18話 ゴブリンハンター
お待たせしました。高校デビューリメイクの更新を再開させて頂きます。
書き溜め期間が長いので、亀更新が続くとは思いますが呆れずお付き合いして頂けると嬉しく思います。
「徹っ、そっちに行ったの!」
「おうっ!」
ルナの手から漏れたゴブリンが俺に向かって剣を振り被ってくる。
たまたまのタイミングが被っただけだが、突進してきた突撃ウサギの頭を空いてる左手で鷲掴みにする。
突進した力を殺さないようにして、襲い来るゴブリンに投げつける。
投げつけられたウサギがゴブリンの鼻っ面を頭突きする形になり、鼻血を拭き出す。
生まれた怯みを見逃さず、詰め寄り、ゴブリンの胸をショートソードで一突きする。
狙い違わず、心臓を一突きした俺は蹴るようにして、ゴブリンを吹き飛ばす。
地面で目を廻している突撃ウサギの喉元を切り裂いてトドメを刺す。
ルナがゴブリンをワンパンで倒すのを見て、辺りを見渡すが、ゴブリンも突撃ウサギも見当たらない。
「こっちも終わったの!」
そう言ってくるルナに頷いて見せ、空を見上げると、そろそろお昼だと判断した俺はルナに伝える。
「ゴブリンの耳の剥ぎ取りと突撃ウサギを集め終わったら、昼飯食って、今日は上がろう。充分だろ?」
俺の提案に「賛成っ!」と両手を上げて喜ぶルナは、早速とばかりに目の前のゴブリンの剥ぎ取りから始める。
相当、腹が減ってきてるんだろう、と思うが勿論、口にして機嫌を損ねるほど馬鹿ではない。
もうルナと一緒に行動をするようになって1週間が過ぎていた。
初めて、ここでゴブリンと戦った時の事を思い出しながら、突撃ウサギの血抜きを始めた。
あの醜態を晒してから、俺は必死に肉体強化を使いこなす為に突撃ウサギとゴブリンを相手に戦い続けた。
初日は忌避からか、殺し合いをする恐怖からか、軽く吐きそうになる場面もあったが、耐える事ができた。
ルナが一緒に居た事で心強い事もあるが、何より、男としての矜持が俺にやせ我慢をさせてくれた。
戦いたくない、殺したくない、と泣き事を言う事は可能だ。だけど、元の世界に帰ろうと思うなら、こういう荒事に慣れる必要がある。
ザックさんの所で仕事させて貰えてるだけでも、生きていく事は可能だろうが、帰るのは絶望的であろう。
戦うのは嫌、でも帰りたい! と言ってルナにオンブにダッコはもっと御免被る!
ルナが了承しようが俺が納得できない。
自分の掌を見つめる。
あの時のように手を震わせてはいない。
握る拳にも力がちゃんと入ってる。
先程の戦いでも実感として、肉体強化も制御できてると自信が持てるところまで手応えがあった。
そろそろ、次の段階に行ってもいいのかもしれない、と俺は拳を握る。
血抜きが済んだ突撃ウサギを紐で縛っているとルナが呼ぶ。
「ゴブリンの剥ぎ取り済んだの」
「こっちも終わる。街道に出てから飯にしようぜ?」
そう言ってる間に突撃ウサギを縛り終えた俺は立ち上がる。
俺達は今回の収穫に満足して楽しげに笑いながら街道で昼飯を済ませるとクラウドの冒険者ギルドへ向かった。
▼
冒険者ギルドに到着して扉を開くと軽薄な声で出迎えられる。
「おっ? ゴブリンハンターのトール様じゃないですか?」
「本当だ、今日は子供でも倒せるのを何匹倒してきたんだ?」
そちらに目を向けなくても、誰かは分かっていたので溜息だけ零す。
年頃は俺と変わらない少年の2人組の冒険者で、生意気盛りのガキだ。こないだの醜態を晒す前の俺はきっとあれと大差なかったんだろうな、と思える。
冒険者になって1カ月らしく、1週間ほど前に武器を揃えて、ゴブリン狩りに出かけたら不運にも放浪オオカミに出くわしたらしい。
放浪オオカミ、名前通りで定住しないオオカミで、凶暴で有名らしい。
とてもじゃないが、駆け出しが相手に出来ない。
だが、他の人が言うには彼らは運が味方したらしい。その放浪オオカミは寿命を迎えようとしてたようで、子犬と戦うレベルであったと素材買い取りカウンターのペイさんも言っていた。
運も実力の内だとは思うが、これに調子に乗った2人は無茶な依頼を受けては逃げ帰ってきてるようだ。
それで学習するのなら、問題はないのだが、学んだ様子は見られない。
「なあなあ、ルナちゃん、俺達と一緒に依頼受けない? 俺達、ビックスパイダー駆除を受けるんだ?」
「そんなカス男と一緒に居てもしょうがないだろ?」
まあ、結局のところ、ルナに気があるらしく、一緒に居る俺が気に食わないという流れらしい。
相手を蹴落とすやり方で優位に立とうというのは、間違いなく、ルナにマイナスイメージしか抱かさない。
「お断りなの」
あっさりとルナは断りを入れる。
嫌悪感も滲ませずに壁のポスターを見つめて考えてる事を口にするように答える。
最初の頃は、ネコ化するのか、と思えるほど怒りながら嫌悪感を出していたが、どうやら相手にするのも馬鹿らしいという結論に落ち着いたようである。
やだやだ、アイツ等と同レベルの時期があったというのナシ!
