70話 何から話せばいいやら?
俺達は順々に蛇を見て行き、ルナは「強そうなの!」と言い、それに青い顔をした美紅が頷くという姿が見られた。
どうやら美紅は爬虫類系は苦手気味で小さい分には我慢できるが、あそこまで大きいと嫌悪感が先立つらしい。
ロキは首を鳴らしながら「やれねぇこったねぇーがな?」と面倒そうな感想を漏らした。
当然のようにミントを除けば、あの蛇に見覚えがあるのは俺だけだったらしく、みんなの視線が注目が集まるが俺はダンマリを続けていた。
みんな、特にミントが俺にその辺りの事情を聞きたそうにしていた。
何か状況が好転するのでは? という期待があるからだというのは分かるが話していいか踏ん切りがつかない俺も困っていた。
煮え切らない俺を見て鼻で荒い息を吐いたロキがミントを睨むように見つめる。
「ここにいても埒があかねぇーよ。考えるのが苦手なヤツが考え込むとなげーからな?」
「そう……ですね。とりあえず、私の村にご案内します。もうここから歩いてでも行ける程に近くにありますから」
ロキにそう言われて、焦って良い事はないと判断したミントはまずは俺達に落ち着く時間を与える事を優先したようだ。
誰が考えるのが苦手な馬鹿だって!?
まあ、馬鹿とは言ってないがロキの目は間違いなく言ってるね!
大事な事だったので頭の中で言い返しておいた俺ではあったが、確かにどこまで話していいか悩む時間は欲しかった。
もう既に何も話さないでは済まない失態はやらかしているのは重々承知している。
ルナと美紅に後でこっそりと見た事があるって、言えば面倒事にならずに済んだだろうに……
とほほ……と言いたい気持ちを溜息に変えた俺は蛇がいる地下から外へ出て、再び御者をしてミントの村を目指した。
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「ここが村に滞在する間に利用して頂く村にある唯一の宿屋です。クラウドのようなレベルを要求されると困りますが寝るのと食べるぐらいには困りませんので……それでは私は村長に依頼を受けてくれた冒険者を連れてきたという話をしてきます……」
村に到着した最初に見えた少し大きめの民家の前に案内したミントにそう言われて最後にチラッと俺を見つめた後、「私の名前を告げればタダで泊れます」と告げ、お辞儀をしてこの場を去っていく。
村長に報告が済むまでに話す覚悟を決めておけ、という事ね……
ハァ、と溜息を吐く俺を困った風にルナと美紅が顔を見合わせるがロキは面倒そうに頭を掻くと俺のケツを蹴っ飛ばして宿屋の方にたたら踏ませる。
「入口で棒立ちしてても意味ねぇーだろうが? 少し、腰を落ち着けて休むぞ」
それに対して文句を言おうとする俺のタイミングを読み切ったように蹴り飛ばし続けるロキに押されるようにして宿屋に入った俺達は部屋に案内された。
一応、男と女で別々の部屋を用意されたが今は男部屋に全員が集合していた。
俺はベットに腰掛け頭を抱える目の前のベットにはルナと美紅が座り、ソワソワしている様子からどう聞き出そうと考えているのが見て分かる。
ロキはドアを背凭れにして腕を組んで目を瞑り、黙っている。
3人を見渡すように見た俺は溜息を吐く。
いい加減に話さないとな……
こういう立ち位置になってから小一時間が経過していた。
くそう! 話す相手がルナと美紅だけであれば悩まずにあの場で騒ぐ事ができたんだが……
そう、あの蛇の事は見たのは俺だけであるがルナと美紅には以前にあの蛇の話はしていたのである。
俺が初めてアローラにやってきた場所、つまりルナと初めて出会った場所で遭遇した蛇であった。
ルナには無警戒に話してしまうという今から考えると危ない行動をした結果であったし、美紅は同郷の出でお互いの情報を共有する為にに話す必要があった。
だが、ミント、その村の人間に
「俺、異世界人らしい! 異世界転移してきました、テヘペロ♪」
何てことは言えない。
まあ、こんな馬鹿な言い方したら信用されないだけで済むかもしれないが、人身御供を本気でやらかそうという村人に話をしたらどうなるか分かったモノではない。
最悪、俺が原因で蛇が暴れ出した、と言われかねないしな……あれ? 本当に俺のせいだったりする!?
