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呪いは返され、ロイヴァルト公爵家は王家と縁付くことが出来なくなってしまった。

リリアンヌの兄であるロイヴァルト公爵家の嫡子が、王家に連なるご令嬢に婚約の打診をしていることは知られている。そのご令嬢がユリアーネの弟クリスに憧れを抱いていることも。

リリアンヌが『家』まで呪いの範囲に入れてしまったことで、彼女の兄は意中の女性と結ばれることはできなくなってしまった。


エリックもそれに気づいたのだろう。深いたため息を吐いた。


「ロイヴァルト公爵令嬢」


「まぁ、なんでございましょうエリックさまぁ」


「君が、レンバルト侯爵令嬢にかけた呪いは跳ね返された。

よってロイヴァルト公爵令嬢、君が王家に輿入れする機会は未来永劫なくなってしまったのだ」



エリックの言葉を聞いたリリアンヌの顔色が青くなる。


「嘘よ! そんなの嘘!」


リリアンヌの手から呪いの言霊が滑り落ちた。

彼女はその場で崩れ落ち、呆然とした。



その後、リリアンヌは王太子妃候補から外されることとなる。

呪いのためというより、王家主催の舞踏会で騒ぎを起こしたことが、問題視されたのである。




この出来事は、舞踏会の場だけでは終わらなかった。

ロイヴァルト公爵の妹でリリアンヌの叔母に当たるアネットは、王弟殿下に嫁いでいる。

子供も三人おり仲睦まじく暮らしていた。


そのアネットが、公爵家に戻ってきた。

彼女が言うには、家族と接すると嫌悪感が湧き上がって来るのである。


夫であるリカルド王弟殿下もアネットに対し理由無き嫌悪を抱き、家庭内がギクシャクしてしまった。

アネットはこれ以上、同じ邸で暮らしたら夫にも子供達に取り返しのつかないことをしてしまいそうだと、兄であるロイヴァルト公爵に涙ながらに語った。


数日後、このままではいけないとリカルドが子供たちを連れ公爵家に訪れるも、アネットは頑なに会うことを拒んだ。


これもリリアンヌがかけた呪いのせいだろう。



アネットは離れていれば嫌悪感は無いため、夫と子供達のために離縁を決意する。


この出来事を聞いた国王が舞踏会で起きた騒ぎとの関連があるのではと、エリックに原因の調査と解決策を探るよう依頼した。





エリックは、王宮魔術塔のクロードを訪ねた。


クロードによると、『呪いの言霊』は魔術塔に戻っており、持ち出した王宮魔術師は罪に問われたとのことだった。

王宮魔術師の年の離れた妹がリリアンヌの侍女をしていた。

リリアンヌの望みを叶えるために、妹を人質に取られていたのである。

王宮魔術師は、亡き両親に代わり、幼い妹を育ててきた。

そのような事情から、魔道具を盗み、上級貴族に呪いをかけることを幇助した大罪を犯したにも関わらず、王宮魔術師は減刑された。

今は罪人とその家族として、兄妹は国外に追放されたという。

魔術師はどの国でも重宝される職業だ。国外追放になっても生きていけるだろう。

これは後で知ったのだが、『呪いの言霊』は人前でなくても発動可能なのだ。

もしかしたら彼はこうなるようにと、わざとリリアンヌとの会話を聞かせ、人前で呪いの言葉を口にするよう誘導したのかもしれない。


エリックはそう思った。





エリックはユリアーネから預かった反呪鏡を返却した。


「レンバルト侯爵令嬢はどのようなご様子ですか?」


「ユリアーネは落ち込んでいるよ。

自分が呪いを返したせいで、ロイヴァルト公爵令息のご縁と、叔父上・・・王弟殿下の御夫婦の仲が上手くいかなくなってしまっているとね」


「ご自分を責めてしまっておられるのですね」


「ああ。彼女は何も悪くないのに。

ところでクロード、国王陛下が王弟殿下ご夫妻のことをご心配されているのだ。

何か手立てはないものだろうか」


クロードに国王からの依頼を相談する。


クロードも、王弟の件に関しては考えていた。

彼らは、幼い頃から婚約していたがその仲睦まじさは有名で結婚後もおしどり夫婦として知られていた。


リリアンヌが呪いの言霊を使い発したのは、貴女の家は一切王家と縁付くことが出来ないという内容だ。


クロードは慎重に言葉を選び話し始めた。


「そうですね・・・『家』から切り離したらどうでしょう。

例えば、王弟妃アネット様は、ロイヴァルト公爵家がご実家です。

ロイヴァルト家の戸籍から除籍され一切の関係を断てば、『家』から切り離すことができます。

もしくは王弟殿下御一家が王族の身分を離れられ、臣籍降下し新たな家を興す。

『家』に対する呪いなので、『家』から切り離すという方法しかないと思います」


