22話 俺を踏み台にした!?
俺とルナは来た道を全力疾走で獣道を駆ける。
死んだ爺ちゃんに言われてた事で再び思い出していた。
それは、イノシシと出会った時に興奮状態じゃないなら、ゆっくりと距離を取って離れるように言われた。
だが、興奮状態なら全力で逃げて高い所に逃げろ、と酔っ払って濁った眼をした爺ちゃんが力説していた。
そこで俺が聞いたんだ。イノシシの興奮状態の時、どんな感じか……
1つ、ぶひぶひ、と鼻息を荒くしている。
2つ、前足で地面を蹴り始める。
そこで先週の番組の最後を思い出してくれ。
ぶひぶひ、言ってたよな? ○
前足で地面蹴ってたよな? ○
完全にアウトであった。
俺はルナに、逃げるぞ、と告げると俺達は一目散に逃げ出した。
並走するように走るルナに叫ぶ。
「おい、イノシシはお任せなの! って言ってたのは誰だよ!」
「ひーん、だって、あんな怖い顔してると思わなかったの~」
後ろをチラッと見ると確かに片目が潰れて、根性の入ってそうな顔をこちらに向けている。
図体も想像以上で牛ぐらいのサイズの巨体だ。
「そんな言い訳は聞かん! お前の右手に宿ったホワイトキャットの紋章は飾りか!?」
「初めから可愛い飾りなのぉ!」
ルナが使えない、判断した俺は次善策を思い出す。
酔っ払って幸せそうに船を漕ぎ始めた爺ちゃんが言っていた。
「徹、イノシシから逃げる時は高い所か、硬いモノを壁にして逃げる事、決してワシのマグナムの事じゃないぞ? せめて、10年前ならな……」
おっと、いらない所まで回想してしまった。
つまり、この山で出来そう事では木に登るか、岩を盾にして逃げ回るかである。
先程、昼飯を食べてた所を思い出すが岩もあったが、簡単に飛び越せそうな小さいモノだし、周りに生えてる木々に登るのが良策であろう。
「ルナ、イノシシをやり過ごす方法は高い所に登るだ。飯を食べた所にあった木に登るぞ!」
「分かったのっ!」
俺達は高い場所、木の上を目指して走り続けた。
藪の切れ目の先に目的地が見えてくる。
「もうちょっとだ、ルナ!」
そう叫んで隣を見るとルナが居らず、後ろに着いてくるような位置で走っている事に気付く。
振り返ろうとした俺にルナが声をかける。
「徹、そのまま走ってなの!」
「お、おう!」
ルナの気迫に飲まれて俺は前を見たまま走り続ける。
後ろから、「いっせーのーで」と何やら不穏なタイミングを取ってるような声がしてくる。
嫌な予感がして振り返るとルナが俺を目掛けてジャンプしていた。
あっ! と驚いた顔をしたルナが俺を駆け上がるようにして最後は顔を踏み抜くようにして跳躍する。
俺を踏み台にしたっ!?
勢いがついていた俺は転がるようにして木に叩きつけられる。
「徹ぅ! ごめんなの、まさか振り向くとは思ってなかったの」
体を摩りながら立ち上がる俺は木の上を見る。四肢でバランスを取るようにして枝の上にいるルナの姿を見つける。
「アホッ! そういうのは一言、声かけてからやれっ!」
「ううっ、ごめんなの……あっ、徹、後ろ、後ろっ!」
ルナの言葉に反応して後ろを見るとイノシシが追い付いて来ていた。
やばっ、せっかく距離を稼いだのに!
俺はルナがいる木から大きく離れないようにして細かい動きをする事でイノシシの突進力を殺しながら逃げる。
「ルナァ!! お前、魔法が使えるんだろうがぁ、そこから援護射撃をしろよっ!」
「あっ……そう、それをするつもりで先に登ろうと思ったの!」
絶対嘘くせえぇ!!
