62話 色々、考えてたんだけどぉ!!
4章スタートです。よろしくお願いします。
襲いかかるビックスパイダーを難なく避け、廻し蹴りを入れる事で仰向けになることで晒される腹をカラスで一突きにして串刺しにする。
見事急所を一撃したせいか、すぐに動きが緩慢になっていき、息絶えるのを確認した俺はやっとのことで安堵の溜息を吐く。
俺の周りには5体のビックスパイダーの死骸が転がっていた。
「及第点といったところかぁ? 数は不満だがよぉ、無傷な事は評価してやるぜぇ?」
「そうなの! 徹、見直したの!」
「ロキさんはああ仰いますが明らかに狩る速度が上がってますよ!」
声がする方向に顔を向ける俺の表情が無である事に本人である俺が理解していた。
そうだね、お礼ぐらいは言ったほうがいいよね?
「うん、有難う」
棒読みで礼を言う俺。
だって、だって、しょうがないんだよ!?
俺が必死に5匹狩ってる間、俺の様子を見る為に余所見しながらルナと美紅も狩って、足下に20匹ずつ転がしてるんだぜ?
礼を言うだけマシだろ? なっ、そう思うよな!?
2人に見えないようにコッソリと涙を拭う俺の肩を叩いてくるロキ。
「まあ、なんだ? あの2人にスペックで勝とうと考えねぇーこった。おめぇは1人で強くなるタイプじゃねぇーよ。まずはその二刀の力を1割でも使いこなす事に専念するんだな?」
そう、ロキが言うように俺はオルデール戦で使えた程の力も引き出せずにいた。
しかし、ロキを始め、ルナ、美紅が持っても只の刃物以上の力は発揮できず、微々たるとはいえ、俺にしか使えない刀であった。
ロキの見立てだとあの時の力ですら半分も引き出せてなく、あの時の実力は100%近くこの二刀によるモノだったと言われた時はさすがに俺は泣いた。
落ち込む俺にニヤけるロキは「落ち込むなよぉ?」と気安く肩に腕を廻してくる。
「地力も付いてきた事だし、そろそろ『重ね』の練習に入るか?」
「おおっ!! ついに教えてくれるのか!?」
急に元気付く俺を現金だな、と小馬鹿にする笑いを浮かべるロキを見つめて拳を握り締める。
そう、出会った時に教えてくれ、と言ってからずっと基礎訓練とロキとの模擬戦ばかりで教えて貰っていなかったのだ!
やっとか、やっと俺にも必殺技がぁ!!
「この『重ね』はいいぜぇ? 何せ、使い勝手もいいが、色んな技の基礎だからな?」
えっ!?
固まる俺を不思議そうに見つめるロキに呟く。
「ひ、必殺技じゃないの……?」
「はぁ? 必殺技なんて有る訳ねぇーだろうが? あるとしたら数ある技の理想的な組み立てから生まれる連続攻撃ぐれぇーだろうが?」
これだから馬鹿は困るとばかりに嘆息するロキから赤面する程に恥ずかしい思いをさせられて目を逸らす。
目を逸らした先にはルナと美紅がヒソヒソと話し合う姿を目撃して俺は思う。
ここから消えたい……
ただ、そう俺は思った。
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ロキに『重ね』を教えるのは明日からだと言われて、言った本人は陽の高いこの時間から、お姉さんがいる酒場に出勤すると言ってこの場を後にした。
えっ? 俺は行かなかったのかって?
当然、徹ちゃんは15歳、そんな破廉恥な場所には付いて行きませんとも!
そう毅然とした態度を示す俺はまるで罪人のように縄でグルグルと腕が動かないように体に巻かれて、犬の散歩をするようにルナに引っ張られていた。
「もう、徹はすぐに本能で動こうとするの! ロキは手遅れだから仕方がないけど、徹はしっかりするの!」
「そうです。トオル君にはああいう場所に縁はありません。ええ、永久に!」
プンプンと怒る2人を霞む視界で見つめる俺は再び思う。
ここから消えたい……
そして、ロキの背を追いかけて高みを目指す!
