戦乙女はその傍らに青い鳥の実在を信じる事ができるか①
「ふんふんふふふふ~ん」
調子外れの鼻歌が響く。下手くそで不愉快な、しかもそれを聞く観客は自分の他に誰も居ない。
がちゃがちゃと、体の内側を持ち主の許可なく掻き廻す指の感覚は、それを感じていない筈なのに、まるで小さな虫が食い物を探して這い廻っている様で酷く不快だった。
ああ、そうだ。この意識の発生から、ずっと不快しか感じていない。
この暗く、檻のような部屋が今の自分の知る世界の全て。
この冷たく、永久に続く冬の様なそれが自分の知る一つの温度。
「ふふふふ~ん。ふ、ふ、ふ、ふ~ん」
そしてこの、不快な鼻歌。これが、自分の知る唯一の音楽だった。
いや、それは違う。その表現は正しくは無い。
ぎちりと音を鳴らし、自分が二つ、その意志で自由にできるうちの一つを動かした。
左手の、手首から先。掌を強く握りしめて不快に感じる全てを耐える。
その自由を許された理由は何だったろうか。確か、この地獄の始まりで、痛ければ左手を上げてねだとか何とか、そんな理由。まあ、幾ら意思を示したところで受け手にその気が無いのだから意味は無い。伝える努力を試みた回数を数えるのを止めた辺りから、左手はこの時間を耐える為以外には用いられていない。
「うふ、ふふふふふ。ふふふふふ」
どうやら興が乗ってきたようだ。腹を掻き廻す指先は跳ね、不快な水音で肉を弾く。こうなると暫くは止まらない。それまでは感じていなかった、眼に見えない筈の痛覚が白く黒く明滅し。強く握る手の内は白く、そして何度も繰り返した意図せぬ自傷行為で赤く染まる。
喉が有れば叫んでいただろう。下顎から声帯に至るまでを欠損したこの躰では鼻歌に合わせたデュエットは不可能だ。
右手が有ればこの行為を止めさせられたかもしれない。けれど左手以外の四肢は、欠けていて中途半に存在しない。これでは伴奏も出来ない。左手のみでは嫌味代わりの拍手も送れない。
音楽は続く。下手くそな鼻歌、自分というピアノの鍵盤である肉と血と、欠損を埋める鉄を。指と爪が弾く音。始まりは最早曖昧で、何度も繰り返されたda capoは、その終わりすら許してくれない。
殺してくれと、終わらせてくれという懇願は、今では何故そんな事を考えていたのかと笑えてしまう。
そう思いながら、自分に許されたもう一つ。一つ残った右目で鼻歌の主である、その横顔を見つめる。
ああ、そうだろう?ただ死ぬだなんて、独りで死ぬだなんて。そんな事は。
「ふふふふふ~ん。んん?」
視線に気が付いて、その鼻歌の主は。その女はやっと、俺を見た。
ああ、そうだ。独りでただ死ぬだなんて、そんな事は許されない。
「おや?おやおやおやぁ?」
一人が苦しいのも、一人だけが痛いのも不公平だ。これまでの繰り返しと、これからの終りまで。その全てで受けてきた、受け取ってきたモノを。その結果に積もり、濃厚に凝縮された感情を、この女に返してやらなければならない。
そう思ってから、この不快な音楽にも耐えられる様になった。この音楽の度に躰の内側で、少しずつ増えていく、欠けた肉と血に置き換わる鋼と油。全てが満たされた時、それがきっとこの音楽の終わる時。
