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魔女と予言と罪

作者: 両生類

マルーゲニの予言(『息子ゼーヘルへの手紙』より・訳文)


 終末は魔女の足音と共に遣ってくる。羽ばたく黒い羽根をもった小さきもの達が空を覆い、太陽の神に焼かれたそれの死骸が灰となって地に降り積もる。その黒き灰は葉を枯らし土を汚し水を毒に変えた。―――(欠損個所)―――魔女は鞄を小脇に遣って来た。魔女の鞄は呪いの鞄、その中には全知全能なる悪魔が収められている。生きながら腐る毒を撒き散らし、世界を汚泥の色に変え―――(欠損個所)―――魔女は鞄を小脇に――(欠損)――世界の繋ぎ目を目指す。そこから滅びが始まるのだ。汚泥の色に変わった大地に、呪いを運ぶ乾いた風、燃える黒い羽根をもった小さきものの炎によって赤く染まった空、生きながら腐り果てそれでも死に怯え恐怖に染まった―――(欠損)―――わたしは滅びを待つだけの子ども達に、せめてもの助けになる言葉を遺さなくてはならない。魔女と呪いの鞄を逢してはならない。魔女を探し出さなくてはならない。魔女を世界の繋ぎ目に行かせてはならない。―――(欠損)―――全ては魔女から繋がっているのだから。



《オペラ座・玄関前ロビー》


 若い娘が息を切らせながら人波の中を縫うように走り抜ける。娘に似合わないその焦燥に駆られた表情は、彼女が何かから隠れ逃げていることを窺わせた。いや、そのような顔をしているのは彼女だけではない。同じ空間にいる大勢の人たちも、娘とは若干理由が違うが同じように混乱し恐怖に怯えた顔をしていた。彼女は怯え不規則な動きをする人々にぶつからないように、自分を追う見えない追跡者を探すように時折後ろを振り返った。

 理由ははめ込み式の窓の外を見ればわかる。そとは昼間だというのに薄暗い。なぜなら太陽が厚い雲にではなく、黒い羽根をもつ小さきもの達によって遮られているからだ。人々はその光景に予言の始まりを思う。彼らはひそひそと囁きだす、これはもしや滅びの始まりではないのか、と。そこかしこで「世界の終末」「予言」「魔女」「死」と単語が上がり、人々の不安は膨れ上がり留まることを知らない。彼女は怯え不規則な動きをする人々にぶつからないように、自分を追う見えない追跡者を探すように時折後ろを振り返った。時折あがる「魔女」という声に顔を歪めながら。

 娘が振り返り、雑多に動く人の荒波のなか誰かを探すように目を細めた。だがその時、突然誰かにその腕をつかまれた。瞬間、体を恐怖に強張らせる娘。しかしそれは長くは続かず、娘は己の腕をつかむ正体に気いて別の意味で体を震わせた。娘を拘束する腕の主は、娘の軽い体を抱き寄せる。いっそう、娘の震えが激しくなった。


 

 (ああ、見つかってしまった…っ)

 自分を魔女と呼び殺そうと追う追跡者にも、自分に滅びの予言を実現させようとする者達の誰よりも、私は彼にだけは捕まりたくなかった。

 (――いいえ、本当は捕まってしまいたかった。)


「やっと見つけたっ!!どこも怪我はないか?」


 息を切らせる彼。きっと私を必死に探したのだろう、……私から消えたということを知らずに。私が何も言わずに彼から逃げ出したことを知らずに、こんな大勢の人の中から私を見つけ出した。

(できることなら全て打ち明けてしまいたい。)

 でも駄目。私がいずれ魔女になる女だという事も、魔女の呪いの本当の事も話せない。もし話せば彼は私を呪いから守ってくれるかもしれない、そのために彼の人生を捧げてくれるかもしれない。でもそれは駄目、きっとできない。

 別に彼を危険な目に合わせたくない、巻き込みたくないと思っているからじゃない。ただ私が彼を信じきれていないから、私の話を聞いて、彼が私をその瞳の色を憎しみに変えて殺しに来るかもしれないって、私は心のどこかで思ってしまっているから。そんな、どこまでも自分勝手なことしか思えない私。

 (――こんな女には、彼を愛することも許されないわ…)

 でも浅ましく私は彼に縋ってしまう、自分から彼の下を逃げ出したというのに、こんなに心配してくれる彼を信じられないくせに、彼から離れたくないなんて!なんて都合がいいのかしら。浅ましい自分への嫌悪と、どこまでも優しい彼に、胸が苦しくなる。これは罰なのだろうか?魔女という運命さだめをもって生まれてしまった私への………、


 「――どうした?顔色が良くない……やはりどこか怪我をッ?」


 私が怪我をしていると焦る彼に、私はどうにか「……ううん、どこにも怪我なんかしてない、大丈夫よ」と言う事しかできなかった。




《娘と呪いの鞄》


 黒い灰が街を覆い染まり始めた汚泥の色から人々は逃げ出そうと我先に街を飛び出す。汚泥の色が迫る街は死の気配しかしないゴーストタウンと化していた。

 割れた道路、コンクリートの欠片が散らばりそこかしこで小さな火種がプスプスと燻っている。折れた街灯の下、ゴミが錯乱し僅かに異臭を放っているそこで娘は薄汚れた鞄を見つけた。それが視界の中に入った途端、娘は鞄から目を逸らせなくなった。


