和製河童はオールマイティ
和製河童はオールマイティ。
突然だが、私の友人には泳ぐのが好きで好きでたまらない奴が1人いる。
いや、複数いられたら迷惑でしかないので1人で十分なのだが。むしろ、0.5人でもいいのかもしれない。
そんなアイツが、とある国語教師に言われた言葉がこれだ。短歌の下句にあたる部分で言われていた。
【和製河童はオールマイティ】
ツッコミどころが満載だと思わないか?
そもそも、河童に和製なんてあるのか?和製、ということは洋製もあるということだろうか?
河童、というのは原点をたどっていくと遠野物語に通じるはずなのだ。河童という単語それ自体かもうすでに和製なのであるから、和製なんて形容詞は必要ない。いや、洋製ではなくて中華製か?それなら可能性的にはあるのか…。しかし、実際ググってみたところ中国から由来した伝承ではなかったんだよな、珍しく。日本の方が、川が多くて溺れ死ぬ人が多かったからか?
しかし河童に和製、なんてつける必要はないと思うんだよ、うん。
その教師が何を言いたかったのかが不明であるし、短歌の1部分なのに7文字よりも多いし、オールマイティとか意味わかって使ってんのかよ!と突っ込みたいところなのだが。
ちなみに、オールマイティとは、
オールマイティ(almighty):英語の形容詞で「全能の」という意味である。(Wiki参照)
つまり
【和製の河童は全能の】
はい、ぜんっぜん意味わかりませんね!!楽しいですね!!
いや、上の句の内容が…確か、俺はどこでも泳いでたんだぜひゃっほい!みたいな感じだったから…それでもおかしいな。
それは置いておいて。
もう、私の中でぶっちぎりで色々と一位に輝いている言葉だ。
どうだろう、みなさんにもこの面白さが伝わればいいのだが…。
いかんせん、難しい。実際に口に出して読んでみるのもいいかもしれない。
私は笑ってしまって無理なのだが。
その短歌、和製河童はオールマイティという下の句に気を取られてしまって、上の句とかは忘れてしまったのだ…。
とても残念なことをしたと思う。しっかりとメモっておけばよかった。なぜ怠ったし、私!もっとしっかりしてろよ!…すぎたことを怒っても仕方ないのだが。
いや待て!思い出したぞ!!
確か…
カナダでも 日本では川で 泳いでる
和製河童は オールマイティ
By Y倉
っ、これだ!!
すごい、すごいぞ私!思い出した。よく思い出した!人間頑張ればできることなんだなっ!…こんなことをがんばってどうするよ。
和製河童はオールマイティで下の句だったか。なんだ、字余りではなかったな。失礼した。少々適当な物言いだったと反省している。
さて。
冒頭からつらつらと意味もなく述べてきたが、それもこれも一種の現実逃避で。
「ちょっと聞いてるかい!?聞けよ!おーい!?河童!!河童になれたんだよ!!」
携帯電話から響くアイツの、耳に心地よい低い声と、そのバカすぎる内容に頭を抱えてしまう。
「ばかじゃないの、お前。いや、バカにバカって言っても仕方ないんだよな。すまん」
「なれたんだってば!!」
河童になれたってどういうことだよ。いや、まずお前どこにいるんだよ。どんな状況なんだよ。これもまたツッコミどころが満載で、追いつかない。
間違っても、深夜にかかってきた電話の内容ではな…夢か!?
「さてはお前、夢でも見てるんだな!?」
「ちげーよ!!正気だし起きてるし!!」
「正気の沙汰じゃない!それならまだ…まだ、ショタショタ騒いでるバカの方がマシだ!」
どっちもどっちだと思うのだが。それでも…それでもっ、深夜2時にふざけた電話をかけてきて夢の中だった私を叩き起こしやがったコイツよりはマシ…マシ、か?
もうヤダッ。周りの友人にろくな奴がいない!
「あれは変態だ!一緒にすんな!」
「してない。お前の方が末期だと言っているんだ」
「ひでぇなおい!?」
「とにかく…どういうことなんだ、その河童になれたって」
「だーかーらー河童なんだよ!いま、河童になってて!」
「ラノベでも読みすぎたんじゃないか?」
くっ…貸しすぎたか!こんな悪影響が出るなんて…。かわいそうに、現実との区別がつかなくなってしまったんだ。
「なわけねぇよ!いつになく辛辣だよな!」
「当たり前だ。今が何時だと思ってるんだ」
「え、2時だけど…」
「寝てたんだよ!私は寝てたんだよ!!」
何なんだコイツは。よい子は寝てる時間だろう?