「いいね。今日は何時もより、ずっと元気があるみたいだ」
黒い瞳と目が合った。その女の言葉に、俺の乾いて血走った眼が応える。
「よし、予定の行程はもう少しで終わりだけれど、そういうことならもうちょっと先まで終わらせてしまおうか。よし、よしよしよしよし!テンション上がってきたぁ!」
望む所だ。加速する苦痛と言う名の音楽は、確実にperiodへと向かっている証。
「ふふ、ふふふふふ。可愛い可愛いボクの継ぎ接ぎちゃん。もっと頑丈な躰を君にあげる。もっと強靭な四肢を君にあげる。誰も斃せない、誰も殺せない、ボクの怪物。どうか、どうかボクの望みを叶えておくれ」
ああ、いいぜ。だから早く、この欠けた躰を満たしてくれ俺を完成させてくれ。
「そうすれば、ボクは君のどんな願いでも聞いてあげる。今の君と同じように、腕と足をちぎって、眼を抉り、腹を裂いてくれてもいい。おもちゃみたいに好きにして、めちゃくちゃにして、飽きたら何でもない様に捨ててしまっても、虫を潰すみたいに殺してくれても良いんだよ」
その悪趣味はともかく、自分の思い通りにしてもいいというのは素敵だ。その光景を想像するだけで、どうにかなってしまいそう。
「だから」
ああ、だから。
「きっと、きっと殺しておくれ。ベル・バルドル、あの光り輝く黄金の王を」
この望みを遂げるために、お前の願いを叶えてみせる。
「ん、んん~っと」
目覚めの伸びと共に滲む涙混じりの眼を擦りながら体を起こすと、鼻に届く水の匂い。
のそのそと起き上がり車庫のシャッターを開ければ少し湿気た空気と、足元を軽く濡らす雨の雫で今日の天気を知る。
ぽつぽつと雨粒が地面を打つ音が絶えず続く。当たり前で無い音を、不思議と不快には思わず、むしろ心地いいと感じるのは何故だろう。
「予報では、今日から暫く雨だったか」
六月に入ると、九界も外界と同じく梅雨の時期に入る。
それはニヴルヘイムの巡る季節や天候が、原理は分からないが元々の環境と同じサイクルであるというなんともあやふやな理由で説明されている。
実際大異変後の十年間ずっとそうなのだから、学者でも無い自分には特に異論は無い。まあ、偶々十年間そうだった、というだけで明日もそうだと信じられるのは人間の図太い所だ。俺個人がそんな事でうだうだと考えても仕方が無い事だし、明日天が落ちてくるだなんて心配しながら過ごしたって意味はないだろう。
そういうわけで。今しがた跳ねた雨の雫を弾く、俺の毛深い犬頭の鼻先を擦って、湿った空気を大きく吸い込んだ。
俺が此処、月夜見探偵事務所に所属する犬頭の探偵ベオとして、そこそこ名が知られてから二度目の梅雨を迎えようとしている。
去年の今頃はまだ分からない事ばかりで事務所に篭っている事も多く、気が付けば過ぎていた雨の季節も、こうして落ち着いてきた今頃では何だか新鮮な気分で迎える事が出来そうだ。
「ふふ、ふふふ~ん」
そう思うと何だかご機嫌な気分になってくる。所長と一緒に何時だか見た映画の様に、はしゃぎながら雨に濡れて踊ってみたい気分になるのは俺の頭が犬だからだろうか?