一瞬、過った思い当たる可能性を被り振って今はその事を考えるのを止める。
もし、俺が原因だとするなら一番有り得そうな理由は……
その先の言葉を俺は胸に仕舞う。
今はその事は考える必要はない。
それよりも、当面の問題はロキである。
なんだかんだ言いながらも面倒見は悪くなく、口は悪い、手も足も出るのが早いという……ただのゴロツキと変わらない気が……
それはともかく1カ月以上、一緒に行動して何かと世話を焼き、俺の指導もしてくれたある程度は信頼を置いてるロキであるが、この話をしてもいいものか、という事に悩んでいた。
突飛な話であるという事もあるが、俺達の正体を知ったこの男がどういう行動に出るか予測不能である。
確かに1カ月以上共にしているが、口が悪く、手癖も悪く、でも強い。後は女好きという、いい加減な性格をしているという事ぐらいしか知らない。
呆れて去ってくれるぐらいであれば、少し寂しいが助かるんだが……
などと思っていると黙って凭れてたロキが目を開くと俺の方に歩いてくる。
ん? と思った瞬間、俺が反応する隙を与えずに顔を大きな手で鷲掴みにしてくる。
「ぎゃあぁぁ!!」
「な、何をいきなりしてるんですかっ!」
ロキが俺を顔を掴む、つまりアイアンクロ―をして持ち上げるのを見たルナと美紅が慌てて立ち上がり、ルナはロキの手を掴んで離そうとするがビクともさせられず、美紅は言葉で抗議する。
それを無視したロキが俺に語りかける。
「トオルよぉ? 俺と楽しくお話しするのか、おっちぬか、選ばしてやるぜぇ?」
「いたたたぁ、待て、お願いだから待ってぇ!!」
痛みにもがく俺もロキの手を外そうと試みるがビクともしない。
うぉぉ! この馬鹿力がぁ!!
俺の痛がり方を見て、ロキを言葉で止めようとしても無駄と判断した美紅もロキの手を解く為に取り掛かるとさすがにロキの眉間に皺がよる。
舌打ちしたロキが俺に言ってくる。
「てめぇが話すか悩んでるのはよぉ、てめぇとルナの偽装した出自の話かぁ? それとも美紅が勇者だという事かぁ? トオルが隠しそうな事はこれぐれぇーだろ?」
そう言われて俺だけでなくルナも美紅も目を見開いてロキを見つめる。
俺達の様子を見て、鼻で笑うようにするロキが続ける。
「何を驚いてるんだ? お前等が普通じゃないのは傍目で見てても分かる。トオルにしろ、ルナにしろ、時折、トンチンカンな常識を口走るしよぉ? 美紅に至っては少し情報通であれば、10年前に召喚された勇者だと分かるからなぁ」
その言葉に露骨に美紅が警戒したように身構えるが鼻で笑う、いや、失笑するようにするロキが嫌そうな顔をして言ってくる。
「別にとって食ったりしねぇーよ。エコ帝国に知らせてやる義理はねぇーし、特にクラウドにいる奴等はエコ帝国を良く思ってないからな」
ロキが「トオルの大好きなオッサンもきっと気付いてるぜぇ?」と言ってくる。
ダンさん……
きっと、俺から話をしてくるのを待ってくれてるような気がする俺は、いつか話を聞いて貰おうと心に秘める。
そんな俺を余所に美紅がロキに問いかける。
「……ロキさんはどうなんですか?」
ロキの挙動を見逃さないとばかりに見つめる美紅に吐き捨てるように言う。
「胸糞ワリィ質問するんじゃねぇーよ!」
うわぁ、本気で嫌そうというか、殺しても足らないとばかりに嫌ってる感じがするな……これは演技じゃない気がする……多分……
俺に向けて言ってないと分かってるのに、ちょっとチビり……チビってないからね? セーフだからねっ!?
