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高校デビューできずに異世界デビュー  作者: バイブルさん
1章 四苦八苦する異世界生活 1-2
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19話 わらしべ長者

「あのお客さん?」


 凄く困った声で俺に声をかけるお店のおっちゃんがコメカミから頬に汗を流す。


 俺は今、とても大きな問題に直面していた。


 ちなみに今いるのは雑貨屋だ。


 俺とルナは、事前にミランダの情報で安い古着屋の場所を聞いていたので、先に買いに行った。


 俺は着ている服に似た黒で統一した格好に落ち着いた。若干、ジーパンと違い、頼りない感じもするがそこは我慢である。


 ルナもまた、似たような格好の服をチョイスし、指抜きグローブも見つけたようで満足そうだった。


 え? 指抜きグローブを俺は買わなかったのかって?



 めっさ欲しかったけど、勿体無いから我慢したさ、泣いたりしてないって言ってるだろっ!!


 ごめん、熱くなり過ぎた。本当はちょっとだけ泣いたかもしれない。



 話が逸れた。


 俺は両手に歯ブラシを一本ずつ手に取り、見比べて唸り声を上げ出して、どれくらい時間が経っただろうか……


「あの~お客さん? そろそろ決めてくれませんか? 1時間もそこで唸られてると客が寄りつかないんで」


 そうそう、それぐらいの時間だったはず。


 ほとほと困った感じで言われる俺はおっちゃんの鼻と鼻がぶつかるぐらいまで近寄る。


「難しいんだ。銅貨10枚の歯ブラシか、銅貨20枚の歯ブラシのどっちがいいか、分からないんだ! ああ、勿論、20枚のほうが毛先が良い感じなのは分かるだが、これ1本で10枚のが2本買える……本当に2本分の価値があるのだろうか!?」


 俺はどっかの詩人のように、10枚にするべきか、20枚にするべきか、それが問題だ、と悦に入りそうになった時、男同士で鼻をぶつけ合うのは嫌だったらしいおっちゃんが動く。


「じゃ、20枚のを15枚にマケてやるから、試しに買ってみればどうだ?」

「いいのか……? おっちゃんは神様か?」


 肩を竦めて溜息を吐くおっちゃんが頷くのを見た俺は喜んで、支払いをする為にテーブルの上に20枚の歯ブラシを置く。



 このおっちゃん、いいおっちゃん!



 そう喜ぶ俺の目の前にそっと置かれるルナが選んだ歯ブラシ。


 歯ブラシをジッと見つめる俺はそっとルナの歯ブラシを手に持つ。


 ルナを見るとあたふたして、必死に言葉を捜すように、あの~その~と繰り返してる姿を見ながら歯ブラシを突き返す。


「徹、待って欲しいの! 確かに銅貨30枚は高い、そう私も高いと思うの! でも考えて欲しいの。毛先が良いのも大事だけど、持った時のフィット感、これも大きなファクターだと思うの!」


 俺が突き返そうとする歯ブラシの柄のグリップ部分がどうとか、熱弁するルナを半眼で見つめる俺は小さな声でルナに聞こえないように呟く。


「つまり、同じタイプの柄にウサギの掘り込みがされてる以外の物でもいいんだな?」

「何を言ってるの! それが一番大事なのっ!!」


 余りの必死さにさすがの俺も引き気味になってしまう。というより、良く聞こえたなと思う。


 ルナがこのウサギがいかに可愛いか、と俺に熱弁を奮って良い汗掻いたとばかりに腕で額の汗を拭う。


 それを見て、俺はうんうん、と頷くと笑顔で伝える。


「駄目、返してこい」

「嫌なのっ! このウサギさんと私はお友達なのっ!」


 その歯ブラシを抱えて、エーン、エーンと泣き始めるが、無駄遣いは許さない俺はガンとして頑張った。




 それから30分後、俺と笑顔のルナは雑貨屋を後にする。


 あの後もずっと泣き続けたルナに、根負けしたおっちゃんが、ルナの歯ブラシを銅貨20枚にマケてやるから買ってやれ、と説得されてウサギさんの彫刻入りの歯ブラシを購入した。


 ウサギさんを見つめてご満悦のルナを見て思う。



 おっちゃん、やっぱり良い人!



 次も雑貨屋に用ができたら、ここに最初に来よう。


 そう思って『マッチョの集い亭』と帰って行く。


 だが、雑貨屋のおっちゃんが徹の来店を待ってるかどうかは別問題であった。





 『マッチョの集い亭』に戻ってきた俺は、店の前で倒れてる人に気付き、駆け寄る。


「大丈夫ですか?」


 抱き起こそうとすると気付いたようで自分で起き上がり、地面に座る。


 ドロドロに汚れて破れも目立つが、元は真っ白だったと思わせるスーツぽいのを着た黒髪の青年が、虚勢を張るように笑みを浮かべて、髪を掻き上げる。


「やめたまえ、貧乏が……うっううぅ……」


 そう言って俺の手を払いのけようとした青年を見て、どこかで見覚えが、と思っているとドスンという音と共にデブ鳥こと、カトリーヌと頭に装備されているメイドのメルさんを目撃する。

 それを見て、やっと答えに行き着く。



 ああっ!! この人、知ってるぅ!!!



