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高校デビューできずに異世界デビュー  作者: バイブルさん
4章 500年待ち続けた約束
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65話 徹の認識のずれ

 予想より早い車の乗り換えによる出費は痛いでやんす(泣)

 俺達は冒険者ギルド所有の訓練所にやってきた。


 作りは闘技場といった場所で、そこで訓練していた冒険者達をシーナさん達、冒険者ギルド職員達に声をかけられてどかされて観客席で見物人になっていた。


 良く見るとここで訓練してた者以上の人数が集まり出しているのを見て、俺は生唾を飲み込む。



 やべぇ……メッチャ緊張してきたぁ……


 ロキがBランクの『至る頂点』を挑発した事でとんでもない事になってきたぁ!



 頭を抱えたい事態に俺は溜息を零す。


 俺はあの後、さすがにロキの言葉を撤回させようとしたが、ロキに口を手で塞がれてる間に、『至る頂点』はいきり立って先に訓練所に向かってしまい、「ナシでぇ!」と言っても聞いて貰える領域は超えていた。


 後ろを振り返る俺はニヤニヤと俺の窮地を楽しむクソヤロウを睨みつける。


「ロキ! 俺を殺す気か? 俺一人でBランクパーティを相手にできる訳ないだろう!?」

「売り言葉、買い言葉って奴だなぁ……わりぃ。トオルだってよぉ、Aランクのオッサンを馬鹿にされて怒ってただろうが? 丁度いいじゃねぇかよ」


 一応、言葉では謝ってるが形だけなのが、はっきりと分かるロキの胸倉を掴んで揺さぶるが楽しげに笑われる。



 殺してぇ……



 殺意を形にしようと決意しかけた時、訓練所の真ん中で既に待機している『至る頂点』のリーダーが叫ぶ。


「さっさと出てこいや、そこのボンクラ! お前をぶっ殺した後、その大男を殺す予約が立て込んでるだからなぁ!」



 ああ……俺って前菜なのね……


 ロキやルナや美紅と比べて圧倒的に弱いのは自覚してるけど、ああもはっきりと言われるとヘコむな……



 もう避ける事ができない未来にドナド○を歌いたくなる俺は最後の抵抗だと言わんばかりにロキを恨めしそうに睨む。


 俺の睨みなど屁でもないと言わんばかりに鼻で笑うロキは「いってこい」と背を蹴って俺を訓練所の真ん中の方へ歩を進ませる。


 諦めた俺が溜息を吐きながら歩く背にロキが声をかけてくる。


「トオル、しっかり手加減してやるんだせぇ?」

「はぁぁぁ!?」


 思わず、振り返った俺に、さっさと行けとばかりに犬を追い払うように手を振るロキに「アホォ」と捨て台詞を言う感じがルナぽくてダブルで精神的にダメージを受け、肩を落として中央へと歩いて行った。





