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高校デビューできずに異世界デビュー  作者: バイブルさん
3章 頑張る冒険者家業
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57話 夢現の世界で……

 花粉症でお休みしていましたが、ゆっくりと再開していきたいと思いますので、またお付き合いよろしくお願いします。

 地面に突き刺さる両刀の下に辿りついた俺は肩で息をしていた。


 勿論、走った事で息が切れてるという事ではなく、自分の周りを覆う何かを叩きつけるようなオルデールの攻撃と両刀から発する気に挟まれる形になり、プレッシャーを感じている為であった。


 オルデールは俺に体を寄こせ、というイメージを飛ばしてくるし、両刀は、俺に早く手にしろ、言ってきてる気がする。



 おいおい、急かすなよ、順番に相手にしてやるからよ?


 徹ちゃん、モテモテで困っちゃうぜぇ?



 おちゃらけて自分を奮い立たせる俺であったが両刀に手を伸ばす俺の手が震えている。



 はんっ、隠す気はねぇーよ。確かにビビってる……


 でもよぉ、守ると決めた以上はな?



 脳裏に蘇る、顔をパンパンに腫らした五厘刈りの坊主頭の少年に笑いかける。


「約束したからな、俺の命は守る為のモノ、てな!」


 両刀に伸ばす俺の手に強い反発する力を感じる。



 おいおい、ツンデレかよ! そういうのは可愛いツインテールだけにしてくれ!



 俺は圧力に抗いながら、両刀を掴み、握り締めた。





 そんな徹を部屋の隅で気配を完全に殺す大男が見つめていた。


「腕っ節は鍛えればいくらでも強くなれらぁ、だがよ、俺がよぉ、求める力はそんなもんじゃねぇ!」


 頬に一滴の汗を流しながらも負けん気を発揮させ、両刀に手を伸ばす徹の姿を見つめながら獰猛な笑みを浮かべる。


「魂の発露。そこから生み出される力。おめぇの可能性を見せてみろ、トオル」


 口許は嘲笑うようにするが、瞳は何かに縋るような色を見せる大男は徹を見つめ続けた。





 徹が両刀を握り締めた瞬間、オルデールの侵入を防いでいたインプが作る結界が乾いた音と共に破壊される。


 割れたと同時に力の奔流化しているオルデールは徹の中へと侵入を果たす。


 それに激しく痙攣した徹が上空を白目を剥いて見上げ、声なき叫びを上げた。


 オルデールの全てが徹へと向かった事でルナと美紅に影響を及ぼしていた力もなくなり、2人の瞳に理性が戻る。


「さっきのイメージは何だったの!?」

「現実じゃなかった? 良かった……」


 答えのない疑問を抱えるルナと今、見てたのが現実でなくて顔を青くする美紅は胸を撫で下ろすのを見下ろすインプが呆れるように言ってくる。


「自分の疑問、安堵が先かい? あの力に取り憑かれたのだからしょうがない部分はあるけど、君達のように切れ端ではなく、君達を救う為に全てを引き受け、更に両刀の試練も受けるお兄さんが浮かばれないね?」


 インプの言葉で状況を思い出した2人は徹の姿を求めて辺りを見渡すと両刀の柄を握り、天井を見上げて叫ぶような仕草をする徹を見つける。


「徹がオルデールに取り込まれそうになってるの!」

「すぐに助けましょう!」


 駆け寄ろうとする2人の顔の前で薄氷に突っ込んで割れたような感覚に、たたら踏む。


 すぐに犯人に気付いて2人は上空に浮かぶインプを睨みつける。


「何するの!」

「何するの! じゃないよ。誰のせいでこの状況が出来上がってるのだと思ってるの? それに余波だけで取り込まれて、放っておいたらそのまま死んでそうな君達が何が出来るの?」


 インプが小馬鹿にではなく、完全に馬鹿を相手にするように言ってくる視線に思わず黙るルナ。


 美紅はインプの言葉の意味を理解する。


「私達のせいなのですか?」

「そうだよ。僕が契約で奪ったお兄さんのモノを破壊するのがこの試練を開始するキーになってたのさ。それを説明も聞かずに感情的に動いた君達が招いた結果だよ」


 はっきり自覚していれば、切れ端の攻撃に対する備えがあれば耐えれて、どうしたらいいか考える時間があった事を言われた美紅、そして、やっと理解したルナも絶句する。


「いいかい? 君達が下手に動けば、お兄さんの足を引っ張るだけなんだよ。それに僕は感じているんだ」

「……何をなの?」


 眉を寄せて情けない顔をするルナがインプに続きをせがむように聞く。


「誰もなし得なかった事をしてくれそうな予感さ。今回の事も、そして、これからも。おかしいよね? 今回、この神殿跡に入ってきた4人で一番、力がないお兄さんなのに」


 インプ自身も本当におかしいと思ってるようだが、ルナと美紅から視線を切ると楽しげな瞳を徹に向ける。


「今、お兄さんは人であればなかった事にしたい思い出を見せられてるはず。辛い過去は時間が解決してくれる。嘘ではないけど、喉元を通った事だから、その痛みを忘れられるだけで乗り越えた訳じゃない。同じ過去を体験して耐えれる人はそうはいない」