誰かに必死に言い訳する俺を見て、舌打ちした後、いつものけだるげなロキの表情に戻り、口許をにやけさせて顔を俺に近づけてくる。
「もう一度聞くぞ? 俺と楽しくお話するか、童貞で死ぬが選べ」
「ロキ様!? どうか僕とお話をしてください! どうかお願いします!!」
そして、俺はロキと楽しいお喋りを開始した……
「なるほどなぁ? まあ、あの場で言っちまった事は不味かったが最後まで言わなかったのは間違った判断じゃなかったと俺も思うぜぇ?」
俺の話を聞き終えたロキの反応は軽いモノであった。
特に俺が異世界人で美紅とは違うルートで来たらしいという件など「へぇー」だけであった。
若干、ルナと出会った時の話では面白そうにはしていたが、それでも大きな反応を示さずにいつも通りである。
「はぁ、徹が見たという蛇があの時の蛇だったの? 私は見てないけど?」
「やっぱりそれでしたか……私が心当たりがあってトオル君が言い難そうにする内容となるとそれぐらいしか思い付きませんでしたから」
俺の見た蛇の話が以前にした蛇と同じだと思うという話を聞いた2人の反応はこうであった。
美紅はいいけど、ルナはそれでは不味くないか? 一応、お前がいた場所の傍にいた蛇だぞ?
軽いルナに呆れて溜息を零す俺にロキが言ってくる。
「まあ、あの姉ちゃんに黙ったままという訳にはいかねぇーだろうな……」
そう言うロキが考え込むようにすると俺達3人を連れて部屋から出る。
いきなり行動に目を白黒させる俺達に
「トオルに嘘を期待できねぇーだろうから俺から上手い事言っておいてやらぁ。これから村長とやらに会ってくるわ」
そう言うとロキはルナと美紅には自分達の部屋に戻るように言い、俺には巻き込まれないように人気のない所で時間を潰しに散歩に出かけるように言うと面倒臭そうに宿を後にした。
俺もルナ達に見送られて俺も宿を後にした。
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しばらく歩くと村の外れに大きな煙が上がってるのに気付いて火事を疑い、駆けよるがすぐに速度を緩める。
「煙は煙でも湯けむりかよ」
苦笑する俺の耳に若い女性の楽しげな黄色い声が飛び込む。
その瞬間、男前な表情をする俺は足音を消して駆けより、木で作られた壁に耳を当てる。
お湯をかけるような音と共に鼻歌を歌うような女性の声を捉える。
「ふぅ、お湯に浸かるのはやっぱり気持ちいいわ」
「本当にね……ところでアンタ、また胸が大きくなってない?」
「キャッ、何するの! 貴方の胸も充分大きいでしょ!?」
男前の顔をする俺の鼻から赤い飛沫が噴き出す。
それを拭おうともしない俺は考える。
この先には何があるんだ!?
キャッ、って何がどうなって発せられてるのか!
知らなければなるまい……!!
生唾を飲み込む俺は辺りをキョロキョロする。
「あっちにベストポジションがある気がする。そう俺のカンが言ってる!」
何故か小声で言う俺は足音を忍ばせて俺のカンが囁く場所へと歩を進めた。
少し歩くと木の壁から岩壁に変わる草むらを見つけた俺は頷く。
「あそこがきっと俺のベストプレイス!」
呼吸が荒くなるのを抑えきれずにそこに近づく俺は木の壁と岩壁の間の草むらに顔を近づけると俺の頬に多分36度ぐらいの温度のものがぶつかる。
思わず、飛び退く俺と同じようにする茶髪のほんの少しだけ、本当にほんの少しだけ俺よりイケメンの少年が驚愕な表情を向けてくる。
同時に指差し合う俺達。
「「覗き魔だなっ!!!」」
お互い叫ぶようなジェスチャーをするが口パクだったのは、きっと偶然である。
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