「うむ、進言はしてみよう」


しかし、ロイヴァルト公爵家にしろ王家にしろ除籍とは穏やかではない方法だ。

説明を聞いたエリックもこれしかないとは思ったが、果たして彼らはこの提案をどう受け止めるだろう。

エリックはため息を吐いた。






エリックは、国王に、クロードからの提案を告げた。

エリック自身も、これが最善であると提言する。

しかし、国王は難しい顔をした。


「リカルドを王家から切り離すことはできん! わしの息子はお前一人。万が一を考え、何か起こった時のことを考えるとリカルドは必要なのだ」


確かにエリックには妹がいるが、基本的には王位は男子が継いできている。

自分に何かあれば、妹が女王になったとしても王配はリカルドの息子となるだろう。

国王の兄弟はリカルド一人。

王家の存続を考えれば、リカルドが臣籍降下する事は現実的ではない。


「では、ロイヴァルト公爵家の戸籍からアネット様を除籍されるしかないかと。

アネット様は王家に嫁いで十五年。

叔父上との離縁も覚悟されているのなら、ご実家の籍から離れられ今まで通りの生活をされるのがよろしいかと」


「それは、そうなのだがな・・・」


「なにか不都合が?」


「ロイヴァルト公爵は、若くして爵位を継ぐ際に親族間でトラブルがあってな、苦労したのだ。その時、妹であるアネット殿が心の支えとなったのだ」


「では、兄妹の絆もさぞ強いのでしょうね」


「そうなのだ。

ロイヴァルト公爵はシスコンで有名でな。

アネット殿がリカルドと婚約していたのを親の代が決めたことと、父上・・・前王が亡くなってわしが王位を継いだ折、二人の婚約を解消しようと働きかけてきたのだ。

公爵には悪いが、二人が仲睦まじいのは幼い頃から見てきたので婚約解消には応じんかったがな」


「しかし、今回のことはロイヴァルト公爵令嬢が引き起こした事。ロイヴァルト公爵家に引いてもらうしかないでしょう」


「話し合いには、そなたも同席してくれるか?」


「かしこまりました」





数日後、ロイヴァルト公爵とアネットは王宮に呼ばれた。


王弟リカルドが同席を求めたが、国王は認めなかった。

リカルドが同席すれば、一家で王家を離れて臣籍降下すると言い出すのは明らかだったからだ。


国王とエリックは謁見の間でロイヴァルト公爵とアネット兄妹と相対した。


『呪いの言霊』を使い、リリアンヌがユリアーネを呪い反呪された事を説明。

リリアンヌの呪いの言葉が跳ね返され、王家とロイヴァルト公爵家の婚姻を結べないようにと呪われたため、 リカルドとアネットの仲がギクシャクしてしまったのだろうと言うこと。なのでロイヴァルト公爵家の籍からアネットを除籍することにより、リカルドとアネットの仲も元に戻るだろうと。


それを伝えた時、ロイヴァルト公爵は落胆し、寂しげな瞳で妹であるアネットを見た。


アネットも、大粒の涙を浮かべたかと思うとそれが頬を伝い落ちていった。

ロイヴァルト公爵は妹を抱き寄せ、その背を優しく撫でた。


「それでアネットが幸せに暮らせるのなら・・・」


その兄の声を遮るようにアネットが叫ぶ。


「そんなの嫌です! 」


「アネット・・・」


「リカルド様も子供達もとても大切な私の家族・・・だけどお兄様も私にとっては大事なの・・・お父様、お母様も」


「わかっているよ」


「除籍ってロイヴァルト家の人間じゃなくなるということでしょ。お兄様との縁を切るってことでしょ」


ロイヴァルト公爵は落ち着かせようと、妹の背をトントンとたたいた。まるで幼い妹を宥めるように。


その仕草に、アネットは兄に縋り付く。


「アネット・・・私達は血を分けた兄妹だ。

戸籍はそれを記した紙でしかない。

兄妹と名乗ることが出来なくとも、私達の血の繋がりが消える訳ではないだろう?

心の中で妹と呼ぶことは誰にも咎められない。

アネットが幸せに暮らせるなら、私としてはそれが一番だと思うよ」


しばらくして、アネットは顔を上げた。

兄に対し、自分の決心を口にする。


「私も・・・心の中でお兄様と呼びます・・・ずっと。

お兄様の妹に生まれてよかった。

あ、ありがとうございます・・・お兄様」



アネットはロイヴァルト公爵の腕に手を絡め謁見の間を辞した。


数日後、アネットはロイヴァルト公爵家から除籍され王弟リカルドと子供達の元へと帰っていった。

想定されていたように、呪いによる嫌悪感は無くなった。

家族の仲は以前にも増して幸せそうに見えた。


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