高校デビュー あなざー スワンの大冒険③
すんません、体調を崩して土曜は一日寝ておりました。
体力がない状態で金曜に慣れない仕事をしたせいっすかな?
あるダンジョンの一室で、どっかの大学の教授が遺跡に潜る格好をした無駄にキザさが目立つ男、スワンとワルキューレを連想させるような少女とゴブリンキングのゴブ郎が佇んでいた。
呆れた目でゴブ郎を見つめるスワンと冷たい視線を向ける少女の2人に見つめられて戸惑うゴブ郎。
タジタジになるゴブ郎が口を開く。
「アッシの何が悪いっていうんっすかぁ!!」
ゴブ郎が魂の叫びを上げるように半泣きになりながら身ぶり込みで言ってくる。
人語を話すゴブ郎は、スワンのみに通じてたのを自動翻訳しているのではなく、実際に話す事ができるようになっている。
そんなゴブ郎を残念そうに見つめるスワンは隣に立つ少女の肩を叩く。
「スラ吉はこのように変態できるようになってるのに、お前はなんだ? 喋るだけか? つまらん」
「そ、そんなぁ! 流暢に人語を話すゴブリンなんて世界を見渡してもアッシぐらいっすよ!!」
本泣きに移行するゴブ郎を無視して「これからはスラ子がいいか?」とスラ吉に聞くが被り振られる。
どうやら、声帯が上手く使えないのか、本当に話せないようだ。
この2体の変化はどうして起きたかというと、前回の終わりから説明しよう。
木の枝で行く方向を決めたスワンの向かった先には未踏のダンジョンに行き着いた。
適当過ぎると呆れていたゴブ郎など、余りの予測外の出来事に絶句したものである。
辿り付いたスワンは当然とばかりに高笑いを上げながら入って行こうとする。
見つけたのは凄いが、モンスターであるゴブ郎には未踏ダンジョンの怖さを良く知っていたので必死に止めたが、動き出したらコケるまで止まらない男、それがスワンであった。
ズンズン進むスワンを不安そうに着いて行くゴブ郎は嫌な予感からかドンドン疲弊していく。
ゴブ郎の予想を裏切らないかのように試練は待っていた。
壁にあったスイッチをサクッと押すスワン。
天井から落ちてくる石畳を必死に持ち上げ耐えるゴブ郎。
また違う場所で似たスイッチを見つけて、無警戒にまた押すスワン。
背後から転がり落ちてくる大岩を決死の想いで抱き止めるゴブ郎。
大岩をなんとか排除したゴブ郎が注意すると「3度も同じ失敗しない!」と踏ん反り返るスワンが歩き出した一歩目の床が軽く沈む。
そして、消えるゴブ郎の床。
悲しげなゴブ郎の鳴き声を残し、消えるゴブ郎。
社長を庇う係長、まさに社畜の鑑のゴブ郎である。
そして、その後は数ある試練、ほぼ全部ゴブ郎が耐え、地下へ地下へと降りて行く途中にあった小部屋で2つの木の実、クルミに似たモノを発見する。
拾ったスワンが訳知り顔で言う。
「きっとこれはいいものだ、食べてみろ」
ゴブ郎に差し出すが躊躇するように手を宙に浮かせ、嫌そうにする。
それを見たスワンが焦れて前に出ると横からスラ吉が一個、触手で掬うように取り上げると自分の体内に取り込む。
「おお、ふがいないゴブ郎に見本をみせるとはさすが私の部下!」
感動するスワンの目の前で消化される実が消えると同時にスラ吉が輝きだし、スワンとゴブ郎が目を細める。
光がおさまると、そこにはヤギ男というのがシックリくる悪魔のような姿をしたスラ吉が現れる。
ドン引きするゴブ郎を余所に顎に手を添えながら変わり果てたスラ吉を眺めるスワン。
「強そうでカッコイイと言えるが、忘れてないか? 我々は商売をする為の起業を目指してるのに威嚇しかできん専務では困るぞ?」