ほら、私は良い子だから!?高校生にもなって10時に眠くなるとかお子ちゃまかよ!って突っ込みながらも、その要求に負けて素直に寝てるから!?
2時とか、本当眠くて丁度変な気分…勢いに任せた思考・言動をしてしまう時間帯だから?まぁ、少々言葉づかいが乱れても問題ないよな!!アハアハハ。…すまない、取り乱していた。落ち着こう。落ち着け私。
「マジで!?そっかー…夜はこれからなんだけどな。わりぃ、切る」
「待て。待てよ。気になるだろうが」
電話を切ろうとしたアイツを押しとどめる。
状況が気になるだろう。
「勉強してたらさー」
「待て、お前が勉強してたのか!?ど、どどどうした!?ね、熱でもあるのか!?頭でも打ったか!?変なものを食べてはいないだろうな!?…ハッ、まさか自分でクッキー作って食べた、とかはないよな!?」
コイツは依然やらかしたのだ。クッキーに粉を入れ忘れる、というまさかの事態を。
つまり、それは卵とバターと砂糖でできているわけで…そう、材料配分がおかしい卵焼き、みたいなものを作り上げたわけだ。
食べて腹を壊していた。自業自得以外の何者でもないが。バカめッ。
「あのさ、言いたいこといろいろあんだけど…とりあえず、河童になれた宣言より、勉強してた宣言の方が驚かれたことに釈然としないんだけど」
「だ、だってテスト前でもなんでもないんだぞ?本当にどうしたんだ?」
「暇だったんだもん」
「…そうか」
かわいそうに、頭がどうかしてしまったらしい。よっぽど暇だったんだな。
「で、だよ。勉強してたとかそういうの別に関係ないだろ?河童だよ、河童!なれたんだって!」
「わかった。なれたんだな?よかったじゃないか、おめでとう。では、私は寝るからな」
拉致のあかない話に飽きた。明日も学校があるんだ。寝よう。こんなくだらない話に付き合う必要はないな。
「ちょ、おいまっ!?」
なにやら喚いているが、電源ごと切ってやった。ハハハ…ざまぁみろ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
おはよう、諸君。
私は絶賛寝不足を味わっているよ。
ハッハッハ…あいつ、殴り飛ばしてやるっ。
「おい、おいってば!おいこら美雨!!無視すんな!」
「してない。お前の話に聞くだけの価値がないだけだ」
「ひどくね!?いつも思うけど、お前ひどいよな!」
こんなバカ、ほっておいてさっさと教室へ行こう。
わざわざ鉢合わせないように早めに家を出てきたのに。なぜ、下駄箱で鉢合わせしてしまったんだ?もう少し頑張れよ、運命!
朝っぱらからなんで、コイツの顔を見なくてはならないんだか…。
不愉快極まりない。
「なぁ、なぁなぁ美雨さん?ちょいと今ひっどいこと思わなかったか!?」
「うるさい黙れ」
「ああ、辛辣!どーせ同じクラスなんだから、一緒に登校したっていいじゃんか」
「それはお前の問題だろ?もしかしたら、私は部活の朝練があって急いでるかもしれないし、委員会の当番があるかもしれないじゃないか」
「うそつけ。お前、部活も委員会も入ってないだろーが」
失礼な。私だって部活くらい入ってる。
「帰宅部所属だ」
「それは部活じゃねぇ」
ちっ、さすがにごまかされなかったか。
「水泳部は朝練ないのか」
「部活行ってねぇし」
「は?」
「部活行くより、自分で泳いでる方が有意義なんだよな、うん」
「ああ、そうか」
聞かなかったことにしたい。というかしよう。よし、私は何も聞いていない。
「そういえば昨日…ってか今日電話したことなんだけどさ」
そうだな、今日だな。深夜2時は、今日だな。断じて昨日ではないな。大事なことだから3回言ったぞ。
「河童云々?」
「そうそれ!ちょっと、放課後俺ん部屋来いよ」
はっ、何を言い出すのかと思ったら…。誰がお前の部屋なんて行くかバカが!
「断る」
「なんで!?窓開けて渡ってくるだけだろ!」
ああ、なんで私の家はコイツの家の隣に建っているのだろう?そんでもって、なんで私の部屋はコイツの部屋と50cmしか離れていないんだ!?ちょっとはがんばれよ、運命!
