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99話 始まりの勇者

 クラウドを出発した俺達は美紅が封印の触媒にされた魔神が封じられていた山の麓までやってきた。


 山を見上げる俺は若干ウンザリしていた。



 前はなんだかんだで運良く結界に辿りついたけど今回もいけるかしら?



 溜息を吐く俺に近づいてきたコルシアンさんが地図を片手にやってくる。


「トール君、ここに地下に降りれる入口があるから、まずはこの辺りを目指してくれるかい?」

「へっ? 結界って移動するんじゃなかったっけ?」


 俺がそう言うとコルシアンさん、だけではなく美紅まで目を丸くして俺を見てくる。


 若干1名が俺の言葉に頷いて「捜すの大変だったの!」と握り拳を作るヤツがいるが仲間がいると安心出来るどころか不安しかない。


 短い間、固まったコルシアンさんは破顔させるのお腹を抱えて笑い始める。


 同じように目を丸くしていた美紅は頬を朱に染めつつ、耳打ちしてくれる。


「以前、コルシアンさんの説明で封印された山の地下と説明がありました。しかも結界はいわば仮想空間なので……」


 今回の件では関係ないと言われて俺も赤面するが、横で聞き耳を立ててたルナは俺に言ってくる。


「何の事か分からないけど、私はトールの味方なの!」


 ない胸を張って嘘がまったくない綺麗な瞳をして言ってくれる。



 ごめんなさい。今回は辞退させてください!



 説明を聞いても分からないお馬鹿さんと同列は嫌だった俺は心の中でルナに詫びる。


 笑いから復帰したコルシアンさんが俺の肩をバンバンと叩いてくる。


「どうやらトール君は直感で動く性質のようだね。少しは考えて動いた方が良いよ?」


 また笑い出すコルシアンさんに何も言い返せない俺。


 事実だからしょうがないとばかりに唇を尖らせるとそれを見た美紅にも噴き出される。



 もうお好きなだけ笑ってくださいな?



 不貞腐れた俺は「仲間、仲間」と袖を引っ張ってくるルナを適当にあしらいながら地図の位置を目指して馬車を走らせた。





 地図に示された場所にお昼をちょっと過ぎた頃に到着した。


「ちょっと遅くなったけど食事をしてから入ろうか?」

「食事は良いのですが……入口はどこにあるんですか?」


 困ったように聞く美紅の言葉に同意するようにお馬鹿さんズの俺達も頷く。



 えっ? ルナと同類でいいのかって?


 もう色々と飲み込んださ……背伸びするのに疲れたから……



 そんな俺の葛藤を知らない3人は話を進めていた。


 美紅に言われたコルシアンさんは嬉しそうに腰に手を当てる。


「良い質問だね! 見ててね?」


 若干スキップするように歩く姿を俺は半眼で見つめる。



 この質問待ちしてたな?



 ほぼ確定な事実に呆れながらコルシアンさんを見ているとそびえるようにある岩に躊躇せずに飛び込む。


「マジか!」

「あれは痛いの!」


 俺とルナが叫ぶと同時に美紅は顔を手で覆う。


 コルシアンさんが岩に直撃すると思っている俺達の目の前で岩に融合するように消える。


 消えたコルシアンさんが帰って来るのを待つ傍ら、俺と美紅は顔を見合わせる。


「あれって幻か何かだったみたいだな」

「ええ、もしくは、異空間へ入口なのかもしれませんけど……」


 俺達の隣で頬に渦巻を作りながらウンウンと頷くルナがいるがきっと理解出来てない。


 すると、岩からピンクのズボンがニョキっと出てくるのを見て帰ってきたと近寄ろうとすると出てきたコルシアンさんにびっくりする。


「中で何が!?」

「入口の端に飛び込んだみたいで壁に激突したんだ……みんなは入る時は慎重にね?」


 鼻血に眼鏡にヒビを入れたコルシアンさんが入口の前で倒れたので仕方がなくコルシアンさんを抱き抱えて馬車の荷台に運んだ。


 馬車の中でシクシクと泣くコルシアンさんを横目に俺達は昼食の準備に取り掛かっていた。


 少し手の込んだというか温かい食べ物を食べようと俺達は奮闘する。



 中に入ったら食事が出来るかどうか分からんし、火を使った料理なんて無理だろうしな……



 だが、30分後、俺とルナはシクシクと泣くコルシアンさんの傍で膝を抱えていた。


「美紅、酷いの。私も料理出来るの!」


 拳をプルプルとさせるルナであるが、残念ながら弁護する気になれない。


 料理を開始する前に食材が入っている袋を落としてダイブしてしまうルナに同情する気にはなれない。


 しかも、駄々を捏ねて再チャレンジして皮むきをすれば真っ二つにしただけで終わったと思うような残念さんにかける言葉などなかった。



 えっ? 俺?


