第一章/四話『ゲームのアイテム』
――あー、あー。音入ってるかな。すみません、お待たせしちゃって。
――全然大丈夫ですよ。場所をここでってお願いしたのは僕ですしね。
イヤホンを付けてボイスレコーダーを再生する。どうせ警察に聞かれるのだから、揚げ足を取られないように確認しておかないとならない。覚えのある会話を聴きながら、その奥に大学生たちの会話がまばらに入っているのが確認できた。
声の小さい射鹿が喋ったことはほとんど拾えていないし、颯の声は途切れ途切れだが、声の大きい灰里、翔馬、桃の声ははっきりと乗っている。
――ねえ、お姉さん、とっても綺麗だね。一緒に勉強付き合ってくれない?連絡先教えてくれたら、今度お礼するからさ。
しばらく自分たちの会話を聞いていると、灰里が千歌をナンパし始める。そして、また始まったといった雰囲気の大学生たちと、迷惑そうなバイト店員の声が続く。
――人間観察することもあります。こんな子がいるんだな、とかそういう引き出しもあるな、とか思えて自分に無いものを知れますから。あの店員さん、大丈夫ですかね。
――へえ、そうなんですね。……たしかに、かなり揉めてますね。わあ、店長さんらしき人も出てきた。
たまたま自分が灰里と千歌の様子に触れたおかげで、店内の騒動に対するリアクションも入っている。詩杏は感情が顔や仕草、声のトーンに出るようで、分かりやすくて助かる。
――ちょっと灰里、今日はダメだって言ったじゃん!
――灰里は今日、ここから離れないようにしようよ。また面倒起こされてもたまったもんじゃないし
――はいはい、もう動きませんよ〜。でもあの子かわいかったくない?
――頭の中お花畑なんじゃない?そんなんだから勉強終わんなくてイルカと佐倉くんに泣きつくんでしょ
――俺、今日はもう灰里のこと手伝わないから。
灰里の行動は大学生たちから非難轟々だ。それから必死になって課題をやっているようで、一度は静かになる。
その間も詩杏と理人の会話はテンポ良く進む。どうやら聞かれて困るボロは出していないようだ。これだけでやらかしていたら、とっくに日光を拝めなくなっているだろうから当然か。
――加々良さんはよくやる癖ってありますか?僕はさっき言ったみたいに人間観察なんですけど。
――私ですか?私はそんなに自覚してるようなものは……あ、メモを取るのは癖?かもしれませんね。
さっきまで大人しくしていた大学生は課題に行き詰まったのか、それとも無言に退屈したのか。テンポの良いやり取りをまた始める。ちょうどその頃には、こちらの会話がひと段落していた。だから、そのやり取りは記憶に残っている。
――射鹿さーん、あの、助けてくれませんかね。
――無理。自分でやって。
――どーするだよ、灰里。お前が店員さんナンパしたせいで射鹿ちゃんのご機嫌ナナメじゃん。
なるほど、どうやらこのボイスレコーダーは、灰里を含む大学生の無罪を証明するアイテムであるらしい。昔遊んでいたゲームのようで心が踊る。
容疑者が減ったことで助手が犯人である確率は高まったが、この手のゲームなら終盤までは裏切らないだろうから、今は触れなくていいか。下手に触れて怒らせてしまったら、助手を辞退されるかもしれない。それは困る。
「聴き終わりましたか?刑事さんに渡してくるので返して貰えると助かるんですけど」
「ありがとうございました。無理言ってすみません。渡す時に、灰里くんは犯人じゃなそうです――とでも言い添えたら加々良さんの目的も達成できるんじゃないですかね」
「さすがの洞察力というか、一回聞くだけでそこまでわかるんですか」
そう言いながら懐にボイスレコーダーを仕舞う詩杏はちらりと縁の方を見る。犯人候補第一党、気になるのは当然か。
「ではお約束通り一通り話を聞いてきますよ。どんな話をお望みですか」
「縁くん、君のテーブル前を通り掛かったのは誰か全員言える?」
「店員さん二人と、スーツの男の人だと思います。オレの次に疑われてる人、騒いでたのはあの五人のテーブル付近で、こっちまでは来てないですよ」
「やっぱり?……なら、店員二人にミルクを運んでからカウンターに戻るまでの様子と、隣の席の男女に縁くんにしたのと同じ質問を。スーツの男性は店内歩いたときに見たものとかかな。あとは記者である加々良さんが必要と思った物を」
適当な指示でも彼女はきちんと情報を持ち帰ってくる。今日一日インタビューを受けてて思ったのだが、中々真に迫ってくる記者なのだ、詩杏は。
それだけ聞くと、詩杏はさっさとボイスレコーダーを持って行ってしまった。次に戻ってきた時には多くの情報を土産にしてくれるだろう。
このままでは詩杏が助手より助手だ。物語として座りが悪い事この上ない。そろそろ縁には助手らしい仕事をして貰おうか。
「質問コーナーにしよう。僕が君に質問するから、君も僕に質問していいよ」




