67話 幼子のような背中
初めてETCも導入したし、100kmほど走って、多分、慣れた(車の長さがだいぶ違うからバックに不安あり)
ETCにしか使えないパーソナルカードの送る準備も完了!
完璧ですな! えっ? 何? 小説?
……あっ……(笑)
前傾姿勢になった徹がカラスとアオツキを携えて炎の翼で羽ばたくようにBランクパーティ目掛けて飛び出す。
「ひぃぃ!!」
急激な変化をみせた徹の様子に尻込みしたリーダーが真っ先に徹の視線から逃れるように走り出す。
それに倣うように目尻に涙を浮かべるメンバーも四方に飛ぶように逃げ出すが怒りで我を失うようにする徹の叫び声に威圧され、一瞬、足を止めてしまう。
「逃がさねぇ!! ダンさんが向かった場所を吐けぇ!!」
両手を大きく開き、炎の翼を萎めていき、Bランクパーティを囲い、一か所に集める。
逃げ場を失ったBランクパーティ達が絶望から涙だけでなく鼻水まで垂らす。
これでもBランクとしての技量も経験を積んできてる5人であったが、今の徹が発するプレッシャーは受けた事がなく、丸裸で未知のモンスターを相手にしてるような恐怖に身を縮まらせていた。
「があぁぁぁ!!」
理性が飛んでしまい、暴走状態への移行が進む徹が衝動のままに動けなくなっているBランクパーティを襲う。
振り被る徹に反撃する事も忘れたBランクパーティは目を瞑ってしまうがぶつかる金属音に気付き、目を開けるとタンクトップ姿の大男の背中が見える。
「てめぇ等、それでもBランクかよ!? 確かに勝てねぇ相手だがよ、勝負捨てるのが早過ぎだろうがっ!」
助けに入ってきたのは本来なら敵のはずのロキであった。
徹の炎の翼に突っ込んできたらしく、薄らと焦げるロキは悪態を吐く。
「クソッタレ、こいつ等が想像以上に使えないから、予定より早く手を出しちまったじゃねぇーか!」
ロキはBランクと徹の勝負は間違いなく徹に軍配が上がると予想はしてたので、競り合いをして隙だらけになった徹を一撃で無力化する事を狙っていたが真正面からやり合うハメになってしまった。
徹のカラスとアオツキを長剣で防ぎがなら背後にいるリーダーにロキが問う。
「おい、お前! トオルに何を言った?」
「えっ、えっ? ああ、ダ、ダンを罠にかけて……」
しどろもどろに言うリーダーの言葉を聞いたロキが眉を寄せて「そう言う事かよ……」と呟く。
徹がロキにルナや美紅の話題以外で話す相手で筆頭なのがダンであったので耳にタコができる勢いで色々聞かされていた。
嬉しそうに語る徹の様子から頼りになる兄貴分であり、恩師のようなモノである事は容易に理解できていた。
生まれたてのヒナが最初に見た相手を親だと思うようにダンにベッタリな所があった徹にそんな事を言えば自明の理である。
「で、本当にヤッたのかよ?」
「やってねぇーよ!! あのガキが受付でダンの事に過剰に反応したから馬鹿にするつもりで嘘吐いただけだぁ!!」
小さいプライドを守るつもりでした事が命の危機に繋がったらしい事を知ったロキは肩から力が抜けそうになる。
こいつらはこのまま死んだほうがいいような気がするロキであるが……
目の前で両刀を押し付け、歯を剥き出しにして唸る徹を見つめて口の端を上げるロキが呟く。
「トオル、人をヤるのは今はまだだぁ。まだ、そのステップじゃねぇーよ?」
力技で徹を弾き飛ばすと徹は空中で一回転して着地する。
唸る徹がロキを敵と判断して先程よりも速く斬りかかってくる。
それを受け止めるロキが笑いながら言う。
「少し予定より早いがよぉ? 今のお前の力を見てやるぜぇ?」
先程と同じように弾き飛ばそうとすると徹は予想外の動きをしてくる。
「なっ!!」
両刀を受け止められた長剣を支点に逆上がりをするようにロキの顎を狙ってくる。
