表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/11

番外編 アナスタシアの帝国潜入記(前半)

アナスタシアに付けられた護衛は五名。

ー剣の名手でテオアルディ側近のカイル

ー冷静な女騎士ライザ

ー盾役の騎士団副団長のガーク

ー変装の達人シノ

ー罠解除のヨルン


彼らはテオアルディが密かに選び抜いた精鋭であり、

三か月間の密命を帯びていた。


「アナスタシアの望みを叶えろ。

人身売買で売られた人々を救い出せ。

そして──彼女を絶対に守り切れ」


それがテオアルディの命だった。





ヴァルカン帝国の上層部が集う夜会。

今回で4回目の参加。今までは収穫なし。

それでも諦めないアナスタシアに、5人は次第に心を動かされていた。


アナスタシアは清楚な白ドレスでガークとペアを組み、

カイルとライザは貴族夫婦として潜入。

シノとヨルンは給仕に化け、会場を自由に動き回る。


アナスタシアとガークは、軽く腕を組みながら、周囲を探っていた。

ふと──

視界の端に、深紅のクラバットが映る。

金糸で縫われた、奇妙な形の刺繍。


見覚えがある。

(どこかで……)


記憶の底を探るように、アナスタシアはゆっくりと息を吸った。

(……そうだ。父のクラバットにもあったわ。でも形が逆)


アナスタシアは息を呑んだ。

(……っ!あの刺繍を合わせるとドクロになる!)


全身に冷たいものが走る。

(なんてえげつないの!!)


アナスタシアははやる気持ちを抑え、ガークに気づいたことを伝える。

ガークは目を見開いた。

「……つまり……!」

アナスタシアは静かに頷く。

「ええ。あの男は関与している可能性が高いわ」

ガークは目を丸くした。

(……このお嬢様、やっぱり只者じゃない)


一方、シノは給仕姿でワインを配りながら、

裏口で怪しい男たちが「闇市場」「新しい荷が入った」と話しているのを聞き取った。

(よし、闇市場の場所、掴んだ)


ガークがカイルたちに今の情報を伝えている頃、

アナスタシアはふと視線を感じ、さりげなくその場を離れた。


すると、銀髪に淡い青の瞳の気品ある男ルークが、アナスタシアに近づく。

ルークはノルディア王国の騎士団長であり、ヴァルカン帝国に潜入捜査中だ。

ルークはアナスタシアの行動が怪しいと感じていた。

「初めまして、とても美しい方。私は“レオン”と申します。ご一緒させていただけませんか」


一方、アナスタシアもルークが何か探りを入れてきていると感じた。

「まあ、お上手ですこと。私は“アンナ”と申しますわ。残念ながらパートナーがいるんですの」

アナスタシアも偽名で答える。


(この男……ヴァルカン帝国人ぽくないわね……)

(この女性……視線が鋭い。情報を探っている目だ)


アナスタシアと男が言葉を交わしているのを見て、

ガークが慌てて戻ってきた。


小声で囁く。

「傍を離れないでと言ったじゃないですか」


二人はそのまま自然に別れたが──


この出会いが後に国を動かすとは、

まだ誰も知らなかった。




夜会で得た情報をもとに、

アナスタシアと5人は闇市場へ潜入した。


だが──


アナスタシアが急に柄の悪い男に話しかけた。

「ここにしか買えない“特別な品”があるって聞いたのだけれど?」


「嬢ちゃん、ここは遊びで来る場所じゃねぇぞ」

男がアナスタシアの手をつかんだ瞬間、

奥から屈強な男たちが十数人、ぞろぞろと姿を現した。


「アナ様ぁぁぁ!!」


ガークが叫び、他の4人と共に背後から飛び込む。


カイルの剣が閃き、

ライザの蹴りが男を壁に叩きつけ、

ガークが3人まとめて吹き飛ばし、

シノが影のように背後から眠らせ、

ヨルンが罠を解除しながら道を切り開く。


わずか数分。

十数人の屈強な男たちは、全員地面に転がっていた。


「……皆さん、すごいわ!」


「アナ様、先走るのはやめてください!」


ガークが諫めると、アナスタシアは申し訳なさそうに笑った。

「ごめんなさい、でも、我慢できなくて。さあ、先を行きましょう」


アナスタシアは檻の前に歩み寄り、

震える女性二人を優しく抱き寄せた。


「大丈夫。あなたたちはもう自由よ。安全な場所まで送るわ」

二人は泣き崩れながら頷いた。


アナスタシアが次の檻に目を向けたとき──

痩せこけた中年の男性が、弱々しくこちらを見つめていた。


その顔を見た瞬間、アナは息を呑んだ。

「……もしかして……エルンスト博士、ですか?」


男の目が大きく見開かれた。

「き、君は……?」

「私たちはエルディア王国から来ました。

博士、一緒に帰りましょう」


だが博士は首を振った。

「……帰れない。

私は……祖国を裏切ってしまったのだ……」


アナスタシアは静かに膝をつき、博士の手を取った。

「どういうことですか?」


博士は苦しげに目を伏せた。

「尋問に……耐えられなかった……

北の泉のことを……話してしまった……

帝国は……魔獣を操る方法を探っている……

私のせいで……泉が……」


アナスタシアは首を横に振った。

「博士。

あなたが悪いんじゃない。

悪いのは、あなたを捕らえた帝国よ」


博士の目が揺れる。

「でも……私は……」


「博士がいなければ、私たちは泉の危機に気づけなかった。

あなたの知識が必要なの。

だから──一緒に帰りましょう」


しばらく沈黙が続いた後、

博士は小さく頷いた。

「……わかった。君たちと……帰ろう」


アナスタシアは微笑み、立ち上がった。

「よかった。さあ、行きましょう。

ここはもう安全じゃないわ」


女性二人を保護団体に託し、

博士と共にエルディア王国へ帰還した。


テオアルディは彼らを迎え、

アナスタシアの無事に胸を撫で下ろした。

「よく戻った、アナ……」


その声に、アナスタシアの胸が熱くなる。


アナスタシアはフィーナやグレイとも再会し、

しばしの休息を取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