幕間 待つ者と去る者
はい、幕間です。
次話はアレですが、次の更新日がこの旅行で少し読めなくなってるのでお待ち頂く事になるかもしれませんがご了承ください。
あるダンジョンの最奥。
そこに眠る大きな赤き鱗を纏うドラゴン、エンシェント級の最上に分類されるレッドドラゴンがいた。
一定のリズムで動く体は深い眠りに就いている事を感じさせたが、急にピタリと止むとレッドドラゴンが薄く目を開ける。
「カラスとアオツキが覚醒したか……」
そうレッドドラゴンの口から人の言葉、30代の男を連想させる渋めの声が漏れる。
レッドドラゴンは虚空を見つめ、遠い昔、500年前に想いを馳せる。
「カズヤ、お前は我に何をさせようというのだ?」
同種のドラゴンを始め、神であろうとも慣れ合わなかったレッドドラゴンが唯一、心を許した人間、カズヤ。
ここにいないレッドドラゴンの記憶にある少年に問いかけるが、決まって同じ答えが返る。
「フレイ、君がカラスとアオツキを携えた者と邂逅した時にしたいと思った事をしてくれたらいい。それが俺からフレイにする願いだ」
弱ったような顔をする優男にも見えるのに芯が通った少年カズヤの言葉を500年思い出し、そして眠りに就いてきた。
人では待てない時間、悠久の時を生きると思われるドラゴンにとっても長い時間、ずっと待っていた。
「カズヤ、お前が何を望んでたかは知らん。だが、漸く、お前との約束を果たす日が来るようだ」
悲しそうに目を細めるレッドドラゴンはそのまま瞼を閉じて、約束の日を待ち続ける……
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ここ最近の習慣になりつつある、徹との早朝訓練に向かうロキは街を出た何もない所で足を止める。
「こんな所で油売ってていいのかよぉ?」
「くっくく、真面目に仕事をしてますよ、と……今はロキ君と言った方が良かったかな?」
しわがれた老人の声で耳触りな笑い方をされ、眉を寄せるロキは露骨に嫌そうな顔をする。
「どっちでも好きに呼べ。それより、真面目にしてるってなら、さっさと……」
「見つけましたよ?」
老人の声に遮られるように言われたロキは鼻の頭に皺を寄せる。
勿体ぶるような間を作るようにして続ける老人の声の主。
「見つけたのは良いのですがねぇ、私だとてこずる上、他に協力を得ようとしても彼女は徹底的に私を嫌ってるので……呼びにきたのですよ」
「おめぇーよ? 俺もおめぇの事、嫌いだからなぁ?」
凄むロキにビビるどころか余裕を見せるように、フォフォフォと耳触りな笑い方をする。
「それは残念ですねぇ。それでも彼女と違って貴方は聞く耳を持ってくれるだけマシなんですよ。お願いできますか?」
「ちぃ、分かった。例の場所でいいのかよぉ?」
「ええ、ええ、それで結構です。お待ちしておりますので早めにきてくださいねぇ」
そう言うと老人の声と共に気配がこの場から消える。
ロキは胸糞悪いとばかりに舌打ちしながら歩くと早朝訓練場所に徹がいるのに気付く。
向こうも気付いたようで肩をいからせながらやってくる。
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「相変わらずの遅刻常習犯だな、こら!」
「ほっとけや、俺はよぉ、トオルと違って夜は大忙しなんでなぁ?」
ロキの夜のお仕事『女の子とイチャイチャ』
げは……そんな素晴らしい職業に就いてみたい!!
例えば、ホストをしている自分を想像するが自分で『ないわ~』と突っ込みを入れてダブルでダメージを受ける。
気を取り直した俺はシャドーボクシングをするようにして見せて、ロキを挑発する。
「こないだの疲れも完全に抜けてピンシャンしてる徹君がこないだの借りを返してやるぜ?」
「ああっ? 『動けない貧弱な僕を担いでぇ』と言った借りを返すのか? 愁傷じゃねぇーか?」
「ち、違うわい! デコピンされた仕返しに決まってるだろ!」
既に泣かされそうな雰囲気を漂わせる俺は必死に声を張り、中指を撓らせてロキを威嚇する。
まったくビビらずに呆れた顔で見つめるロキにヤケクソ気味で突っ込む俺の頭を左手で止めて、空いてる右手で前回と同じ場所をデコピンしてくる。
「いてえぇ!!」
「ぎゃはははっ! わりぃな、トオル。ちと、用事が出来たから遊んでやれねぇーんだ。また今度な?」
デコピンされた場所を押さえながら屈む俺は恨みがましく見上げる。
「ぜってぇーロキにデコピンしてやるからな!」
「おおっ! いいねぇ、挑戦状を受け取ったぜぇ! 楽しみにしておいてやるぜぇ?」
小馬鹿にする笑みを浮かべるロキを睨んで地団太する俺。
きぃー悔しい! 絶対に見返してやる!!
ロキに勝つ為には力が足りない、と意気込む俺はミランダの朝食を食べる為に街に戻り始める。
すると、その場に残ったロキが後ろから俺を呼ぶ。
振り返る俺を見つめるロキは頭を掻きながら言葉を捜すようにする。
「あのよぉ……何でもねぇ! またな?」
「お、おう?」
ロキが普段するふてぶてしさを感じる笑みではなく、歯を見せる幼い子がしそうな大きな笑みを浮かべる。
そう言うとロキは俺に背を向けて街から離れて行く。
今度は逆に見送る側になってしまった俺は離れゆくロキの背を見つめて呟く。
「あんなに笑ってるのにどうして……今にも泣きそうな目をしてたんだ、ロキ……」
答えられる者の背に問いかけるが俺の言葉は離れゆくロキの耳に届く事はなかった。
そして、この日を最後にロキは姿を消した。
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