 インプの言葉に美紅は肩を震わせて俯く。


「かといって、心をマヒさせて感情を受け付けないようにしたらオルデールに取り込まれる……」

「私達が徹にしてあげられる事はないの!?」


 半泣きのルナがインプを見上げて叫ぶのを見て、呆れを通り過ぎて感心しかけているインプが言う。


「ないよ。しいて言うなら祈るんだね。お兄さんは既に初代勇者がギブアップした時間を超えているのにも関わらず、オルデールの侵入を許してない。信じてあげたら?」


 切り捨てるように言い放つインプ。


 インプにしても今までにない期待できる人間、徹の存在を見つめ続けたいのに邪魔をする可能性のある2人がおとなしくしてくれない事に苛立っていた。


 出来る事がないらしい事は理解したようだが落ち着きのない2人に嘆息するインプが降参するように両手を上げる。


「お兄さんの動向を見守りたいから契約外ではあるけど、お兄さんの内側で起こってる事を見せてあげるよ。それでも介入できると思うなら好きにするといいよ」


 クレーマーの客を相手にする店員のような顔をしながら指を鳴らすとルナと美紅の前方にスクリーンが生まれ、そこに今の徹より幼い姿が映し出される。


 そこに映し出されたモノを見るルナと美紅は胸を締め付けられるようにして声を上げずに涙を零し始めた。





『ここはどこだ?』


 俺は一瞬、気を失っていたような感覚から目覚めた。


 辺りを見渡すとそこは見覚えがある台所、実家の立石家であった。


 そこで母さんと話す小学生ぐらいの俺が話しているのが見える。


『どういう事だ? しかも、これって……』


 戸惑う俺を余所に見下ろす位置にいる幼き俺と母さんの話が進む。


「そう……お婆様が修学旅行に行ってはいけないって?」

「うん、危ないから行っちゃ駄目だって……でも、みんなは参加するのに僕だけ行けないのは嫌だな……」


 俯く幼い俺の頭を撫でる母さんを見つめて、俺は動揺する。


『これって、あの時の記憶か?』


 体に来る震えに気付いて自分を抱き締めるようにする俺は、その最悪の未来を回避させる為に駆け寄り、幼き俺の肩を掴もうとするがすり抜ける。


 舌打ちする俺。


『くそぉ! 見てるしかできないのかよ!』


 悔しがる俺の目の前では優しげな瞳で見つめる母さんが俺と目線を合わせて言ってくる。


「お婆様に内緒で行っちゃいましょうか? 確かにお婆様の予言のような予知は良く当たるけど、絶対じゃないし、一生の思い出の修学旅行にいけないのは悲しいよね」

「本当? お母さん! ありがとう!!」


 嬉しそうに母さんに抱きつく幼き俺を見つめる俺は下唇を噛み締める。



 どうして、俺はこの時、1回の修学旅行を我慢できなかった? 中学生になれば、少なくとも、みんなでいけるのに……


 ああ、分かってる。過ぎた後だから言える言葉である事は……



 悔しげに見つめる俺の視界が暗転する。


 被り振り、前を見つめ直すと、どこかのパーキングエリアの売店を冷やかすように見て廻る幼き俺が鼻歌を歌っていた。


 それを見つめている俺の背中に氷を放り込まれたような感覚が襲う。


『ここはあの時かっ!!!』


 慌てて辺りを見渡そうとすると少女の甲高い悲鳴が響き渡る。


 それに反応した幼き俺が弾けるように声の方を見つめるとそこには手錠をされたガタイの良い男に掴まえられた同級生の女の子の姿があった。


「くそうぉ!! このまま刑務所に入れられてたまるか! 死刑確定なのによぉ!!」


 そう、偶然、死刑判決を受けた犯罪者を護送中だった車も同じパーキングエリアにやってきていたようで、隙を見つけて逃げ出したようだ。


 逃げ切る為に人質に掴まった少女に食堂の奥から持ち出したのか包丁を片手に警察官を威嚇しながら車を要求する犯人。


 その時、1人で行動していて、咄嗟に隠れた幼き俺がいる場所に近づいてくる犯人の背中を見つめる俺。



 覚えている。


 この時、俺が考えてた事を……


 テレビのヒーローのようにカッコ良く同級生の女の子を助ける自分を夢想していた。不意の一撃で殺せるような攻撃をしない限り、勝つ事もできない子供である事を忘れて。



 飛び出すタイミングを計るようにしてる幼き俺に声を大にして叫ぶ。例え、届かないと分かっていても……


『バカな事をしようとするなっ!!!』


 そんな俺の声は当然届かず、俺の記憶通りにタイミングを計って飛び出す幼き俺。


 完全に不意を打てた事で女の子を掴む手に体当たりして女の子を解放する事に成功する。


 それに喜んだ俺が思わず、足を止める。


『足を止めずにそのまま駆け抜けろ!!』


 俺の声は虚しく響き、記憶通りに死刑囚に胸倉を掴まれる。


「このガキィ、邪魔しやがって、ぶっ殺してやるぅ!!」


 手錠のせいで勢いは付けられない包丁がゆっくりと俺に向かってくる。


 警察官の制止の声、それを上回る野次馬の悲鳴に包まれながら、幼き俺と死刑囚の間に割り込む影に俺と幼き俺が目を見開く。




『「あぁっあああああああああああぁぁぁぁ!!!!!」』




 俺と幼き俺がシンクロしたように腹の底から叫び声を上げた。

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