24話 分相応と分不相応
おっさんの家に招待された俺であったが来た早々、俺の寝床にする場所の掃除から始まった。
ルナはおっさんに連れられて他の所に向かった。
近々、馬を買おうとしてるらしく、作っていた馬小屋の地面に転がる廃材をどける所から始まった。
面倒臭いとは思いつつやっていたが、落ち着いて考えれば、使用中の馬小屋じゃなかったことを感謝するべきかもしれない。
人のフンより臭くないとは言うが……
臭いもんは臭いっ!
だが、寝ワラに使ってもいいと言われてる物は、太陽の良い匂いがする。
なんか秘密基地を作ってる気分で楽しくなってきたぁ!
ワラをせっせと運んで、ワラで作ったベットやソファを作ってみたりと無駄にクォリティーを出して作り上げた。
額に浮かぶ汗を腕で拭う。
俺、ここで1週間寝起きできるな。
満足できるクォリティーにでき、浮かれている俺を呼ぶ声がするので声がする方に向かう。
どうやら、家の中から呼ばれたようで中に入っていくと椅子に座ってシュンとしてるルナと困った顔をしたおっさんがいた。
デジャブってるわ
俺に気付いたおっさんが何かを言おうとするが掌を向けて止める。
「いや、いい。だいたいの事は察したから。で、ルナ。なんで真っ白になってんの?」
「その、そのね? お塩を探して、これなの! と思ったの。でも不幸な行き違いから、開けたら、それが小麦粉だったの!」
つまり、塩が見当たらないので探してたら、それぽい袋を発見して開けたら力加減をミスって小麦粉を被った、ということだろう。
「とりあえず、ルナ、外で小麦粉払って座って待ってろ」
俺にそう言われて何か言いたげな顔をしたが、仕方がないと思ったようで肩を落として外へ向かうのを見送った。
「嬢ちゃんには悪い事したかの」
「いや、中途半端の情けは良くない。おっさんが後悔するぞ?」
それほどに酷いのか? と戦々恐々するおっさん。
ザックさんのような人を生むのはもう充分だ。
勿論、後始末が俺に来る流れを断つ為に!
溜息を吐いて、台所に行くと封の空いた小麦粉が入った袋があるが意外と散らばってないところをみるとほとんどルナが受け止める形になったようで掃除は簡単であった。
掃除を終えて、おっさんの下に行くと肉に塩を振りながら生地を練るようにして塩を練り込んでいた。
まだ手を付けてないと思われる肉を持つとおっさんに聞く。
「こっちも塩を練り込んだらいいのか?」
「おお、頼めるか?」
そう言われて隣でやり出すとおっさんが驚いた顔をして「意外に上手いのぉ」と褒めてくる。
俺は昔から器用貧乏って、よく褒められたからな! ……褒められてるよね?
それから残る肉も終えて手を洗っていると外が騒がしい事に気付く。どうやらルナが何やら騒いでいるようだ。
そう思っていると飛び込んできたルナは俺を掴んで揺する。
「徹、誰かが何かに追われてるみたいなの。助けて、という声が近づいて来てるの」
そう口にすると俺を引っ張って外に連れ出す。
外に出ても何も聞こえない事を伝える。
「肉体強化で耳を強化してみるの!」
なるほど、と思うと早速試すと、男、2人の声で助けて、と叫び、何かに追われるように走る音が聞こえる。
それをルナに伝えると驚いた顔をする。
「徹、そんな細かい事まで分かるの? どこから聞こえるか分かる?」
「多分、あっちだ」
俺が指を指すとルナは走り出す。
ルナを追いかけて走ろうとすると、おっさんも走っているのが見えるが鈍足で置いていくか悩む。
「ワシは置いて行け、追いかけていくから」
それに俺は頷いてみせると加速してルナを追いかける。
しばらく走ってるとルナがこちらに目を向けなくなる。どうやら、自分の耳でもいる辺りを捉えたようだ。
俺達は加速する。先程まで助けを求めていた声は聞こえなくなりか細い悲鳴が断続的に聞こえ、走ってる様子も無くなった為であった。
木々を抜けた先で、でっかいクモににじり寄られている少年2人を発見する。
あれは確か、マイケルとボブ? だったか。ビックスパイダー討伐に行くとか言ってたな。あれがそうか!