家を選んだ両親を恨みたくなってきた…。
「断固として拒否する」
「じゃ、じゃあ俺がお前の部屋行くからさ」
「もっと拒否だ」
バカなのかコイツはっ。ああ、バカだったな。
世間一般では、お年頃と称される男女が!特に男が女の部屋に上がるとか…付き合ってもないのに。許可するわけないだろ。
「うぐっ…でも、見てもらいたいんだよ!見てもらうなら、お前が一番最初って」
「一番最初。日本語間違ってるぞ」
「うっ。最初に見せるならお前なんだよ!」
何を…?
すごく不穏な単語だよ!いやだよ!
「そうか…どうしても?」
「どうしても!」
「なら仕方ないな」
ため息を一つ。
「いよっツンデレ」
「そういうこと言っていると、いかないからな」
「ごめん」
素直でよろしい。
「じゃあ、今日の夜か?」
「おう!」
くっ…どうして、コイツ相手だと押し切れないのだろうか?
ハッ、もしやこれが恋!?…なわけないな。コイツに恋とか、ありえない。ないない。
水泳が恋人なコイツに恋とか、ありえない。うん、気のせいに違いない。
「なぁ、美雨。またひどいこと考えてない?」
「気のせいだ」
ああ、気のせいに違いないだろう!!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
誰も待ちに待っていない夜。少なくとも私はうれしくない。来ないでほしかった。ずっと放課後。最高だね!
「…行ってもいいか?」
「おう!来いよ!」
アイツの部屋へ足を踏み入れる。ひさし…いや、一昨日ぶりだな。
…あれ、なんで一昨日行ったんだっけ?ああ…泣きつれたからクッキー届けに行ったんだった。
「生臭い」
くっさい。耐えられない汚臭。窓の方へ身を寄せる。しかしひどいにおい。川の濁ったところからするような…川のにおい?
「うぇ!?」
「…今度はいったいなにをかくしてるんだ!?」
この間は7年前に買ったとかいう水を置いていたし、その前は1年前のクッキーがあったし、さらにその前は魚、がいたな。うん、コイツバカだ。
「え、ええ?何も隠してなんてないけど…っていうかおどろかねぇの!?」
「河童だな」
目の前に河童がいた。きゅうり食べていそうな。尻小玉、とか抜くのかな?
本当に河童になれたのか…なんていうか、気力ってすごいんだな。
「うん、いやそうなんだけど」
「よかったな、いつでも川で泳いでいられるぞ。むしろ川に住めばいいのに」
さっさと私の前から消え失せないかな、コイツ。
川に永住とか、コイツからしてみたら夢のまた夢のようなことなんじゃないか?フフフ。
「くっ…安定の扱いだよなぁおい!わかってたよ、わかってました!少しでも驚けばいいのに、とか思った俺が間違ってましたー!」
「こんなことで驚く感性を持ち合わせていない」
この程度で驚くと思われていたのか…心外だな。
「ですよねー」
「…で、なんで河童なんだ?そのチョイスは」
「え?いや、だから気づいたらなってたんだって」
「変身セットか?」
「いや、聞けよ!」
「聞いてる」
「母さんにいったらさ、意味深に笑うんだよな。きっと親父に河童の血が流れてるんだぜ」
「いよっ、廚二病!」
「うるせっ」
「で、本当のところは?」
「だから、河童に変身してるんだよ、しつけぇな」
…そう、か。本当に河童になってしまったのか。
こういうときってどこに電話をかければいいんだっけ。ああ、NASAか。
ポケットから携帯を取り出してかけるふりをする。
「…もしもし、NASAですか?」
「うぉい!?売るな!!売るなよっ!!」
アハハハハ、本気で焦りやがったコイツ。バカだな。
「わかったから、人間の姿に戻ってくれ。見下されるのは嫌いだ」
「え?あ、本当だ!!美雨より背が高いぞ!…って、いつもだよ!」
「ノリいいな」
小六あたりから急成長しだしたコイツに、背を追い越され、常に見下される。身長、伸びないかな。
せめて、5cm差くらいにしたいよな。まぁ、無理そうだからあきらめているが。
「っていうか本題はそこじゃなくて!」
「む?河童に変身できたぜー(笑)じゃなかったのか?」
笑い事以外の何者でもないよな、本当に(笑)。
あきらめて窓のそばを離れベッドへ腰かける。逃がしてもらえなさそうだしな。…帰りたい。めんどくさい。
「ちょ、今看過できない何かが見えた気が…ってか笑いながら言うんじゃねぇよ!」
「これが笑わずにいられるか」
目の前に河童(笑)。しまった、語尾に(笑)つけるの癖になってきた。なんだか楽しい。
「失礼だな!でも、だって…今、俺河童だろ?」
「河童だな」
紛うことなく。
「その…」
「要点がはっきりしないなら私は帰る」
「待てよ!容赦も情けもねぇのか!」
「ないな」
「そっか。…いや、じゃなくて!…そう、悩み事なんだけど」
「河童になれたのに?あれ、お前将来の夢河童!とかほざいてなかったか?」
よかったじゃないか、早くも将来の夢かなったぞ。…それでいいのかは疑問だがな。
「いつの話だよ!いや、確かに言ってた時期もあったけど!だけど、それって親父にあこがれててで!」
「ああ、大地さん。元気にしているかな…?」
天国にいる親父さん。南無。空へ向かって合掌。
「元気だよ!単身赴任してるだけでバリバリ元気だよ!人の親、勝手に殺すな!」
「いや、流れ的に言っておかないとまずいかと思って。で、なんなんだ?」
結局、何が言いたいんだ?本題に近づくどころか、遠ざかっている気しかしない。遠ざけているのは私だがな!!