とは言え、本当にできそうな今はルナに託すしかない。
「いいから、さっさとなんとかしてくれ!」
「えーと、こうだったっけ? 『エアーブレット』」
ルナから魔力の波動を感じると何故かその魔力が俺を目掛けてやってくる感覚に襲われてそちらに目を向ける。
言葉、いや、考えるのも後廻しにして身を捻る。
鼻先を掠るようにして見えない風の塊が通り抜けるのが分かる。
再び、走り出した俺はルナに怒鳴る。
「俺を仕留めるつもりかっ!」
「あわわっ、そんなつもりないのっ! 感覚が分からなかっただけ、もうだいぶ掴んだの!」
なんとなくアテにしちゃいけないような気がした俺は自分で打開策を考える事をする。
だが、こうも必死に走ってると頭に酸素が廻らないからか考えが纏まらない。
そうだ、こうなったらチキンレースの真似事をするしかっ!
辺りを見渡すと丁度良さそうな岩を発見する。
徐々に速度を落としていって、イノシシとの距離を縮めていく。
「徹、諦めちゃ駄目!」
ルナから見て、そう見えるようだから、わざとらしくはない様だ。
一生懸命、イノシシに狙いをつけてエアーブレットを放つが掠らせる事はあるが直撃は一度も出せてない。
ルナの魔法によるダメージはたいした事はないが、それが原因で興奮状態に陥ってるようで、凄い鼻息が伝わる。
生温かい……
すこぶる不快な状態を我慢して岩を目指して走り続ける。
そんな行動する俺を見たルナが叫ぶ。
「正面に岩があるの、避けて、徹っ!」
ああ、知ってる。それが俺の狙いだからな!
岩が眼前に近づいてくるのを見て、限界を見定める。
「今だっ!」
そういうと横飛びをして岩から逃げる。
飛んでる状態からイノシシを見ると反応しようとしてるのを見て、目を剥きだす。
見切りが早かったか!
悔しさから舌打ちをしかける俺の視界で方向転換、俺がいる方向へ来ようとしてたイノシシが急に勢いのままに元々の進行方向に前転して岩に叩きつけられる。
叩きつけられた岩が砕けて下敷きにされるイノシシ。
何が起こったんだ?
そう思った俺だが、正直、良く見てた訳じゃないから状況がさっぱりだったが木に登ってたルナが降りてきて説明してくれる。
「運が良かったの。徹に付いて行こうとしたイノシシがあの木の根っこに足を引っ掛けて転がって岩に激突したの」
ルナが指差す先の木の根っこが折れていた。
どうやら、本気で運が良かったようだ。
見切りを誤った俺であったが、運が味方して狙い通りにイノシシを岩にぶつける事に成功した。
安堵の溜息を突きながら、イノシシの下へと向かうとイノシシに息がある事に気付く。
「なんちゅう奴だ。まだ息があるとは思ってなかった」
弱ってる相手にトドメを刺すのは少々気が引けなくもないが、次も同じ方法が取れるとは思えない俺は、腰にあるナイフを抜く。
迷いを捨てて、喉元を切り裂く。
激しく血が噴き出し、痙攣をし始めるが段々緩慢になると動かなくなる。
やっと仕留め終えたを実感した俺は地面にペタリと腰を落ち着ける。
近寄ってきたルナは土と汗で大変な事になっている俺に手拭を渡してくれる。
「顔が酷い事になってるの」
有難く、手拭で顔を拭ってると藪がガサガサと動くのに気付いて、そちらに2人して目を向ける。
「まだイノシシが近くにいたのか?」
もう来ると分かってたら逃げる気がない俺はショートソードを抜いて構える。
「今度こそ、私の拳をお見舞いしてやるのっ!」
名誉挽回とばかりに拳を握るルナも身構えて藪を睨む。
藪からノッソリと姿を現したモノを見た瞬間、俺達は競うようにうつ伏せで地面に倒れた。
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