鼻歌交じりに踊るまではいかなくても少しステップなんて踏んでみて、朝の支度を始める事にした。
あの春先に起こった大きな事件。それからこのところ暫くはその後始末やら何やらで忙しく過ごしていた。
そしてその後にあった、あの事件で清水興業が何故手を貸してくれたという理由と、それに関わる顛末もようやく片付き、所長の勧めでこれから数日間は久しぶりの完全にオフの予定なのだから、雨降りでも何だかわくわくしてくるのは仕方がない。
この犬頭で勘違いされる事が多いが、俺はけっこうインドア派だ。
たまの休みの日は事務所に篭って所長と映画やテレビドラマなんかを見て過ごす事も多いし、彼女のコレクションの雑多なジャンルの小説を読んだりもする。普段忙しく街を走り回っている分、その反動でなのかのんびりと過ごす事も好きなのだ。
「お早う、ベオの兄貴。なんだかご機嫌だね」
「おう。なかなかご機嫌だぜ、アキト。って、雨の日の配達は無理しなくていいって言ったじゃねぇか」
雨降りの中、頭からすっぽりとレインコートを被ってクロスバイクに跨り、声を掛けるのは顔なじみの少年アキトである。
携えているのは朝のお決まりとなっている紙媒体の新聞の束。しかし小雨程度ではあるが、雨の日はたった一軒の配達の為に来なくても良いと事前に伝えていたのだが。
「大体この新聞だって外界からの定期便で数日遅れの分なんだから、所長だって遅れても気にしないんだ。梅雨の時期は特に、晴れた日にまとめて配達してくれたんで良いんだぜ」
「あはは、まあ今日は俺もついでがあったから。はい、今日の分」
そういって差し出される新聞を受け取る。丁寧にビニールシートで包まれ、中身は水滴一つ付いている様子は無い。
「ありがとよ。まあ、そういう訳だから次からは無理しなくて良いんだぞ。数日分とか、まとめてでいいからさ」
「なら次はそうさせてもらおうかな。そう言えば兄貴は暫く休みだっけ?」
「ああ。まあ、だからといって出かける予定は無いんだがな」
俺のその答えに、何か思いついた様に悪い顔をするアキト。
「何だよ?」
「ははーん、成程。ベオの兄貴も隅に置けないねぇ」
アキトにしては珍しく、何か含む様な意地の悪い顔に俺も少したじろぐ。
「安心してよ、俺だって野暮はしないさ。せっかくの休みの日くらい、恋人と朝寝して過ごしたいって事だろ?」
ああ、そういう事か。なんだか明後日の方向に勘違いしているなこの青少年は。
「とはいえお相手の候補が多いけれど。優しい所長さんに、ちょっと怖いけど美人の鷹野さんだろ。後は春ごろからよく見かけるようになった女の子か。兄貴の本命は誰なのさ?いや、兄貴の事だから全員って事も」
「朝から頭沸かしてるんじゃない。ほら、さっさと学校に行きな」
誤解が解けたのかそうでないのか。どこかからかう様子のアキトを見送り、少しばかり言われた言葉の意味を考えてみる。
春先の事件、結局は母と娘が分かり合うために必要だったそれが終わって。俺の周りの人間関係にも色々と変化があった。
所長と鷹野はともかく、特にその事件を共に駆け抜けたアリスには色々と、俺の言動から色々と勘違いをさせてしまっている。と、言っていいのか自分でも分からないが。
「時間が解決、はしてくれねぇよなぁ・・・」
諸々、考えておかなければならない事は山積みだ。しかし、それはそれ。これから休暇なのだから。問題は棚上げしてのんびりと過ごす事にしよう。
そんな風に、ちょっと無責任に考えていたからだろうか。
「お早うございます、ベオさん」
その声に振り向く。
冷静に努めてはいるが、僅かに緊張の混じる声。
何時もの彼女らしくない、少し自信なさげで。それでも何かを決意した匂い。
格好も制服では無い。何時か見た動きやすさを重視したスポーティな私服とも違う余所行きの様子で、何時もの化粧とも違う、いや、それは華美という訳でなく、彼女らしさをより引き立てる自然なものではあるのだが。