でもやはりカッコイイな、と呟くスワンにゴブ郎が被り振りながら、違う違う、とジェスチャーする。
ヤギ男化したスラ吉がシュンとした瞬間、また輝くとライオンのような獣の姿に変態する。
「おお、姿を変えれるのか! それもカッコイイがやはり客を脅すぐらいにしか使えんぞ?」
残念そうに言うスワンにスラ吉は触手を伸ばし、スワンの額にくっ付ける。
「お? 何をする気だ?」
元の形状に戻っているスラ吉がプルプルと震えると、また輝きだす。
そこに現れたのは凛々しくもあり、美しくもあるワルキューレを連想させる少女の姿が現れる。
それを見て呆然とするゴブ郎を無視して、拍手するスワン。
「おお! 私の思考を読んだのか? 確かに、この姿も候補の1つに想像した。良い仕事するな、スラ吉」
スワンに褒められて嬉しそうに頬を薄らと朱色に染めるスラ吉。
その姿を満足そうに眺めたスワンは振り返るとゴブ郎に残る木の実を差し出す。
「さあ、ゴブ郎も食うのだ!」
わっははは! とゴブ郎も素晴らしい変化があると信じ切っているスワンは高笑いを上げる。
スラ吉にも食えと言わんばかりに頷かれて、ゴブ郎は目尻に涙を浮かべて受け取ると、どうにでもなれとばかりに口に放り込む。
スラ吉同様に輝きを放つゴブ郎。
そして、冒頭に戻る。
時は戻り、本泣きになってるゴブ郎が必死に主張していた。
理不尽だ、とばかりに訴えるゴブ郎からスワンは視線を切り、スラ吉に話しかける。
「ゴブ郎は使えないと分かったところで先に進むか?」
スワンの言葉に頷いてみせるスラ吉。
ゴブ郎を放って本当に部屋から出て行く姿を見つめて有り得ないと首を振る悲しき係長。
「おかしいっす。おかしいっすよ! アッシはこんなに頑張ってるのに!……あれ?」
泣き事を言ってる瞬間にある事を思い出して辺りを見渡すが狭い部屋なのですぐに済むと首を傾げる。
「そういえばメル姐さんとデブ鳥の姿がないっすねぇ? ダンジョン入る前にはいたと思ったっすが……」
考え込みそうになったゴブ郎であったが、スワン達の姿が遠くなってる事に気付き、慌てて飛び出す。
「待ってくださいっす! アッシを置いて行かないで欲しいっす!」
ドタドタと足音をさせてゴブ郎はスワンを追いかけた。
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とうとう、最下層に到着する。
ここまで来るまでに数あるトラップを一身に受けて耐えたゴブ郎は疲弊していた。
体力的な話ではなく、心がであるが。
最下層の最奥にある扉にスワンが押し、開いた先には眠っていたと思われるドラゴンの姿があった。
扉の開く音で起きたのか、ドラゴンが目を開ける。
「何の用だ、矮小なる人間と魔物よ。我の宝を欲する者か?」
宝? と首を傾げるスワンがドラゴンの背後が明るい事に気付き、後ろが見える位置に移動して見る。
「おお! 金銀財宝ではないか? おい、トカゲ。どうせ、溜めこむだけで使う気がないのであろう? 私に投資してみないか?」
小さな山のようになっている財宝の数々に気付いたスワンが商談に入る。
自信満々に言うスワンを見るドラゴンは「こいつは正気か?」と呟き、小馬鹿にするように鼻息を洩らす。
「我の宝を欲するなら力づくで持っていくが良い!」
そう言うと溜めなしで炎のブレスをスワンに吐く。
一瞬、ビビるが無駄に自信を漲らせたスワンが胸を張る。