 (―――見つけた)

 見つけた、見つけてしまった。やはり私は予言からは、呪いからは離れられないのだ。でもどこか、私の心はこの絶望からは遠く離れている気がした。現実味が薄い訳じゃなく、私はただ「呪いの鞄を見つけてしまった」という事実を、ただ自然に受け入れていた。

 (…ああそうね)

 それはきっと、私が呪いを始める魔女だと知った事よりも、予言からは決して逃げられないと決まった今よりもずっと、彼を信じ寄り添い、愛することができないことに私は絶望を感じていたからかもしれない。


 何かに操られているように娘はそっと、鞄を手に取った。




《娘の告白と別れ》


 「ごめんなさいッッ!!!わ、わたしっ」


 懺悔する娘、振動で零れ落ちた涙。男は遠ざかるヘリに向かって追い縋りながら叫ぶ。

 「待ってろ!!必ず迎えに行くから、絶対に生きて待っていろっっ!!」

 娘は男の言葉に、否定も肯定もせず、ただ悲しそうに笑うだけだった。

 

 男は連れ去られた娘の行方を、力強い目で見つめ続けた。




《魔女の真実と世界の滅びを望む老人》


 「――カカカっ!別に魔女なんぞ誰でも良かったわ、ただ呪いを発動させる為のエネルギーでさえあればの!!」


 魔女の呪いの真実を語る老人は、黄色い歯を剥き出しにして気味悪く笑った。

 魔女はただの燃料であり呪いを発動させるためのスイッチに過ぎなかった。新しい世界を作るために今の世界の崩壊を画策した老人たちは、ただ魔女という記号を世界に放り込み無作為に魔女を選んだに過ぎないと。娘の恐怖も苦悩も、娘の感情など路肩の石にも劣るのだと男を嘲り笑った。


 「呪いは発動した!!卑小で脆弱な世界など今この場より捨て去り、我等は新しき世を創造するのだ!!!!」

 世界の再生を老人は赤い空に向かって朗々と語り、狂った笑い声をあげた。




《男と呪いの魔女の救い》


 男は空中に浮かぶ、黒く濁った球体を見つめた。それは汚泥に包まれ呪いのエネルギー源と化した娘が入っていた。

 先ほどまで世界の創造を盲進し続けていた老人は今は冷たく物言わなくなった。だが止まらない呪い。老人は言った、この呪いは強い意思だと、この穢れきった世界を再生させたいと思う大いなる意思が呪いを動かしているのだと。だから人如きに呪いは止められない、止めようとすればその存在も汚泥の中に取り込み呪いは世界の崩壊の為にさらに死を撒き散らし続けるだけ。このまま呪いが続けば、ある少数の人間だけを残しこの世界は美しく強靭な世界へと再生されるのだと。

 死に際老人は男に言った、お前の理由などこの世界を再生させるという偉業の前では些末なものなのだと。だが男は老人の死骸を見ながら思った。己が彼女を救おうとするのも、老人が夢見た世界の再生も、人の生き死にの理由さえも、何の関係の無い人間からすればそれは老人の言った通りどれも些末な問題なのではないのか、と。己のこれから起こす行動で、閉ざされるかもしれない未来など、聖人君子ではない己にとっては、それこそ路肩の石ほどの価値しかない。自分にとってはただ、目の前に彼女を救う理由が、他の誰の命や運命よりも勝っているだけなのだと。


 一人納得した男は、目の前の汚泥に手を入れた。




 結局魔女になった娘は救われたのだろうか?それとも救われずに呪いと汚泥の中に消えたのだろうか。

ただ世界は再生されることなく、徐々に世界を染め上げていた汚泥の色は引き、空を覆っていた黒い羽根をもつ小さきもの達は、悉く太陽に燃やし尽くされていった。


 人は、今ある己の生を喜んだ。






てゆう夢を見たのさ!(笑



本当にこんな夢を見ました。起きてから最初に思ったのはオジサンと少女ってなんか危ないよね!てことでした。

夢は自分の深層心理を写したものだとよくいいますから、ちょっと「うわァ」って自分について引いたりしました。

ちなみにここに出てくる「娘」は明るい髪の可愛いちょっぴり大人びた感じの少女です。好みですね!

「男」はちょっとヨレタ感のある煙草の似合うマッチョかね、たぶん。


夢はやっぱり夢だからあやふやなもんで、ストーリーしっかりのラストばっちりの新設設計ではありませんでした。なので、抜けた穴や「娘」「男」の心情などは私の想像で補完し、なんとか書いてみました。文才の無さを痛感。


感想など、こんあ夢みたことあるよで良いので何か頂けたらものすごく喜びます。

ここまで読んで頂いてありがとうございました。

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