という事は私的な訪問なのだろうか。何時休んでいるのかと此方が心配してしまう、ワーカホリック気味の彼女にしては珍しいが、すると今日は非番なのだろうか。それならば、どういった用件でと、そう尋ねる前に。
「その、突然ですけれど。ちょっと私と、旅行なんてしてみませんか?」
本当に、何時も冷静な彼女にしては珍しいくらいどたどしく。
それでも、少し困ったように照れながら、互いに良く知る中であっても、どきりとするような仕草で。
彼女、鷹野アヤナが、本当に何の前触れも無くそんな事を言ったものだから。俺は暫く馬鹿みたいに面食らってしまい、必死に何か気の利いた返事を探す羽目になってしまった。
「アヤナ、貴女も分かっているのでしょう?兵は神速を貴ぶ。敵が多いのなら尚更、先んじて動かなければ勝機を掴むことは出来ないと」
私の言葉で、普段は冷静な妹が受話器越しに分かりやすく狼狽えている。
「只でさえ堅物な貴女なのですから、聞いた状況から察するにどうせ相手には良くていい友人程度の印象しか与えられていない。であれば、このままではそのイメージが定着してしまい、だらだらとその関係に甘んじた結果に何時か彼と、別の誰かとの結婚式の案内状が届くという始末です。貴女、そんな時が来ても誰かと笑う彼の為にてんとう虫のサンバを笑顔で歌えますか?」
そして落ち込む様子の妹。自分の多少誇張された大げさな推測も何処か腑に落ちる様子で、彼女はならばどうすれば良いのかと縋るように尋ねてきた。
「ふふ、其処で我に一計有り、という事です。ほら、何時か話したことがあったでしょう?私の統括する階層であるニザヴェリルに、近々富裕層向けのリゾート施設がオープンすると。可愛い妹の為です。其処のスイートを用意しましたので、後は貴女がどうにか理由を付けてその意中の彼を招待しなさい。勿論お泊りですよ。貴女のスケジュール?そちらは既に貴女の直属の上司であり、私の元部下でもある久我に無理矢理にでも捻じ込む算段を付けていますから問題はありません。有給の申請とは懇願するものでは無く、時に拳を振るってでも自ら勝ち取るものだと教えた筈ですが」
驚きと、激しい動揺の声。全く、我が妹ながら初心にも程がある。
「覚悟を決めなさい、アヤナ。施設はオープン前でバルドルの関係者しか居ませんし、階層を越えてしまえば邪魔が入るどころか専用の高速回線を用いなければリアルタイムの通信すら不可能、つまり完全に貴女のフィールドなのです。そして其処へ彼を引き込めれば、後はあんな事やこんな事も思うがまま。そして既成事実さえ拵えてやれば、貴女はてんとう虫のサンバを歌う側ではなく、歌わせる側になることが出来るのです。素晴らしいではないですか」
暫しの沈黙。そして覚悟を決めたと分かる妹の言葉に、私も大きく頷いてみせた。
「それでいいのです。では、詳しい日程が決まり次第に、仮の予定は本日中にメールで。貴女は早々に、明日にでも彼のスケジュールを確保しに行きなさい。間違っても警備局の制服や、何時もの野暮ったい私服ではいけません。必要な時が来るだろうと見繕って揃えた戦闘服を着ていくのですよ?」
念を押して受話器を置いた。これだけ焚きつけてやればいくら奥手な彼女でもその重い腰を上げて行動に出るだろう。
「さて、可愛い妹の為です。関係各所に根回しと、それから、この件を絶対にあの鬼畜、いえ、会長に気取られぬ様にしなければ」
会長を含め知られれば間違いなく面倒な事になるであろう、何人かの人物を思い浮かべる。完全な隠蔽は不可能でも、出来る限り発覚を遅らせる為の方策を今から考えなければならない。
「それにしても、あのアヤナが夢中になる男性ですか」
以前の彼女を思い出す。姉妹の中で最も人の中で生きる事を危惧された彼女が、こうして誰かを想うまでになるなんて。何だか感慨深いものだ。
しかし、その相手というのは意外な人物でもあった。バルドル内部の資料でもその素性の殆どがアンノウン、ニヴルヘイムにて便利屋まがいの探偵業を営む犬頭の、ベオという男。
聞けばあの月夜見の関係者。そして運悪く、あの会長に不自然なほどに気に入られてしまっているのだとか。