「ス、スワンさんですよね? 何があったんですか? 追い剥ぎにでも遭いましたか?」


 あのスーパーお金持ちと騒いでた人がこんな所でズタボロで倒れてて、ビックリし過ぎて色々、状況が追い付かない。


 ズタボロで様にならないはずなのに、ふらつきながら、変な木を杖にするようにして立ち上がり、髪を掻き上げる姿が様になっていた。


 必要以上に物悲しさも伝わったが……


「ふんっ、貿易に失敗してね」


 話を聞くと未開拓の貿易ルートを利用して一攫千金を狙って、全額投資だけではなく、色んなところからお金を借りたそうだ。

 不幸にも出航して1日の距離で局地的な嵐に遭い、難破してるところに世界的に有名な海賊に襲われて積み荷を根こそぎやられたらしい。


 グランド○インを渡る準備費用にすると高笑いしてたらしい。



 あっ、この世界にワン○ースあるの?



 それで借金返済に私財を全て吐き出すことで、なんとか借金は完済したらしい。


 俺は思い出してポケットから金貨を取り出す。


「あの時、俺に間違って渡した金貨です。お返ししますよ」


 そう言って差し出すと震える右手で受け取ろうとするが自分の左手で右手を押さえて止める。


「言ったはずだっ! それはチップだと。それを返して貰うほど、僕は落ちぶれてないよっ!」


 未練を押し殺して耐えるスワンさん。



 かっけえぇ!!



 確かに頭の良い行動ではないが、一本筋の通った男であった。


「私は自分の力できっと返り咲いてみせる!」

「その意気です、旦那様。お食事を用意しました」


 いつの間にカトリーヌから降りたか気付かなかったメルさんが、スワンさんにロールパン1個を差し出す。


 あっ、カトリーヌの上にはメルさんに替わってルナがご満悦な顔して乗ってやがる!


「おお、お金もないのに食事を出せるメル。お前は最高のメイドだ!」

「勿論です。私はできるメイドです。さあ、お食べになられて、私の幸せの為にお金を稼いできてください」


 任せろっ! と元気を取り戻しながらロールパンを咀嚼する。



 あれ? スワンさんはボロボロで顔色もちょっと悪い感じなのに、メルさんはどうして小奇麗で肌ツヤがいいんだ?



「では、行ってくる!」


 ロールパンを食べ終えたスワンさんは変な形の木の杖をついて、ふらつきながら、この場から離れようとする。


「お爺様、あの人が持ってる木が欲しいです!」

「あの変わった形をした木かね? うんうん、分かった、ちょっと待つんだよ」


 孫を連れた身なりの良い老人がスワンさんに近寄って行く。


「もし、そこの方。その木を私の杖と交換して貰えませんか?」

「この木か? まあ、その杖ならいいだろう」


 無駄に偉そうなスワンさんは木を立派な杖と交換する。


 老人と孫を見送ると今度はお腹がだいぶ出た商人風の人に声をかけられる。


「ああっ! その杖はペンペン作ではありませんか? 少し見させてください」


 その勢いに押されたスワンさんが手渡すと鼻息を荒くした商人が頼み込む。


「どうか、この杖をこの金時計と交換してくれませんか?」



 まじかぁ~、この話どっかで聞いた覚えあるわぁ



 それを見守ってた俺は、少し動き始めただけで木の杖が、有名な誰かの立派な杖と交換して、その杖と立派な金時計と交換……うわっ、今度は金時計と卵ぐらいの大きさの宝石と交換の交渉に入ってる!



 スワンさん、神に愛されてるな……



「カトリーヌ」


 そう呼ぶメルさんに気付くとカトリーヌが屈むようにしてクチバシを使って、銀色に光る小さいモノをメルさんに渡す。


 受け取ると、トテトテと走りながら『マッチョの集い亭』に入って行く。


 それを俺とルナが追いかけるとカウンターに座ってるメルさんがミランダに声をかける。


「ミランダ、ディナーセット1人前」


 銀貨を掲げながら注文するメイドことメルさんがいた。



 オイ、主人より良いモノを食べていいのかよっ!

 道理で肌ツヤいいと思ったわっ!



 色々、突っ込みどころが多過ぎて突っ込めなくなった俺は、


「俺等も飯にしようか?」

「うんっ、ご飯!」


 嬉しそうにするルナとメルさんに嘆息しながら、俺達もメルさんの隣で夕食を出して貰って食べる事にした。

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