さすがにあそこまで酷くなかったはず!
俺も相手にするのが……関わり合いになるのが恥ずかしいと思い始めて、スタスタと買い取りカウンターの方に歩くルナに着いていこうとする。
すると、苛立った少年達が叫ぶ。
「トール! 調子に乗んなよっ!」
「ルナちゃんはお前が情けないから一緒に居てくれてるだけだぞっ!」
それに反応を返さずに歩き続ける俺に舌打ちすると冒険者ギルドから出ていく。
正直、俺も相手にするのに疲れた……
来る度に言ってくるし、言い回しにレパートリーがなくて聞いてる方が苦痛である。
勿論、退屈という意味で。
俺とルナが買い取りカウンターにやってくると、ペイさんが苦笑していた。
「彼らも毎度、毎度、大変ねぇ。あそこまで行くと突き抜けてて怒る気も起きなくなってくるわ」
同時に相手にする気も起きないのだけど、とお茶目に笑うペイさん。
俺達も被害者と言ってもいいのだろうが、他の人から見れば当事者と見られても仕方ないので、ペイさんの言葉を同意したいができずに曖昧に笑う。
俺達の心情を察してくれたペイさんは苦笑しながら、ゴブリンの耳と突撃ウサギを査定する為に受け取ってくれる。
査定してるペイさんが感心した顔をして呟く。
「トール君、だいぶ慣れてきたみたいね。無駄な切り傷がなく、一刀で仕留めてるね」
「それはもう、この5日でだいぶ数をこなしましたから」
俺とルナで3ケタぐらい狩ってたと思われる。
ペイさんは満足そうに頷くと銀貨や銅貨をトレ―に入れると俺達に出し出す。
「ゴブリンの耳が15個で銀貨1枚と銅貨50枚。突撃ウサギの査定はマイナス査定なし、10羽いるから銀貨1枚。合わせて銀貨2枚と銅貨50枚ね」
確かめてね? と言われた俺はしっかりと数えて、ちゃんとある事を告げる。
ルナと笑みを交わし合い、順調である事を喜び合う。
それを微笑ましそうに見つめてたペイさんだったが、何かを思い出したかのように掌を合わせる。
「そうだ、トール君とルナちゃん。明日は違う依頼受けてみない?」
「どんな依頼ですか?」
ルナもペイさんが何を言うのだろうと興味津々である。
「2人が狩場にしてる林を抜けた先に山があるでしょ? あそこに生息しているイノシシを狩ってきてくれないかしら? 丁度、在庫が切れてるの」
丁度、何か違う依頼を受けようと考えてた事もあるし、ペイさんが無茶な依頼を勧めるとも思わなかった俺達は快く受ける事にした。
「良かった、トール君達ならきっとそう言ってくれると思ってたわ。これでダンにイノシシの肉の燻製を作ってあげられる」
嬉しそうにするペイさんを見て、ちょっとだけ受けなければ良かったかも、と思った悪い徹ちゃんがいたかもしれない。
「じゃ、明日、行ってみますけど、獲れなくてもガッカリしないでね?」
それにたいして、ニッコリと笑うだけで何も言わない大人のペイさんズッコイ!
俺達はペイさんに見送られて、冒険者ギルドを出る。
出るとまだ日が高く、夕暮れまでもうちょっとありそうな時間だと知る。
「まだ時間早いし、ちょっと買い物行かないか?」
「何を買うの?」
聞かれた俺は替えの服とルナの指抜きグローブがボロボロになってるから、その替えも、と勧める。
俺の言葉にフムフムと頷くルナに更に付け加える。
「これも買いに行こう」
そう答えた俺は歯を噛み締めた状態で歯ぐきが見えるぐらいに唇を広げると歯を擦る仕草を見せる。
ルナは何を買おうとしてるか、すぐに気付いたようで喜びを前面に出すと俺の手を引く。
「すぐ行こう、今行くの、早く行こうなの!」
手を引かれる俺は、苦笑しながら答える。
「そんなに急がなくても逃げたりしないって」
「逃げるかもしれない、だから徹、急ぐのっ!」
ルナの嬉しげな声がメインストリートに響き渡る。
露天商や買い物客に微笑ましく見つめられ、照れた俺はルナの引っ張る力に抵抗せずにメインストリートを駆け抜ける事にした。
感想や誤字がありましたら、気楽に感想欄にお願いします。