1人、逃げようとしたゴブ郎にスラ吉が近寄り掴むと問答無用にブレスに叩きつける。
「なんばしよっと!!!」
ゴブ郎の叫び声とブレスの炸裂音が同時に響き渡る。
爆発がおさまり、地面に横たわるゴブ郎を見つめるドラゴンは『ないわ~』と言いたげな視線をスワンに向ける。
「それはお前等の仲間じゃなかったのか? まあよい、次は同じ手で使えんぞ?」
「ふっ、それはどうかな?」
余裕の笑みを浮かべるスワンの言葉に目を細めるドラゴンの目の前で倒れるゴブ郎が飛び起きる。
「あ、熱かったっす!! 何するんっすか、スラ吉さん!!」
体に煤が付いている程度しか変化のないゴブ郎を目を点にして見つめるドラゴン。
元気に地団太を踏むゴブ郎を見つめ続けるドラゴンが呆ける声で言う。
「我のブレスでゴブリンが無傷なんて有り得ん。原型を留めただけでも普通のゴブリンではないとは思ったが……」
「ふっ、所詮、金銀財宝を持ってるだけの貧乏人だったな、ドラゴンよ。良く聞け!」
バッ、音をさせて指を突き付けるスワンが口の端を上げて自信ありげに語る。
「このスーパーお金持ちの下で働く係長はこれぐらい出来ないとやっていけないのだ! 中間管理職を舐めるな!」
「そんな馬鹿な理屈があるかぁ!」
正論を言うドラゴンを無視して横にいるスラ吉に目を向けるスワン。
「スラ吉、お客様に名刺を渡されたらどうするんだ?」
スワンにそう言われたスラ吉が首を傾げて、一瞬悩む素振りを見せたがすぐに頷く。
ゆっくりと高い天井を目指すように浮いて行くスラ吉の右手に生まれるランス。
そして、込められる力の奔流か帯電するようにバチバチと音をさせる。
それを眺めるゴブ郎が及び腰になりながら出入り口の方にゆっくりとすり足をするようにして進む。
「スラ吉さん! それはヤバいっすよ! やり過ぎっす!」
スラ吉はゴブ郎の声など聞こえてないかのようにドラゴンに狙いを定める。
ドラゴンもスラ吉のランスに込められた力を理解して鼻水を垂らす。
「ま、待て、話し合おう?」
「さあ、スラ吉、名刺交換だ!」
スワンの言葉でランスを投げる体勢になるのを見たゴブ郎はドラゴンに背を向けて出口に駆け出す。
駆け出すゴブ郎の視界の隅に映ったモノに意識を持って行かれる。
ドラゴンの背後の財宝の山の傍で小柄な少女のメイドのメルとデブ鳥ことカトリーヌがおり、メルがせっせとカトリーヌに金銀財宝を手渡している姿がそこにあった。
「メル姐さん、逞し過ぎるっすよぉ!!」
その言葉が引き金になったようにスラ吉がランスをドラゴンに放ち、爆音と共に地面を打ち抜いた。
▼
「わっははは!!」
男、スワンの高笑いが狭い地下の川が流れる場所で響き渡る。
元の姿に戻ったスラ吉の背で立つスワンを川でプカプカと浮くゴブ郎が見つめる。
「無茶苦茶っすよ。ゴブリンのアッシでもおかしいって分かるっす!」
ゴブ郎の声は届いているはずだが、まったく気にした様子を見せないスワンに溜息を零す。
この先の未来を想像して怖い未来予想をしてしまうゴブ郎。
「もしかして、ずっとこんな感じっすか?」
チラリと見るスワンの迷いもなく楽しそうな顔とゴブ郎より更に後方にカトリーヌの上にのったメイド、メルを見つめて小さな笑みを浮かべる。
「まあ、大変そうっすけど、村でゴブリンキングするよりは楽しいかもしれないっすね~」
なるようになるとゴブ郎は肩を竦めると流れに身を任せて、目を瞑った。
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