 肩を落として去る徹を見送ったロキにシーナが話しかける。


「あの、本当に良かったのですか? 冒険者ギルドとして片方に肩入れする事になるので止めれませんでしたが、トールさんが死んでしまうかもしれませんよ?」

「ねぇーよ。むしろ、トオルが手加減ミスして相手を殺す心配をしておくんだなぁ~」


 ロキが迷いもなく言い切るので逆にシーナが絶句する。


 その様子を見ていたミントが難しい顔をして徹の後ろ姿を凝視するルナと美紅に話しかける。


「よろしいですか? あの方に言っても意味がなさそうですが、心配はないのですか?」


 ミントはロキに言っても無駄だと判断して終始黙っているがロキと違って心配してそうな2人、ルナと美紅に止めるように遠回しに伝えようとする。


「心配してるの! 徹が緊張して無駄にかすり傷でも貰ったらどうしよう、とか……勿論、すぐに回復魔法をかけるけど……」

「私はそれ以上にトオル君の心が心配です……急激な変化がトラウマにならなければ良いのですが……」


 予想と180度違う心配をしているルナと美紅に驚くミントの後ろからロキがルナと美紅に呆れた声をかけてくる。


「おめえ等がそんなんだから、アイツは自分ってのを知らねぇんだろうがぁ?」

「――ッ! そうは言いますが……」


 言い返そうとするが理論的に言い返せないと理解する美紅は言葉を詰まらせ、ルナは拗ねるように頬を膨らませる。


 ビックリし過ぎて言葉出てこないシーナとミントが3人を茫然と見つめる。


 そんな2人を無視したロキが前方にいる困った顔をする徹を見つめて口の端を上げる。


「おめえの幸運と不幸は表裏一体。身近にルナと美紅がいた事で自分が弱いと思っちまった事だぁ……よぉーく、今の自分というのを知りやがれ」


 楽しそうに笑うロキから徹に視線を切り替えるシーナとミントはこれから常識を疑う戦いを見せられる。







 訓練所の真ん中に辿りつくと俺を獲物としか見ていない『至る頂点』のメンバーのほくそ笑む姿に項垂れたいのに耐える。


「よくよく考えたら俺達にも渡りの船で助かったぜぇ?」

「ん? どういうことだ?」


 逃げ出したい気持ちと戦う俺に嫌味な笑みを浮かべる『至る頂点』の1人が言う言葉に反応して聞き返す。


 肩を竦めた男が答える。


「このまま何も知らずに死ぬかもしれない身の上のお前には悪いからな教えてやるよ。俺達は近々、Aランク昇格の話が出てるが……」



 げっ、俺が相手にするこいつ等ってAランク目前の強さなのかよ!?



 その男の言葉に相槌を打ったリーダーが繋げる。


「Bランク最強と言われる、お前等と行動を共にするロキを差し置いてAランクになるのか? と揶揄する輩もいてな?」


 それを聞かされた俺は右肩がカクンと落ちる。



 待て待て、道理で簡単にキレてロキの挑発に乗ったと思ったら、こいつ等はロキと正式にやってどんな形でも良いから上だと示したかった、ということじゃねぇーか!!



「とばっちりじゃねぇーかぁ!!」


 頭を抱える俺は振り返るとロキがニヤニヤしているのが目に入る。



 あの野郎! 絶対に気付いてやがったな!



 無事に済んでも俺がロキを殺す、と誓っていると『至る頂点』のリーダーが長剣を構えるとメンバーも倣うようにそれぞれの武器を構える。


「お前には恨みはねぇーから、さっさと気絶しちまいな!」


 身構える前の俺に5人が一斉に襲ってくる。


 慌ててカラスとアオツキに手を添えるが抜くのが間に合わない俺は前傾姿勢になると5人の間を縫うようにして突進する。


 5人の背後に廻り込んだ俺はカラスとアオツキを抜き放つと叫ぶ。


「試合開始の合図もなしで始めるのかよ!?」

「馬鹿野郎、騎士でもないのにどうしてお上品にしなくちゃならねぇんだよ?」


 文句を言う俺に一呼吸も置かずに切り返されて、間違ってるのは俺? と首を傾げていると再び、問答無用に同時に襲ってくる『至る頂点』のメンバー。


 襲ってくるメンバーに驚きつつも見つめる俺が意外にも冷静な事にも驚いていた。



 あれ? なんで、こいつ等、こんな分かり易い動きをしてるんだ?



 そう思う俺は『至る頂点』のメンバー達の間を縫うようにヒラリヒラリと歩くようにして避けて、最初の位置に戻ってくる。



 あっ、分かった。こいつ等、ロキとやり合う余力を残すつもりで手を抜いてるんだな?



 納得はできたが、さすがにこの手抜きで勝てると思われてる事にはショックを覚える俺は心で泣く。


「ちょこまかと動きやがって、おい、お前等、後がつかえてる。全力でいくぞ!」

「おおっ!!」


 怒りから顔を真っ赤にした奴等がタメを作ると一斉に襲ってくる。


 身構えた俺であったが、すぐに「えっ?」という声をあげると先程のように『至る頂点』のメンバーの間を縫うように通り抜ける。



 あれ? さっきと大差ないんだけど……?



「あの~準備運動なら、さっさと終わらせてくれない? 勝つにしろ、負けるにしろ、穏便にさっさと終わらせたいので?」


 困った顔をして『至る頂点』のメンバーにそう言う俺をどす黒くなった顔で血走った目で見つめてくる。



 これってあれだろ? 俺が光明を見つけて喜んだ所で「勝てると思ったか、三下?」とか言ってボコる最悪の展開……ヘコむわぁ。



 言葉なく襲いかかってくる『至る頂点』のメンバーをカラスとアオツキでいなしながら違和感を感じていると大きな隙を見つける。



 あのリーダーさんの背中、ガラ空きじゃねぇ? あらかさま過ぎる罠な気がするけどいつまでも弄ばれるのも嫌だから……渦中に飛び込む!



