37話 魔神との戦いの序章……にはならないかもしれない
色々、ペースを乱されぱなしのバイブルです。
重複されてる方はすいません。双子の親が更新されてない事に首を傾げてる方、活動報告を覗いてみてください。
断末魔のような叫びと共に胴体を真っ二つにされたサブレが倒れるのを会心の笑みを浮かべて見つめる俺は、命の危険を生存本能に訴えられるレベルの吐血をした。
「やべぇ、本格的にヤバいかも」
体が冷たくなっていき、霞み視界にルナが泣きじゃくりながら現れ、力なくペタンと女の子座りをするのが見えた。
「徹のあほぉ、バカァ、後先考えなしのエッチ魔王……」
「ルナさんや、俺を罵倒する前にする事あるでしょ? 俺、マジで危篤状態なんですけどぉ、後、エッチ魔王って何だよ! お前に何もしたことないだろう!」
ルナの罵倒を聞かされて、最後の魂の灯を輝かすように叫ぶ。
心外だ! 俺はいつも紳士に振る舞ってるはずなのに……
ただ、俺も男だから、ペイさんとシーナさんのような美人と話す時は目を見つめると照れるから視線が下がるだけなのに!
後、色々、衝動と戦う上で手をワナワナさせるのは若さ所以です!
あ、あかん、本格的に意識が遠くなってきた……
すると、視界が暗転しそうになったと同時に温かい光を感じて意識がはっきりしてくる。
グスグスと鼻を鳴らすルナが両手を翳して俺に回復魔法を行使している姿が見える。
「文句言う前に先にこれだろ? 本気で逝くかと思ったぞ?」
「ふん、徹のバカは一度ぐらい死にかけないと治らないかと思ったの! でも、無駄だったみたいなの!!」
泣いた事で充血した瞳を隠すように閉じたルナは魔法を行使しながらそっぽ向く。鼻の頭が赤くなってるのを見て、良く見えてなかった時にだいぶ泣いたのだろうと理解した。
理解したのはそれだけでなく、泣いて感情的になった女の子に理屈なんて通じないという真理に辿り着いた。
「あんちゃん、1つ男前になったな? そうやって男を上げてくんだぜ?」
見上げる空にダンさんが歯を輝かしながらサムズアップして会心の笑みを浮かべていた。
待って! このパターン、ダンさん死んでるパターンだし、ちゃんと生きてるからね!?
しかも、この空、本当の空じゃないからね!
なんて馬鹿な事を考えられる程度に回復し、お腹の中が焼けるように熱かったのが収まったのを感じた俺は身を起こす。
「待って、徹。まだ癒し切ってない」
「ああ、済まない。だけど、動けるようになったら先にしておかないといけない事があるんだ」
そう言う俺は止めようとするルナの手を優しく押し退けると立ち上がり、真っ二つにされたサブレの下へと向かう。
向かうと息絶え絶えではあるが、まだ息がある姿を見て、そんな気はしてたが本当にそうだと分かり、ウンザリとした顔をしてみせる。
「お前はGよりしぶといのかよ?」
「くっ、してやられましたよ、トール。さすがにここまで体を破壊されたら修復不能ですよ……」
顔が真っ青になり、死相が浮かぶサブレが恨めしさを隠さない顔で俺を睨んでくる。
それに肩を竦める俺は話しかける。
「まあ、俺もよく上手い事いったな、とは思うぜ? でも、勝ちは勝ちだ。お前には答えて欲しい事がいくつかある」
そう言う俺にささやかな抵抗とばかりに答えてやるモノかとするサブレにどう答えさせようかと考えながら言葉を紡ぐ。
サブレの傍に転がる黒い飴玉のようなモノを拾い上げる。
「これは魔神の一部と言ったな? 残りはどれくらい集まってる?」
一瞬、答えるモノかと口を真一文字にしたが、すぐに顔を歪めて嬉しげにする。
「それ以外、全部ですよ。後、それで魔神は復活します。それと魔神の加護を受けているのが私1人だと思っているのですか?」
いるのか、コイツ以外にも……
思わず、俺とルナの表情が固まるのを見たサブレが嬉しげに語る。
「ふっ、私以外に後、3人います。認めるのは癪ですが3人共、私より実力は上の者達。その者達が、競うようにその最後の魔神の欠片を奪いに来るでしょう。貴方の命はそれまでですよ」
まじかぁ、コイツと同等の実力でも頭が人並みであれば勝てるとは思えないのに……
ルナなんか、蒼白になってんぞ?
