66話 逆鱗に触れる
先程まで俺に翻弄されてたのを一矢報いた事で余裕が生まれたのか嘲笑うように膝を着く俺を見下ろす『至る頂点』のリーダーさんが言ってくる。
「雑魚のDランクの分際でAランクになる俺達にケチつける真似しやがって!」
「どうしてAランクに拘る? AとBでは仕事の種類も一緒、勿論、報酬もだ。冒険者ギルドの説明でも、ダンさんからも聞いたが、違いがあるとしたら責任が増えるだけじゃないのか?」
ファイアボールの誘導の方法を考える時間繋ぎのつもりで咄嗟に口から出た言葉ではあったが、一度、口にすると気になりだした。
最初に冒険者ギルドでランクの説明を受けた詳細の中にあった話であったが、シーナさんのオッパイが気になって聞いてなかった俺がダンさんと食事を取りながら説明を受けた事があった。
その時のダンさんが「責任だけ増えて割にあわない称号さ、ペイに頼まれなかったら御免被ってたな?」と肩を竦めていた。
どうせロキも損得勘定からAランクに上がったりしようという考えがないのだろうと予測できる。
そんな事を聞いてくる俺の言葉を煩わしそうに聞いてたリーダーさんであったが、ダンさんの件が出た辺りで顎を摩りながら考える素振りを見せた後、意地の悪い笑みを浮かべた。
「いいぜ? 教えてやるよ」
「それは有難いね?」
乗ってきたと、ほくそ笑みたいのを我慢しながら、必死に誘導方法を考え始める。
「確かにお前が言うように報酬は変わらねぇ。だがな、エコ帝国の近衛騎士になろうとするなら好待遇で雇われる」
「お前等は近衛騎士になりたいのかよ?」
考える時間を増やす為に話を振る。
「さあな? 後々、冒険者がきつくなったら考えるかもしれんが今は考えてねぇーな?」
「はぁ? じゃ、なんで拘る?」
そう聞く俺の言葉を待ってたとばかりに両手を広げるリーダーさんを見つめる俺は、ウンザリした思いが顔に出そうになり必死に抑える。
うわぁ、三流が三流の演技を始めたぞ!
せめて、演技ぐらいは上手くてもいいのに、と憐憫の眼差しを送ってしまうが悦に入っているようで気付かれなかった。
「名誉だよ、名誉」
「はぁ?」
本気で何言ってるんだ? という想いから小馬鹿にする声が漏れてしまうが気にしないリーダーさんが続ける。
「確かに所属する冒険者ギルド内では無意味だ。だが、他国では意味合いが違う。Aランクというのは所属する冒険者ギルドの顔でな、色々、優遇を受けれるんだな、これが」
始めは荒くれ者の名誉なんて欲しいのかよ、と馬鹿にしかけていたが、蓋を開ければ不良の面子と一緒のようだ。
○○高校で番、張ってるモンだけどよぉ? ってか?
そんな化石、見た事いねぇーぞ? あっ、アローラでは胸を張れるほど見てきた訳じゃないけどさ?
これが異世界転移した弊害か……と馬鹿な事を考えてる場合じゃないと被り振る。
結局のところ、小さい虚栄心を満たす為にBランク最強と謳われるロキを排除して名実共にAランクになろうという事らしい。
んっ? ちょっと待てよ?
引っ掛かりを感じた俺は誘導する魔法の事を棚上げにして、その疑問を考え始めてしまう。
俺が難しい顔になったのに気付いたリーダーさんがニヤニヤと笑ってくる。
「代表は少ない方がいいよなぁ?」
「なっ!」
俺は咄嗟に見物人がいる観客席に目を走らせるが捜し人が見つからずに舌打ちする。
ま、まさか……でも、俺がこういう事に巻き込まれてると知ったら、真っ先に駆けて付けてくれる人とその愛する人がいない。
おい、冗談はよせ!
俺の視線の先で最高に楽しいと言いたげなリーダーさんが高笑いをし、メンバーもニヤニヤして見つめる。
「ロキとやれる算段が付かなかったからよぉ、せめて、要らないAランクは消えて貰おうと思ってな? 浚った女を助けにいってヤツは死んでる頃じゃねぇーか?」
リーダーさんの言葉は聞こえているのに意味が理解できない俺は呆けてカラスとアオツキを取り落としそうになる。
慌てて握り締めて、おかしくなったのかと壊れたテレビを直すように自分の頭をカラスの柄で叩いてみる。
あ、痛くないや、やっぱりおかしくなったか、そうか、これは夢なんだ。おかしいと思ったんだよな、Dランクの俺がどうしてBランクパーティを1人で相手にしてるんだろう? って思ってたし……
柄で叩いた場所から流血させながら、乾いた笑いを浮かべる俺を気持ち悪そうに見つめる。
「何、おかしくなってんだ? いつ死んでもいいガラクタだろうが?」
「ガラクタ……?」
虚ろな視線で見つめ返す俺の耳に幻聴が聞こえる。
「どうした、あんちゃん。こんないい天気の真昼間からこんなところで肩を落として? 良ければ俺に話してみないか?」
ああ、俺とルナが途方にくれて噴水の淵で項垂れてる所に声をかけてくれた言葉だ。
俺達に手を差し出してくれてるのに警戒する面倒な奴等なのに嫌な顔せずに根気よく付き合ってくれた。
冒険者になり、初めて人に似たモンスター、ゴブリンを殺してしまってルナに泣き事が言えずに抱えながらへこんでいる俺の泣き事に、
「いいねぇ、若さってのは、永遠はあるよ? という具合に思えるんだからな。あんちゃん、永遠に垂れ流す事なんて無理だ。いつか終わりがくる。その終わりが体力が尽きる時か、吐き出す言葉か分からねぇけど、やってみな? きっと、あんちゃんが求める答えるが出るからよ」
俺の言葉に微笑を浮かべながら相槌をつき続けてくれたダンさん。
ペイさんに頭が上がらなくて頭を掻きながらペコペコ謝るダンさん。
調子に乗って飲み過ぎてるダンさんに手を焼くペイさん。
色んなダンさんが頭でグルグルと廻る。
ボゥとする俺に苛立ちを覚えたリーダーさんが唸る。
「ゴミなオッサン1匹がどうこうしたぐらいで壊れるなよ? お前には舐められた仕返しがたっぷりと……」
「ゴミだと?」
ジッと『至る頂点』のメンバーを見つめると5人は飛ぶように下がると先程、魔法を放ったヤツが短い悲鳴と共にファイアボールを放つ。
動いてない俺に当たらず、後方に飛んで行く。
「ゴミはお前等だろう? ああ、いい。お前等の意見など聞く気なんてない。お前等はダンさんが向かった先を言うだけでいい……」
一歩前に出る俺に三歩下がる『至る頂点』メンバー。
チカチカする視界で見つめる先の男達が人と認識できなくなっていく俺が最後に言う。
「喋ったら、死ね。俺が八つ裂きにしてやる」
その言葉と共に背中から炎の翼が生まれて、再び、背後から襲いかかってきたファイアボールを弾くと共に俺の意識もホワイトアウトした。
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