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第一章/三話『つまらない証言』

カップルの証言

「咳をしていたから風邪気味だとは思ってたんです。体調が悪化しただけだと思ったけど、まさか死んでしまうなんて」

「会話内容、ですか?申し訳ないけど聞いてないです。わざわざ隣の人の会話なんて聞かないでしょう?」



担当編集者の証言

「オレはやってないですってば!……今日は講演会の打ち合わせに来ていました。はい。先生の出身大学で講演会がしたいと仰っていたので。まさか亡くなってしまうなんて……恨まれるような人ではなかったと思います。仕事上の関係なんでプライベートとかはわかりませんけど」



大学生の証言

灰里かいりはやってない!確かにチャラいし、性格悪いし、どうしようもないヤツだけど、人を殺すなんてしない!」

「そこの髪が赤い人がやったんじゃないですか。同じ席だし、いくらでもできたでしょ」

「店員さんとか一緒にいた人とかいるじゃん、きっとその人たちだよ!私たち誰もその人席に行ってないもん」

「灰里は犯人じゃない。信じてください」

「オレはやってません。そもそもオレはあの人が誰かも知りません」



会社員の証言

「神楽衣紋の小説は知っていたので、まさか亡くなってしまわれるとは。はい。私はあの席でずっと仕事を。恥ずかしながら、まだ仕事に慣れていなくて。パソコンは見ていただいて構いません、特に面白みのないものですよ」



記者の証言

「はい。私は被害者の方とテーブルが離れていたのであまり詳細は分かりません。神谷かみや先生は店内を気にしてらしたので、何か見ているかもしれませんが」



作家の証言

「期待の新人作家先生が亡くなってしまうだなんて。同じ出版社ですから、良い人がデビューされたな、と思っていたので残念です。もちろん僕はやってないですよ」



店員の証言

「私たちは毒の入ったメニューなんて絶対出してません。衛生管理にも気をつけていますし、厨房で何かが入るなんて有り得ません」

「事件前のトラブル……ナンパに遭いましたけど、よくある事ですよ。斎藤さいとうさんが助けてくれましたし、男の人もお友達に回収されましたし、それだけです。亡くなった方が近くに来たということも、なにかしていたという訳でもありません」




警察に店から出ないように言われたが、店内では割と自由に過ごせていた。もちろん、被害者に近付くことは禁止されたが、その程度である。

広くない店内では事情聴取も筒抜けで、耳をすませば簡単に内容が聞き取れる。



被害者は咳をしていた。ここに来た目的は、近々行われる講演会の打ち合わせ。事前に出版社と作家で内容を擦り合わせるつもりだったのだろう。


大学生たちは特に疑われている灰里が犯人ではないと主張するだけで何か情報を出しているわけではない。

強いて言うのならば、彼が作家であるということは誰も知らなかったということくらいか。


ナンパには被害者は関わっていない。それは見ていたので嘘では無い。

厨房で毒は持っていない。それは毒物検査で嘘か誠かはすぐに証明されることだろう。



「で、何かほかに無いの?」

「オレ、警察に話したこと理人りひと先生に言いましたっけ?」

「聞こうと思えば誰でも聞こえるよ。みんな興奮でいつもより声が大きいんだろうしね」

「そういう問題ですか……」


証言に面白みを求めていた訳では無いが、トリック究明の役に立つとは思えない。警察は犯人を調べているのだから、観点が違うと言われればまあその通りだ。



「全部お話してますよ、隠す必要も無いですから」

「まあ、犯人じゃないって言い張るならそう言うよね」

「無罪信じてくれてるんじゃないですか!?」

「信じてるよ。それで君に黒塗りされて僕が犯人として指名されても面白いよね」


ため息を吐くえにしを揶揄うのは程々に、理人は手帳を開いた。本当に彼が犯人だったら面白いのにと思いながら。

縁を助手にしたのだから、情報共有はしなければならない。文句を聞き流しながら、情報を手帳に書き出した。


「君に話を聞いてきてもらおうかと思ったけど、大半が君を犯人扱いしてるんだから上手くいかないか」

「悪かったですね、役に立たなくて」

「うん。君にできることはカフェに来てからの様子を一言一句違わず思い出すことだから頑張ってね」



少なくとも大学生五人は縁を犯人として見ている。ポーズとはいえ、縁を庇った理人のことも、五人は目の敵にしているだろう。


犯人候補の次点は普通は店員だと思うのだが、灰里はそんなに怪しかったのだろうか。


詩杏しあんに聞いてもらうのが安牌か。理人の次にこの状況をフラットに見ているのは詩杏だ。情報を渡すとでもいえば、協力を取り付けるのは簡単だろう。



加々良(かがら)さんも謎解き、興味あるでしょう?大学生さんたちからお話、聞いてきてくれないですか」

「……神谷先生が変わった人、というところの本領を見ている気がしますね。もちろん、ご協力させてください。その代わり、ボイスレコーダーは警察の方に提出してもいいですよね?個人情報だから一度神谷先生に許可を取ってくると言って、まだ持ってるんです」

「いいんですけど、その前に一度それを聞かせてください。僕の発言が矛盾してたら僕が怪しくなってしまいますから」


理人に作家魂があるように、詩杏にも記者魂がある。同じ字書き同士通ずるものがあるのか、詩杏は二つ返事で了承した。

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