表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
救済の勇者は、また目を覚ます  ―ひび割れた魂の転生譚―  作者: 神谷絵馬
幼少期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/14

第一話

昼休みの教室は、窓を開け放ったせいで少しだけ騒がしさが和らいでいた。


初夏の風がカーテンを揺らし、グラウンドから聞こえてくる運動部の掛け声が、波の音みたいに断続的に流れ込んでくる。


机の上には、食べ終わったパンの袋やペットボトルが転がり、黒板の隅には消し忘れた数式が白く残っていた。


「だからそれは反則だって言ってるだろ!」


声を荒げているのは、小林智也だ。


机を寄せて作った即席の盤面の上で、チェスの駒が中途半端な位置に散らばっている。


「反則じゃねえよ。ルールの穴だ」


「開き直るな!」


「理論的に正しい」


「性格が悪いって意味だ!」


「はいはい、そこまで」


間に割って入ってきたのは、相川晴翔だった。


少し日に焼けた肌に、無造作なのに様になる髪。


カーディガンを肩に掛けた姿は、どこか余裕があって、教室の空気そのものが彼を中心に落ち着く。


このクラスの中心人物。


それを本人が自覚していないところが、また厄介だった。


「昼休みにそこまで本気出さなくていいだろ」


「相川まで来ると、俺が完全に悪者じゃん」


「安心しろ。今も十分そう見える」


「ひでえ!」


周囲からくすくすと笑い声が上がる。


「で、どっちが勝ってるの?」


新川和葉が、窓際の席から身を乗り出す。


逆光の中で、彼女の輪郭は少し柔らかく滲んでいた。


「今は智也。でも三手先は一玄」


「ほら!」


「納得いかねえ!」


相川が肩をすくめる。


「まあ、勝ち負けより、昼休みが平和に終わるかどうかの方が大事だろ」


その言葉に、なぜか胸の奥が少しだけ温かくなった。


僕らは、目立つ存在じゃない。


でも、クラスの端で孤立しているわけでもない。


こうして、当たり前みたいに笑っていられる。


それが、どれほど脆いものかなんて――


その時は、考えもしなかった。


放課後。


校舎の影が長く伸び、アスファルトに夕焼けが染み込んでいく。


相川は部活だと言ってグラウンドの方へ向かい、


智也は「寄るとこある」と軽く手を振って駅とは逆方向へ消えた。


残ったのは、僕と和葉だけ。


通学路沿いの街路樹が、風に揺れて葉擦れの音を立てている。


コンビニの自動ドアが開くたびに、電子音が遠くで鳴った。


「相川ってさ、本当にすごいよね」


和葉が空を見上げながら言う。




「自然に人が集まるっていうか」


「才能の無駄遣いだな」


「それ褒めてる?」


「半分くらいは」


くすっと笑う声。


歩調が、自然と揃っている。


他愛のない話を続ける。


テストの愚痴、智也のチェス癖、卒業したらどうするか。


夕暮れは、時間の感覚を曖昧にする。


この道を何度も歩いてきたはずなのに、


今日だけは、やけに一歩一歩が鮮明だった。


交差点の手前で、和葉が足を止める。


赤信号。


車のエンジン音が、低く重なっている。


「……ねえ、一玄」


胸の奥が、わずかに軋んだ。


嫌な予感じゃない。


ただ、前にも同じ場面を見た気がする。


「ずっと一緒にいたでしょ。智也と三人で」


和葉は、少し緊張した顔で、それでも逃げずにこちらを見ていた。


「でもね、私は――」


爆音。


視界の端で、ブレーキランプが赤く滲む。


金属がぶつかり合う音。


悲鳴。


衝撃で、信号機が信じられない角度に傾く。


車が、六台。


考えるより先に、体が動いた。


和葉の腕を引き、胸に抱き寄せる。


――ああ。


分かってしまった。


この瞬間が、


もうこれ以上、何も足さなくていい時間だということを。


衝撃。


世界が白く弾ける。


和葉の声が、遠ざかっていく。


最後に胸を満たしたのは、恐怖じゃない。


謝罪だった。


守ることはできた。


でも、一緒に笑う未来までは、連れていけない。


好きだった。


心から。


だからこそ――


幸せにできなくて、ごめん。

初めまして、神谷絵馬です。

自己満足で書いている作品になります。かなり長くなる予定です。最初から最後までのプロットは出来ているので何とか毎日投稿できるよう頑張っていきますので、応援お願いします

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