第二十一話
訓練場の縁では、大人たちが“談笑”の形を崩さずに並んでいた。
杯があるわけじゃないのに、彼らの手は杯を持つ時みたいに落ち着いている。
笑みは浮かべる。頷きもする。けれど視線だけは――子どもたちから離れない。
「よく整っているな」
低い声が言った。グラント・ガリム・アーサー。
王様の“褒め言葉”は、刃を鞘にしまった音がする。
「整っている、では足りませんよ」
スペンサー・ヴァレンが肩をすくめる。声は軽い。軽いのに、言葉が沈む。
「崩れない。崩れそうになっても、崩れない位置を先に選んでいる。……あの歳で」
「彼はいつもああです」
アンセルが短く返す。
父親としての誇りより、騎士としての報告が先に出る声だった。
アイクが鼻で笑った。
「それが怖いんですよ。あの子は“無理”を無理だと言わない。言う前に、代わりの道を作ってしまう」
言いながら、アイクの視線がエドの足元へ落ちる。
重心。踏み込み。息の深さ。
剣よりも身体を見ている目だ。
ベティが、柔らかい声で言った。
「殿下の肩が落ちていませんね」
その言葉が落ちた瞬間、場の空気が一度だけ静かになった。
皆、同じものを見た。
金髪の少年――ギルバードが木剣を握り直す。
護衛の視線が一瞬だけ鋭くなる。
それを、エドが“止めない”。止めないまま、ただ短く言う。
『痛くなる前に、握り直した方がいい』
王子へ向ける言葉じゃない。
説明でも命令でもない。
けれど、その一言で殿下の呼吸が深くなる。
「……ああいうのは、殿下には必要だな」
王様が、独り言みたいに言った。
独り言なのに、決定の音がした。
カラーが微かに笑う。
「殿下を“殿下”にしない相手、ですか」
「殿下を殿下のまま、息をさせる相手だ」
グラントが訂正する。
訂正の仕方が優しい。優しいのに逃げ道がない。
アンセルの指が、無意識に手袋の縫い目をなぞった。
その癖は、剣の柄を握る前と同じだ。
「……ただし」
アイクが呟く。
「穴を埋める子は、いつか自分が穴になる」
王様は何も言わずに、訓練場の土を見た。
土の上で子どもたちが笑っている。笑い声が風に散る。
散るのに、王様の目は散らさない。
「見ておけ」
それだけ。
命令でも忠告でもなく、祈りに近い声だった。