慌てて首を横にして避けるロキの顔の横を通過した徹の足がロキの首を刈るように膝を曲げて引き寄せ始める。
それに気付いたロキが咄嗟に倒立をするように前転して避け、腕の力で弾くようにして両足で空中にいる徹に迎撃を入れるとカラスとアオツキをクロスして防がれる。
唸る徹と再び対峙したロキは嘲笑うような笑みがナリを顰めて真顔になる。
そんな僅かな時間に行われた高度な戦いに悲鳴をBランクパーティが上げるがロキは気にする余裕がなかった。
「おいおい、予想以上とか言うレベルじゃねぇ……どれだけ成長してやがった……いや、飛躍してやっがったんだぁ?」
普段の徹は相手への遠慮か、緩い性格が邪魔してるのか分からないが自分のポテンシャルを活かし切れていない事実にロキは気付く。
しかも、我を失ってる徹が戦術を組みたてられる訳じゃないから、現時点の徹のスペックはここじゃ頂点じゃない事を意味していた。
それに笑みが浮かび上がるロキが自分を落ち着かせるように長剣を持つ右手首を左手で抑える。
「トオル、本気でおめぇは最高だぁ!」
ロキが吼える言葉に反応した徹が飛び出すと縦横無尽に動き、嵐のように斬りかかる。
それに笑みを浮かべたロキが防戦に廻る。
防戦に徹して30秒程経った頃、ロキが違和感を感じて眉を寄せる。
「んっ? なんだぁ、この違和感はぁ?」
ガガッ
ガッガガッ
何かを連続で叩くような音に気付くとそれに合わせたようにロキの腕に振動が伝わり出す。
そして、その答えに行き着いたロキが目を剥き出しにして叫ぶ。
「トオル、テメェ!!」
ロキが見つめる先の徹の手にあるカラスとアオツキがブレるようにして振り下ろされるとロキの長剣に当たった瞬間、1度振り下ろされただけで衝撃が3度伝わる。
「いつの間に『重ね』を!?」
徹に『重ね』を見せたのは1度、そして理屈を教えたのも1度なのは当の本人、ロキが教えた事だから当然知っていた。
教えた直後は泣き事を言っていた徹であったが……
ガッガガガッ
伝わる振動の回数が増えた事にロキは驚く。
「俺が見せたのは3つ……そうか、トオル、おめぇはできるようになってたんじゃなくて『今、できるようになって見せた』んだな!?」
ロキが教えた『重ね』を超えた4つにブレさせる攻撃を放つ徹は嵐のように斬りかかる全てにそれをしてくる。
様子見する為に防戦してたロキであったが本格的に防戦に追い込まれ始める。
徹の成長速度と勘の良さに舌打ちをするロキ。
どんどん斬り込みが激しくなる徹の攻撃にロキの長剣が耐えれなくなり、真っ二つに割れる。
折れた長剣を捨てるロキに更なる攻撃を加えようとした徹であったが何故か後ろに逃げるように飛ぶ。
腕を交差させて頭を守るようにしていたロキがそれを解くと凶悪な笑みを浮かべていた。
自分がどんな顔をしてるか気付いたロキは慌てて口許を隠す。
「あぶねぇ……ツマミ食いしそうになっちまったじゃねぇーか……まだ早い、青いコイツはこれからだからよぉ?」
ロキを警戒するように唸る徹を無視して振り返ると静かになったな、と思ったBランクパーティは2人の気迫のぶつかり合いに気を失っていた。
そんなものは眼中にないとばかりに転がるリーダーの長剣を手に取ると声も出せずに茫然の見守る見物人を無視して美紅の背後にいるシーナに叫ぶ。
「おい、受付のねぇちゃん! ダンのおっさんか、その女を探してこい! トオルの目を覚まさせるにはそれが一番手っ取り早い!」
「はっ……はいぃ!! すぐに呼んできます!!」
茫然と見ていたシーナがロキの声で我に返ると急いで訓練所を後にするように出ていく。
同じように我に返った見物人も巻き添えにあったら堪らないとばかりに悲鳴を上げて逃げ出す。