…笑えなかった。
「…好きな人ができたんだ」
そうかそうかそれはよかっ…は?
え?コイツに好きな人!?は、ははは…はは、マジか!よかったな!やったな!赤飯炊こう赤飯!!
…失礼、少々テンパってしまった。
「それと河童が何のかんけ…ハッ、相手も河童か!?」
な、なんか納得だな。うんうん。まさか人外に恋をするとは…いや、コイツも人外なのか。いけないな、まだ動揺が収まっていないみたいだ。
「ちげぇよ人間だよ!!」
即答である。よかった。そうか人間か。
しかしいつのまにそんな相手が…?クラス一緒だが、これといって変わったことはしていなかったんだよな。
あ、クラス…いや学年1の美女の河合姫子さんと最近よく笑顔で話してたな。彼女か?不似合いな気がするけど…それはコイツの自由だし。
「色んな意味でよかったじゃないか。…で、誰だ?」
真剣に聞き返してから吹き出しそうになって堪える。真面目に相談してきているのだろうから、失礼にならないようにうつむいて堪える。
だって、目の前に河童ww河童に恋愛相談されてるよ、私ww。といった具合である。
シリアスもくそもねぇな(歓喜)!!
「色んな意味ってどういう意…泣いてんの?」
「は?」
目じりに浮かんだ涙をぬぐう。いやぁ、近年まれにみる辛さだった。腹筋死ぬ。笑いって堪えるのこんなにも大変なんだな。少し肩が震えてしまった気もするがまぁいいや!どうせコイツだし!河童だし!あ、だめだ笑ってしまう。
再びうつむいて堪える。いやぁ、顔上げらんないな。上げる度に爆笑するぞ、これ。
チャンチャカチャン!!
~題して、河童の恋愛相談~
アッハッハッハッハ。…やっぱり笑えない。むしろ寒くなってきた。
「美雨!?」
「なんだ?」
爆笑してしまう自信があるから顔を見たくないのだが…。早く人間に戻ってくれないかな?いつまで河童でいる気だろう。生臭いんだが。出来ることなら近寄ってきてほしくないんだが。
「な、なな泣いて!?も、もしかしなくても俺に好きな人できたって聞いたら悲しくなっちゃった!?」
「バカか。自意識過剰にもほどがあるんじゃないか?なんでお前に好きな人ができたら私が悲しくなるんだ」
「デスヨネー」
引き攣ったえが…お?いや、河童の表情なんざわからないが、引き攣った声音からしてこいつはきっと笑っている。
何がしたいんだ?
「…一つ言っていいか?」
「お、おう!どんとこい!!」
胸をどんと叩くコイツ。水…みたいなのがはねてきた。いやだよ汚いな!!
「臭い」
「ひどい!!」
「さっさと人間に戻れ。私は河童の恋愛相談に乗りに来たわけじゃないんだ。大雅の恋愛相談になら乗ってやるがな」
「俺大雅じゃん!」
「河童にいわれてもな。本物をどっかにやって居座っているだけかもしれないだろう?」
「いや、なんで今更」
「ぶっちゃけ笑っちゃうから人間に戻ってほしい」
「はいはいはい!!ですよね!わかってましたよ美雨さんがそんな殊勝な人間じゃないことぐらい!!」
俺に好きな人ができたぐらいで泣きだすような奴じゃないもんな!
等とぶつくさ言いながらこちらへ背を向ける。軽く失礼じゃないか、コイツ?
どうやって変身するのかとワクテカしながら見ていたら、ぴたりと動きを止めた。
「どうした?気にしないで戻るがいい」
ブリキのように緩慢な動きで振り返ってこちらを見てきた。だからなんだ?
