音
__君と僕は、この街に残されたただ二人の生存者。__
今日も騒がしい音で目が覚めた。
奴らは時間に囚われない。
今、この世界ではロボット革命がおきている。
旧型のロボットはこの街にたどり着く。
「ロボットに自由を。」
その名の元に作られたこの街。
そんなものではない。
ここには、壊れたロボットや部品をなくしたロボットが無造作に“捨てられていく”。
週に五回ほど、大型のトラックがやってきて、大量にロボットを捨てていく。
そのトラックを運転するのまでがロボットだなんて。
この街に、僕以外の人間は存在しない。
__恐らく。
僕は、家族に捨てられた。
そして、この街で、生きていく。
ロボットとは不思議なものだ。
人間が命令せずとも集まったロボット達は通路をつくり、水を引き、田を耕す。
そして人間のすむ町と変わらない街をつくりあげた。
家は同じような形が多いが住むのに不足はない。
お手伝いロボットやらなんやらが家を常に磨きあげる。
品物の売れない店があり、誰もこない施設がある。
そう考えると、ロボットでさえも、思考を持っているのでは、と思う。
___そんなはずは、ない。
そして今日も、広場にロボット達が捨てられる。
その殆どは、まだまだ使えるであろう。
中にはメモリーをリセットしていないものもある。
飼い主を失った飼い犬と一緒だ。
ロボットにも、寿命がある。
製造日から○○年、のように書いてあり、そのときを迎えると機能をやめる。
この街にも、そんなロボットが溢れかえる。
そうしたロボットは、街の隅に積み上げられ、トラックが回収していく。
__その後は、僕にはわからない。
トラックがロボットを回収してこの街を出る。
そして僕は、広場へと行く。
メモリーをリセットするのが、僕の日課だった。
広場へ行くと、どこからか聴いたことのない音が聞こえた。
それは、歌だった。
僕は引き寄せられるように、音源へと近づく。
「え…………」
そこにいたのは、僕にそっくりな顔をした女の子だった。
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彼女の名前は凛。
僕の名前は、蓮。
僕らは不思議なほどに似ていた。
好むものも、考え方も。
僕らは、この街の、ただ唯一の人間。
この街で僕らがお互いに心を開くのに時間はかからなかった。
凛も僕と同じく、家族に捨てられたらしい。
そして僕と同じように、この街にやってきた。
「死ぬまで一緒。」
それは仕方のないことでもあったし、僕には甘い響きにも聞こえていた。
二人で、色々な事を話した。
話すことがなくても、僕らはきっとどこかで繋がっていた。
凛が居たから。
“日常”は
“幸せ”になった。
僕らはお互いにお互いを必要とした。
それはきっと、この街に生きる人間が僕ら二人だけだから。
僕らは、僕らを、失いたくなかった。
そして、時は流れた。
僕らはこの街で、現実とは無関係に。
僕らの時を生きた。
一生一緒。
それは言葉だけではない。
一分一秒を過ぎるたび、より真実となっていく。
時はいくつ流れたのだろうか?
ロボットの街は今も変わらず
きっと人間たちの醜さも変わってはいないだろう。
そんな時。
そう、時は流れれば
終わりが近くなる。終わりに近付いていく。
僕らにもすぐそこに、終わりが近付いていたんだ。
凛は、それに、気付いていたんだ。
ずっと、ずっと、ずっと前
僕らが出会った頃から__
『私は、ロボットだよ。蓮と、同じ日。同じように作られた。』
凛は言った。
『そして、蓮の方が期間が、長い。』
凛は僕らを現実へと引き戻す。
“僕たちは、ロボット。”
“捨てられた。ロボット。”
僕は凛を愛していた。
——きっと。
僕は凛が好きだった。
——たぶん。
これは感情?
そうか僕は感情を持ったのか。
ロボットだったというのに。
僕もまた、人間につくられたものだったというのに。
僕はロボット
そして僕は、人間だったんだ。
そして
いつしか現実の時に戻ってきたとき
凛はその期間を終わらせた。
僕は、凛をそっと抱きしめ、人間というものを、深く考えた。