21話 アン畜生とフォーリン…… ◇
ルナと目的地の山に向かう為に通い慣れた道を歩いていた。
いつもなら正面に見える林でゴブリンとウサギ狩りをしているところだが、今日はその林を抜けた先の山に用があるので通り抜けていた。
「むっふん、徹、今日は私の気合いは満点なの! イノシシなんか私にお任せなの!!」
シャドーボクシングをするルナは嬉しそうにこちらを見つめる。
やたらと嬉しそうに指抜きグローブを弄るルナを俺は呆れた顔で見つめる。
ルナの幸せってやっすぅ!
たかが、子供が書いたようなネコの刺繍一つでこれほど喜ぶとは……
これだけでは分からないよな?
昨日、歯ブラシを買いに行く前に替えの服とルナの指抜きグローブを買いに行った時の話である。
ルナの指抜きグローブは、装飾というよりは実用品に近いモノだ。何せ、近接の格闘をするから拳は保護しなくてはならない。
だから、見に行った当初はルナは丈夫そうなのを買おうとしてたようで、引っ張ったり触り心地を調べる事に神経を尖らせていた。
俺は服は汚れが目立たないという理由付けで黒一択だったのですぐに決まり、他の物を見て暇潰しをしていると面白いモノを見つけてルナの下へと持って行った。
「ルナ、これ見てみろよ。こんな子供が書いたような絵のような刺繍が入った指抜きグローブがあったぞ!」
ルナと一緒に笑おうとして見せると目を見開いたと思ったら神速の動きで俺から指抜きグローブを奪った。
虚を突かれた俺は、「へっ?」と声をあげる。
ルナが何かを呟いた様な気がしたので耳に手を充てて、「なんて言ったんだ?」と聞き返す。
「これにするのっ!」
声を大にして主張してくる。
ルナが大事に抱える指抜きグローブは、刺繍もイマイチだが、生地も前に使ってた物よりも質が悪いものであった。
だから、俺は勿論、思い留まらせようとした。
「いや、その指抜きグローブは、すぐに駄目になるぞ?」
そう言って手を差し出すと包丁を使う時のネコの手をすると俺の手を弾く。
更にルナに呼び掛けようとすると指抜きグローブを抱え込み、フゥ――! と威嚇してくる。
あっ、あかん、子猫を守る母猫化してやがる!
結局、頑張って説得したがルナは頑として譲らなかったので渋々、お買い上げという事になった。
だから、ルナは今、右手の甲にホワイトキャットの紋章を宿した状態らしい。
もしかしたら、このアローラには『キャラコ(三毛猫)』、『バイカラー(ブチ猫)』などの紋章を持つルナと切磋琢磨するライバルが現れるのかもしれないと馬鹿な事を考えてたりする俺がいた。
本当に現れたら突っ込み切れなさそうだから想像するのは止めよう……
鼻歌を歌っていたルナであったが、林を抜けた辺りで今、気付いたという顔をして俺に聞いてくる。
「イノシシを倒すのは私にお任せだけど、見つけるアテはあるの?」
「うーん、聞いてる話だとイノシシが俺の世界のイノシシの見た目が似てるから習性も同じであればアテはあるかな?」
爺ちゃんが、昔、農業をしてたらしく、イノシシ駆除に奔走した時期があったそうだ。
その時の武勇伝を酒を飲んで酔っ払うと毎回のように聞かされた内容では、イノシシは藪を好むらしい。
なので、その藪の中でも通り道を作るらしく、草を踏み分けてできる獣道があるらしい。
そして、ある時期になると巣を作るらしく、そのどちらかを押さえれば遭遇するのも難しくないのではないかと思っていた。
この事をルナに説明すると、ルナはノープランで、習性などさっぱり知らないようで駄目元で俺の案に乗る事を伝えてきた。
そして、山の麓に着いた俺達は、登る前に外観で藪が多そうなところを当たりをつけていた場所を目指して登り始める。
登り始めて1時間も経ってない頃、眺めていた時に目につけていた場所に到着すると立派? な藪に囲まれた場所を発見する。
俺達は二手に分かれて獣道の入口を捜し始める。
捜し始めて5分ほどで俺を呼ぶ声がしたのでそちらに向かうとルナが獣道を見つけていた。
「見つけたの!」
「お手柄だな、ルナ」
褒められて気を良くしたルナは、突撃と言わんばかりにすぐに行こうとするが、俺は様子見も兼ねて離れた所から獣道にイノシシが通るか確認しようと提案する。
「ついでに少し早いけど昼飯にしないか?」
「賛成なのっ!」
俺達は獣道の入口が良く見える岩陰に移動すると、天気が良いのでピクニック気分でサンドイッチを美味しく食べ始めた。
食べ終えた俺達は、食事休憩も挟む形で見守ったがそこを利用するイノシシは勿論、他の動物も現れなかった。
「うーん、やっぱり、元の世界と習性が違うのかな?」
「でも、徹が言うように藪に獣道が出来てるんだから、そう見当外れという事じゃないの」
完全に違うとも言えない状況なので唸っている俺にルナが言う。
「とりあえず、獣道の先に行ってみるの」
「そうだな、行ってみようか」
俺とルナは獣道を辿る事に決まり、獣道を歩き始めた。
獣道の周りの藪の背が高く、俺達の身長より高い。
その為、俺達の視界は前後しか見る事が出来ない状態であった。
「藪の癖に塀みたいに立派だな……」
そう呟く俺を見て、ルナはクスッと笑う。
道なりに歩いて左に歩いていくと拓けた正面に茶色のでっかいモノが俺達を見つめていた。
こんにちは、してしまった俺達は、突然の事で驚いて固まってしまう。
どうやら、先方も俺達と同じ心境なのか動きを見せない。
こういう時こそ、友好を示す為に行動する時だと胸を張る。
「やぁ? 初めまして」
俺の友好度100%の笑顔を無視して相手は前足で地面を蹴りながら、ぶひぶひ、と興奮気味に声を洩らす。
「おっふぅ」
その様子を見た、俺とルナはコメカミから顎へと伝う嫌な汗が流れた。
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