それはともかく緊急事態だ!
「ルナ、助けるぞっ!」
「うん」
そういうとルナは飛び出し、跳躍する。
背後からクモの腹部に蹴りを入れると仰け反るようにして嫌な鳴き声を響かせる。
確か、ダンさんに聞いた虫型の狙いどころは……首!
正直、ビックスパイダーがどの程度ヤバい相手か分からない以上、できれば一撃で仕留めたい。
駆け寄りながら神経を尖らせ、ビックスパイダーの首付け根に向かう軌跡をイメージして、そこに沿うようにショートソードを差し込む。
すると、軽い手応えがあったと思ったら、ビックスパイダーの頭が地面に転がる。
首が取れたビックスパイダーが激しく暴れるが、突然、電池が切れたように動かなくなる。
どうやら、倒せたようでホッとして俺とルナは木に凭れる。
あっ――! 上手くいって良かった……ダンさんとご飯食べる時に色々聞いていた事が生きた。
やっぱりベテランの言葉に耳を傾けておいて損はないな。
漸く、息を切らしたおっさんが追い付いてきた。
「坊主、無事か……うぉ! コイツはビックスパイダーじゃないか。良く倒せたな。ソロではCランククラスのモンスターだぞ。しかし……ビックスパイダーは冬になるとエサを求めて凶暴になるが、この季節は無闇に襲ってこんはずだが」
そういうと向こうで失禁しながら震えるマイケルとボブに目を向ける。
おっさんは2人を睨むと声を荒げる。
「このクソガキ共、対処もできんのにビックスパイダーの巣を突っついたな!」
ヒッと悲鳴をあげる2人を俺も眺めるが、一度、嘘を吐くとそれを本当にする為に嘘を重ねないといけない。
その駄目なサイクルの縮図を今、目の前で見つめる。
ああ、きっと、あの時、ゴブリンに初めて襲われた時にルナの助けを待つ選択をしたら俺もこいつ等と同じ事をしたのかな、と思うと少し哀しくなってきた。
更に言葉を重ねようとしたおっさんだったが俺は止める。
「もういいよ。助けてしまったけど、冒険者は自己責任。次はこいつ等には俺も何もしないから」
本当にできるかどうかは分からないが手を貸すのは良くないとは思ってたので素直に気持ちを吐露する。
俺がそういうとおっさんは溜息を吐き、ルナは2人に軽蔑の視線を向ける。
溜息を吐いた事で整理してくれたおっさんはビックスパイダーの死骸を見て振り返る。
「まあ、それはいいわい。それよりもビックスパイダーの甲殻は少し良い値で取引されるぞ?」
そういうと頼みもしないのに腰からナイフを取り出すと剥ぎ取りを始めてくれる。
本当にお人好しのおっさんだ。
テキパキと剥がし終えたおっさんが俺の後ろを見て叫ぶ。
「クソガキ共! 討伐部位の頭を持って行くなっ!」
そういうと駆け出そうとするおっさんとルナを止める。
何故、止めるとばかりに2人に見つめられる。
「好きにさせとこう」
「じゃが、ビックスパイダーを討伐したとなれば、Eランクなら一発でDランク昇格だぞ?」
一発で昇格か、飛び級とかそういうのに元の世界で夢を膨らませて胸を躍らせてた時があったな……
そう思い出していると失笑してしまう。
笑う俺を見て、顔を見合わせるおっさんとルナ。
「俺はちゃんと力を付けてランクを上げて行こうと思ってる。そんな一発で上がるとか飛び級とかには興味はないよ」
俺は自分の考えに付き合わせるルナに手を合わせて「ごめん」と謝る。
すると、ルナは何故か嬉しそう笑みを浮かべながら頷いてくれた。
そして、俺達はビックスパイダーの甲殻を持つとおっさんの家へと歩き始める。
家に着くまでずっと黙ったままだったおっさんが家に着くと口を開く。
「もしかしたら、坊主ならワシが見つけられなかった答えを見出してくれるかもな」
「はぁ? 何の話だ?」
振り返った俺の瞳に映るおっさんは、思い出すだけで酷く疲れたような顔をしていたので驚く。
「ワシの情けない話に少しばかり付き合ってくれ」
そして、おっさんの懺悔のような話が始まる。
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