前提から、アヤナの往く路は険しく困難である。けれど彼女が選んでその路を進むというのであれば、姉としては出来る限り応援してやりたいというものだ。
「・・・頑張るのですよ、アヤナ。他の誰が何を言っても、私は貴女の味方ですからね」
「ベオ、お前が今日から暫く休みだという事は知っているぞ!ならば私は未来の妻として、未来の夫とその余暇を共に過ごす事は当然、いや必然!私も友に倣い、明日からの授業をバックレる算段を付けたから、手始めにデートを!」
私は勢いよく月夜見探偵事務所のドアを開き、愛しい彼の姿を探す。
恰好は学校からの直帰である為制服姿のままだが、これも物事を有利に運ぶための一つの戦略、つまり今の姿は戦闘服である。
自分にはよく分からないが、こういった制服、特に学生服というやつは限定感が有るというか、とかく男にはウケが良いらしいのだと、バックレという技を教えてくれた新しい友、ヒメカが言っていた。
実際、オルターのおじ様やフィアナ姉さまはメールで良く似合うと褒めてくれたし、ベオ自身の初見の感想も可愛いという言質を取っていたのだから、この戦略は間違いではない筈だ。
そもそも暫く休みだから私に暇が有れば付き合うと言ってきたのはベオからだ。そう告げてきたのは昨夜の事で、些か準備に掛ける時間は無かったが、休暇中のプランは授業中に完璧に仕上げている。
ふふふ、直前になって休暇の予定を伝えてきたのは学校に通い始めてあまり間の無い私を慮っての事ではあるのだろう。いじらしいが、水臭い。私が何を最も優先するのか分かっているくせに。
「さあベオ、取り敢えずは私のプランに眼を通してほしい。アウトドア、インドア、折衷案まで複数用意してきたぞ!勿論お前の意見を基に、適宜変更、柔軟に対応する。要は共に居られれば、何でも良いのだからな。さあ、ベオ!・・・ベオ?」
事務所にはその姿が無い。先に彼の自室である一階には所在ない事を確認している。という事は、何か用事で外に出かけているのだろうか?
「おや、いらっしゃいアリスちゃん。どうしたんだい、そんなに慌てて」
自分の来訪に気が付いたのかこの事務所の主である月夜見マナが、眠そうに目を擦りながら奥の書斎から現れた。
「ああ、すまないマナ。ベオは何処だろう?何か用事で出かけているのか?」
「んん?」
私の問いに首を傾げるマナ。何かを考える様子で、思い至ったように手を打ちながら。
「あれ、聞いていないのかな。ベオくんは、暫く帰ってこないよ」
「・・・なんだと?」
その言葉に何故か、背筋に寒いものを覚えた。
暫く、とは何時まで?というより何処へ?という問いが、喉まで出かかり、本能がそれを抑える。
その理由は、今現在脳裏に浮かび上がった可能性を否定したいからだ。もし、それを尋ねて。マナの口からその最悪の可能性が言葉として発せられたら、それが事実として確定してしまう。
理性は告げる。ならばこうしている時間も惜しい。もしも事態が最悪の状況で進行しているというのなら、早急に対応策を練らなければならない。しかしその事実を聞くことを脳が拒み、自分としては異常なほどに思考が鈍化してしまっている。
「今朝方、鷹野くんから個人的に依頼を受けたらしくてね。いや、普通にお願いだったかな?ともかく第六階層ニザヴェリルに出来た、バルドルの新しい施設の視察に同行する事になったんだ。せっかくの休暇中に少し急な話だけれど、行先は新しく出来たっていうリゾート施設らしいし、殆ど旅行みたいなものだから、ベオくんも引き受けるって出かけて行ったよ」
「・・・いつ」
「うん?」
りぞーと?りょこう、たかのと?
理解出来ない。いや、理解したくない。けれど、これを尋ねなければ、対策を立てられない。
「いつ、べおはかえってくるんだ?」
だから、絞り出す声で、そう尋ねて。
「うん、予定では多分三日後かな」
「私の夫は泊りで浮気だああああああああああ!?」
そんな風に馬鹿みたいに事実を叫ぶ事しか、私には出来なかったんだよ。母さん。




