が真っ白な世界に吸い込まれるように消えるのみであった。
青髪の少女以外、何もない世界かと思われたが空間に歪が生まれると青髪の少女に良く似た気の強そうな少女が現れる。
祈る青髪の少女に気付くと嘆息して話しかける。
「相変わらず無駄な事をしてるのね?」
「お姉ちゃん! 来てくれたの!?」
弾けるように青髪の少女が振り返るが振り返った先にいる青髪の少女の姉の表情が青髪の少女が期待するような理由で来てない事を知り、落胆した表情を浮かべる。
「言ったでしょ? 貴方が何をしようと無駄だって? 私ですら無理な事を力で劣る貴方で出来る事はないわよ」
「違うの! これは力で解決する事じゃないの。確かに力も大事かもしれない。でも人と人を繋ぐのは力だけではどうにもならない。あの人ですら……」
「アイツの事は二度と口にしないでっ!!」
先程まで駄目な妹を心配するような雰囲気を纏っていた姉であったが、ある人物の事を口にしようとした瞬間、眉尻を上げてヒステリックに叫ぶ。
その声に怯えた青髪の少女が身を縮める。
それに気付いた姉がバツ悪そうな顔を浮かべ、諦めたように腕を汲みながら溜息を吐く。
「そうよ、アイツですら人々を繋ぐ事に成功しなかった。私が知る限り、最高の文武両道というのを体現するアイツですらね」
「だから、違うの。能力の優劣が人を繋ぐんじゃないの!」
青髪の少女が必死に訴えるが姉は被り振る。
「貴方はこの世界からしかアローラを見てない。だから、色々と美化してるだけよ。現実はもっと残酷よ」
「そんな事ないの! 人の可能性はお姉ちゃんが思っている以上に力を秘めているの!」
まるで水と油のように考え方が違う姉妹は見つめ合うが姉が「ないない」と首を振り、青髪の少女の鼻に人差し指を押し付けて言う。
「いい加減に諦めなさい。この世界も次の召喚で私達ですら長い時間いられない世界になるわ。出立の用意を急ぎなさいよ?」
押し付けた人差し指を弾いて痛がり、鼻を押さえる青髪の少女に笑いかけ、空間に歪を作ると姉はこの場から立ち去った。
姉が去るのを見送った青髪の少女は再び、祈り始める。
「アローラの子らよ……」
祈るが手応えもない。だが、それはいつもの事で怯む事なく青髪の少女は何度も問いかけるように祈る。
「アローラは終わりゆく世界じゃないの。みんなで守れる世界なの……」
いつものように空虚に白い世界に声を響かせる。
祈りも説得も相手が聞く気がなければ伝わる事がない。
アローラに住む者達は魔神は封じられて約束された明日があると信じ、凶兆を見て見ぬふりをし、短絡的な手段で誤魔化し続ける。
そのしわ寄せが今、目の前に迫っている事を必死に青髪の少女は祈る。
「くっ……」
信じている、信じているが、いくら問いかけても響かない心と向き合うのは辛い。
身を縮こまらせる少女が祈る。
今までと内容が変わり始めているが青髪の少女が気付いているか分からない。
「お願い、私では届けられない願いを誰か、誰か届けて欲しいの。私が愛したアローラが消える前に……みんなの心を繋いで」
祈る青髪の少女の頬に涙が伝う。
「そして、そして、出来る事なら……」
下唇を噛み締める青髪の少女は声音を震わせて消え入りそうな声で呟く。
「どうしたらいいか分からない私を……」
頬を伝った涙が地面に落ちて弾ける。
「助けて……」
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ガバッとかけていたシーツを刎ねの蹴るようにして起き上がるルナが荒い息を吐きながら辺りをキョロキョロして見渡す。
「宿の部屋? あれ?」
ルナは自分の頬が濡れている事に気付き、腕で拭う。
「なんで私、泣いてるの?」
首を傾げると拭ったはずの涙が再び、頬を伝う。
両目をゴシゴシと擦るルナは止まらぬ涙と共に悲しい気持ちになってくる。
辺りを見渡すとそこにいるのは自分だけと分かると急に人恋しくなり、友達の2人の名を呼ぶ。
「徹ぅ、美紅ぅ! どこにいるの……」
ルナは幼女が親を捜すように目を擦りながらベットから降りた。
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宿の一階の食堂のカウンターで、ミランダに出されたコーヒーを飲みながら俺は愚痴を言っていた。
「そうなんだよ。もう3日もロキの音沙汰がないんだ……今度こそ、コテンコテンにしてやるって思ってたのによ?」
「うふふ、意気込みは買うけど、ルナちゃんや美紅から聞いてる限り、それは遠い未来になりそうよ?」
頬に手を当てながら楽しそうに言ってくるミランダの言葉に撃沈する俺は額をカウンターにぶつける。
いやね? まだロキに真剣にさせる事すら無理って徹ちゃんも分かってるよ?
