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イアンがユリアーネを訪問後、公爵邸に帰ってくると邸内が騒然としていた。


家令のジェームズがイアンを出迎える。


「先程、王宮よりこちらの書状が参りました」


見ると、封筒に封蝋が付いていた。

部屋に戻り開封すると、王太子エリックからの手紙だった。



内容は、舞踏会の際の王太子の態度に対する詫びと、ローザ王女に付き添ってくれたことに対して礼をしたいとのこと。茶会を催すので翌日に王宮に来て欲しいとの案内だった。



イアンは、少し気が重かった。

エリックがユリアーネを大事にしていたのは知っていた。

ローザ王女との縁談が持ち上がり、エリックも苛ついているのだろう。

その、苛つきの矛先がユリアーネをエスコートした自分に向いているのはわかっている。

まぁ、ローザ王女に矛先が向かないだけ彼も大人ではあるのだろう。


ローザ王女が辛い立場にならなければそれでいいかとイアンは思った。

腕の中で震え、悲鳴を上げていた彼女がこれ以上傷つかなければいい・・・と。





イアンが王宮を訪れると、案内されたのは解放されたバルコニーからバラの庭園がよく見える一室だった。

テーブルには、エリックとローザ王女が着いていた。


「本日はお招きいただき・・・」


「挨拶はいいから、席につきたまえ」


エリックは、イアンに席を勧める。

少々ぶっきらぼうな物言いなのは、先日のエスコートの件を思い出してしまったのだろうか・・・嫉妬心を隠せてないなとイアンは思った。



イアンはローザ王女を見て微笑みを浮かべ会釈する。

ローザ王女の頬が桜色に染まった。



「令息にはローザ王女殿下が大変世話になったと、礼をしたいとのことで一席設けさせてもらった」


「恐れ入ります。王女殿下のお役に立てましたなら幸いでございました」


「ロイヴァルト公爵令息様、先日はご迷惑をお掛けしました」


「とんでもございません。王女殿下のお役に立てましたならば幸いでございます」


イアンは、恭しく礼をとる。


「エスコートされていたご令嬢にも、申し訳ないことをしました。

御婚約者の方でしたのでは? お帰りの時に送って差し上げられなかったのでしょう?」


ローザ王女はすまなそうに謝罪する。


「ああ、いえ。私には婚約者はおりませんし、エスコート相手の令嬢は弟君とお帰りになりました」


「婚約者はおられませんの?」


「ええ、事情がありまして・・・」


ローザ王女の表情が少しほころんだ。


「まぁ、そうなんですの。では、エスコートされていたお相手の女性は?」


「かのじ・・・ご令嬢のエスコートはいつも弟君が務められていたのです。その弟君がこの度婚約されまして、代わりの舞踏会のエスコート役を探していると人伝に知ったのです。・・・実を申しますと、私の家族がご令嬢に迷惑をかけてしまい、少しでも罪滅ぼしになればと・・・」


「そういう理由だったのか」


それまで大人しく二人の会話に耳を傾けてきたエリックが割り込んできた。


「そういう理由とは?」


ローザ王女が首を傾げる。


「いえ、彼には意中のご令嬢がいたのですが・・・その方とは別のご令嬢をエスコートしていたものですから」


イアンがビクッと体を震わせた。


舞踏会場で見たかつての想い人、シャーリー アリア ローゼン公爵令嬢はユリアーネの弟であるクリスと婚約していた。もう諦めた片想いだったが、さすがにかつての想い人が他の男と寄り添う姿を見るのは辛かった。

しかし、彼女の幸せそうな表情を見てこれで良かったのだとイアンは自分の気持ちに区切りをつけたのだった。



「意中の令嬢・・・ですか?」


ローザ王女の表情が曇った。


「彼女は婚約しましたからね。舞踏会では幸せそうなお顔が見られて、私も吹っ切れました」


イアンは、少し無理して笑った。


「そう・・・ですか・・・」


ローザ王女は沈んだ声を絞り出した。



エリックが、空気を変えるように王女に軽く声をかける。


「ところでローザ王女、先程から彼の女性関係が気になっているようだけど」


ローザ王女は、頬をそめ両手を振り否定する。


「そ、そんなことはありませんわ!」


「王太子殿下、王女殿下をおからかいになってはいけません」


エリックは、イアンに狙いを変えさらに揶揄う。


「ロイヴァルト公爵家は、名門貴族だ。隣国の王家と縁を持ったとて・・・」


エリックは、自分の失言に気づいた。


ロイヴァルト家は、『呪いの言霊』の呪いで王家と縁を結ぶことはできないと。

王家と言うからには、国内のみならず各国の王家も含まれるのだ。


「すまない」


エリックは素直にイアンに謝った。


イアンは、困った弟を見るような優しい瞳でエリックを見た。


「王太子殿下どうぞお気になさらず」


エリックは、しょぼんと肩を落とした。


話が見えないローザ王女が、イアンに問いかけようとした。



「えっと・・・あなたは・・・」


「どうぞ、イアンとお呼びください。王女殿下」


「それではイアン様、私のこともローザとお呼び下さいませ」


「では、ローザ王女殿下と呼ばせていただきますね」


敬称をつけたことを、寂しく思いながらも、ローザと呼んでもらえて嬉しく思った。


「イアン様は、公爵家のご令息だったのですね。

王家とも縁を結べるほどの家格だと思うのですが、何かあるのですか?」


ローザ王女はグイグイ迫る。


イアンは、躊躇いがちにエリックを見ると、彼は申し訳なさげに頷いた。

話してもいいとのことだろう。



イアンは、ローザ王女に向き直り語り出した。


「ローザ王女殿下、我がロイヴァルト公爵家は呪われてしまったのです」


そして、イアンは妹リリアンヌの引き起こした騒動をローザ王女に語った。

彼女は黙って耳を傾けていた。


全て聞き終わると、ローザ王女はイアンを労った。

「イアン様、それはさぞかしお辛い思いをされたのですね」


しかしその後、ローザ王女はイアンに驚くべき言葉を投げかけた。



「差し出がましいようですけれど、解決方法はございますわ」


「「えっ」」


イアンのみならず、エリックも驚く。


話を聞いただけで、解決策を見つけ出すなど考えられなかった。

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