そのに。 けいやく。
前話で襲われる神崎家。
一体どうなってしまうんでしょうね
――神崎家。
そのまわりは修羅と化していた。
妖怪や野良の式が結界を狙い、決壊は綻ぶ寸前だった。
そんなとき、時計の針が12時を指した。
「タイミングがいいんだか悪いんだか……」
裕一の父は呟いた。
「契約の時間だ。祐一、急いで儀式のためのものを持ってきなさい。」
「は、はい、父上。」
「タンポポ、裕一の護衛を頼む。」
「かしこまりました、ごしゅじんさま!」
裕一はタンポポと共に2階にある自室に向かった。
――2階、裕一の部屋。
窓からは結界のヒビが目に見えるほどにひろがり、囲んでいた妖怪などの数も増えているのが見えた。
「机の引き出しに……あった!」
裕一が目当てのものを見つけたそのときだった。
――ピシッピシッ……
「けけ、けっかいがくずれてしまいます!!」
タンポポは慌てたように裕一の腕を引いて、そのまま1階のリビングへと降りた。
――1階、リビング。
「父上!」
「よし、あやめと裕一は真ん中の魔方陣に立って」
「ご、ごしゅじんさま、けっかいが!」
タンポポが慌てて事情説明していると……
――パリーン!
ガラスが割れたような音がした。
「ちっ、あと一息だというのに……」
「け、けっかいが……」
タンポポと裕一の父がドアの方に向かったときには、もう遅かった。
「ぐぁぁぁぁぁ……!!」
化け物が裕一の家の回りに集まる、
「主、契約を急ぎましょう。」
「け、契約と言われましてもどうやって……」
そうである。
裕一は当然、契約の方法を知らない。
代々受け継がれるものだから……
「基本的には主からの契約物の授与、式からの契約物の授与、契りの血、の順になります契りの血に関しては、お互いの血を舐め合う、という流れになります。まあ、要するに、針で少し傷をつけて表面の血を相手に舐めてもらうという形になります。」
あやめが淡々と説明している間にも外から怒号や爆発音が聞こえる。
「まずは僕から、この首飾りを。」
裕一は肉球のモチーフのついたネックレスを差し出した。
すると、二人の足元の魔方陣が光りだした。
「では、私からは、この猫耳と尻尾を。」
「え、ちょ!?」
「私との契約がいやがられる理由のひとつが契約物なんですよね」
あやめが遠い目をする。
ああ、なるほど、と心のなかで納得する裕一。
もちろんながら、そういうことをしている余裕はないであろうが……
「あとは、……契りの血ですね。このまち針を使いましょう。」
あやめがまち針を差し出す。
「手を貸してください。」
あやめが裕一の左手を軽くつかみ、小指にチクッと刺す。
すると、少し血が流れ出した。
あやめがその血を舐めると、魔方陣が赤色に輝きだす。
「では、主も。」
あやめが自身の左手を差し出す。
裕一はあやめと同じように、あやめの左手の小指にチクリと刺す。
その瞬間、足元の魔方陣が2人を白い光に包んだ。
「うわっ!?」
「これで契約は成立です。」
――ドゴーン!
裕一の家の壁が崩れていく。
そんな中、2人は契約を結んだ。
「主、ご命令を。」
「……なを……みんなを守って!」
「畏まりました。」
あやめが外に駆け出していく。
――猫耳尻尾のついた裕一をおいて。
「……懺悔なさい。」
「ぐぉぉぉ!?」
あやめが一番大きな化け物に頭から突っ込んでいく。
「……――疾風……!」
次の瞬間、風の刃が化け物を切り刻む。
「ぐぁ……」
化け物が怯み、大きな隙ができる。
「――蛇炎!」
化け物の回りを炎が包む。
が、これが誤算だった。
確かに化け物の回りは炎で包んだが、先程の疾風の風の影響もあり、回りの家にまで飛び火してしまったのだ。
「あ、やっべ!」
裕一がそれにいち早く気づく。
「――水楼……あれ?」
あやめが術を唱えるが、出ない。
その場にペタン、と座り込んだ
「えへへ、霊力不足みたい……」
「え……!?」
式神も結局のところ、力で動いていて、なくなれば、術が使えなくなる。
難しい話ではない。
「ち、父上!タンポポさん!?」
「はわわっ、こちらもそれどころじゃ……」
「――群雲」
急に辺りの雲が一点に集まりだした。
「――五月雨」
突然の大雨が降りだす。
すぐに日は鎮火されたが、ひどい有り様だった。
「よぉ、裕一。」
「し、不知火……と伊吹さん。」
「間に合いましたね。」
そこにいたのは不知火と伊吹だった。
「まったく、バカは後先考えず行動するから。」
「なっ!?誰がバカよ!」
「ま、まあまあ……」
実際、こうなる結果を予測できていない時点でどうなのだろうか、というつっこみを不知火は心のなかで押さえた。
「ところであんたの両親は「ごしゅじんさま、おきてください!しっかりしてください!」……遅かったか。」
裕一の父がピクリとも動かず、アスファルトの上に横たわっていた。
裕一の母の姿はどこにもなかったが、指と指輪が裕一の父の近くに転がっていた。
「ごしゅ……えぐっ……ごしゅじんさまぁ……」
タンポポは泣きながら、裕一の父を揺すっていた。
