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「お断りだ!」
ムルスはジャメリンを睨みつけた。
「あいつの作る腕をまたつけろだと? あの腕のせいで俺が、どれほど嫌な思いをしたことか! あの男は俺を、大量殺人兵器と呼んだのだぞ!」
「まあまあ。そういわずに」
ジャメリンはニヤニヤ笑っていた。
「それでも右腕があったほうが、闘うにはずっとよいだろう? ああ、心配するな。遠隔操作をする機能はつけないよう、シラドには命じておくから」
「そんなことが信用できるか!」
卑怯未練が宗旨のジャメリンに気にいられるほどの人材である。性質が悪辣なだけでなく、面白いからという理由だけで好き勝手なことをするに決まっている。
そんな相手がどんな約束をしたところで、あてになるものか。
「まあ、そういうな」
ジヤメリンの笑顔がさらに歪みを増した。
「これは、お前の主人の希望でもあるのだ」
「なっ……なにぃ⁉」
ひるんだムルスに追い打ちをかけるように。
「そのとおりだ!」
空間の奥から声が響いた。
こちらに向かって歩いてくる小柄な人影に、ムルスは息を呑んだ。
何か言おうとして、しかし口を開くこともできず、ただ片膝を床について礼の姿勢を取るしかない。
アイザス・ダナ。
リューンの第二王子。国王に最も愛されていたがゆえに、和彦 リューン・ノアへの恨みを忘れられぬ男。
少女のようと形容されるほどの美貌を興奮に赤くして、アイザスは頭ごなしにムルスを叱りつけた。
「話は聞いたぞ。お前は何を尻込みしておるのだ。殺人兵器になるのが嫌だと? 馬鹿なことを。俺の命令に従って敵を倒すのが、お前たち親衛隊んの役目ではないか」
「し、しかしアイザス様」
「黙れ。そもそもお前が、リューン・ノアめに右腕を切り落とされるなどという失態をしでかしたことから始まった話ではないか。
その腕を元通りにできるチャンスを、なぜ棒に振ろうとする? お前の俺への忠誠心というは、その程度のものなのか」
「アイザス様……」
ムルスはうつむいたまま、唇を噛んだ。
アイザス様はご存じないのだ。あの地球人の邪悪さを。ジャメリンの狡猾さを。見抜いたつもりでいるだけで、本当のところはまったくわかっていないのだ。
こいつらはきっと、ろくでもないことをたくらんでいる。
そしてそれはきっと、アイザス様のためにもならない。
気が付けばアイザスの傍らにファラが立っていた。
親衛隊長のファラはムルスの直属の上司である。必死の思いで、ムルスはファラに目線で危険信号を送った。
しかしファラは、苦し気に目をそらしてしまった。
親衛隊長も、一人の少女である。
アイザスを密かに慕うフアラは、アイザスの命令には逆らえない。
「ムルス、これは俺の命令だ! 新たな右腕をつけろ!」
居丈高にアイザスが叫ぶ。
ムルスはただ、頭を下げることしかできなかった。
「はあっはっはっ!」
ジャメリンがけたたましく笑った。
「これでますます面白くなりますな、アイザス殿! にっくきリューン・ノアに、ひと泡ふかせてやりましょうぞ!」