111話 俺に魔法をぶちこめ
試験、落ちた気しかしない(泣)
眩い光に包まれ、視界が戻ると俺は辺り見渡すと白黒の世界から色の付いた世界、時間が流れだす。
一瞬、白昼夢を見ていたのかと思いも過ったが右手に握るカラスから伝わる明確な意志がそれを否定した。
『主、これからもよろしく頼む』
「ああ!」
夢じゃなかった事に安堵した俺が嬉しそうに答えると心配そうに見つめる美紅とダンさん、そして目をパチクリさせ、顎下に人差し指を当てて首を傾げるルナが俺を覗き込むようにして話しかけてくる。
「徹、何をブツブツ言ってるの? お腹が減ったの? トイレを我慢してるの?」
「子供か!? そんな訳ないだろう、ルナじゃあるまいし」
ヤレヤレと肩を竦める俺にニャアーと両手を上げるルナ。
腹減り娘に言われると結構なダメージがあるな……でもまあ、今のやり取りで分かったがルナ達にはカラスの声は聞こえてないようだな。
『うむ、今はゆっくり説明する時間がない。中途半端な説明は混乱を招くから我と話せるという事は今は伏せておいたほうが良いと思うぞ』
だな、後できっちりと紹介してやるさ?
そう俺が思うとカラスから嬉しそうな感情が伝わる。
俺とカラスの関係は良好だが、先程の返答でネコ化し始めたルナを美紅が止めているのを苦笑いするダンさんが俺に話しかけてくる。
「じゃ、何をブツブツ言ってたんだ?」
「ああ、それは俺が一人で斬り込んで突破口を作れる算段を立ててた」
目の前に広がる村に攻め込もうと渋滞するモンスターの群れを顎でしゃくるとダンさんだけでなく、ネコ化してたルナ、止めてた美紅も目を白黒させる。
まあ、驚くよな……
カラス、大丈夫だよな?
『勿論だ。そこで我から追加の提案だ。切り込んでモンスターを引き付けた後、ルナと美紅に主を中心に特大の魔法を打ちこんで貰う、というのはどうだろう?』
カラスの自殺志願者のような提案をさせようとされていると思わず噴き出して鼻水も出て慌てて拭う。
マジで? 俺、死なない!?
「大丈夫だ。アオツキが任せろと言っている」
カラスに言われて思い出す。
確かにオルデールとの戦いでカラスよりアオツキの方が効果が高い。あれはきっとアオツキが魔法に強い力を発揮する刀だからなのだろう。
俺がそう思っているとカラスから不満の意志が伝わる。
『良く聞いて欲しい、主。我がアオツキに劣ってるという話ではないぞ?』
変な所で対抗心があるようで、どこか必死なカラスにクスリと笑い、小声で「分かってるさ」と告げると納得したようだ。
カラスは物理、アオツキは魔法に特化した武器なのだろう。
俺がとんでもない提案をした後で笑ったものだから3人が顔を見合わせて周りに聞かれないように近寄って言ってくる。
「あんちゃん、俺がAランクに指名したからって責任感じてるなら無理するな。出来れば村の者を助けたいとは思ってるが命を捨ててまでする事じゃない。逃げてもいい」
「そうです。しかもこれは依頼じゃありません。現場の判断で無理と断じて責められる理由にはなりません」
「徹が犠牲になる必要はないの……でも、出来れば助けたい……アウアウ、どうしたらいいの!?」
心配してくれる3人が嬉しくて破顔して笑みを浮かべる俺は目の前でおろおろするルナの頭を撫でながら言う。
「大丈夫だ。俺はヤケクソになってる訳でもないし、無茶を言ってるつもりもない。ちゃんと算段があっての事だ。その根拠を説明するのは簡単だが、3人がこの状況で納得するか分からない……だから、今は俺を信じて欲しい」
困惑する3人が顔を見合わせた後、苦いモノを飲み込むような表情を一瞬した後、俺に頷いてくれた。
有難う、ルナ、美紅、ダンさん。
3人の俺に対する信頼に感謝をした俺は早速、カラスの提案を伝える。
説明を始めると早い段階で美紅は顔色が悪くなり、ルナは自分の耳がおかしいのかと首を傾げ出す。
ダンさんは俺が本気で言っていると感じたようで頭痛に耐えるようにコメカミを揉み、頭を抱える。
