第二章/四話『ゲームスタート』
いってらっしゃい、とバンから追い出され一人。縁は雑居ビルの前で立ちすくんでいた。バンは縁が降りるとすぐに、エンジンをかけてどこかに行ってしまった。真相を突き止めないと迎えは来ないだろう。
プルルルル、プルルルル。
縁のスマホが鳴っている。秋月だろうか、理人のことは言えない。電話を切ろうとスマホを取り出す。そこには『理人先生』と表示されていた。
拒否しようとしていた指を慌てて応答へ持っていく。スマホを耳に当てれば、もしもし、という理人の声がした。
『電話は繋いだままにしておいて』
それだけ言うと反応が返ってこなくなった。画面を見れば、理人はミュートになっているようだ。何度呼びかけても反応はない。理人の都合のいいタイミングで声を掛けるつもりなのだろう。ワイヤレスイヤホンを片耳に装着して、深呼吸をする。
意を決して扉を開けると、キィ、と軋んだ音を立てて木製のドアが開いた。階段を登って、二階へ。そこには映像で見たあの殺人現場が、現実として広がっていた。吐き気を飲み込む。ここで吐いては何も始まらない。
「誰だ」
「……申し訳ないけど、メンバーが亡くなってしまったの。貴方に気を回してあげる余裕はないの。他をあたってちょうだい」
ガタイの良い男性が縁を睨んでいる。この面々を取り纏めているらしい女性が縁の近くまでやってきて、縁を追い返そうとする。当然ながら、歓迎はされない。
「オレが犯人を突き止めてみせます。それしかオレには道がない」
「何言ってるの。……ワケありなのはわかったから私たちを巻き込まないで」
「貴方たちの不利になるようなことはしません。オレに捜査の協力をさせてください」
やることといえばひたすら頼み込むことだ。誠意第一。信用のできない赤の他人ができることといえば、それだけである。
縁があまりに全力で頼み込むので、女性は若干引いている。
「……そんなに言うなら好きにしなさい。でも、警察には通報しないで。この子があんな親に弔われるなんて浮かばれない」
伏し目がちに女性がそう言うと、縁は中へ入ることを許される。まわりも、女性が許せば文句を言うつもりは無いのだろう。
睨んでいた男性も、こちらから目を離そうとはしないが暴言が飛んでくることはない。小さな女の子を抱えているから、暴言を覚えないように気をつけているのかもしれない。第一印象が強面だからと決めつけるのも良くない気がするが。
「私は宮本可子。このメンバーのリーダーみたいなものよ」
先程のリーダー然とした女性が名前を名乗れば、自然と自己紹介をする流れができあがった。
「北島裕也。力仕事を担当している。それと、うちの娘の葵だ」
女の子を抱えた、目つきの悪いガタイの良い男。廃墟に住んでいると思えないキレイな身なりの女の子。葵は可愛がられているのだろう。
葵は眠っている。共に生活していた少女が亡くなったと知らないのだろう。知らない方がいいことだ。小さな女の子に知らせるには酷な話に違いない。
「根角笑利です。頭脳担当ってところですかね。まるで探偵みたいな貴方のお名前を伺っても?」
黒縁の眼鏡をかけた細身の男だ。女の子が目覚めないかを気にしている。目が騒ぐな、と縁に訴えている。
「神巫縁です。……上司に言われまして、真相を暴けと」
「本当に探偵さんみたいですね。探偵というより見習い?」
柔らかい男だ。この面々に害を成すなどの下手な事をしなければ親切にしてくれそう。縁に一番丁寧に接してくれる人だ。
「亡くなった女の子は西園紗月ちゃん。傍にいる男の子が西園智樹くん。お兄ちゃんと妹ちゃん。智樹くんの傍にいるのが金田陽稀。ここに住んでるのは以上よ」
泣き崩れている青年とそれを宥めている青年には自己紹介をする余裕がないようだ。その代わりに可子がサッと紹介をしてくれる。
縁はその自己紹介を必死に手帳にメモしている。身体的特徴も全力で記録すると、誰が誰かという事を覚えることができた。ここでコケると明日を迎えられない可能性があるのだ。
「お話を聞かせて貰ってもいいですか」
明日を迎えるために、調べて、正解を出して、理人に満足してもらわなければならない。




