4/50? 託された神器
「ご主人さま、お身体の具合はいかがですか?」
「あゝ……悪魔にやられて最悪な状態だな……これさ。バジリスクに噛まれた右腕の傷口あたりが黒紫色に変色し、ピリピリと痺れちゃってる訳さ。これ多分、大丈夫とは言えないよな?」
「ご主人さま! きっと治りますから!」
傍にいたメイドのエモ、モカ、ルカの不安な気持ちが、そんな声となった。
「まぁ、噛まれたあと咄嗟に自分の腕の静脈血管を迷いなく切れたから、致命傷は避けられたと言うことさ。自傷してる訳だから呆れられても仕方がないけど、致死量の毒を血管切り口から流し出せたことは幸いだった。判断を迷っていたら、今頃は冷たい土の中にいたかも知れない」
しかし、命が救われたと言う保証はどこにもない。
この毒が身体に残っていることは間違いなく、パパンドラが告知した一〇〇日目の死が回避された訳でもない。
「ご主人さま」
「なんだ、エモ」
「私が、ご主人さまの毒を消すための魔術を持つ術師をこちらに呼んで参りますので、わたくしにしばらくお暇をいただけないでしょうか?」「エモ、お前にその宛てはあるのか?」
「ええ、もちろんございます。わたくしの生まれ育った村に、不思議な魔力を宿した術師が暮らしております。彼ならば必ずやご主人さまの毒を取り除けるものと確信しております」
「……そうなのか。では、許可を出さない訳にはいくまいな」
「必ずや、ご主人さまをお救い致します」
アラクレスは桜羽舞のリングを自分の腕から外し、メイドのエモに渡した。
「ご主人さま?」
「エモよ、その桜羽舞を使い、故郷の村まで飛んで行くが良い」
「これは三種の神器、わたくし目が使うことなど滅相もございません」
「まぁ良い、お前たちの命も俺にとって大切な命だからな」
「ご主人さま」
「だからお前が持って行け、さすれば必ずやお前を守ってくれるだろう」
「わかりました」
「必ずやお命をお救い申し上げます」
エモは、リングを左手首に嵌めた。
「エモよ、リングを嵌めた手を広げ、天にかざしなさい!」
「はい」
エモが手を広げ天にかざすと、背中に突然羽が現れた。
エモはその羽を羽ばたかせてみせた。
「さあ、行きなさい!」
「それでは行きます!」
エモは窓から飛び立って行った。
「ご主人さま、エモに翼を与えてよろしかったのでしょうか?」
「そうだな、お前たちにも託さねばならぬな」
そう言って、アラクレスは黒牙剣と虎鉤爪のリングを外し、モカとルカに差し出した。
「ご主人さま、どう言うことなのでしょうか?」
「今の俺には、この神器たちを使うことができないんだ」
「どう言うことでしょうか?」
「いや、これは毒の特性と見るべきだろうが、神器を使えないと言うことなんだ。だから、お前たちにこれらを託そうと今決めたんだ」
「では、わたくしたちがご主人さまを神器でお守りせよと申されるのですね」
「あゝ、いつ悪魔どもが俺にトドメを刺しに現れるのかわからんからな」
あらあら邦人くん、神器をメイドに託すなんて思い切ってるわね。
でもその選択は正解よ。
東雲が仕向けたメイドたちは、あなただけを守る言わば親衛隊として仕えているのよ。
神器の力は、言わば万能。
お上手だわ、邦人くん。




