73話 雲行きが怪しく……
俺とジャフはパテルのおっさんの取り巻きに連れられて村の外れにある洞窟の再利用で作られた部屋に別々に放り込まれた。
放り込まれる前に俺だけ特別に手枷を付けられた。
どうやら魔法を封じるものらしく、先程から何か使おうとするが発動しない。
こんなのあるのね……
落ち着いて考えれば、罪人の魔法を封じないと簡単に逃げられるという問題が発生する。
「こんなの付けられたら、ご飯どうするんだよ!? というより、ここまでする程の大層な事はしてないだろ?」
2~3日と言われてる以上、下手に暴れる意味はない。
これからも真っ当かどうかはさておき、冒険者をしていく予定なのに指名手配になるような事はしない。
俺にそう言われた取り巻き、どうやら牢屋番でもあったようで俺達の部屋に鍵をして行きながら答える。
「さあな、パテルさんに念の為としか言われてない」
いかにも私の考えは1%も含みません、と言いたげな顔で言ってくる。
念の為って何? 俺が何をした?
覗きをしてた事を棚に上げた俺がクレームを上げる。
「2~3日おとなしくしてたら放免されるって分かってるのに普通、暴れないだろ!?」
「まあな、でも覗きして魔女裁判の火刑を受けそうになるヤツが普通かどうかであれば普通じゃないだろ?」
おふっ、言い返せない……
口をパクパクさせる俺に肩を竦めた牢屋番が去ろうとするので、せめて、と嘆願する。
「食事は女の子に食べさせてくれるように頼んでくれない?」
「まあ、それぐらいならパテルさんにお願いしておく」
割とあっさり要望を通してくれる牢屋番に気を良くした俺は追加する。
「後、後、美人だったり、可愛かったりすると更にいい!」
「おいおい、お前は罪人って覚えてるか?」
牢屋番に適当に「覚えてる、覚えてる」と言いながら続ける。
「最後にオッパイが大きい子、ここ重要!!」
「図々し過ぎるわっ!!」
そう言うとノシノシと擬音が聞こえそうな足音をさせて去る牢屋番の背を眺める。
気が短いヤツだな? きっとアノ日だな。
慌ててもしょうがないとばかりに座り込み、壁に凭れる。
牢屋に入れられてるのに落ち着いてる俺って大物じゃねぇ?
これがクセのようになって放り込まれ続けるパターンだけは嫌だな、と思っていると隣の壁から声が響く。
「すまない、トール」
「んっ? どうした、いきなり?」
声をかけてきたのは同じように放り込まれたジャフであった。
謝ってきたジャフの言葉を受けて、俺は首を傾げる。
一緒に覗きをしたんだから、なんらかの罰はあって然るべきだからジャフが俺に謝る必要はない気がするんだが?
何かあったかな? と思いつつ、頭を捻ってるとジャフが続けてくる。
「俺がパテルに目を付けられてたから巻き込む形になってしまった」
ジャフが言うには本来なら俺の立場であれば、あの場で叱責、せいぜい尻叩きレベルの罰ぐらいで済んだらしい。
村の人間でない俺の覗きレベルの最悪のケースは村から追い出されて出禁されるぐらいだとジャフは説明してくれた。
当然、2~3日とはいえ、俺が拘束されるのは異例中の異例のようだ。
だとしてもジャフが気にする事じゃないと思う俺は気楽な感じで答える。
「気にすんなよ。ジャフだけが放り込まれる話になったとしても俺も行っただろうしな?」
「トール……」
「楽しいだけを一緒するヤツは友達じゃねぇ! と俺に言った馬鹿の受け売りなんだけどな?」
苦笑する俺は元の世界にいる坊主頭は元気にしてるかな? と思っている俺にジャフが少し声音を震わせて「ありがとう……」と言ってきたので照れ臭いので俺は寝たフリをした。
しばらく、ジャフが呼び掛けてきていたが横になったせいか、本当に眠くなり、俺は本当に眠りに就いた。
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目を覚ました俺はオバちゃん(一応、女)に食事を食べさせて貰い、隣にいると思われるジャフに呼び掛ける。
「おい、ジャフ、飯食ったか?」
暇だったのでまずは飯ネタから話を始めようと声をかけるが返事すら返ってこない。
あれ? 返事がないぞ? もしかして、昨日の意趣返し?
もしかしたら、まだ寝てたりするかもしれないから少し様子を見る事にした俺は暇潰しにこの状態で魔法が使えたりしないかとチャレンジする事にした。
熱中し始めて、しばらくすると抜け道を発見する。
「おおっ、肉体強化の内側は打ち消せないらしいな?」
ダブルができる俺は内と外の両方の肉体強化ができる。外側の肉体強化はキャンセルされるが内側はできた。
試しに使おうとすると直前でキャンセルされて掻き消される。
「やっぱり上手くはいかないか」
そう言いつつも突破口な気がした俺は更なる研究を重ねる。
内側の肉体強化をすると、やはり循環する魔力が感じるが使おうとすると発動直前でキャンセルされる。
むむむ! 何か手がないか?
暇を持て余す俺は色々やっていると肉体強化をしてる最中に生活魔法の水が発動させようとしてしまった時、一瞬だが肉体強化を維持できたような気がした。
同じ事をするとやはり一瞬ではあったが発動に成功する。
他の生活魔法を行使しても同じ結果を得る。
「うーん、攻撃魔法とかでもできるかもしれないけど、使い方知らないしな……放出系は一瞬なのか? となると……」
内側の肉体強化を循環させてる状態で外側を発動させると外側が掻き消されて、内側が発動状態になる。
「おっ、できた」
大発見をした気がする俺であったが、他にも出来る魔法があるかもしれない、と思うと少し物悲しくなる。
しかも、シングルの肉体強化しか発動してないのにダブル並の魔力がガンガンと消費される。
「出来たは良いが使い勝手悪いな」
そう言って肉体強化を切るとタイミング良く、朝のオバちゃん(泣)が食事を持って来てくれた。
早速とばかりに食事を食べさせて貰う事になり食べながら話を振る。
「なんかジャフがいない感じがするんだけど、隣に居る?」
「……さあね? 私は担当じゃないから知らないよ」
そう言うと俺に掻っ込ませるようにして食事を済まさせると食器を下げて出て行こうとする。
おかしいな? 隣なんだから居るかどうかなんて外からならモロ分かりなんじゃ?
なんとなく気になった俺は先程見つけた抜け道で肉体強化で耳を強化して聞き耳を立てると隣からは物音はせず、ジャフがいないと疑惑を深める。
発動させたまま、考え込んでいると奥から話声を拾う。
どうやら、牢屋番とオバちゃんのようだ。
「困ったね……あの坊や、ジャフがいない事に気付きかけてるようだよ」
牢屋番に「次に聞かれたら、なんて言えばいい」と指示を仰いでいるらしい。
「適当に言っておけばいいんじゃないか? さすがに祭壇に連れて行ったとは言えんだろ?」
おい、祭壇って何の事だ!?
俺は一言も聞き逃さないとばかりに耳の強化に努めた。
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