アフロ頭のボッチが王太子って、情報過多すぎない?
────何あのアフロ。
王城のボールルームの中央に佇んでいるのは、黄緑アフロ頭で軍服姿の男性。
みんなが彼をちょっと避けて、自分のパートナー探しをしていた。
◇◇◇
社交界デビューのため、王城で開催されたデビュタントボールに嫌々参加した。
この国は十八歳になると必ず社交界デビューの夜会に参加する必要がある。
地方の者は、その地方の領主館などで行われるデビュタントボールに参加するのがほぼ義務だった。
デビューのダンスはその場のフィーリングでペアを決めるという、謎のマッチングシステム。ただし、わりと事前に口裏を合わせ終えている。
私も地元の領主館のデビュタントボールに参加する予定だった。恋愛感情はお互いにないけれど、幼なじみと相手もいないしダンスする? みたいな軽い口約束はしていたのに。
デビュタントボール直前に父が王都で長期の仕事をすることになり、家族引き連れ王都のタウンハウス住まい。
デビュタントボールは王城で、となってしまった。
────あれっ!?
気付けば、ペアがいないのは私とアフロのみ。
え? まじで? アフロとデビューするの!? ……………………よし! ここは気付かなかった振りでやり過ごそう。
なんて考えていた。
両親や運営の人に怒られる覚悟で壁の花に徹し――「やぁ、君」聞こえません。「君一人だよね?」壁の花に徹したほうが幾分か――「あれ? 聞こえなかったかな? そこのリンゴみたいに真っ赤な髪の君!」幾分かマシよね。
「君っ!」
必死に無視して何やら喚いているアフロの男性に背を向けたのに、後ろから肩をグワシッと掴まれてしまった。
「やぁ、一人かい?」
恐る恐る振り返ると、アフロの人の金色の目がどえらくギラ付いていた。
――――無理っ!
いや、なんか犯罪者一歩手前みたいなギッラギラしてる人とデビュタントボールとかいやだ。
そもそも誰なの、これ。軍人さんっぽいけど、なんでこんなにモサモサしてるの。癖っ毛にしては激しすぎると思うんですけどぉ!?
「一人ではありません……」
「……」
「…………」
「……君、いいかい? ソレは人ではない」
「…………」
「……ソレは生きてはいないんだ」
場が、引くほどに静まり返った。
「体よく断るための嘘です!」
「……え? そうなのか?」
え、待って。待って!
なんかいるの!? 人ならざる何かが私の近くにいて、アフロには見えているの!?
「じゃぁいいか。よっ」
「は?」
アフロの人が懐から香水のような瓶を取り出すと、私の左横に向かって謎の液体をシュシュッと振りまいた。
なんの臭いもしなかったけど、もしかして香水じゃない?
「な、何を……」
「成仏させるために、聖水かけただけだよ――あ、ヤバ。ごめん」
急に謝られたのでどうしたのかと思ったら、左側でバシュンと何かが弾けた音がした。
「あちゃぁ……ほんと、ごめんね?」
申し訳なさそうな顔で謝るマリモだかブロッコリーだかな頭の男性。
何か嫌な予感がして、そっと髪に触れると、目の前の男性ほど酷くはないものの、明らかに髪の毛がうねうねとしていた。
「あ、でもいい感じにウェーブしてるから、許…………されないか……」
真っ赤で真っ直ぐな髪の毛が私の自慢だった。毎日ちゃんと手入れをしていた。
今日はデビュタントボールだからって、侍女たちが気合を入れてヘアセットもしてくれた。
なのに。
相手はいないし、変な男の人には絡まれるし、頭はボサボサになるし。
悔しくて悲しくて、涙が出そうだった。
「こっちに来て」
黄緑ブロッコリーな男性に手を引かれ、休憩室に連れてこられた。
休憩室として用意されている王城内にある個人利用可能の小サロンだが、いわゆる連れ込み部屋だ。
いや、もちろんそういう目的で利用するのは一部のパリピな貴族子息だろうけど。
父に連れ込まれるなよ! と、注意されていたのに……。
「ちょっと待っていてくれ。直ぐに来ると思うから」
アフロ頭の男性が私の顔を見て、アワアワとしながらそう言った。一体誰が直ぐに来るのだろうか。
「殿下、あれほど公衆の面前で除霊しないでくださいとお願いしていたのに!」
休憩室にモノクル執事姿の三十代男性と、侍女服の女性が二人入ってきた。
執事さんはアフロ頭の人にずずいと詰めより、説教していた。
――――あれ? さっき殿下って言った?
