第6話 凱旋(テオアルディ視点)
王城前の広場には、兵士たちと市民がずらりと並び、
凱旋を迎えるための旗が風にはためいていた。
レオナルトは最前列に立ち、
テオアルディ、重臣たちがその後ろに控える。
フィーナとグレイは後方に控えていた。
やがて、遠くから馬蹄の音が響き、国境軍の旗が見えた。
先頭に立つのは第二王子ガルディオス。
その後ろには、ノルディア王国の紋章を掲げた騎士団が続いている。
隊列が整然と止まり、ガルディオスが馬を降りてレオの前に進み出た。
「兄上。ただいま戻りました。
国境の戦いは、無事、勝利を収めました」
レオナルトは深く頷き、弟の肩に手を置いた。
「よく戻った、ガルディオス。
兵たちもよく戦ってくれた。
王太子として、心から礼を言う」
そして、後方に控える異国の騎士団へ視線を向ける。
「そして──ノルディア王国の兵士たちにも感謝を。
貴国の助力があってこその勝利だ」
その言葉に、ノルディア王国の兵士たちが一斉に敬礼する。
ガルディオスは一歩横に下がり、
後ろに控えていた青年を前へ促した。
長身で端正な顔立ち、
ノルディアの紋章を胸に刻んだ鎧をまとった男が進み出る。
「ノルディア王国騎士団長、
ルーク・セルバーグと申します。
この度は、我が国としても力を尽くせたことを光栄に思います」
続いて外務大臣ゼファーが挨拶をする。
レオナルトは丁寧に頷いた。
「遠路はるばるの助力、心より感謝する。
詳しい経緯は、後ほど城内で伺おう」
ガルディオスが軽く笑みを浮かべる。
「兄上。
今回の援軍には──アナスタシア嬢の働きが大きく関わっています」
その名が出た瞬間、テオは思わず息を呑んだ。
(どういうことだ?)
レオナルトが驚きに目を見開く。
「……アナスタシア嬢が?」
ガルディオスは頷き、後方へ視線を向ける。
後方の隊列の中から、一人の少女が静かに歩み出た。
「ただいま戻りました、レオナルト王太子殿下、テオアルディ王子殿下」
アナスタシアだった。
レオナルトは驚きと安堵を混ぜた表情でアナを見つめ、
すぐに場を整えるように声を張った。
「大儀であった。詳しい話は城内で聞こう。
まずは全軍を迎え入れる。
兵たちよ──よくぞ国を守ってくれた!」
広場に大きな歓声が上がり、
凱旋の行列はゆっくりと城門へ向かって動き出した。
その中で、アナの隣に自然と並んだルークの姿に、
テオの胸はざわつき続けていた。
(アナとあの男、距離が近い…どういうことだ?)
貴賓室の扉が静かに閉じられ、外の喧騒が遠ざかる。
王太子レオナルトは中央の席に座り、
ガルディオスとテオアルトが左右に控える。
正面にはルークと外務大臣のゼファーが並び、
アナが右の一人掛けソファーに座る。
壁際には重臣と、アナを支えた5人が控えていた。
ガルディオスは、
帝国軍と拮抗していたところに、ノルディア軍が合流し、撃破できたことを改めて説明。
そして、正面に座るルークに視線を向け、
「援軍に至った経緯については……
ルーク殿から説明するのが適切でしょう」
ルークが言葉をつなぐ。
「では、私から説明させていただきます」
その声は落ち着いていて、場の空気を自然と引き締めた。
「実は我が妹が、3カ月ほど前から行方不明になっておりました」
「なんと」レオナルトは驚く。
「公爵令嬢という身分ゆえ、
我が国としても隠密に捜索を続けておりましたが……
ヴァルカン帝国がかかわっていることまではわかりましたが、
行方はつかめずにおりました。
私はずっとヴァルカン帝国で捜索していたのですが、
そしたら、アナスタシア嬢と護衛の皆さんが、我が妹を救ってくださいました。
アナスタシア嬢には感謝してもしきれないくらいだ」
ルークがアナに向けて、優しく微笑む。
テオは胸の奥がぎゅっと苦しくなる。
アナスタシアが控えめに口を開く。
「本当に……偶然だったのです。
私は我国の人身売買の被害者を探すため、
ヴァルカン帝国に入国していました。
そして、帝国上層部に主犯格がいるとの情報を得たのです。
その後、屋敷に潜入し、人質を救出しました。
その中にルアンナ様も捕まっていたのです。
まさかノルディアの公爵家の方だとは思いませんでした」
アナスタシアは一呼吸整え、続けた。
「我々は、主犯格をとらえ、その者から北の泉の汚染、
王都の魔獣攻撃、国境への侵攻すべての計画を知ったのです」
ルークはアナから、再びレオナルトへ向き直る。
「アナスタシア嬢は妹を保護し、
さらに帝国の内部情報を提供してくださいました。
その恩義に報いるため、
我が国は即座に援軍を決断した次第です」
ガルディオスが補足する。
「兄上。
アナスタシア嬢の情報がなければ、
ノルディア王国は動かなかったでしょう。
今回の勝利は、彼女の働きが大きいのです。
また、外務大臣が同盟を結ぶ書類も持参してくださった」
レオは深く頷き、アナを見つめた。
「……アナスタシア嬢。
君は国境を救い、国を救った。
心より感謝する」
アナは静かに頭を下げた。
「もったいないお言葉です」
そして──
ルークが付け加える。
「そして、もう一つ。
私はアナスタシア嬢に正式に求婚したいと考えております」
貴賓室の空気が一瞬で揺れた。
テオアルディは反射的に立ち上がった。
椅子がわずかに軋む。
「なんだとっ……!」
レオナルトがすぐに手を伸ばし、弟の腕を押さえた。
「テオ、落ち着け。座れ」
その声には、王太子としての静かな威圧があった。
テオアルディは歯を食いしばりながらも、ゆっくりと腰を下ろすしかなかった。
アナスタシアが、困ったように眉を寄せてルークをたしなめる。
「ルーク様、今ここで話すことではありません」
だが、ルークは知らん顔だ。
「アナスタシア嬢、私は本気です。
あの時の約束──どうか、お忘れなきよう」
(約束って……なんだ、それは!)
テオアルディの胸の奥がざわつき、拳が膝の上で固く握られる。
そんなテオアルディの様子を見て、レオナルトが場を収めるように手を上げた。
「求婚の件も含め、話は後ほど改めて聞こう。
まずは同盟の確認だ」
貴賓室の空気が再び引き締まった。
同盟の調印が始まるため、アナスタシアたちは退出することになった。
テオアルディは今すぐにでもアナスタシアと話したかったが、
王族として席を外すことは許されない。
その日、アナスタシアは久しぶりに、ようやくゆっくりと休むことができた。




