77話 俺は弱いけど……
俺の言葉を聞いたルナと美紅が何かを言いかける前に2人を遮るように手を出すロキが俺を見下ろしながら言ってくる。
「できんのかよ?」
「ヨユーよ!」
ロキに向かってシャドーボクシングをしてみせる俺を半眼で見つめてくるので強気に言ってやる。
「なんなら、俺の実力を見せてやるぜ?」
「それはまた今度でいいわぁ?」
呆れるロキは俺にデコピンをかましてくる。
イテェ――!!
その場で転がりまくりたい俺だったが涙目になりながらも耐える。
だって、男の子だもの!
馬鹿を言ってないと耐えれない俺であったが、呆れは隠せないが肩を竦めるロキは引き下がる気になってくれたようだ。
「私は反対です!」
だが、美紅、そして、ルナは引き下がる気はなかったようでロキに代わって言ってくる。
絶対に引かないとばかりに可愛らしい眉尻を上げる2人を見つめた後、上空でこちらを威嚇するようにする大蛇を見つめる。
「その気持ちは有難いけどさ? あの蛇は俺に夢中らしいんでな?」
「で、でもぉ!」
ルナが反論するように言ってくるがルナも美紅もその1点だけは反論できない。
どうやら、邪魔をし続けた事でヘイトを稼ぎまくって俺を潰す気満々になってるようだ。
今、襲ってこずに上空で待機しているのは参入したロキ、そしてルナ達に警戒しているからだ。
少なくとも、俺以上にダメージを通す相手で特にルナの攻撃はだいぶ堪えた様子を見せている。
この3人が近づけば、確実に距離を取るだろう。
だが、俺が単身で近づけば……
「これは俺しかできない役目だ」
「いいのかよ? トオル、テメエは食われるかもしれねぇーぜ?」
ルナ達の背後にいたロキが目を逸らしながら言ってくるのを見て笑みを浮かべる。
「俺が食われてる間は少なくとも動きは止まるさ」
「徹!」
「トオル君!」
俺の言葉に怒るルナ達の背後でロキが舌打ちする。
勿論、そんなつもりはないけどな?
まだまだしたい事あるし?
上空を見つめる俺は3人に言う。
「アイツもだいぶ焦れ始めたしよ。このまま放置するとミントを追うかもしれない。四の五言ってる場合じゃない……やるぞ!」
「もう言い出したら聞かないの!!」
「絶対にお説教しますからね!!」
怒る2人の言葉に力を貰った思いの俺が前を踏み出そうとするが足が震える。
恐怖からではない。
先程まで1人で戦っていた代償の体力、魔力が尽き始めていた。
いけるか?
一瞬の躊躇が過る俺の様子に気付いたのはロキだけであった。
「チッ、しゃーねぇーな」
露骨な舌打ちするロキが俺の襟首を掴むと自分の背中に放るようにする。
突然の事で驚いて背中に抱き着く俺。
「落ちんなよ?」
「へっ?」
俺の間抜けな返事をキッカケに走り出すロキ。
男1人、俺を抱えて走るロキは単独で走る俺より早く駆け出す。
うそん! コイツ、どんなけバケモンなの!?
驚く俺に話しかける。
「近くまで運んでやる。気合い入れろよぉ!?」
「お、おうよ!」
駆けるロキが姿勢を低くしていき、跳躍の準備をし出す中、俺は目を瞑り、まだ足りないと感じている俺に力を貸してくれるかもしれない2人に語りかける。
カラス、アオツキ、俺の声が聞こえるか?
俺は両腰に収めている両刀に語りかける。
ロキに俺はお前達を使いこなせ、と言われてた。でも、何か違うとも思ってた。
俺にはお前達を使いこなす事なんて永遠にできないだろう。
情けない事を必死に訴える俺。
だけど、今、俺はお前達の力がないと乗り越えられない壁が目の前にある。
俺の友達の嫁さんを守る為に俺だけの力ではどうにもならない。
俺を背負うロキが跳躍すると大蛇にグングンと近づいて行くが大蛇がそれを嫌うように射線から離れるようにする。
はっ、こんな化け物のみたいなロキや、下で心配そうに見つめるルナ、美紅の力を借りても足らない俺だけどさ?
