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高校デビュー あなざー スワンの大冒険④ 前編

 例のあの人の話です(笑)

「わっははは!」


 無駄にキザさが目立つ男が木で出来た器になみなみと注がれた果樹酒を煽るように飲む。


 その飲みっぷりに周りの全身鱗の姿のトカゲ人間、獣人の一種のリザード種に拍手されてキザたらしい動作で無駄に整えられた黒い前髪を掻き上げる。


 その男の背後にはワルキューレを彷彿させる姿をした元スライムのスラ吉を控えさせていた。


 酒を注がれる反対側の脇を固めるようにメイド服を纏った幼い少女メルは良く分からない鳥、カトリーヌを背凭れにするようにして、せっせと目の前に盛られた果物を食べていた。


「メルよ、せっかくのご厚意だ。しっかりと食べるのだ」

「問題ない。しっかり食べてる」


 頬をリスがエサを溜めるようにしてるのに、しっかり発音するメルを遠目で見つめる元ゴブリンキングであるゴブ郎は嘆息する。


「相変わらずの理解不能のメル姉さんだ。それより、どうしてアッシだけこんな端で放置なんですっすか?」


 遠く離れた正面にいるゴブ郎の雇い主、黒髪の男、スワンの周りにはみんなが集まって、その周りにいるリザード達に甲斐甲斐しく給仕をされている。


 しかし、と思うゴブ郎は自分の周囲見渡す。


 ゴブ郎の周りには誰も居らず、目の前には申し訳程度に小皿に盛られた木の実と果樹酒が入った瓶とコップが置かれているだけであった。


 自分で注がないと飲めないので虚ろな瞳をしながら瓶を持ち上げて手酌する。


 そして、煽ると何故か涙が止まらないゴブ郎。


「ううっ、アッシの職場改善を求めるっす!」


 悲しみを紛らわすように手酌でお代わりしようとしたゴブ郎にスワンが呼び掛ける。


「おい、ゴブ郎! 宴会芸を見せろ」

「えええっ!! どうしてアッシがそんな事を!」


 嫌だ! と腰を浮かせかけるがスワンの背後にいるスラ吉が凶悪なランスを生み出すのが見えたゴブ郎は諦めるように項垂れる。


「そんな事を言わないと分からないのか? だから万年係長なのだ!」

「万年って、アッシが社長と出会って1月ぐらいで……」

「黙れ! そんな小さい事はどうでもいい! それより、今後、我が社と提携を結ぶリザードの部族との大事な会だ。踊れ、ゴブ郎!」


 提携とスワンが言うがゴブ郎はそんな話がいつ為されたのだろうと首を傾げる。


 川に流されて気付いたらリザード種の集落にいて、良く分からないが歓迎された。


 ゴブ郎はリザード種の言葉が片言程度だが分かるがスワンは間違いなく分からないはずである。


 とりあえず、渋々、立ち上がるとゴブリンダンスをしながら思い出す。


「そういや、アッシが喋れるようになる前もアッシと意志疎通出来てましたっけ? それにスラ吉さんとも話せるから今更っすね……」

「ゴブ郎、もっと気合いを入れないか!」


 酒で顔を赤くするスワンが立ち上がると腰に付けられたコシミノが揺れる。


 コシミノだけの半裸姿のスワンがシャカシャカと「アロハァ~」と楽しげに声を張り上げる。


 そしてゴブ郎にも同じ事を強要してきた。


「腰をこうだ! やってみろ」

「えっと、こうっすか?」

「ちが――う!!」


 ゴブ郎の踊りに満足出来ないらしいリザード種にしっかりマッサージをされて香油らしき良い香りがするものを練り込まれて元気一杯のスワンが意気揚々と踊り始める。


 そして、興に乗ってきたらしいスワンが「使えないゴブ郎は酒でも飲んでおとなしくしていろ」と言い放つと楽しそうに踊る。


 スワンのダンスに拍手喝さいする音を背にふてくされた様子のゴブ郎が元の位置に戻るとコップに果樹酒を手酌しようとする手を止める。


「アッシも頑張ってるっすよ!」


 果樹酒の入っている瓶に直接口を付けると一気に煽り始めるゴブ郎。


 ゴブ郎の中間管理職の恒例『ヤケ酒』がスタートした。





 ふと気付くとゴブ郎は目を覚まして最初に目に映ったのは星空であった。


 寝ぼけ眼で辺りを見渡すと離れた位置で酔い潰れたと思われるスワンが大の字になって高いびきを掻いている。


 その横でジッとするスラ吉の姿を見て、更に周りを見渡すと静かで明かりが落とされている様子から宴は終わったようだ。


 むくりと起き上がったゴブ郎は目を擦る。


「アッシも飲み過ぎて寝ちまったっす」


 あの後、自分でお代わりして散々飲み散らした事を思い出したと同時に尿意を覚えたゴブ郎はその場から離れる。


 草むらを発見して解放感に浸っていると少し離れた位置で話す2人のリザード種がいた。


「男、いい感じ」

「肉、ほぐした。味付けした」

「神への供物、お湯、沸いた」


 リザード種の言葉は片言しか分からないゴブ郎は何の話をしているのだろう? と首を傾げる。


 寝起きである事もあるがまだ酔いが抜けてないせいか、考えが纏まらず、どうでもいいかと思い始めた時、聞き慣れた男の悲鳴が聞こえる。


「あんびらぼ――!!」

「あの声は社長っすか!?」


 雇い主、スワンの悲鳴に気付いたゴブ郎は慌てて動こうとするが動けない事に戦慄する。


 現在進行形の止まらない解放感を抑える術が思い付かない為である。


「社長! すぐに行くっす!……と、止まらないっす、酒の飲み過ぎには注意っす!」


 両足をワタワタと動かして少しでも早く解放感から解放? されるように足掻く。


「あああっ! 足にかかったっすぅ!!」


 スワンの悲鳴と共にゴブ郎の悲鳴も夜空に響き渡った。

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