112話 どうしてアイツの言葉が……
まだ試験結果がこねぇ……分かったから、落ちてるって分かってるから……
さっさとトドメを刺してくれぇぇぇ(泣)
カラスの力で薙ぎ払って生まれた空白地を駆ける俺はカラスの呼び掛けで急ブレーキをかけて門まで10m程の所で足を止める。
『主、これ以上の接近はあの2人の魔法で砦に大きな余波がある』
「おう……しかし、この場は!!」
カラスの力で切り開いた空白地はモーセの十戒のように切り裂かれた海が下に戻るようにモンスターが俺に目掛けて集まってくる。
うぉぉ! 壮観だな、こりゃ!?
慌てる俺だが結構余裕があるかもしれない自分を褒め称えたい。
舌打ちした俺が襲い来るモンスターをカラスとアオツキの二刀で手当たり次第に切りつけていく。
『主、斬撃、打撃をするつもりで刺突は極力避けるのだ』
「ああ、抜けるのが遅れたら目も当てられないからな!」
襲ってくるモンスターがゴブリンだけだったらと泣き事のような事を考えながら切りまくる。
切ってる相手はゴブリンだけでなく、オーク、オーガといった大型のもいるし、鳥のモンスターもいる。
そのなかでなるべく見たくないでっかいトカゲ様に気付いている俺が手の届く距離のモンスターを切りながらぼやくように言う。
「なんか食べ過ぎのトカゲがいる」
『気持ちは分かるが現実を見よ。あれはレッサードラゴンだ』
思わず沈黙する俺と呆れるカラス。
やっぱり、俺って余裕あるぅ!
強がって口の端を上げる俺の背中を棍棒で叩きつけられて一瞬、剣を振り回すようにしてた俺の動きを封じられ、たたら踏まされる。
「やばっ!」
『あるじぃぃ』
一瞬、弱みを見せた俺に一気に襲いかかるモンスター達を凝視する俺の耳、この場に居るはずのない男の声が飛び込む。
トオル、足を使えって言ってんだろ!!
その言葉に条件反射のように流れてた方向に更に加速して廻し蹴りをして迫りくるモンスター達の勢いを殺すと旋回の力をそのままにカラスとアオツキを旋回するようにして追撃を入れる。
「くそう! なんでアイツの言葉を今、俺は……」
『主……』
どうして、こんな土壇場でこの場にいないアイツの言葉を思い出す。
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「イタァ! 剣の柄で攻撃なんてアリかよ?」
「あのな? トオルちゃんよ? 俺が教えてんのはお遊戯じゃないんでちゅよ? 生き抜く為の方法だって言ってんだろうが? アリに決まってるだろ」
俺を幼児をあやすようにするロキに腹を立たせてコメカミに血管が浮き上がる。
肩を竦める素振りをして目を瞑った瞬間を狙って俺はロキに切りかかるが、あっさりと身を翻されてただけでなく置き土産とばかりに片足だけ残して俺の足を引っかける。
すっ飛ぶようにして転ぶ俺をゲラゲラと笑いながら長剣で肩を叩くロキが言ってくる。
「使えるモノは何でも使う。そして相手の予想を超え続ける行動が生き残る術だ、分かるかよ、トオルよぉ?」
そう言って俺の傍に来ると長剣を振り上げるのを見た俺は飛び起きるとロキの脇を駆け抜けようとする。
すると、そんな俺の行動に笑みを浮かべたロキに気付いた瞬間、ヤバッ、と何故か思う。
その場で旋回したロキを見て剣戟に備えて防御態勢になる俺に黒い物体が襲いかかる。
それに叩きつけられるが想像してた威力がなく、思わず、尻モチを付くと喉元に長剣の先を突き付けられる。
茫然と見上げる俺が小馬鹿にするように笑うロキに問う。
「今の何だ?」
「あれか、これさぁ」
そう言うロキは右手の親指で自分の黒いボサボサにしてある長い髪を指す。
そんなもので!?
ヘッと笑うロキが俺の覗き込むようにして言ってくる。
「いいか、トオル。武器、魔法だけが攻撃手段じゃねぇ……」
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まだ体勢を整え切れてない俺に波状攻撃をかけてくるモンスターに俺は大きく息を吸い込む。
「があああぁぁぁ!!」
純粋に魔力だけを載せた声で俺の周囲にいたモンスター達の動きを一瞬止めさせると手当たり次第に切りつけて体勢を整える。
動きを再開させたモンスターが負けじと雄叫びをあげるのを俺は睨みつける。
俺の視線に晒されたモンスターが飲まれたように怯みを見せる。それを見て俺は内心、舌打ちした。
ロキの言葉を思い出したからだ。
「いいか、トオル。武器、魔法だけが攻撃手段じゃねぇ……手、足だけじゃねぇ、髪もだが、目も口も武器にしろ。それが生きる術ってヤツさぁ」
くそったれ、どうしてアイツの言葉を俺は……
次々とモンスターを切りつけ、蹴り飛ばし、柄で脳天を叩き割るように殴る。
アイツの言葉が正しいと認めてんだよっ!!
歯を食い縛る俺はガムシャラに戦う。
心配げな波動を送ってくるカラスが『大丈夫か? 主』と言ってくる。
「大丈夫だ! それよりルナと美紅の魔法はいつくる!」
『まだ魔力を練り上げ始めのようだ。まだかかりそうだ』
色んな苛立ちをぶつけるように俺はカラスの柄を握り締める。
何やってんだよ、ルナ、美紅!!
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ダンが冒険者を纏めていると徹が飛び込んだ方向を見つめながら心配げな表情を浮かべるルナと美紅に気付いて話しかける。
「おい、まだ始めてないのか?」
「……一度は了承しましたが本当にトオル君は大丈夫かと思うと……」
「そうなの、加減を間違えたら」
2人の気持ちは分かるがダンはこのまま無為に時間を流れさせる方が危ないと分かるので相手が男であれば間違いなくケツを蹴り飛ばしているのに、と溜息を吐きたいのを堪える。
しかも、この2人は自分達が思う以上に徹に特別な感情を抱いている事をダンは気付いていたから余計に難しいと感じていた。
そこでダンは妙案を思い付く。逆にそれを利用してみようと……
ゴホン、と咳払いをして2人の注目を集めたダンは思い出すように明後日の方向見ながら呟く。
「そういや、あんちゃんと2人で話してた時の話なんだが、シーナを見てエルフって巨乳が多いのか? と聞かれた事があってな」
そう言った瞬間、2人の表情が凍るように固まった事に驚いてダンの口も固まりそうになったが2人に先を促されて、ぎこちなく笑いながら続ける。
「えっと、俺は中間が少ないイメージだと言ったらえらく喜んでいたな……案外、あんちゃん、今回、それ目的もあったりしてな?」
本来はもっと煽った内容にする予定だったが2人の固まった笑みが怖くて柔らかい表現に留める。
すると、一気に2人の髪が逆立つ程の魔力が吹きあがり、ダンだけでなく離れた所にいた冒険者達までビビる。
「さて、トオル君の要望です。期待に応えるとしましょうか、ルナさん?」
「まったく問題はないの、全力で行くの、美紅!」
うふふ、と笑う2人の魔力がどんどん高まるのを見ていたダンは胸の上で十字を切る。
そして、背後でも同じようにそれぞれの神に祈る仕草をする冒険者達。
「あんちゃん、俺はやり過ぎたようだ……頼むから生き残ってくれよ?」
呟いたダンの言葉は冒険者達の総意であった。
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