「な、何を言ってるんですか! 死ぬ気ですかトオル君!」
「ねっ、ねっ、美紅。徹が自分に向かって全力の魔法を打ちこめと言ったような気がするの? 聞き間違いよね?」
「……いや、ルナ、残念だが、あんちゃんは本気みたいだぞ?」
更に顔色を悪くする美紅と思考停止に追い込まれたルナを見て苦笑いする俺にダンさんが真剣な表情で質問してくる。
マジ過ぎてこえぇ……
俺を心配してるからなんだろうが、怖いと思っているのにどこか嬉しいと感じている俺が向き合う。
「あんちゃん、勿論、大丈夫だという算段はあるんだな?」
「ああ、勿論だ。魔法に強いアオツキが俺にはある。さすがに2人の全力の魔法を俺、単体に狙われたらどうなるか分からないけど、範囲を意識した一撃であれば一発なら耐えれる」
俺が左手で握る蒼い刀身のアオツキを見せるとダンさんが見つめ、ルナと美紅はオルデール戦でみせたアオツキの力を思い出し、渋々ではあるが納得した様子を見せる。
2人の様子に気付いたダンさんが2人に質問する。
「何か知ってるようだな。満更、あんちゃんが言うアイディアは無茶という訳ではないのか?」
「むむむぅ、頭ごなしに無茶と言う訳ではない、とは言えなくもないの……」
「それでも私は反対したいです。でも、村の人を助けて逃げるルートを作る意味では試す価値はあるとは言えます……」
消極的ではあるが賛同する2人の言葉に一応は頷くダンさんが俺を見つめてくるので付け加える。
「アオツキに更にカラスも使って全力で防御に廻るから任せてくれ」
『当然だ。アオツキばかりに良い顔させはしない』
鼻息荒くするように言ってくるカラスに苦笑しそうになるが見つめてくるダンさんに不安を感じられないように顔を引き締める。
俺をジッと見つめていたダンさんであったが俺が退く気がないと判断したようで大きく肩を落として溜息を吐く。
「はぁ、分かった。突入する冒険者達の指揮は俺が引き継ごう。あんちゃんは自分の身を守る事に専念してくれ」
「本当に無茶はしないでくださいね? 無理だと思ったらすぐに逃げてくださいね?」
「もう! 徹は言い出したら聞かないの!」
ダンさんが認めた事で諦めが付いたのか、出来の悪い弟を心配するような言動をする美紅と呆れるルナに歯を見せる大きな笑みを浮かべる。
「悪い、迷惑をかける」
俺の笑顔に毒気が抜けれたように苦笑する3人。
ダンさんはすぐに後ろで控える冒険者達に俺が突破口を作ったら村に駆けるという話をしに行き、ルナと美紅はどういった魔法を打ちこむか相談を始める。
それぞれの準備を見守っていると3人から終了したという返事を受けると俺は独り言を言ってもみんなに聞こえない距離を取り、渋滞させるモンスター達の背中を睨みつける。
「いくぞ、カラス!」
『いつでもいいぞ、主』
カラスの自信に溢れた声を聞いた俺はモンスターが最短距離で10mはある場所からカラスを振り上げ、力を込めてる。
俺は全開でいく! 細かい調整は頼むぞ、カラス!
『委細承知!』
カラスの力強い返事と共に俺はカラスを振り抜く。
すると可視化出来そうなレベルの剣戟による衝撃波が生まれると目の前にいたモンスター達を薙ぎ払うようにして吹き飛ばす。
その衝撃を後ろで見てた冒険者達は勿論、ルナ達が息を飲むのが分かった。
衝撃波で拓けた道の奥でだいぶボロボロになった城壁の門が見え、それを睨みつけるように見た俺は姿勢を低くして突撃体制になる。
「ルナ、美紅、ダンさん。後は作戦通りに!」
振り返ってみた3人が頷くのを見て俺は前方、村の入口を目指して飛び出す。
「突っ込むぞ、カラス!」
『了解だ、主』
覚醒したカラスから流れ込む力で今までと比較にならない肉体強化による加速を肌で感じながら俺はモンスターの群れの中へと飛び込んだ。
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