手にある魔神の欠片が封じ込められた黒い玉を見つめる。
「なあ、ルナ。お前だけしか行けない空間とかないのか?」
「馬鹿なの、徹? そんなのがあったら苦労はないの。せいぜい、次元の狭間に繋げられて入れたら、入れた本人すらどこにあるか分からなくなるゴミを捨てるぐらいしか使えない……」
そう説明するルナは言葉が尻窄みになっていき、俺の手にある黒い玉を凝視する。
俺もまた、見つめた後、サブレを見つめると、妙に笑いを誘う可愛らしい顔をして目をパチパチさせるサブレがいた。
「魔神の加護を持ってると次元の狭間も余裕か?」
「と、当然じゃあーりませんか?」
意外と余裕があるな~と思いつつ、俺はルナを見つめ、声をかける。
「ルナ!」
「了解なの!」
ルナが宙を手を這わせるようにして動かしているの空間に裂け目ができ、ルナが飛び退くのを見たのと同時に、大リーグボール○号を投げる人のようにポーズを決めて、渾身の一球を放つ。
俺の心の炎が宿るかと思える程の一球は見事に裂け目を通って、どこに行ったか分からなくなる。
ふぅ、いい仕事した。
汗を拭うようにした俺は次の質問をすべく後ろを振り向くと白目剥いたサブレが体が塩みたいに変化していき、崩れていくのが見えた。
「ちょ、ちょっと待て! まだ聞きたい事が山盛りなんだぞ!」
「想像以上に精神が脆いヤツだったの……相当、今の手は効果的だったんだな、とは分かったのは安心材料なんだけど……」
慌てる俺の横でルナは、こんなヤツに殺されそうになってたんだと、マジ泣きを始める。
そんなルナを抱き寄せて、頭をナデナデしてやる。
確かに、これはショック過ぎるわっ!!
とは言いたいものの、既に風に運ばれるように消えゆくサブレをどうこうする方法が皆無な状態では諦めるしかない。
「終わった事だ。それより、勇者の女の子を解放する方が先だろ?」
「そうだったの。気持ちを切り替えて行くのっ!」
目元に残った涙を拭うとルナは俺に力強く頷いてくるので頷き返す。
俺とルナは光の柱が見える場所へと歩き始めた。
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「ありゃ、あんまり帰ってくるのがおせぇから、ケツを蹴りにきたら、あの馬鹿、殺されてやがるじゃねぇーか?」
ぼさぼさの長い黒髪を伸びたい放題にしている長身の大男は、やんちゃな大型犬のような笑みを浮かべる。
「しかも最後の魔神の欠片が次元の狭間に投げ込まれちまいやがって……どうすんだ、アレ?」
木の枝の上で座り、たいして困った様子を見せずに頭をボリボリと掻く大男は、去ってく2人、いや、徹を見つめて笑みを深くする。
「トオルと言ったか? アイツはおもしれぇ。明らかに実力だけ見れば勝てる訳ないのに勝ちをもぎ取りやがった」
この大男、サブレと徹の戦いを始めから、ここで観戦していたらしい。
そして、空を見つめるように視線を上げた大男は呟く。
「500年、あっという間だったようで長い日々、ついにアイツの答えを出すヤツが現れたのかもしれねぇーな……」
立ち上がる大男は徹達に背を向けるようにして振り返る。
「だが、今はその可能性が語れねぇほど、よえぇ! どうしたもんかねぇ~」
そう言いながらも楽しくてしょうがないとばかりに犬歯を剥き出しにする大男は木の枝をしならせて反動を利用して上空高く飛び上がる。
「しばらく暇になりそうだから、少し動いてみるか……」
自分の思いつきが最高だと喜ぶように肩を震わせ、笑い声を上げながら、大男は空間を切り裂いて姿を消した。
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