叶わぬこととわかっていながら。
そして、強い自分の体を憎んだ。
盾になれなかった。
守れなかった。
そんな感情がタンポポに容赦なく襲いかかる。
「……1人で2つの式と契約することはできない。もう少し言えば、人間の体がそこまで持たないからな。」
「うん……わかってる。」
「でも面倒見てやるくらいはした方がいいかもな。たぶん見てないと死ぬぞ、あいつ。」
「私に任せてください……と言いたいところですが、事情が事情ですからね……」
伊吹が小さくため息をつく。
「ごしゅじんさま……?」
タンポポが裕一の方を見てそんなことを問う。
声、容姿、その他色々違うのにも関わらず、親子として、面影はある。
「……」
裕一は何も言うことができなかった。
が、タンポポのことをそっと抱き締めてこう言った。
「僕は父上にはなれないです。父上の代わりにも……でも、辛くなったらいつでもこうやって落ち着かせることはできます。」
「ゆういちさ……うわ……うわぁぁぁぁぁん!」
タンポポの押さえていた感情、涙が一気に溢れだす。
悲しみ、苦しみ、様々な感情が溢れでた。
――タンポポが落ち着いて、泣きつかれて寝るまで15分くらいかかった。
「まったく、妬けちゃうなぁ。」
あやめは少し羨ましそうな顔をした。
「今回ばかりは諦めなさい。」
「わかってるって。」
「ところで、家はどうするんだ?教科書とかは最悪学校で言えば準備してもらえるだろうが。」
「どうしような……さすがにこの時間にこの人数誰かのところに押し掛けるのもな……」
「うちも狭いからな……裕一だけならなんとかなるかもしれないが、悪いが3人はちと厳しいな。」
「とりあえず朝日が上ってきたから学校が終わってから考えるかな……ふぁぁぁ……」
時刻は朝の5時を回っている。
この短時間での疲れと寝ていない疲れが一気に出てきたようだ。
「この体力で逃げ切れる自信はないわ……」
「あー、俺は徹夜なれてるからいいけど、なれないとしんどいわな」
「不知火様、自覚があるならちょっとは寝てください。」
伊吹の鋭い突っ込みが入る。
「へーへー、気が向いたらな。」
「まったく、倒れたら元も子もないんですよ?」
「お前は俺の母ちゃんか?」
「だいたいですね……」
伊吹は心配性らしく、不知火がたじたじになるまで説教していた。
その横で
「住む場所と着るものとタンポポどうしような……」
と思う裕一であった。
――学校。
「裕一、制服はどうした!?」
担任――森口 直隆――がすかさず突っ込む。
「えっと……」
「まあ、たまたまこいつの家の前通りかかったときに火事で色々焼けてしまったのを見てな。今はこの格好でも勘弁してやってくれませんかね?」
「む、不知火が嘘をつくやつには見えないからな……だが、制服の予備があいにく女子生徒用しかなくてな。」
裕一は嫌な予感しかしていなかった。
「……というと?」
「男物は昨日出っぱらってなぁ。1着はマーライオンして洗濯中、もう1着は鼻血がものすごい出たらしくてな。こっちも洗濯中だ。ちなみにおんなじような理由で体操服も女物しかないぞ。」
裕一に選択肢、決定権はなかった。
偶然の積み重なりで使えないのなら従うしかないのである。
「休みたいけどここまで来たら無理ですよねー」
「やめておいた方がいいと思うぞ?とだけ。そこに関しては俺に決定権はないからな。ただ……」
森口先生がチラッと窓の方を見る。
「あいつらからは逃げられないと思うぞ?」
「はぁ……」
ところで、忘れていると思うが、裕一は猫耳と尻尾つけたままである。
あやめはお留守番(もとい家探し)でいないが、猫耳と尻尾は健在である。
「……式使いねぇ。」
森口先生はなんとなく納得したようだった。
「まあ、俺も長いこと式使いやってるからなー、なあ、命?」
「ご主人、学校には呼ばない約束じゃ……」
「そこに2人式使いいるから問題ないだろ。」
「いえ……そういう意味では……はじめまして、命と申します。伊吹さんはお元気で?」
「ああ、あいつも会いたがってたよ。今度暇があれば遊びに来いよ。」
命が裕一の方に向き直る。
「ええ、是非。……あなたは新米さんですね。パートナーは……耳と尻尾からあやめさんですか。」
「やっぱり猫耳とあやめ(あの人)は有名なんですか?」
「まあ、バカで問題児で一途で脳筋で有名ですね。」
なんともひどい言われようである。
「えっと、あはは……」
「裕一の家がなくなってしまったらしくてな、終わってから協力してやってくれ。」
「御意。あやめ(バカ)だけなら心配ですし」
「すいません、何から何まで。」
「気にすんな。教え子を助けるのは教師の役目だ。その代わり、またあれ頼むよ。」
「あれ、とはなんでしょう?」
命が口を挟む。
「命にはちょっと言えないことかな。」
「裕一、一体……写真とか?」
「いや、うん、不知火の思ってるのをもうちょっと悪化させたものかな。」
後日、その写真が高値で出回ったのはまた別のお話。
はい、筆者の好きな猫耳はここで回収です。
次話は……もう予想つきますね?
女装させます、裕一を。