95話 初めての小さな一歩
長らくお待たせしました。
まだ色々と問題が山積しておりますので以前通りの更新が出来るか分かりませんがゆっくりと更新はしていきます。
今回はクリミア王女視点のお話になります。
トールの手を借りて立ち上がった私は馬車がある場所に戻る為に歩いていた。
私の一歩前を歩くトールをチラリと見て何故かすぐに目線を地面に向ける私の頬に熱が宿るのを自覚する。
歩き始めて数分経っている間で私は何度となく前を歩くトールの手を取ろうとするように手を上げるがすぐに羞恥が勝り、手を降ろして俯く事を繰り返していた。
そして、何度目か数えてはいなかったがその動作をしているのを振り返ったトールに目撃されて私は思わず足を止める。
「ん、どうしました?」
「え、えーと……」
私のしどろもどろとした行動に首を傾げるトールが、アッと声を上げて掌に拳をポンと叩く。
き、気付かれた……
何を気付かれたか、何を気付かれたくないのかも自分自身ですら理解出来てないのに焦る私に申し訳なさそうに照れ笑いするトールが手を差し出してくる。
「ここまで坂道も多かったし、足下をはっきりしないから疲れたんですね? 良かったら手を貸しましょうか?」
「い、いえ、そう言う訳ではなく……」
わたわたと両手を振る私の頬は更に熱くなるのを自覚してしまい、見られる恥ずかしさから余計に熱を持つのに混乱しそうになる。
ど、どうしたら……!
慌てる私に伺うように言ってくるトールが声を潜ませて辺りを見渡しながら言ってくる。
「もう歩くのも辛いレベルですか? それじゃ……おんぶします?……ああっ! 気が利かなかったな、お姫様だから、やはりお姫様抱っこ?」
「だ、抱っこ!? いえいえ、手で充分です!」
ブルブルと顔を横に振る私に歯を見せる大きな笑みを浮かべるトールに見惚れながらゆっくりと手を上げる。
トールの手に触れるか触れないかの瀬戸際の瞬間、進行方向先にある草むらから青い髪をした少女と私も良く知る黒髪の少女が飛び出してくる。
綺麗な髪に草木を装飾するようにして荒い息をしてこちらに駆け寄ってくる様子から相当急いできたのが伺えるが顔に浮かぶ表情の必死さに私は一歩退いて生唾を飲み込む。
「えっ!? ルナ? 美紅?」
トールもすぐに誰かであるか分かったようだが、2人の鬼気迫る気迫に圧されるようにコメカミから一滴の汗を流している。
2人はトールの言葉に返事を返さず、私の前に立つトールを両手で突き飛ばす。
突き飛ばされたトールはマヌケな声で「へっ?」と洩らすと同時に登ってきた坂道を転がるように落ちて行った。
転がり落ちるトールに一切注意を払わないルナさんと美紅が私の両肩をしっかり掴んで覗き込んでくる。
こ、怖い……何、この2人の気迫は……
ジッと私の瞳を覗き込んでくる2人は何かに気付いたように1歩、2歩と後ろに後ずさる。
「ま、間に合わなかった……」
「ど、どうしよ……に、ニャア――!」
美紅はシクシクと静かに涙を流して四肢を付くがルナさんは奇声を上げると坂下から頭を摩りながら上がってくるトールを目指して走り出す。
私は迫ってくるルナさんに気付いて逃げ始めるトールと目の前で声を殺してさめざめと泣く美紅を見つめて2人が来るまで理解出来ずに整理出来てなかった気持ちに気付いた。
ワンピースのスカートを膝裏で綺麗に折り畳むようにして泣き崩れる美紅に目線を合わせる私は迷いもない柔らかい笑みを浮かべて美紅を見つめる。
「そう……2人がトールの傍にいる理由、そして脇を固める理由がこれと言う訳ね……戦う事から逃げ、頑なに武器を持つ事すら拒絶した美紅がねぇ、これは頑張る以外ないものね?」
私が言葉を聞いて涙を増量する美紅から視線を外して立ち上がるとルナさんから必死に逃げるトールを見つめる目を細める。
歴史書、おとぎ話で語られる英雄、初代勇者の話がアローラでは有名ではある。
そこに書かれている内容はまさに英雄と言わしめるに相応しい内容が書き込まれている。
世界各地の猛者と呼べる者達を引き連れて魔神と戦いに挑んだ、まさに英雄譚。
私も美紅に求めたのもこれに類似したものを期待していた。
勇者さえいれば何とかなる、これで未来が約束されると心のどこかで考えていた。
初代勇者の物語に書かれているどの本でも似たように書かれ、着いて行った人々の言葉もその想いに尽きた。
しかし、どうだ?