 俺は奮闘したぞ!


 用意は勿論、皮むきも華麗に決めて、煮込み始めたところまでは良かった。ただ、ちょっとしたイージーミスが発生しただけなんだ!



「ねっねぇ、徹、他人事のようにしてるけど徹も砂糖と塩を間違えるという信じられないミスしたの!」

「ば、馬鹿野郎! ルナと一緒にするなよ? 見た目、そっくりだし、愚図るお前を見ながら入れたから間違えただけだし! ルナと一緒にするなよ!」



 なんで、ルナと一緒にするなよ、って2度言ったかって?


 昔の偉い人は言いました。大事な事は2回言いましょうって!



 大事な事を言い切った俺は美紅に食事が出来たという報せを受けるまでルナと頬を抓り合うという我慢大会を開催する事になった。



 そして食休みが済むと俺達は岩の前で並んで見つめていた。


 ワクワクするルナと緊張を隠せない美紅を微笑ましそうに見るコルシアンさんに質問する。


「ご飯食べてる時にも聞いたけど罠とかないよね?」

「あはは、トール君も心配症だね。僕も何度も来たけど遭遇した事もないし、話にも聞かない。安心してよ」


 あっけらかんと言い放つコルシアンさんを見ても本気で言ってるようにしか見えない。



 どうにも俺のカンが嫌な予感を訴えている気がするんだよな……


 説明が出来る言葉はあるけど、果たして3人に信用して貰えるかと言うと凄まじく自信がない……



 難しい顔をして悩む俺に美紅が深呼吸しながら言ってくる。


「私もちょっと緊張してますけど、引き返しても進展がありません。一緒に潜りましょう」

「だな。しゃーない、行こうか?」


 俺は美紅からルナ、コルシアンさんを順に見ていき、頷くと「いっせいのぉーで」と掛け声をかけて岩に飛び込んだ。






 飛んで入ったので着地した体勢で自分の体が無事なのを確認すると立ち上がりながら話しかける。


「体は無事だけどさ、こういう時のお約束はみんなとはぐれるとかありそうだよな?」


 横に顔を向けるとそこには誰も居らず、慌てた俺は振り返り後ろの岩に飛び込むが実体があって顔から打ち付ける。



 やられた……嫌な予感はしてたのに!



 罠にかかったらしい、いや、既に俺の中では確信に変わりつつある想いがしっくりと自分の胸に収まるとルナ達に言葉に出来なかったモノが形になって背後から存在感を伝えてくる。


「つまり、これはやっぱりテメェの罠ってことかよ」

「生意気な奴だな。いつから気付いていた?」


 ゆっくりと振り返るとそこには世の男の天敵のような優男に見えるのに芯の強さを感じさせる眼差しを俺に向けるイケメンがそこにいた。


 一歩前に俺に近づく白一色の鎧を纏うその男は俺を爽やか笑みで見つめてくるが……



 ちぃ、ムカつく!


 どことなく俺に敵意とは言わないが近しい感情に気付くと分かってぶつけてくる厭らしさがある嫌な奴だ!



 俺は隠さずイラつく気持ちを前面に出して舌打ちをするが鉄面皮を剥がす事は出来なかった。


「コルシアンさんにここがお前が指定した場所だと言われた時だよ。そろそろ名を教えてくれないか? 初代勇者って呼び難いんだ。なぁ、美紅の大先輩」


 そこにいたのは、神殿跡で俺に語りかけてきた、そして500年前に死んだとされた初代勇者と言われた男が肩を竦めて静かに見つめ返してきた。

 感想や誤字がありましたら、気楽に感想欄にお願いします。

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