「…いや、戻ると全裸なんだよなって」
「全裸プレイか!?楽しそうだな!!」
成程成程!!今更コイツの裸体なんぞに興味もわかないが…そうだな!!
ポケットからカメラを取り出してセットする。いつでも準備オッケイだぞ!心して全裸になるがよい!!アッハッハッハッハ。愉快愉快。
「待て待て待て!なんだその危険なっ…なんでカメラ持ってんだよ!?」
「いや、お前が好きな女子にでも見せてやろうと思って」
「やめろよ!?俺、変態みたいじゃんか!!」
なに!
「違ったのか!?」
「変態になった記憶はねぇよ!」
「ふぅん…まぁそう言うことにしておいてやる」
「だから、後ろとか…その、みたくないだろ!?」
む…そうでもないな。きれいな体つきしてるからなー。
「いや?だって、お前の体、筋肉がついてて見てて楽しいぞ」
「っ、照れるだろ」
「河童が照れる…誰得!?」
少なくとも私は得をしていない。むしろ損してる。赤面している河童。誰得。誰得だよ。
あ、間違えてシャッター押しちゃ…絶望。妙にきれいな、河童の赤面した写真が撮れた。Oh…。
「まぁいいからちょっとこっち向くなよ!?着替える!」
「…うん、長引かせても面白くないしな」
おとなしく壁の方を向いて待機。あ、…あ。エロ本みぃっけぇー。布団の隙間に挟まっていた。…何々幼馴染系、と。おさな、なじみけい!?
「ちょ、美雨さん!?そ、そそそその手に持っていらっしゃるのは…」
着替え終わったのか、いきなり首を出して背後から私がつかみ取っているものを覗き見てきた。動揺してる動揺してる。ざまぁみろ。
顔が近い!ワンパンチッ。…ちっ、受け止められたか。
「あぶなっ…っていうかそれ!!」
「エロ本?18禁?フフ、大雅も男の子なんだねー」
幻滅?いや、そこまではしてないさ。ただ…幼馴染系はちょっとどうかと…。あまり夢見ない方が…。現実を…。
「見事なまでの棒読み!そして冷たい目!!あ、なんか気持ちよくなってきた…」
「へっ、変態!?」
「…ひどくね?」
「いつものことだろ。で、…誰なんだ?」
さて、人間の姿に戻ってもらったところで相談を聞こうじゃないか。これなら顔を見ても爆笑しないな。
むしろ見ていたいな。世間一般で言うイケメンに入る部類の顔つきだからな。親父さんもかっこいい人だが。というか、親父さんの顔つきと声はピンポイントで私の好みすぎてどうしよう!ほんと、会うたびに惚れ直すよ!妻子いるけどな!!目の前にいるのがその息子だけどな!
すまない、やっぱり動揺しているようだ。何しろ、
昨晩「俺河童になれたよひゃほーい」
今朝「家来いよ絶対な!」
さっき「ほら見ろ河童だぜ!」
現在「好きな人できたんだ」←now!!
だからな。なんていうか展開についていけていないのさ。
「えっと…言わなきゃダメか?」
「むしろどうやって恋愛相談するつもりだったんだ」
「深く考えてなかった。っていうか、美雨ならきっと応援してくれるかなって」
「そうだなー。頑張って振られてくればいい」
目の前に正座した大雅を詰る。ふふふ、気分がいい。見下ろすのって本当に愉快だな!
「ひどいっ!!」
「ま、そんなもんだろう?で、私に何を相談したいんだ?」
「んー…どうやったら俺のこと見てくれると思う?」
首を傾げてしまう。いや、そんなこと聞かれても、私はその女子ではないし。
「知らない」
「バッサリ切るな!」
「じゃああれだ。俺河童になるんだぜ!って言って、その子部屋に連れ込んで既成事実でも作ってしまえばいいんじゃないか?」
「犯罪だよ!!」
「いや。部屋に来る時点で、好意があるんだから丸め込んでしまえば…」
我ながら下種だな。っていうか、他人の恋愛ごとほどどうでもいいことはないんだが。
「それってお前も?」
「なんで私の話になるんだ?」
「いやだって、今いるだろ?河童になれるんだぜって、言ったから」
「あ…そういえばそうだな!」
盲点だったぞ。
「そうだよ!それで?」
「悪いがお前を異性としてみたことはないなっ!!」
これっぽっちもな!!