縄が解けないかな? と身じろぎすると気のせいか余計に動けなくなった気がした俺に美紅が言ってくる。
「言い忘れましたが、無理に解こうとすると余計に身動きができなくなりますので苦しい思いをしたくなければおとなしくされる事をお勧めします」
「美紅! そういう事は早く言おうねっ! それ以前にこんなところまで頑張り過ぎだがら!!」
頑張り屋の美紅は俺が見てない所で学習に余念がなく良い子だが、今回は悪い方に転がってる。
暴れる俺を煩わしげに引っ張るルナがブゥ垂れる。
「おとなしく歩くの! ザウスさんに美紅が無事だと報告に行くの!」
「あの時の騎士団に私の事を心配してくれた方がいるとは思ってもいませんでした……」
ビックスパイダー狩りに来てた場所は、おっさんが住む山だった為、予定より早く終わった事だから挨拶に行こうと俺達は山小屋を目指していた。
まあ、確かに、おっさんに報告した方がいいとは俺も思うが今日じゃなくてもいいと思うんだ?
師弟同士の交流も時には大事だと……
俺の心の闇に気付いたのかルナが強めに紐を引っ張ってくる。
「なんか邪念を感じたの!」
「お前はエスパーか!?」
俺達はじゃれ合いながら、おっさんが住む山小屋を目指して歩いた。
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陽が沈み始め、茜色になる頃、俺達はクラウドの城門を潜っていた。
「結局、待ってたけど、おっさん帰ってこなかったな?」
「しょうないですよ。約束してた訳ではありませんし?」
あれから、数時間、おっさんの家の前で帰りを待っていたが一向に帰ってくる気配がしないので諦めて帰ってきた。
くそうっ! こんな事ならもっと抵抗してロキに付いていけば……
ルナと美紅の瞳が一瞬光った気がした俺は心で
今のはナシでっ!
と、事実を必死にナイナイすると2人の視線が剥がれる。
あぶねぇ、タマ取られるかと思ったぜ……えっ? どっちのタマ? 御想像にお任せする。
そして、ねぐらの『マッチョの集い亭』に到着するとミランダと違って可愛らしい声で出迎えられる。
「「お帰りなさい」」
「ただいま、とりあえず飯で腹が減ってさ?」
俺は出迎えたソックリの顔を並べる少女を通り抜けて、いつもの席に座るとカウンター越しにいるミランダに苦笑される。
「トール……さすがに相手にしてあげたら?」
「ちょ、ちょ、信じられないですけどぉ!!」
憤る双子の姉、ライラが俺の服を何度も引っ張りながらこっちに向かせようと努力するが溜息を一つ吐いて呟く。
「どうしてロキはお姉さんで俺は子供の相手なんだろう……」
「トオル君、女の子に年は関係ありませんよ? 粗末に扱うのは良くありません」
あの事件以降、どうやってミランダと交渉したのか分からないが、ここで給仕を始めた双子は何かと俺に世話を焼いてくれる。
有難い事は有難いが正直な話、報酬を貰うというのは建前で受け取る気がなかった俺にとって返品しづらい方法でお礼されているという流れである。
「お兄さんがお礼を受け取る気がない事などお見通し。だから、お金ではなく体で払う」
「と、徹! 何を要求する気なの!?」
マイラの幼稚な手口の口車ですら簡単に乗るルナが激昂する流れも定番になりつつある。
そろそろ、ルナと美紅の暴走を加速させる双子を排除しようと心に決めかけた時、マイラが俺の耳に口を寄せると呟く。
鬱陶しい事になったら面倒とばかりに離れようとした瞬間に聞こえた言葉で動きを止められた俺の顔は男前になる。
「今度、姉さんが女友達だけで水遊びに出かけるらしい。どこか知りたくない?」
「マイラ、ライラが来てくれてから生活に潤いを感じるな! とりあえず飲み物くれないか? 喉が渇いたよぉ!」
こうやって丸込められるのが俺の日常になりつつある今日この頃であった。
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