ミントも逃げようかと悩んだ素振りを見せたが美紅の背後で留まり、ロキと徹を震えながらも見つめ続けた。
長剣を肩に廻りを見渡すロキが口の端を上げながら言ってくる。
「だいぶ見晴らしが良くなったじゃねぇーか? 遠慮なくやれるってもんだ」
唸る徹にロキは挑発するように手招きをする。
「オッサンが来るまで遊んでやるからかかってこいやぁ」
飛び出す徹にロキは叩きつけるように長剣を放つ。
それを受け止めると弾き飛ばされる徹に追撃を入れていくロキ。
数合同じ事をしていると徐々に徹が弾き飛ばされなくなっていく。
それに気付いたロキが嬉しくて堪らないとばかりに叫ぶ。
「この短い時間で俺の攻撃をいなし始めたかよぉ! いいぞ、トオル、これならどうだ!!」
徹から距離を取ったロキが届かない距離から剣を振り下ろすと徹は咄嗟にカラスとアオツキをクロスさせる。
すると、徹は見えないトラックに吹き飛ばされたかのように地面を転がる。
それをニヤニヤと笑みを浮かべるロキが見つめる先で全身傷だらけではあるが立ち上がる徹を見つめる。
「いいぞぉ! いいぞぉ! その気合いが入った目は合格だぁ!」
素人目でもロキに勝てるとは思えない徹の眼光の強さは衰えるどころか強まっていた。
ロキに対峙する徹の全身から血が滴るが気にした素振りを見せずにロキがしたように届かない距離から乱打するように両刀を振り回し始める。
その徹の行動に歯を剥き出しにする笑みを浮かべるロキが激しく前面で長剣を振り回しながら叫ぶ。
「そうだ、トオルぅ! 『重ね』は応用が利く! 使い方次第じゃ剣圧として飛ばす事ができる」
見えない攻撃は気と魔力、肉体強化の派生から生まれた『重ね』を飛ばしていた。
徹の剣圧はロキと比べると貧相な、の一言であるが、1発で足りないなら数で勝負とばかりに乱打していた。
連続で放ち続ける徹に笑みを浮かべるロキが言う。
「初めてでそこまでできたのはエレーぜ? でもなあ?」
嵐のように放ち続けていた徹の動きが徐々に遅くなっていき、突然、膝を着いて止まってしまう。
肩で荒い息をする徹を見下ろすようにするロキが長剣を振り上げる。
「ペース配分を考えないとこうなるのは当然の結果だ……」
振り下ろそうとするロキを止めるように男の声が響き渡る。
「あんちゃん!!!!!!!!」
その大声に徹は緩慢な動きで振り返り、叫んだ男を見つめると濁っていた瞳に理性の光が灯る。
「ダンさん? あれ、ペイさんもいる?」
そう言うとフラつく徹にダンが駆け寄ってくると地面に倒れそうになる徹を受け止める。
ペイも後を追ってきて、ここまで走ってきたのか荒い息を吐きながら心配そうに徹を見つめる。
振り下ろそうとしてた長剣を肩に載せるロキは、訓練所の入口でへたり込むシーナを目指して歩き始める。
ルナと美紅の傍を通る時に徹の面倒を任せるとシーナにサムズアップしながら口の端を上げる。
「ナイスタイミングだったぜぇ、受付のねぇちゃん?」
そう言うとシーナも通り過ぎ、1人、訓練所から出ていく。
1人になり、周りに誰もいなくなると先程、徹に見せた凶悪な笑みを浮かべる。
「やはり、おめぇかもしれねぇ……いや、お前が俺が待ってたヤツだぁ!」
クックク、と肩を揺らして笑うロキは胸を掻き毟るようにタンクトップを握り締める。
「500年、俺が待ち続けた答えを聞かせて貰うぞ、トオル?」
徹がいる方向を見つめるロキが先程の凶悪な笑みを引っ込め、泣きそうな目をする。
「裏切んなよ、トオル……」
その言葉と共に前を向いたロキの背中はとても大男のモノとは思えない程、小さく行き先が分からない幼子のように見えたロキは1人、冒険者ギルドを後にした。
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