私が目を向ける先で必死ではあるがマヌケな顔を晒してルナさんから逃げるトールはルナさんに目を取られ、足下の石に躓き、転びそうになってるのを見て私はハラハラしている。
「トール! 前をしっかり見て、そっちは崖ですよ!」
「うぉ、マジだ! 行き止まりで捕まるぅ!」
慌てて方向転換するトールにニャーと叫ぶルナさんが更に速度を上げて追うのを私はクスリと笑う。
ついついトールの手助けをしたくなる。
隙だらけ、至る所に足りないモノが山積させるトールを見つめる私の胸には色んな想いが宿る。
この想いを説明する言葉を私は知らない。
愛、恋、母性本能、友愛……
色んな言葉を必死に思い浮かべるがどれも当て嵌まる気がしない。
それと同時にどれも当て嵌まる気もしていた。
その気持ちすら理解出来ないのに1つだけはっきりと理解している。何も根拠はないのに……
「きっと……トールが行く先は私が……いえ、みんなが求める場所に通じてる気がする」
私が見つめる先でついにルナさんに掴まり、二の腕に噛みつかれて悲鳴を上げるトールの声を聞いてクスリと笑みを浮かべた。
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ルナさんがトールに噛みつく事で落ち着きを取り戻し、私達は馬車の下へと戻る。
戻った馬車の中ではノビたままのシュナイダーにげんなりしつつも私達はモスを目指して再出発させた。
そして、無事にモスの入口に到着した私は馬車をトール達に引き渡しを終え、3人と向き合っていた。
「本当に有難うございました。特にトールにはどれだけ感謝すれば良いか……」
「いえ、俺は冒険者として依頼され、すべき事をしただけですよ」
にっこりと笑うトールに私は被り振る。
明らかにそれを超過した事をさせたと私は考える。
かといって、トールに金銭を多く渡したところ喜ぶとは思えない。仮に王家の力を振るえて地位を与える話をすれば喜ぶどころか軽蔑すらされかねないぐらいには理解出来ていた。
トールが喜びそうな事……あっ!
ある事に気付いた私が顔を上げる。
思い付いた事の恥ずかしさに赤面してしまうが勢いを付けて口にする。
「私が出来る事であれば何でもしましょう!」
「えっ!? マジで?」
そう言うトールが「ヤッタ――!」と諸手を上げると迷いもなく私の胸を優しく掴んでくる。
「「「なっ!!」」」
突然のトールの行動にフリーズしたルナさんと美紅、そしてシュナイダーが声を上げるなか、トールに触られる恥ずかしさに私は耐える。
は、恥ずかしい……トールが喜ぶ事、我慢、我慢……あれ?
赤面する私がチラリとトールを見つめると意外にも落ち着いた表情で私を見つめ返していた。
恥ずかしさから真っ白になりかけてた頭に落ち着いたトールの目に冷水をかけられたように我に返る。
どうしてトールがそんな顔をしてるのかと考え始めるとトールの言葉を思い出す。
「おっぱいってのはな、揺れるのを眺めて照れられたり、触ろうとしたら攻撃されるのを潜り抜けるのがいいんだ。失敗したらタコ殴りにされ、成功したら幸せな気分で袋叩きに遭う。平等だろ?」
そうか、こんな理由で触れたところでトールは喜ばない。
私がすべき行動は……
触り続けるトールを目掛けて私は右掌を振り上げると迷いも感じさせずにトールの頬を張る。
私の平手を避ける様子も見せずに当たると大袈裟にふっとぶトール。
「ひどいわ! 何でもええと言ったやん!」
「いえ、乗り始めた頃に馬車で話をした時から一発叩きたかったから自分を撒き餌にしてみました」
シナを作るようにして叩かれて頬を押さえるトールに私は言い放つ。
「女の子の胸が安易に触れれる訳ないでしょ? だって、私はお人形さんじゃないもの」
私を見上げるトールの口許に笑みが浮かぶのを見て、私は正解したと嬉しさを隠しきれずに口許が緩む。
そこでやっとフリーズから回復したルナさんが叫ぶ。
「徹ぅ! その病気は一回死なないと治らないの!」
「ルナさん、助太刀します」
飛び出すルナさんを追うようにシュナイダーが剣を抜いて追走する。
慌てて立ち上がるトールが逃げるのを笑みを浮かべて見送ると美紅が隣にやってきた。
「クリミア王女……何がしたかったのですか?」
「さあ? でも、ルナさんと美紅にしたい事ははっきりしてます」
美紅に向き合うと情けない顔をしていたのが私は嬉しくて小さな笑みを浮かべる。
「宣戦布告です。今はトールの脇を固める席を譲っておきます。いつの日か、その席を私が奪いに来ます」
「ええっ! ま、負けません……こ、困ります……勝てる気がしません」
頭を抱える美紅に優しい笑みを浮かべてトールを追うシュナイダーを呼ぶ。
「行きますよ、シュナイダー」
「むむむ、はい、分かりました。トール、次、会った時がお前の命日にしてやる!」
捨て台詞を吐いたシュナイダーは剣を収めると歩き始めた私を追うように歩き始める。
私はチラリと振り返り、未だにルナさんに追われるトールを見つめる目を細めた後、前をしっかり見据えて踏みしめるようにしてモスに一歩、足を踏み入れた。
今はまだトールの隣を歩けない、トールの背すら見えてない。
でも、きっと貴方の隣に立てる私になってみせる。その日まで……
「また会いましょう。私の標」
さあ、ここから始めましょう。
トールのように不器用で真っ直ぐな私になるために……
私は世界を救うという言葉を本当にするための『私の戦争』の幕を切って落とした。
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