なにを期待しているのかわからないが…。
「言い切らなくても…本当に?全く?」
「しつこいな。大体、私なんかに異性として見られても仕方ないだろうに」
「そんなことないぞ!」
「そうかな?だって…いや、いい。なんでもなかった」
コイツのバカ顔と、奴の笑顔が被った気がした。
いやいや気のせいに違いない。なんだって今更。
コイツが恋愛―とか言ってくるからだ。
「なんだよ、言いかけたんなら全部言えば良いじゃん」
「お前に話しても仕方ない。で、私はどうすればいいんだ?帰っていいのか?」
「え、待ってよ。だから恋愛相談」
「…本当にする気なのか」
「だってお前付き合ってたことあるだろ?」
知ってたのか。ちっ、気づかれてないと思ってたんだが。
「昔な。それも小学生のころだぞ。まともに付き合っていた部類に入るわけがない。お友達の延長だ」
「それでもいいからさ。って言うか、そう言っておきながらお前まだ未練たらたらなんだろ?」
「うるさいな」
そんなの知ってる。けど、振られたっていうか…いやあれは完膚なきまでに綺麗に振られた。かわいくないって、言われてな。
嫌なことを思いださせないでほしい。
「怒った?」
「別に怒ってない。帰る」
ベッドから立ちあがって窓の枠へ手をかける。
別に落ちやしないけど、わずかに緊張するんだよな。いつものことながら。
「な、明日一緒に学校いけるか?」
「はぁ?なんでそう唐突に」
「ダメ?」
「ダメではないが」
「なら決まりな!明日迎えに行くまで家から出んなよ!?置いてくなよ!!」
「…まぁ、興が乗ったら」
「それでいいや、別に。じゃな。おやすみ」
「ああ、おやすみ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝。
いい天気だなー。ああ、実にいい天気だ。
陰気な空気を垂れ流してくるコイツが隣に座っていなければもっといい天気だっただろう。
邪魔だな、ほんと。
「なぁ、美雨」
「何か?」
話しかけてくるな。私は、授業の予習をしているんだ。
「俺さ、待っててって言ったよな」
「言われたような気がしなくもないな」
うん、言われた…かもな。昨日。ちょっと眠かったからよく覚えていないな。
「言ったんだよ!なんで、先行っちゃうんだよ!?」
「来るのが遅いからだ」
あー、それでこんなにも沈み込んでるのか。鬱陶しいな。
いつもより少し家を早く出てしまっただけじゃないか。別に、昨日の約束があったから早く家を出たとかそういうわけでは…一割程度、そう思っていたけど。
でも、昨日ちゃんと興が乗ったらなって答えていたし。問題ないな、うん。
「置いてかれた俺の気持ちがわかるか!?」
「すまん、私はお前じゃないからわからない」
「そうやってぶった切ってくるし…なぁなぁなぁ!!お前のことが好きなんだ、好きなんだよ――――!!」
「…突然なんだ?バカか?いや、このタイミングその台詞…マゾか!?」
ギョッとする。いきなり手を掴まれて引き寄せられた。
な、なんなんだこいつ!?
肩に顔をうずめて鼻水をすすってくる。…汚いな。ついたらどうしてくれるんだ。
「ううっ…だって、美雨だけなんだよ。俺には美雨しかいないんだ!!」
「…あのさ、なんか悩み事があるなら聞くよ?」
真剣に心配してしまった。つい、うっかり…。
「悩みごと?そんなの、わかりやすいはずの俺の愛がお前に通じないことだよ!!」
「はぁ?え、ちょ…本気?熱とか、ほら。なんか悪いものでも食べたんじゃないか?頭大丈夫か脳みそは…まぁいつも入ってないよな」
何言ってるんだコイツ?これは私、理解してしまっていいのか?
アイッテナンダ?
「いつもにもましてひどいっ」
「よーぉ、おっふたっりさん。楽しそうな会話してるじゃないっすかー」
よっ、と声をかけてきたのは同じクラスで大雅の友人?の目黒和忠。通称、ただ君。
ニタニタ顔が不愉快な…一回顔面にパンチを食らわせたい野郎だ。イケメンという部類には入っているらしい。どうでもいいが。近寄ってこなければいいのにといつも思っている。なぜか叶わないのだが。
「してない!断じてしてないぞ」
「美雨!」
抱き着いてくるな。近づいてくるな!
「うるさい、朝っぱらから盛ってんじゃねぇぞ」
おっと、言葉遣いが…。まずいな、まったく。これだからコイツと話していると…。
「ぐっ」
「…で、なにかようか目黒」
「苗字!?なんで!?いつもみたいにただ君って呼んでよー」
「なにかようですか、ただ君」
「なんで敬語なんだよ…ま、いいけどぉー。何々、ついにやったの大雅ー」
ついに、だと!?