「お嬢様、こちらに腰掛けられてください」
「え、あっ、はい」
「あとは私たちにお任せを」
王城勤めであろう上級侍女さんたちがテキパキとヘアメイク道具などを用意し、私の爆発した髪を丁寧に解し、瞬く間にヘアセットをしてくれた。
「ドレスにも傷みがありますね……」
侍女さんたちが裁縫道具を出してどうにかしようとしてくれていたけれど、私の気持ちは沈み込んでしまい、どうせ相手もいなかったのだし、もういいやと投げやりな気持ちになっていた。
「っ……私、帰ります」
「クライトン伯爵家のリネット様、でしたね?」
立ち上がろうとしたら、モノクル執事さんにガシッと肩を押さえられた。
「この度は、ジェローム殿下が大変失礼いたしました。先程しっかりと説教いたしましたので、どうかこのままジェローム殿下とデビュタントボールに参加してはいただけないでしょうか」
「ルシオ! 俺が自分で口説くって言っただろうが!」
目の前で行われる、執事さんと殿下と呼ばれるブロッコリー頭の言い合い。
段々とムカついてきた。
「あのっ!」
語気強めに声を出すと、目の前の二人が肩を跳ねさせてこちらを向いてくれた。
「あの、せっかく綺麗にしていただいたのですが、相手もいませんし、もう帰りたいです」
「俺が相手に――――」
「アフロは嫌です」
「「ブフッ」」
目の前の執事さんと後ろに控えているっぽい侍女さんが吹き出したっぽい。だがしかし、無視して続ける。
「悪目立ちしすぎて、今から会場に戻る勇気もありません」
「……そうだよな。すまない」
しょんぼりした様子のアフロ頭のたぶん王子。さっきジェローム殿下って呼ばれてたっけ。
ジェローム殿下ってこの国の第一王子じゃね!? 王太子じゃね!? とか今更ながら脳裏にチラチラしてるけど、会場でもだいぶ酷い対応してたから後には退けない。
「馬場に我が家の馬車がありますので、失礼いたします」
「送っていくよ」
「アフロと歩くと悪目立ちします」
「くっ。手厳しい」
だってもう退けないんだもん。
会場でみんなドン引きの状況だったのに、まさか王子殿下だったなんて、気付くわけないじゃない。
この人が悪いんだ……ってことにしたい。
「少し待っていてくれ」
アフロ殿下が部屋にあった紙に何かをサラサラと書き、綺麗にたたむと私に差し出してきた。
今日あったことと謝罪を書いたので、父に渡してくれとのことだった。
了承し受け取り、侍女の一人に馬場に案内してもらった。
どうにかこうにか家に辿り着き、父にアフロ殿下からの手紙を渡した。
父は理解不能だとばかりにポカンとしつつも手紙を受け取ってくれた。
ちなみに中身は読んでいない。父宛だって言っていたし。
アフロ頭のボッチが王太子殿下って情報過多すぎない? それをどう説明してるんだろうなぁ、なんて考えつつ部屋に戻った。
部屋のドレッサーの前に座る。
どういう原理なのか爆発してウェーブが掛かった髪を綺麗にまとめてもらっていて、素敵な仕上がりになっていた。
「デビュタントボール……参加したかったなぁ」
ダンスの練習もいっぱいしたのになぁ。
溜め息とともに、涙が溢れそうになった。
上を向いて瞬きをして涙を散らしていると、父が部屋に飛び込んできた。
「デビュタントボールで一体何があったんだ!?」
「手紙に書いてあったでしょ?」
「手紙にお前を王太子殿下の婚約者にしたいと書いてあったんだが!?」
「……はい?」
アフロ頭のボッチが王太子で、私の婚約者に?
いや、意味が分からなすぎる。
翌日の昼、我が家のタウンハウスに現れたのは、黄緑ストレートヘアーの軍服姿の男性だった。
「いや、誰」
「昨日のアフロだ!」
――――自分で言ったわね。
殿下いわく、霊媒体質で除霊するたびに爆発してアフロになるのだとか。
人生の半分くらいはアフロになっているらしい。
そして昨日のは、会場に入るなり殿下に憑いてきたはずの霊が、私に吸い寄せられて行ったので、除霊してくれたとのこと。
「君とは非常に波長が合うんだ。だから――――」
「遠慮します」
「まだ最後まで言ってないんだが?」
だって、婚約者にしたいって昨日の手紙にあったし。好きな人も婚約者もいないから、婚約者が出来るのはありがたい話ではあるんだろうけど、王太子殿下の婚約者とか分不相応だ。
それに、半生アフロの殿下の側にいるということは、私も巻き込まれアフロになる可能性が高い。
正直、お断りしたい。
「不束な娘ではありますが、どうぞよろしくお願いいたします!」
父に裏切られた。そりゃそうだ。父は伯爵ではあるが、豪商と呼ばれる類のもので、母と結婚して伯爵家に婿入りした。
王族とのコネクションは願ったり叶ったりなのだろう。
「ということらしいぞ? リネット嬢」
この度めでたく、アフロ頭のボッチな王太子が私の婚約者になりました。
ねぇ、本当に情報過多すぎない?
―― fin ――
こちらアフロネタは知り合いの作家さんにいただきました!
お前相変わらず危ういネタで遊んでんな!もっとちゃんと書け!とかとかツッコミありつつで、評価やブクマとかしてもらえると、小躍りします(*ノω・*)テヘ