こんな情けない俺だけど、弱い俺だけど……
ロキの背を蹴って単独で大蛇に飛びかかる俺はカラスとアオツキを抜刀して大蛇をとおせんぼするようにする。
自分が正しいと思う事を貫く為、証明する為の力を
俺が単独になった事で躊躇なく襲いかかる大蛇を睨みつける。
穏やかな笑みを浮かべて俺は最後は声に出して呟く。
「俺の友達として力を貸してくれ」
その瞬間、カラスは艶やかに黒く輝き、アオツキは静謐な空気を放つ。
そして、カラスとアオツキを握る両手を見えない誰かに握り返された気がした。
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徹を上空に送り届けたロキは地面に落ちて行きながら破顔させる。
「あの野郎、この土壇場であの二刀に認められやがったぁ!」
ロキは楽しくてしょうがない、とばかりに高笑いを上げる。
着地すると長剣を肩に載せて、いつでも飛び出せるように上空を見つめる。
「次は何を見せてくれるんだぁ? 楽しみだぜぇ、トオルゥ!」
▼
握り返されたと思った瞬間、世界が一気に広がるような錯覚を受ける。
いや、正確にいうなら俺が知覚できる範囲が爆発的に広がったと言うべきであった。
この万能感には覚えがあった。
オルデール戦で体感していたが、いや、これはそれ以上と言うべきかもしれない。
俺に向かって飛んでくる大蛇が丸呑みにするつもりで口を大きく開くのを見て、横に逃げようとするとアオツキから何かを感じる。
まだ早い、といった感じの感覚に襲われる。
分かってるしぃ! ビビってないからな? ちょっと口臭が酷そうと思っただけだからぁ!
負け惜しみのような事を思うとアオツキから呆れのイメージを送られる。
それに文句を言おうとするとカラスから集中するようにというイメージを叩きつけられる。
カラスのおかげで我に返った俺は蛇を睨みつけながら集中していく。
疑似未来予測が今までない精度で俺に情報を伝えてくる。
迫りくる大蛇に下にいるルナと美紅が悲鳴を上げる。
だが、それに反応せずに疑似未来予測とカラスとアオツキの『待て』のイメージだけを信じて睨み続ける。
そして、疑似未来予測が訴える時が来た瞬間、カラスとアオツキがGOサインを出す。
「弾けろっ!!!」
高めた魔力を一気に爆発させて、生活魔法で作った風の足場を蹴った。
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「徹ぅ!!」
「トオル君!!」
叫ぶルナと美紅の視界には徹が食われる直前を見つめる。
だが、その叫び声と共に徹の姿が掻き消える。
一瞬、食われたかと思ったが口を閉じた大蛇がたたら踏むように動きを止めたのを見て目を疑う。
徹を捉えたのであれば、あんな風にならないと見上げる2人の横の方で爆笑するロキが飛び上がる。
「わぁはははっ!! おもしれぇ! おもしれぇーぞ!」
ロキは飛び上がりながら、動きを止めて状況が分かってない大蛇に接近する。
高笑いするロキだけが徹が何をしたかかろうじてだが見抜いていた。
空中を蹴った徹が猛スピードで避けた、それだけである。
それだけであるが、ルナと美紅の目でも追い切れない程の速度を出したのだ。
ロキとて、霞むように消える徹を捉えただけである。
今までの徹では有り得ない速度であった。
カラスとアオツキの力があってこそではあるが、徹が身に付けた2つの魔力を掛け合わせて爆発させる術を得たおかげである。
大蛇にとびかかりながらも、ルナと美紅の視界の右方向を見つめるロキの視線を追ってルナ達も徹の姿を確認して安堵した。
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大蛇から遠ざかるようにしている俺は飛びかかるロキを確認した後、下で俺を見つめて安堵するルナと美紅に叫ぶ。
「トドメは頼んだぞぉ!」
俺の叫びを聞いて我に返った2人が大蛇を睨みつける。
「そうだったの! 私も本気を出すの!」
ルナは左手の指抜きグローブを脱ぎ、懐から違う指抜きグローブを取り出す。
それをドヤ顔で装着するルナが両手を突き上げて叫ぶ。
「シロ、クロの力で私の力もマックスなの!!」
白猫と黒猫の刺繍の入った指抜きグローブを装着したルナが本気かと疑う程、真剣な表情を見せる。
背後で美紅が苦笑いをするなか、ロキが動きを止めている大蛇を長剣でルナがいる方向に叩き落とす。
凄まじい勢いで落ちてくる大蛇に真剣な顔になる美紅が剣を抜くと言う。
「行きます、ルナさん!」
「いつでもドンとこい、なの!」
そう言うと美紅が剣を両手持ちして旋回を始めて、ルナがそれに合わせて飛び上がると美紅はルナの足裏を剣の腹で叩き上げる。
両手を突き出すようにして飛ぶルナは叫ぶ。
「にゃあぁぁぁ!!!」
ルナの背後に白猫と黒猫の威嚇する幻が見える。
ふざけ過ぎだぁ!!
大蛇にルナの拳がぶつかるのを見つめて苦笑いになる俺は呟く。
「まあ、ルナっぽいか?」
その呟きと共にルナの拳は大蛇を貫き、大蛇は朝霧が太陽に溶けるように消えた。
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