待て待て待て!!それって…それって……?
いや、やめておこう。考えたくないしな!
「言ったよ!だけど即答で断られたよ!まったく…これだから美雨は」
「はぅっ」
悪寒が!なんだ、今のなめまわすような視線は!?こう…洋服をすり抜けて素肌を見られているような、なんていうか気持ち悪い。
体を抱きしめて、視線を避けるように縮こまる。…誰からの視線だろうか?気持ち悪いことこの上ない。
「はうっ!?か、かわいいな!!」
「…こほん」
かわいいとか言わないでほしい。どうせ本気で思っているわけではないのだから。
私がかわいいとかありえないし。
「で?いきなりなんなんだ?どうした、正気か?まぁお前はいつも正気じゃないがな!」
「辛辣!こう、ほら…な?」
「わけわからないし」
「なんでさー。ってか俺告ったよな?いま、まぁ勢いに任せてだけど告ったよな?な?なんか、ドキッとしたとか頬が熱いとかないの!感想は!?」
「…感想?って、今の告白だったのか?勢い?何それ、お前が?私に?ありえない、ないない」
お前の恋人は水泳だろうに、河童。
…笑えなかった。
あれ、何この状況。
「いやいやそれがありえちゃうかもなんですよー、なぁ大雅?」
ちょい、黙れ目黒おおおおおおお!かき回すなっ!!
え、ちょ…なぜにみなさん、そんな興味津々で見てくるんでしょう?面白くなんてないよ?見ても楽しくないよ?
「赤くなってるー」
「はぁ?冗談言わないでくれないか。疲れるから」
私の頬が赤くなっているわけがないじゃないか。照れる要素がどこにもない。
「冗談じゃないって言ったら?」
「…というか、大雅。一つ言っていい?」
「いいぜーどんとこいよー」
「曲りなりとも、女子に告白をしようと思うのなら、もう少しムードを考えろ」
「女子!?」
「女子。乙女。ハッ、だからお前は失格なんだ」
「しっかっ…ダメ出し酷い!勢いじゃんかー」
「勢いで告白したのか!?バカじゃないの」
「バカじゃねぇよ」
「どこが。…はぁ」
「そのため息!むっかつくなー。さすがの温厚な大雅さんだっておこりますよー?」
「怒れば。逆切れ乙」
「…確かに」
何をしているんだろう、私は?
そもそも、私のどこを好きだというんだ?だって、私はコイツに罵倒しかしてないし。…マゾ?
昨日は河童、今日は告白。
もうやだコイツ。
「なぁ、美雨。今日一日さ、こんなことしてるからちょっと付き合って」
こんなこと、とな。ふむ。
「私は喧嘩を売られたのだろうか?受けて立つ!!」
「ま、待って!待ってくださいお願いします!違うの!女子がどんなシチュエーションならドキってするのか聞きたいの!」
ぞわっとする口調だった。鳥肌立った。誰か助けて。
「…つまり、なんだ。実験台になってくれ、と。しかし…一つ言ってもいい?」
「うん?」
「あの…いや、私に告白する、のはいいんだけど。たぶんその子も勘違いするんじゃないかなぁーと」
「あ、あはははは!心配いらねぇぜ!だって俺、お前のこと好きじゃないもん。だから問題ないぜー」
なんでか胸が痛かった。なぜでしょうか?もしやっ…
もしかして:恋
アハハハハハ!!………笑えない。
って昨日もこれやったなぁ。何事にも鮮度は必要だよ?同じネタはくりかえしちゃだめ、ぜったい。
「それなら構わないな!ああ、all OK!ってやつだ!」
「無駄に発音いいな、美雨。で、今のどうだった?」
「さっきダメ出しを出しただろう」
「あ、そうだった。うん、そんな感じで頼むぜ!」
よし、悪乗りしてやろう。
っていうか、結論を『屋上の上から「愛してるうううううううううう!!」って叫ぶのがいい』にしてやろう。そうしよう。
「あーあーネタばらし早くない大雅ぁ」
「早くねぇよ!いまのタイミングでばらしてなかったら俺、美雨にボコられてただろ!」
「それもそっか。つまんねぇの」
ちっ、目黒が愉快犯だったか!あとでしめる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
今日は散々だった。
朝から大雅は「好きだあああ!!」とか告白(嘘)をしてくるし。
ちなみに、大雅が考えていた告白方法は数多くあって、授業中に3回、昼休みに4回、放課後に1回ほど告白をされた。
わぁいモテ期。
ドキッとするのはどれもなかったが。
というわけだから、大雅に吹き込んでみた。
「たぶんね、経験談で語ると…」
「語ると?」
「屋上で、愛してるううううう!!って叫んでもらえるのがうれしいんじゃない?」
「おう、そっか!」
実に疑いのないキラキラした眼差しで見られた。
少しだけ罪悪感が湧き上がってきたが、後悔も反省もしてません!