男の子として下がれない領域がある訳で……
ムクリと起き上がった俺は力説するように言い切る。
「せめて、女の子とイチャイチャする余力を失くすところまでは追い込みたい!」
「原動力としてはありきたりだけど、それはただの嫉妬よ?」
クスクスと笑うミランダ。
分かってるしぃ! 男の嫉妬上等ぅ!!
少し考え込み始めるミランダが俺に言ってくる。
「まあ、元々、用事までの暇潰しに、と言ってトール達と行動してたんだからいなくなるのはおかしくないけど、一言あってもいいわよね? 聞いてる話だけでも凄い腕が立つようだから無駄な心配になるかもしれないけど、それとなく調べといてあげる」
「サンキュー、頼むよ、ミランダ」
俺の言葉にウィンクで返事するミランダ。
うん、その俺のトラウマを抉るような事をしてこないでくれるとミランダは良い人と思えるんだよ?
ふと、思い付いた事を俺は呟く。
「しかし、遅いな?」
「そう? 頼んだモノを買いに行ってくれた場所を考えれば、まだ帰ってくるような時間じゃないわよ?」
コップを磨くミランダが首を傾げるが俺は違う、違うと手を振ってみせる。
「勤労少女の美紅じゃなくて、寝ボスケのお馬鹿さんの方だよ」
「まあ、トールも口が悪いわね? あら、噂をすればね!」
俺の背後を見つめたミランダが果物を絞ったジュース、今日はリンゴジュースを取り出してコップに注ぎ出す。
ペタンペタンと眠い時にするルナの独特な足音に嘆息しながらコーヒーに口を付ける。
「寝過ぎだぞ? もうすぐお昼にな……なっ! コーヒーを零すだろうが!?」
話し中の俺の背後からおんぶをするように抱き着くルナに揺らされて揺れる手元のコーヒーを零さないように奮闘する。
だらしない声音のルナが情けなさMAXで言ってくる。
「徹ぅ~」
エグエグと言いながらギュッと抱き着いてくるルナに首を締められて少し苦しい俺。
俺とルナを見て微笑ましそうに見つめるミランダが言う。
「あらあら、ルナちゃん、今日は甘えん坊なのね?」
「まあ、俺の溢れ出る包容力がそうさせるのかもな?」
なんとなく遊んでるのではなく、本当に情緒不安定になっているように感じられたので好きにさせる。
俺の言葉に驚いた様子を見せるミランダが俺を覗き込むようにする。
「そうなの?」
「そうだよ、見てろよ? さあ、ルナ、徹兄ちゃんが抱っこしてあげるぞ!……アレ?」
振り向くと同時にルナが離れて、両手を広げる俺がそこに残される。
『マッチョの集い亭』のドアベルが鳴り、買い物袋を抱えた美紅が現れる。
入った瞬間、駆け寄るルナの様子がおかしいと気付いた美紅が戸惑い気味に問いかける。
「どうしたんですか、ルナさん? ああ、ちょっと荷物があるので抱き着かないでぇ!」
「美紅ぅ、美紅ぅ、私は頑張ってるのぉ!」
ルナが何に頑張ってるか分からないが少なくとも美紅はルナの抱き着きで荷物が落ちないように必死に頑張っていた。
ルナと美紅が傍目で見てるとキャッキャと楽しそうにしているような光景を両手を広げたままのピエロな俺が見つめる。
静かに腕を元に戻し、前を向くとミランダが楽しそうカウンターに肘を付いて顎を載せて俺を見つめる。
「溢れ出る包容力ねぇ?」
「うっさい!」
捨て犬が手を差し出されて威嚇するような俺、つまり、見る人が見れば負け犬に取る人もいるかもしれない俺を見つめるミランダは肩を揺らして必死に笑いを堪えようとする。
すると、何か思い出したような様子を見せたミランダが掌に拳をポンと載せる。
「そうそう、忘れてたわ。初代勇者に詳しい人とコンタクトが取れたわ。しばらくクラウドの屋敷にいるから、いつ来てくれてもいいと言ってくれてるわ」
「マジか! すぐ行く!」
食い付きがいい俺にまたツボを刺激されたらしく、笑い出すミランダに唇を尖らせながら場所はどこだと駄々をこねて屋敷がある場所の地図を描いて貰い始めた。
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