 決心した俺は廻し蹴りをリーダーさんの背中に放つと綺麗に打ち抜くように入り、地面を滑るように飛ばされていくのを俺と『至る頂点』のメンバーの残りが目で追いかける。



 どうして? 罠じゃなかったのか?



 ここで俺はとんでもない勘違いをしていた事に気付き始める。


 ロキが俺に言った「トオル、しっかり手加減してやるんだせぇ?」という言葉の意味を正しく理解し始めた。



 もしかして、こいつ等って弱いの!?



 自分の考えに自信が持てなく茫然とリーダーさんのプリケツ状態を見つめていた。


 しばらく動かなかったリーダーさんが震える両手を突っぱねて立ち上がり振り返る。


 見物人達が立ち上がったリーダーさん見つめて失笑から爆笑へと変化させた。


 見物人に笑われるリーダーさんは鼻血を垂らし、それを拭って血が流れてるのを見ると叫ぶ。


「ロキをやる前にコイツをぶっ殺す! こいつを生かしておいたら俺達は舐められ続ける!!」


 そう叫ぶとメンバーの1人に目をやり、頷くとメンバーは俺に手を翳して叫ぶ。


「ファイアボール!」

「うぉ!」


 近距離で放たれた魔法を慌てて避けた俺はホッと胸を撫で下ろすと同時にリーダーさんに指を差して叫ぶ。


「魔法はありなのかよ!?」

「何でもありに決まってるだろうがぁ!!」


 あっさり言い返された俺がカラスとアオツキで身構えて、迎え討とうとした瞬間、背中に熱量を感じたと同時に考える前に横に飛ぶ。


「――ッ!! あ、あちぃぃ!!」


 俺が先程までいた場所にファイアボールが着弾して余波の熱波に襲われた俺は思わず膝を着く。


 先程、ファイアボールを撃った男を睨む。


「どうやって誘導した!? お前から放った後に魔力の動きはなかった!」

「教える訳ないだろうが、馬鹿野郎?」


 鼻で笑われた俺は舌打ちをした。






 徹にファイアボールが着弾しそうになった時、ルナと美紅が息を飲み、ロキは呆れるように頭を掻く。


「あの馬鹿野郎、さっさと片付けないから思わぬ攻撃を受けんだよ……とはいえ、さっきの魔法が解せねえなぁ……」


 顎を摩るロキと心配そうなルナと美紅を交互に見つめるシーナとミントがどちらとなくに話しかける。


「トールさんが予想以上に強いのは分かりましたが、万が一もあります。今なら降参する形で止められますよ?」

「私の実力を示して欲しいという願いは叶えられたと考えますので止めて貰っても……」

「別に止める必要はねぇーだろ? この勝負は……!!」


 そうロキが言いかけた時、『至る頂点』のリーダーに何かを言われた徹の様子の激変にロキを始め、ルナと美紅の顔が強張る。


 徹の変化に『至る頂点』のメンバーも気付いたようで飛び退くように離れると先程、魔法を放った男が同じように放ち、徹を通り過ぎた後、同じように不自然な動きをした後、徹の背中に襲いかかる。


 徹の背中に襲いかかるファイアボールが着弾する直前、背中に揺らめきを感じさせ、閃光と共に炎の翼が生まれるとファイアボールを弾き飛ばす。


 生まれた炎の翼が徐々に広がりを見せて訓練所を円周を覆うようにしていくのをロキが鼻の頭に皺を作りながら睨みつける。


「ルナ、回復魔法の準備してろ、美紅はそこのお嬢さん2人が余波で死なないように守ってやれぇ」


 徹を凝視するルナと美紅が静かに頷き、ルナは精神を集中し、美紅はシーナとミントを庇うように盾を翳して陣とる。


「こ、この翼は何なんですか?」

「トールさんの身に何が!?」

「さてねぇ、良く分からねぇが、あの馬鹿共がトオルをキレさせた。ほっとくと死人が出るなぁ、こりゃぁ……」


 声音を震わせて問いかけてくるシーナとミントに面倒臭そうに首をコキコキと鳴らし肩を廻すロキが小声で呟く。


「どうやってアイツを怒らせようかと思っていたがぁよ……怒らせ過ぎだ」


 口の端を上げるロキの頬に一滴の汗が垂れる。


「今のトオルを抑えるのは、ちと骨が折れそうだなぁ、おい?」


 飛び出す一瞬を見逃さないように徹の後ろ姿を静かに凝視し続けた。

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