あれ、どうしてこんな話になってるんだっけ…?
―閑話休題―
今自分は大雅と一緒に屋上へ来ていた。
「好きな人の名前を叫ぶんだぞ?わかってるよな?一回しかできないしリハじゃなくて本番だぞ?」
好きな奴が校内に残ってるのかもわからないがな!
いなかったら、ざまぁwwって笑う予定だ。いても、ざまぁwwって笑うから変わりはないけど。
さぁ、もうすぐいうぞ!誰が好きなのか全くわからないが…叫ぶぞ!!
「よし、えーと…俺は!」
なぜそこで区切った。
目立ってる。
超目立ってる。
っていうか大声出しすぎ。校庭で部活してたやつらが固まっちゃってる。注目浴びてるよ、かつてないほどに!
やめて。私も目立ってるからやめて。…しゃがんで隠れよう。
ちらりと、なぜか目があった。
なんで見られたんだろう?私が見てるのは当然として、コイツが私を見下ろしてきた意味がわからぬ。
見下された、だと!?解せぬ、とでも言っておこう。
「美雨が、…じゃなくて、美雨を愛してるうううううう!!」
るー…
るー…
るー…
と夕焼けの中エコーが響いて、ひび…いて……
「はああああ!?」
カラスがカァカァ鳴いて頭上を通過していった。だまらっしゃい!
お、大声でコイツはナニを言った!?
同名の別の人だよな、うん。
いやいやいや!?
なんっていうか、こう…騙されたっ!!
好きじゃないって言われたのに!告白の練習台にされたのに!
最後の最後で愛してるっ!?
からかってたのがばれたのか!?
「ニヨニヨ」
「くっ…盛大に引っかかった!!くそったれ、こんな結末なら付き合うんじゃなかった!」
「これで俺の勝ちな!!今回は俺の勝ちだぜ」
河童にも、俺河童!にも、好きな人宣言にも引っかからなかったのに!!
「ううっ…一生の不覚!次は私が勝つ!!」
ちなみに何の勝負をしていたかというと、
1週間、どちらが先に驚かせられるか!第35回!!
というものである。
これまでずっと勝っていたのに、黒星をつけられたっ…。悔しい。
どうする?私だけが驚いてるのもなんだか癪だしな…起死回生の一手はないものか。
ああ、一つだけあるなー。というかほかにもあるんだろうけど思いつくのこれしかないなー。仕返してやるか。
「大雅はー!!」
「ちょ、美雨さん?なんで叫んでるんでせう?俺の勝ちよな?な?」
私がただで転ぶとでも!?
「目黒君とおおおおお相思相愛ですうううううう!!」
勝った!!
やりとげたよっ!これで明日からはホモォって学校中で噂になるねっ。おめでとう大雅!
「やめろおおおおおお!?そういうの、ほんとよくない!俺は美雨が好きなの!!わかる!?ねぇわかる!?」
「目黒君とおおおお!!」
ちっ、うるせぇ奴だな!もう一発行くか!?
「もういいよおおおおお!!やめてくれよおおおお!!違う!違うんだ!!俺は美雨が好きだし、女の子が大好きなんだよおおおお!!」
「河童も?」
アイの手を挟んでみる。ちょっと楽しそうだよな。うんうん。
「かっぱもだいすきだあああああ!!…ってあれ?違う!今のはちがぁーう!!」
「あはははははははは!」
置いてあった鞄をとって、大雅が行動するよりも早く階段を駆け下りる。
捕まえられるもんなら捕まえてみればいいんだ。
だから、私は知らなかった。
大雅が、
「好きなのは本当なんだけどな?まぁー、あれだ。もうにがさねぇよ」
とか、ニヤリとしてつぶやいていたことなんて。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「おい、待てよ美雨!ちょっとどうしてくれんだよおおおお!?」
目下のところは逃げに走るに決まってる。
ハハハ、ただでは転ばないよ!
夕焼けの中を制服姿で走り抜ける男女。実にいい絵だな!
後ろに鬼の形相の教師がいなければ!
捕まるのは大雅一人で十分だ!!
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和製河童はオールマイティから始まって、盛大な告白劇で終わる実に楽しい2日間だった まる